警察庁所管の「令和4年度協調型自動運転システムへの情報提供等の在り方に関する検討会」の中で、興味深い検討結果がまとめられている。
自動車メーカーなどを対象に実施したヒアリングと政府計画をもとに、自動運転の普及状況に関する9つの予想を取りまとめているのだ。
関連事業者らは、近未来の自動運転時代をどのように予想しているのか。資料をもとに、その概要を解説する。
▼令和4年度協調型自動運転システムへの情報提供等の在り方に関する検討会
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/
▼検討結果について
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/02-5_kaigishiryou.pdf
▼協調型自動運転システムへの情報提供等の在り方に関する検討報告書
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/r4_kyoutyou_houkokusho.pdf
■ヒアリングの概要
ヒアリングは、自動運転に係る関係者らが想定する協調型自動運転システムのユースケースやニーズ、今後の開発動向などを把握するため、自動車メーカー3社、関連事業者3社、交通管制メーカー6社、都道府県警察10都府県を対象に実施した。
各回答の詳細は省くが、このヒアリング結果をもとに、自動運転をめぐる状況について2025年~2030年ごろまでの予想6つ、2030年以降の予想3つの計9つの状況について取りまとめられている。
以下、各状況を1つずつ見ていこう。
■現在から2025年~2030年頃までの予想
サービスカー(自動運転移動サービス)が主に地方部で展開
事業者からは「2025年をめどにレベル4自動運転サービスを数カ所で開始することを目指している」「有人ではありつつも、レベル4のバスを運行することを目標としている」などの回答があった。
政府は、地域限定型の無人自動運転移動サービスについて2025年をめどに40カ所以上、2030年までに全国100カ所以上で実現する目標を掲げており、この目標達成に向け官民協働のもと開発が進められている状況だ。
すでに福井県永平寺町で運行中の自動運転車両が道路運送車両法に基づくレベル4の自動運行装置として認可され、改正道路交通法のもと特定自動運行に係る許可制度を活用し、サービス時実証に乗り出す構えだ。
こうした動きが今後続々と出てくるものと思われる。
一部、都市部で自律型サービスカーが展開
初期の自動運転サービスの多くは地方での展開が見込まれているが、「まずは都市部での展開を目指したい」といった声もあるようだ。
BOLDLYらがHANEDA INNOVATION CITY周辺で取り組む自動運転シャトルバスなどが都市部における第一陣となるかもしれない。交通量が多い都市部における自動運転はハードルが上がるが、その分需要も高い。
定路線を走行する自動運転シャトルか、あるいは一定区域内を走行する自動運転タクシーかは定かではないものの、都市部で実証を進める例も少なくない。
レベル4サービスを導入予定の大阪・関西万博なども都市部に相当する。地方と比較し、都市部ではどのような形態でサービス化が進むのか要注目だ。
【参考】HANEDA INNOVATION CITYの取り組みについては「HANEDA INNOVATION CITYで、仏製自動運転バスが定常運行!」も参照。
HANEDA INNOVATION CITYで、仏製自動運転バスが定常運⾏! https://t.co/3PieQDhFAo @jidountenlab #自動運転 #バス #羽田
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) September 18, 2020
高速道路でトラックの自動運転(レベル4)が実現する可能性
ヒアリングではこうした意見は出ておらず、政府計画ベースの予想と思われる。政府の計画(官民ITS構想・ロードマップ)では、高速道路におけるレベル4トラックは2025年以降の市場化を予測している。オーナーカーにおけるレベル4を応用する格好だ。
まずは後続車無人隊列走行の商用化が先となる見込みだが、三井物産とPreferred Networksの合弁T2のように、レベル4トラックの幹線輸送サービスに焦点を置き開発を進める企業も現れた。
高速道路直結の物流拠点ができれば、輸送ルートをすべてODD(運行設計領域)内に収めやすくなり、無人長距離輸送の商用サービスの道が大きく開ける。
