スタートアップやテクノロジー企業が続々と参入する自動運転業界。最先端技術を有する米国や中国系企業の台頭が著しいが、業界で気を吐く国家がもう1つある。イスラエルだ。
ハイテク産業が集積するテルアビブを中心にスタートアップが次々と躍進を遂げ、活躍の舞台をグローバルに拡大させている。
この記事では、自動運転関連事業を手掛けるイスラエル企業を紹介していく。
■自動運転システム関連
Mobileye:業界において世界を代表する企業に成長
単眼カメラを主体としたADASソリューションから自動運転を可能にするSoC(システムオンチップ)やソフトウェア開発などを手掛ける。高度な技術力を存分に発揮し、イスラエルを代表するにとどまらず、世界を代表する企業に成長を遂げた。
2017年に米インテル傘下に収まり、開発力をいっそう強化しており、2022年中に株式再上場を行う予定だ。自動運転分野では、自らロボタクシー事業などに着手する見込みで、イスラエルやドバイ、ドイツ、日本など世界各地のモビリティプロバイダーらと連携し、2022年以後順次事業を本格化させる予定だ。
▼Mobileye公式サイト
https://www.mobileye.com/
【参考】Mobileyeについては「Mobileye(モービルアイ)の自動運転戦略(2022年最新版)」も参照。
Autobrains(旧Cartica AI):Toyota Venturesが出資
自動運転AI開発を手掛けるスタートアップ。自己学習型AIに基づくCartexプラットフォームはモジュール方式で設計されており、レベル1~2のADAS(先進運転支援システム)からレベル4に至るまで、高度な知覚機能を必要とする複雑なシナリオに対応するさまざまな機能を選択できるという。
独BMWやコンチネンタル、Toyota Venturesなどが同社に出資している。
▼Autobrains公式サイト
https://autobrains.ai/
Brodmann17:高度なADASソリューションを提供
AI技術をもとにビジョンテクノロジーを開発するプロバイダーで、ADASソリューションを中心にソリューションを提供している。
アフターマーケットデバイス向けの包括的なディープラーニングソリューションや正面カメラ用の包括的な深層学習知覚ソフトウェア、特定のアプリケーション向けのNCAPに準拠したADASソフトウェアなどが主力で、これまでにソニーやサムスン系のファンドが出資を行っている。
▼Brodmann17公式サイト
https://brodmann17.com/
■センサー関連
Innoviz Technologies:LiDAR開発で躍進
LiDAR開発を手掛けており、2021年にナスダック市場に上場を果たすなど、今後の躍進に高い期待が寄せられる1社だ。
2016年設立後、「InnovizOne」や「InnovizTwo」といったLiDARを発表している。InnovizOneはBMWが採用を決めており、2022年に発売予定のレベル3車両に搭載される可能性が高い。
2022年1月には、新たなLiDAR「Innoviz360」を発表した。360度の視界を確保し、既存ソリューションと比較して10倍のパフォーマンスと大幅な低コストを実現するという。
▼Innoviz Technologies公式サイト
https://innoviz.tech/
【参考】Innovizについては「イノヴィズ(Innoviz)とは?自動運転向けLiDARを開発するイスラエル企業」も参照。
TriEye:SWIRセンシングソリューションを開発
CMOSベースの短波赤外線(SWIR)センシングソリューションを開発している2017年設立のファブレス半導体企業。すべての視界条件で高解像かつ信頼性、実用性の高い画像データを提供できるという。
SWIRはコストが高く航空や防衛用途が大半だったが、高度なナノフォトニクス研究に基づきコストを1,000分の1まで下げることに成功し、マスマーケット向け技術を提供している。
シリーズAラウンドでポルシェから出資を受け共同開発を進めているほか、2020年にはデンソーとの協業も発表されている。
2022年1月には、日立Astemoとのパートナーシップも発表された。同社のSEDAR(Spectrum Enhanced Detection And Ranging/スペクトル拡張型検出器・測定器)をADASシステムに統合し、視界の悪い条件下でミッションクリティカルな2D・3D深度情報を提供できることを検証するという。
