ビジョンファンドの日本投資、「自動運転」分野の有力候補は?

新進気鋭のAIベンチャー目白押し



出典;ソフトバンクグループ公式動画

ソフトバンクグループが世界に誇る投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」がこのほど、日本のバイオベンチャーであるアキュリスファーマに投資したことが明らかになった。SVFから国内企業への投資は初の案件となる。

これまで海外有力スタートアップらを対象に高い業績を上げてきたSVFだが、今後は国内企業への投資も拡大してく方針のようだ。


AI(人工知能)技術を中心に自動運転分野でも多くの投資実績を誇るSVF。この記事では、SVFの投資候補となりそうな自動運転関連ベンチャー12社をピックアップし、紹介していく。

■SVFの概要

2017年に運用を開始した第1号ファンドの「SVF1」は、2021年3月末までに92銘柄に対し累計857億ドル(約9兆4000億円)を投資している。一方、2019年にスタートした第2号ファンドの「SVF2」は、同時期までに44銘柄に対し累計67億米ドル(約7300億円)を投資している。

自動運転関連では、GM傘下の米Cruiseや米Aurora Innovation、米Nuro中国のDiDi Autonomous Drivingをはじめ、米Uberや中国Didi Chuxing、インドのOla、シンガポールのGrab、米Getaroundなどサービスプロバイダーにも広く出資している。

これまでは海外スタートアップへの投資などが主体だったが、SVF運用を担う子会社SB Investment AdvisersがSNS(LinkedIn)で2021年8月ごろ、「Investment Vice President – Tokyo(投資担当副社長)」の募集を開始している。業務として、ソフトバンクが日本で投資または買収する企業を調査する内容が掲げられている。


そして同年10月、アキュリスファーマがSVF2をリードインベスターとするシリーズAラウンドで総額68億円の資金調達を行ったことを発表した。まさにSVFが国内投資に力を入れ始めた証左と言えそうだ。

■国内自動運転関連の投資候補ベンチャー
ティアフォー

自動運転開発を手掛ける2015年設立のベンチャー。自動運転のオープンソースソフトウェア「Autoware」を武器に国内外で広く活躍している。

これまでに未来創生ファンドやSOMPOホールディングス、アイサンテクノロジー、ヤマハ発動機、KDDI、台湾のクアンタ・コンピュータなどから資金調達を行っている。

これまではKDDIとの結び付きが強い印象だが、国内自動運転企業としては抜きんでた技術と実績を誇るため、今後ソフトバンク陣営が動く可能性も否定できない。


WHILL

自動運転車いすをはじめとしたパーソナルモビリティ製品の開発を手掛ける2012年設立のベンチャー。自動運転車いすは空港や病院などですでに実用化が始まっている。また、北米や中国、台湾、欧州などにも拠点を構えており、世界展開にも力を入れている。

2018年にSBIインベストメントなどから総額50億円の資金調達を行っている。

TRUST SMITH

2019年に創業したばかりの東京大学発AIベンチャー。倉庫向けの自動搬送ロボットや配送最適化アルゴリズムの開発などロジスティクスのスマート化を中心に取り組んでおり、自動運転トレーラーや自動配送ロボットの開発などにも着手している。

新進気鋭のベンチャーとして投資家からの注目度は非常に高いが、今のところ同社は金融機関からの投資をはじめとしたデットファイナンスにこだわっており、2020年9月に金融機関からの融資のみで総額1.1億円を調達したことを発表している。

今後、事業本格化を迎えたときに多額の資金を要するケースも考えられるが、その際にも信念を貫くのかどうか、改めて注目したいところだ。

【参考】TRUST SMITHについては「日本で新たな自動配送ロボ誕生へ!TRUST SMITH、操作性を重視」も参照。

Preferred Networks

2014年設立のAIベンチャー。深層学習やロボティクス技術のビジネス活用を目指し、さまざまな分野でイノベーション実現を推進している。

自動運転関連では日本唯一のユニコーン企業としても知られ、これまでにNTTやトヨタ、日立製作所、三井物産など多くの企業から資金を調達している。トヨタとは2014年から物体認識技術や車両情報解析などの領域で共同研究を続けている。

