見逃し厳禁!自動運転に関する警察庁ヒアリング、重要設問一覧

ODDや運行体制、運用上の課題など



自動運転解禁を前に、警察庁はレベル4サービスなどの開発状況や運用課題などについて事業者ヒアリングを実施した。同庁所管の「自動運転の拡大に向けた調査検討委員会」が自動運転のさらなる拡大に向け基礎資料とするため実施したものだ。


ヒアリングでは、自動運転システムのODD(運行設計領域)に関するものや運行体制、運用上の課題など興味深い設問と回答が出揃っている印象だ。

いくつかの設問をピックアップし、自動運転開発やサービスの「今」に迫る。

▼国内ヒアリング回答結果(概要)
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/jidounten/r4_2_shiryo1.pdf

【参考】関連記事としては「移動革命!レベル4自動運転で「定路線運行」、10主体が計画」も参照。


記事の目次

■主なヒアリング内容
Q:研究開発中のレベル4のADS(自動運転システム)などは、どのような道路環境において使用することを想定しているか。

ODDにおける道路条件や地理条件を問うような設問だ。この問いに対し、「道路交通法上の道路以外」が13主体、「限定空間」が13主体、「高速道路または自動車専用道路」が11主体、「一般道路のうち幹線道路」が8主体、「一般道路のうち生活道路」が10主体となっている。

限定空間は、廃線跡やBRT専用区間など一般道路のうち他車両や歩行者などの流入が限定的な空間を指す。

自動運転を実用化しやすい道路以外や限定空間を想定している事業者が当然多いが、最低でも10主体が一般的な生活道路における自動運転実現を想定しているようだ。

出典:警察庁資料(※クリックorタップすると拡大できます)
Q:ADSのみで自動運転を継続することが困難で、かつ恒常的にルート上に存在していることが見込まれる走行環境はあるか。

ODDを外れ得る要因で、走行経路上に恒常的に存在するものを問う設問だ。回答は多い順に、「他車線との分合流地点付近」、「サービスエリア・パーキングエリア・料金所」がそれぞれ5主体、「交差点付近」4主体、「信号機設置場所付近」、「トンネル内部」、「トンネル出口付近」、「踏切」がそれぞれ3主体、「急カーブ」、「急勾配」、「高架線の下」、「特定の速度制限が設けられている区間」がそれぞれ2主体、「高い段差」1主体のほか、「判別できないほど白線が薄れている状態」などその他7主体――となっている。


また、「未定」と答えた事業者が13主体と多い一方、「ない」と回答した事業者も4団体いるようだ。

ODDは、高速道路と一般道の区別といった道路条件や、都市部や山間部、仮想的に線引きした地理的境界線内など周辺の環境も含んだ上で設定される地理条件、天候や日照状況などの環境条件、速度制限やインフラ協調などその他の条件で構成される。

これらの条件の中に、各回答のような自動運転システムの走行に影響を及ぼすさまざまな要素があるのだ。

一般道路の走行を想定した自動運転システムの場合、これら苦手とされる要素のほぼ全てを克服しなければならない。遠隔監視・操作であっても、その都度介入を要するようであればレベル4とは言えないからだ。

出典:警察庁資料(※クリックorタップすると拡大できます)

【参考】ODDについては「自動運転とODD」も参照。

Q:ADSのみで自動運転を継続することが困難で、かつ恒常的にルート上に存在しているとはいえない走行環境はあるか。

前問に続き、恒常的に存在しているわけではないODDを外れ得る要因について問う設問だ。回答は多い順に、「強い雨などの悪天候や逆光」18主体、「路面凍結」、「道路の陥没」、「警察官などが道路上で交通整理している場所」がそれぞれ16主体、「冠水・水たまり」15主体、「道路にはみ出している草木」、「駐停車車両など走路上の予定していない障害物」がそれぞれ11主体、「判別できないほど白線が薄れている状態」8主体、その他6主体――となっている。

その他には、落下物や事故車両、緊急自動車の接近、横断意思が不明な方向者の存在、通信状態の悪い環境、ビニール袋や煙などが挙げられている。

前問とは異なり、全てを克服するのは非常に困難な要素がいろいろと出てきた印象だ。悪天候や凍結路、冠水などは手動運転でも困難なケースがあり、自動運転で柔軟に対応するには非常に高いハードルが待ち構えている。

一方、駐停車車両は遭遇率が高く、可能な限り克服することが求められる。交通整理や緊急車両などに関しては、音声やゼスチャー認識などのほか、現場の警察官などが自動運転車に指示を出すための一定の仕組みを標準化するなど、将来的に何らかの対応が為される可能性もありそうだ。

出典:警察庁資料(※クリックorタップすると拡大できます)
Q:レベル4のADSをどのサービス形態として運用することを想定しているか。

回答の多かった順に、「移動サービス・公共サービスなど」が6主体、「高速道路における物流サービス」が5主体、「一般道路における物流サービス」が4主体、「高速道路を走行する自家用車」、「一般道路を走行する自家用車」がそれぞれ1主体となっている。