▼TriEye公式サイト
https://trieye.tech/
Foresight Autonomous:赤外線カメラ開発 日本の自動車メーカーと協業も
スマートマルチスペクトルビジョンソフトウェアソリューションの開発を手掛ける2015年設立のテクノロジー企業。すでに米ナスダック市場に上場を果たしている。
赤外線カメラとRGBカメラのデータを融合することで、さまざまな道路や照明、気象条件における物体検出を可能とする技術が特徴で、オートキャリブレーションやステレオカメラ、3Dポイントクラウドなどのソリューションを展開している。
具体名は明かされていないが、子会社のEye-Net Mobileが日本の自動車メーカーとスマートシティ関連のパイロットプロジェクトを実施し、Eye-Netのソリューションを採用することを決定したことなどが2021年に発表されている。
▼Foresight Autonomous公式サイト
https://www.foresightauto.com/
【参考】Foresightについては「自動運転、Foresightのダブルカメラに注目!「赤外線×RGB」で優れた検知性能」も参照。
Adasky:サーマルカメラ開発
インテリジェントサーマルセンシングテクノロジーの開発を手掛ける2016年設立のスタートアップ。300メートル先の物体を検知可能な高解像度LWIRサーマルカメラなどを製品化している。
2020年のシリーズBラウンドで京セラが出資している。京セラはADAS・自動運転市場に向けマルチファンクション型ミリ波レーダーやカメラ-LiDARフュージョンセンサー、AI搭載車載カメラなどの開発を手掛けている。
このほか、米国大手自動車メーカーと契約を交わし、複数年にわたる開発プログラムの最初の段階として2023年までにサーマルカメラを車両に統合していくことに合意したようだ。
▼Adasky公式サイト
https://www.adasky.com/
Inuitive:3D深度センサーやSLAM技術を開発
スマートフォンや拡張現実、仮想現実デバイス、ロボットのビジョンプロセッサとして機能するマルチコアプロセッサICを開発しており、3D深度センサーやコンピュータビジョンをはじめ、ローカリゼーションとマッピングを可能にするSLAM技術なども有している。
同社のエッジAIプロセッサはアルプスアルパインの障害物検知ユニットに採用され、福伸電機が製品化した1人乗りの電動カート「POLCAR」に搭載されている。
また、2017年には、ソフトバンクとAI・IoT分野で協業を検討していくことが発表されている。
▼Inuitive公式サイト
https://www.inuitive-tech.com/
Bright Way Vision(BWV):コンピュータビジョン技術で小糸製作所と協業
イスラエルの大手防衛技術企業Elbit Systemsから2011年にスピンオフした企業で、独自のコンピュータビジョン技術などを有する。
同社が開発したCMOSベースの自動車向けイメージングシステム「VISDOM」は、悪天候など視界の悪い状況でも鮮明に画像を映し出すことができ、ADASやレベル3車両、自動運転試験車両などに活用できるという。
各種センサーや周辺機器の開発を手掛ける小糸製作所が2019年、同社に2,400万ドル(約27億円)出資し、自社の自動車照明器技術と BWV のカメラ技術を組み合わせたランプの共同研究に取り組んでいくとしている。
▼Bright Way Vision公式サイト
https://www.brightwayvision.com/
【参考】BWVについては「小糸製作所、イスラエルADASベンチャーBWV社の株式取得 自動運転向け製品の開発を加速」も参照。
■セキュリティ関連
Cybellum:サイバーセキュリティ分野でルノー日産三菱と提携
サイバーセキュリティ開発を手掛ける2016年設立のスタートアップ。車内のソフトウェアコンポーネントの詳細なゲノムマップを作成し、可能性のあるリスクについて分析する。開発の初期段階からオーナーの手に渡った後に至るまで、自動車のライフサイクル全体を通してサイバーリスクを排除するという。