LeapMind

2012年設立のAIベンチャー。ディープラーニングに極小量子化技術を適用し、性能劣化を抑えつつモデルの容量と計算量を大幅に削減する技術を有する。建設機械の自動運転化などの実績があるようだ。

2019年の資金調達Cラウンドでは、トヨタやあいおいニッセイ同和損害保険、三井物産とともに、ソフトバンク系列のSBIインベストメントから総額約35億円を調達している。

ARAYA

2013年設立のAIベンチャー。AIモデルを圧縮し演算量を削減する特許技術を有するなど、エッジAI分野などで強みを発揮する。

ドローンの自律飛行技術や建設機械の自動化を実現するAI開発などをすでに進めており、自動運転分野でも高い期待が寄せられるところだ。

サイバーコア

2007年設立のAIベンチャー。リアルタイム画像鮮明化ライブラリ「LuxEye」、欠損画像復元AIアルゴリズム「WipeEye」、人物挙動・行動検知AI「BehaveEye」など、画像認識・解析技術に強みを持っている。

主要取引先にはデンソーが名を連ねており、自動運転をはじめ車載カメラを活用したセンシング技術の高度化に期待が寄せられる。

ArchiTek

2011年創業のAIベンチャー。エッジに最適なソリューション「aIPE」など、AIを活用した画像認識アプリケーションを小型・低消費電力で実現するLSIの開発などを手掛けている。

カメラからの画像データをはじめ、ソナーやLiDARからのセンサーデータも同時処理することができるため、ADASや次世代ドラレコ、そして自動運転の安全性向上と実現に大きく貢献できるという。

これまでに、未来創生ファンドやテックアクセルベンチャーズ、NTTドコモ・ベンチャーズから出資を受けている。

イネーブラー

位置情報や測位技術などに強みを持つ2012年設立のベンチャー。自動運転関連では、衛星測位を利用しセンチメートル精度の測位技術をはじめ、走行軌跡の真値を計測できるレファレンス用のGNSS+IMU、ビル街などマルチパス環境でも精度を維持するGNSS+IMU、自動運転のプロトタイプ車両に利用される最高峰のGNSS+IMU、3次元地図データの取得・データ提供サービスといったソリューションを展開している。

SBIインベストメントから出資を受けているほか、2018年にソフトバンクと共同出資し、高精度測位情報配信サービスを提供するARESを設立している。

【参考】イネーブラーの取り組みについては「ソフトバンク、自動運転車などに誤差数cmの測位サービスを提供」も参照。

フューチャースタンダード

2014年設立のAIベンチャー。画像処理技術を活用したトータルサービスを提供するプラットフォーム事業などを手掛ける。

主力は映像解析プラットフォーム「SCORER」で、ソフトバンクとも取引があるようだ。これまでに、交通量調査サービス「SCORER Traffic Counter」や群衆検知AIアルゴリズムをモデル実装した「CROWD DETECTION DEMO SITE」、画像解析AIで路面状況の維持管理を支援する「Road Damage Detection」などをサービスインしている。

Sigfoss

2014年設立のAIベンチャー。機械学習応用やビッグデータ解析、画像認識技術などの開発を手掛けており、これまでにヤフーやウーブン・プラネット・ホールディングスなどとの取引があるようだ。

大手自動車メーカーとの自動運転アルゴリズム開発では、環境条件や認識対象、認識精度、動作速度、モデルサイズなど、さまざまな条件に対応したパーセプションアルゴリズムの開発に取り組んでいるという。

アセントロボティクス

2016年設立のAIベンチャー。産業用ロボットや自律移動するロボット向けのインテリジェントソリューションの開発を主軸としている。最先端AIを利用した周辺認識や位置推定技術、シミュレーション技術などを有する。

2018年のシリーズAラウンドでSBIインベストメントなどから総額11億円の資金調達を行っている。

■【まとめ】投資拡大でベンチャーの育成・開発が加速か

自動運転分野での活躍に期待が寄せられるAI開発企業を中心にピックアップしたが、AIベンチャーの裾野は現在進行形で拡大を続けており、SVFはステルス状態のベンチャー発掘に動き出す可能性も高そうだ。

いずれにしろ、SVFの新たな戦略により国内ベンチャーの育成が促進され、開発が加速する可能性もある。国内2号案件をはじめ、自動運転分野への投資に改めて注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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