場合によっては、オーナーカーよりも先に構想道路におけるレベル4を実現する可能性もありそうだ。
【参考】高速道路におけるレベル4トラックについては「高速道から直接、自動運転トラックが出入り?次世代物流拠点、2026年に誕生か」も参照。
高速道から直接、自動運転トラックが出入り?次世代物流拠点、2026年に誕生か https://t.co/YHucF8qmwU @jidountenlab #自動運転 #トラック #物流拠点
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) February 8, 2022
高速道路でオーナーカーの自動運転(レベル4)が実現する可能性
こちらもヒアリングでは特に言及がなく、政府の計画に基づくものと思われる。オーナーカーであっても、ODDを高速道路に限定することでレベル4の実装に近付くことができる。
レベル4はODD内においてはドライバーの手を一切煩わすことなく走行を完結するのが特徴だ。レベル3の延長として捉え、万が一の際はシステムが自動で安全に停止する――と考えれば実現は比較的容易に思える。
ただし、高速道路の場合、この安全な停止に課題が残る。路肩への緊急停車は本質的に安全とは言えないためだ。急なゲリラ豪雨などでODDを外れる可能性は十分考えられるため、待避所となる非常駐車帯の設置など、対策をしっかりと練る必要がありそうだ。
オーナーカーは、レベル3~4が可能な場所では自動運転し、その他の場所ではレベル2で走行
「オーナーカーとしては、当面レベル2~3の高度化が図られるのみだろう」といった意見があった。レベル3~4が可能であれば、多くの場合より広いODDでレベル2のADAS(先進運転支援システム)が可能になる。
高速道路のような専用空間でいかにレベル3以上の実用域を高めるか、また、一般道などの混在空間でいかに高度なレベル2を実現していくのか、要注目だ。
自律走行を基本とする事業者とインフラ協調を必要とする事業者が混在
インフラ協調がどの程度までを指すかは不明だが、道路インフラ側に一定の設備を要するものと要しないものが混在するのも間違いなさそうだ。
インフラ協調タイプには、信号情報などの交通情報インフラのほか、磁気マーカー型なども含むと解される。新たな手法を含め、さまざまな自動運転関連技術の実用化が進展するのだろう。
■2030年頃以降の予想
遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスの地域が拡大
この頃には、地方、都市を問わず、さまざまな混在空間で自動運転が可能になり、導入時のハードルも下がっている可能性が高い。
システムに異常が発生した際などに限定して遠隔監視するだけの自動運転サービスがあちこちで実用化され、採算がとれるビジネスとして成立している可能性も考えられそうだ。
一般道(特定ルートか)での自動運転トラック(レベル4)の実現及び走行ルートの拡大の可能性
特定のルートに限れば、一般道における自動運転トラックの実現も十分考えられる。中長距離の場合は自動運転バスの延長線上、ラストマイルの場合は自動運転タクシーの延長線上の技術と捉えれば、下地が整っている可能性が高い。
一般道(特定ルートか)でのオーナーカー(レベル4)の市場化及び走行ルートの拡大の可能性
一般道におけるオーナーカーのレベル4は、ODDを外れる際のテイクオーバーの円滑さがカギを握りそうだ。
高速道路と比較すると、ODD内と外の区別をつけづらく、ODDを脱するタイミングも早くなるものと思われる。システムからドライバーに安全かつ円滑に運転を引き継ぐ新たな仕組みが必要となるかもしれない。
■【まとめ】自動運転の普及は既定路線
政府計画を逸しない妥当な予想……と言えなくもないが、言い方を変えれば、計画に沿う形で開発や実証がしっかりと進んでいるからこその予想だ。
2025年過ぎには自動運転サービスがあちこちに誕生し、2030年過ぎにはある程度スタンダードなサービスと化している可能性がある。
自動運転の普及はもはや既定路線だ。オーナーカーとサービスカー、都市部と地方部など、どのようなプロセスを経て社会に浸透していくのか、今後の動向に注目していきたい。
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【参考】関連記事としては「見逃し厳禁!自動運転に関する警察庁ヒアリング、重要設問一覧」も参照。