ルノー日産三菱アライアンスが2020年に戦略的業務提携を締結しているほか、2021年に豊田通商が日本国内における販売代理店契約を締結している。
▼Cybellum公式サイト
https://cybellum.com/
【参考】Cybellumについては「車両セキュリティで日産絡む新タッグ…「世界中のドライバーの安全性を確保」」も参照。
Upstream Security:クラウドベースのサイバーセキュリティソリューションを提供
クラウドベースのサイバーセキュリティソリューションを展開しており、自動車メーカーとスマートモビリティプロバイダなどがすでに収集したデータを活用することで自動車の保護を可能としている。
すべてのデータフィードを集約、正規化、匿名化し、機械学習とビッグデータ分析技術を利用して解析を行う。これまでにルノーやボルボグループ、ヒュンダイ、BMW、三井住友海上保険などから出資を受けているほか、富士通とコネクテッドカー向けのサイバーセキュリティ分野でパートナーシップを結んでいる。
▼Upstream Security公式サイト
https://upstream.auto/
Arilou:自動車に特化したサイバーセキュリティを提供
自動車に特化したサイバーセキュリティソリューションの研究開発を手掛ける企業で、2016年に自動車ソフトウェアプロバイダーNNGの傘下に入っている。
ハードウェアとソフトウェアのさまざまな組み合わせをサポートしており、車両のニーズと環境に合わせて柔軟に実装することができるという。
▼Arilou公式サイト
https://ariloutech.com/
Argus Cyber Security:コンチネンタル傘下で販路拡大
自動車向けのサイバーセキュリティ開発を手掛けており、2017年に独コンチネンタル傘下となって販路を広げている。テルアビブの本社のほか、ミシガン、シリコンバレー、シュトゥットガルト、東京にもオフィスを構えている。
出願中を含む70件の特許のもと、車載ネットワーク全体のセキュリティを保つ「Argus In-Vehicle Network Protection」や車外との安全な双方向通信を確保する「Argus Connected ECU Protection」、主要デバイスに組み込まれたECUのセキュリティを強化する「Argus Embedded ECU Protection」などのソリューションを提供している。
▼Argus Cyber Security公式サイト
https://argus-sec.com/
■その他
Autotalks:V2X向けのSoC開発
2008年設立のV2X(Vehicle-to-Everything)向けのチップを開発するファブレス企業で、世界各国のOEMが自家用車向けに導入しているほか、自動運転プロジェクトへの導入実績も豊富なようだ。イスラエル本社のほか、北米やドイツ、中国、日本などにもオフィスを構えている。
日本企業とのなじみも深く、2011年に富士通セミコンダクターヨーロッパが同社の車車間通信プロセッサ製造を請け負う提携が発表されたほか、2016年にはデンソーが同社のSoCをマスマーケット向けのグローバルV2Xプラットフォームに採用している。また、2017年に実施された資金調達ラウンドには、未来投資ファンドが参加している。
▼Autotalks公式サイト
https://auto-talks.com/
Cognata:自動運転シミュレーターを開発
自動運転シミュレーションシステムの開発を手掛ける2016年設立のスタートアップ。リアルなシミュレーション環境で自動運転開発を加速させることができる。
マイクロソフトやZF、Qualcommなどとパートナーシップを結ぶほか、日本ではIT事業を手がけるアイティアクセスが国内への技術提供を目的に協業を進めている。
▼Cognata公式サイト
https://www.cognata.com/
DriveU.auto:遠隔操作技術を開発
ビデオ伝送テクノロジー企業のLiveUからスピンアウトしたスタートアップで、セルラーボンディングと動的エンコーディングを使用し、高速かつ低遅延、信頼性の高い伝送技術で自動運転車の遠隔操作を可能にするプラットフォームを開発している。