その他、移動販売車や移動診療車、一部公道を走行する工場内搬送との回答もあったようだ。

出典:警察庁資料(※クリックorタップすると拡大できます)
Q:レベル4のADSを搭載した車両を自然人が運転する予定はあるか。

ODD内、ODD外含め、ドライバーが実際に操作する機会を問う設問だ。「ODD内」が1主体(高速道路想定は1主体)、「ODD外」が5主体(同2主体)、「ODD内外両方」が3主体(2主体)、「自然人による運転予定なし」が1主体(同1主体)となっている。

出典:警察庁資料(※クリックorタップすると拡大できます)
Q:想定している運用方法で、自動運転をどのように開始・終了することを想定しているか。

高速道路を走行する物流サービスの場合、サービスエリアやパーキングエリア、インターチェンジ直結の拠点などで遠隔監視者が行う――や、移動サービスの場合、ODD内に入る直前やODD外になる直前に、乗務員や運転者などがスイッチ操作で行う――といった回答があった。

車両や遠隔システムなどの性能が明確でないため、検討中とする主体も一定数存在したようだ。

出典:警察庁資料(※クリックorタップすると拡大できます)
Q:「特定自動運行実施者」や「特定自動運行主任者」、「現場措置業務実施者」など、具体的にどのような主体や自然人が担うことを想定しているか。

特定自動運行実施者はサービス提供を担う事業者自、または運行委託先の事業者が担う――とする回答や、特定自動運行主任者は社員を遠隔監視所などに配置するという回答、現場措置業務実施者はサービス提供を担う事業者や警備会社、レッカー事業者、JAF、保険会社などの駆け付け対応のノウハウを有する委託事業者の社員を配置する――といった回答などが得られた。

改正道路交通法の施行により、レベル4サービスは「特定自動運行」と位置付けられ、同サービスを行う特定自動運行実施者は、特定自動運行主任者や現場措置業務実施者といった業務従事者を選任しなければならない。

一方、自動運転サービスには、システム開発者やサービス提供事業者、運行委託事業者などさまざまな主体が関わる。誰がどういった役割を担うのか、しっかり精査しておきたいところだ。

出典:警察庁資料(※クリックorタップすると拡大できます)
Q:現場で交通事故などが発生した場合の対応について、想定している運用方法において具体的にどのような課題があるか。また、高速道路上で自動運転が終了した際、現場への駆け付けを含め道路交通法上の義務にどのように対応するか。

積荷や乗客の安全性確保が重要である一方、交通事故時の迅速な駆け付け対応や、警察官の交通整理や緊急自動車の接近などにシステムのみで対応するのは困難であり課題――とする回答や、車速の早い高速道路では、路肩に停止した後の本線への復帰方法なども課題――とする回答などがあった。

交通事故などが発生した場合、車内無人のサービスでは対応しきれないのは明白で、迅速にフォローする体制をどのように構築していくかがカギとなりそうだ。

出典:警察庁資料(※クリックorタップすると拡大できます)
Q:特定自動運行実施者や特定自動運行業務従事者が道路交通法に違反した場合など、都道府県公安委員会が行う行政処分についてどのような課題があると考えられるか。

同一のシステムを使用している他の事業者が行政処分を受けた場合や、委託先が他社向けの事業で行政処分を受けた場合など、自社にどのような影響が出るかを懸念する声や、車両や自動運転システム、特定自動運行実施者、特定自動運行主任者などどの主体が行政処分の対象となるかなどを懸念する声が上がっている。

特定の自動運転システム・自動運転車が国内各地で使用されたり、特定の事業者が国内各地で事業展開・事業委託したりすることが想定されるが、そのうち一カ所で問題が発生した際、それが他の地域にどのように波及するかはケースバイケースで、不安が残るところだ。

出典:警察庁資料(※クリックorタップすると拡大できます)
Q:ODDの設定や車内に乗車・配置する人の有無などに関連して、安全かつ円滑な運用に向けどのような実務上の課題があると考えられるか。

遠隔監視者のみで運行継続可否などを判断できるか、1人の遠隔監視者が複数台監視をしてもよいのか、遠隔監視者によるODD外の判断が運転と見なされるのかなどを懸念する声や、移動サービスにおいて立ち客や障がい者、高齢者、子どもといった乗客への対応などを懸念する声が上がっている。

今のところ、1人の遠隔監視・操作者が何台の車両を監視可能か……といった定めはないように思われる。将来的には、自動運転システムの高度化に伴って1人が数十台~といった規模の監視を行うことなども考えられるが、現状、どういった規制を敷くのか、判断を待ちたいところだ。

出典:警察庁資料(※クリックorタップすると拡大できます)
■【まとめ】完全自動運転に向けた各社の取り組みに注目

車内にオペレーターやセーフティドライバーがいる場合といない場合とでは実務上のハードルが大きく変わってくる。

2023年4月にレベル4が解禁されるが、大半はセーフティドライバー同乗のもと実証やサービス化を進め、セーフティドライバーの存在意義がなくなるまで知見を積み重ねていくことになる。無人サービスに向けた道のりは、今始まったばかりなのだ。

実務を重ねることで新たな課題が浮き彫りとなり、同時に新たなルール作りが必要となることもある。完全自動運転実現に向けては、改善を繰り返して技術とサービスの質を地道に高めていくほかない。

まずはスタートラインとなる2023年4月、各社がどのように取り組みを加速させていくのか要注目だ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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