仏EasyMileの自動運転シャトル「EZ10」にもすでに実装開始されているようだ。2021年5月にはデンソーとの協業が発表されており、同社プラットフォームをデンソーのハードウェアアーキテクチャに統合し、検証を進めていくとしている。
▼DriveU.auto公式サイト
https://driveu.auto/
Ottopia Technologies:遠隔操作技術を提供
低遅延でデータロスのない安定した高解像度データの伝送を可能とする技術を有しており、離れた場所から自動運転車を監視、支援、運転できる遠隔操作技術の開発を手掛けている。
ロボタクシーフリートなどにおけるテレオペレーターは、自動運転車10台あたり1人を「黄金比」としており、これを実現するサポートシステムを提供しているようだ。
仏EasyMileやBMW、Motionalなどがパートナーに名を連ねているほか、住友商事系のベンチャーキャピタル「IN Venture」が出資を行っている。
▼Ottopia Technologies公式サイト
https://ottopia.tech/
【参考】Ottopiaについては「住友商事、イスラエルの自動運転ベンチャーOttopiaに出資 データ伝送で強み」も参照。
Allegro AI:AIオープンソースツールを提供
マシンラーニングのオープンソースMLOpsツールを提供しており、自動車をはじめヘルスケアや医療、ロボット工学、セキュリティなど多岐に渡る業界で活用されているという。
独ボッシュのベンチャーキャピタルが同社に出資している。
▼Allegro AI公式サイト
https://www.allegro.ai/
Foretellix:自動化・分析ツールを開発
エッジケースを含む数億の運転シナリオを調整・監視するインテリジェントな自動化・分析ツールの開発を手掛けている。同社のソリューションは、シミュレーターやテストトラック、テスト車両など必要なすべての運転プラットフォームで機能する。
自動運転システム向けの業界初のカバレッジ駆動型検証および妥当性確認プラットフォーム「Foretify」をはじめ、ADASや高速道路向けの検証パッケージ、自動レーンキーピングシステムに関する国連規制に準拠したパッケージなどを商用化しており、日本でもシミュレーションツール開発などを手掛けるバーチャルメカニクスが提携し、ソリューションを提供している。
▼Foretellix公式サイト
https://www.foretellix.com/
【参考】Foretellixについては「「組合せの組合せ」で膨大なシナリオ!自動運転開発にForetifyが貢献」も参照。
SLAMcore:SLAM技術にTRIが出資
SLAMアルゴリズム開発を手掛けており、ポジショニングやマッピング、知覚に向けたフルスタックの空間インテリジェンスソリューション「SLAMcore Spatial Intelligence」を提供している。
同社のソフトウェアはステレオカメラと慣性センサーを使用し、コンピュータリソースをほとんど使用することなく高密度な2.5Dマップをリアルタイムで作成することができるという。
2017年の資金調達ラウンドにTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)が参加しており、後にToyota Venturesが引き継いでいる。
▼SLAMcore公式サイト
https://www.slamcore.com/
■【まとめ】イスラエル政府も後押し 自動運転産業は大盛況
軍事産業が盛んなイスラエルでは、AIやセンサー、サイバーセキュリティ技術などの領域が特に進んでいる印象だ。実際に、軍経験者が創業した企業も非常に多い。
これらの技術は自動運転開発に大いに貢献するものが多く、今後も世界を股に掛けて活躍する企業が続々と誕生する可能性は高そうだ。
軍関連は置いておき、イスラエル政府も自動運転の開発・実用化に前向きな様子で、2021年12月には同国運輸省・道路安全省が自動運転タクシー法案を議会に提出したようだ。報道によると、2022年内に同国内で計400台の運用を認める方針のようだ。
サービス実装と相まって自動運転産業がより盛り上がっていくことは間違いない。今後の動向に要注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転で注目!国内外スタートアップ45社を総まとめ」も参照。