労働力不足という共通した課題を抱える物流業や倉庫業。ただモノを運べは良い、モノを預かれば良いといった旧来の事業から脱却し、新たな展望を切り開いていかなければならない時がやってきている。
その前途に一筋の光明をもたらすのが、自動運転やAI(人工知能)、IoT(Internet of Things)といった最新技術で、技術開発の進展とともに徐々に導入が進んでいるようだ。
物流・倉庫業界が抱える課題に対し、自動運転がどのような役割を果たすのか、各社の開発状況など最新の動向を調べてみた。
■物流・倉庫業界で自動運転に期待されるものとは?
物流・倉庫業ともに労働力不足と業務の効率化が課題となっており、解決策として自動運転車の導入やAI(人工知能)、ビッグデータの活用などが進められている。
無人による完全自動運転トラックの実現はドライバー不足の解消に直結し、実証実験が進む隊列走行技術の確立においても効果が見込める。また、自動運転車は休憩の必要もなく、一定速度で機械的な運行が可能であるため、1台当たりの稼働時間を伸ばし、効果的・効率的な配送を実現することができる。
また、AIやビッグデータの活用により、配送需要を事前に見極めて効率的なトラックの配置や配送経路などを選定することも可能になる。
大きく重たいトラックの自動運転化は乗用車に比べより高度な技術が必要で、荷物の積み下ろし作業などしばらくは人手を要することになりそうだが、中小零細企業を問わず隊列走行に加わることが可能となる規格の標準化や、高速道路のインターチェンジ付近に待機所を設置し、別のトラックへの荷物の積み替えを容易にする仕組みを確立させるなど、役割を分担することで効率化を図ることもできる。
また、長距離を移動するドライバーに対し、運転負担を軽減するためADAS(先進運転支援システム)を導入する効果は通常のドライバーに比べ相対的に大きいものとなる。自動運転レベル2(部分運転自動化)の技術が搭載されるだけで、ドライバーの負担は明らかに変わるはずだ。
一方、倉庫業においては、AIやセンサーを搭載した倉庫内自動運転車が荷物を自動で選別して運搬するシステムの開発が進められており、従来ヒトが担っていた重労働をロボットが代替する場面が増えつつあるようだ。
【参考】自動運転トラックの開発状況については「自動運転トラックの開発状況&企業まとめ 利点は? 実現はいつごろ?」も参照。
■各社の取り組みやソリューション開発の現状
隊列走行に向けトラック製造業者がCACC(協調型車間距離維持支援システム)共同開発
三菱ふそうトラック・バス株式会社など複数の業者が共同でトラックの隊列走行実現に向け、車車間通信システムを介し先行車の加減速制御情報などを取得することで車間距離を一定に保つCACC技術の開発を行っており、すでに実証実験も行われている。
また、日野自動車は新しい物流のかたちを提案する新会社「NEXT Logistics Japan株式会社」を2018年6月に設立し、物流業界の課題解決の一助となる取り組みを推進している。ドライバー・車両・荷物情報の3つの情報を高度に活用した安心・安全な物流環境及び高積載率の実現や、隊列走行・ロードトレインによる高効率大量輸送の実現に向け、実証実験を行っていくこととしている。
【参考】NEXT Logistics Japanについては「日野方式、新しい物流のカタチ 高速道路で自動運転実証へ」も参照。
日立物流:棚を移動する無人搬送機でピッキング作業を効率化
物流大手の日立物流は、スマートロジスティクス技術の活用によって、物流センターの運営効率の可視化と改善提案、物流拠点の最適配置や設計などのための研究開発に取り組んでいる。
ピッキング作業の効率化を図る小型無人搬送ロボット「Racrew」は、専用棚の下に潜り込んで作業者のもとへ棚を直接搬送する無人搬送車(AGV)で、多数のRacrewを運用する専用最適化アルゴリズムの構築により、同時に数百台まで制御することが可能という。
また、調達・製造・配送・販売までの流れのシミュレーションを行い、倉庫配置案や倉庫設計値について膨大な組み合わせの中から、最適なプランを短期間で定量的に提案するスマートロジスティクスコンフィギュレータなどを実用化している。
トヨタL&F:フォークリフトを無人化 自動運転機能も開発中
豊田自動織機の社内カンパニーであるトヨタL&Fは、倉庫内で活躍する自律走行ロボットや、有人・無人運転の切替えが可能なフォークリフトなどを製品化しているほか、トヨタの生産方式や物流方式をベースとした物流エンジニアリングシステムの提案なども行っている。
オプティマインド:AI最適配車クラウドサービスで効率的な配送ルートを提案
名古屋大学発の企業である株式会社オプティマインドは、AIを活用した物流の最適化に挑んでいるテックベンチャーだ。組み合わせの最適化、機械学習、統計などの技術を用いて、配送計画の領域を中心に事業を展開している。
開発を進めるAI最適配車クラウドサービス「Loogia」は、「どの車両が、どの訪問先を、どの順に回るべきか」を効率化するためのサービスで、機械学習を用いて配送のための地図を作成し、次にアルゴリズムと地図データに基づき、効率的な配送ルートを提案する。
【参考】オプティマインドについては「名古屋大界隈、AIや自動運転で日本最強説 スタートアップ続々」も参照。
NTTデータ:物流画像判別AIエンジンをさまざまなシーンに応用
人手に依存している物流業務の自動化・最適化に向け、AI技術をはじめとしたデジタル技術を適用することで現場業務の変革を支援するコンサルティングメニュー「物流業務変革コンサルティングサービス」の提供を行っている。
スマートフォンや固定カメラにより撮影した荷物画像・映像のデータの特徴量を抽出し、荷物の形状などを最大1000種類まで自動的に判別することができる「物流画像判別AIエンジン」はさまざまなシーンに応用可能で、積み込み・積み降ろし作業や検品・梱包作業へ適用できるほか、同エンジンを搭載したドローンなどのロボットを倉庫内で巡回させることで、棚卸作業などを自動化することも可能という。
ZMP:CarriRoシリーズで物流のさまざまな場面の課題を解決
自動運転ベンチャーのZMPが手掛ける物流支援ロボット「CarriRo(キャリロ)」は、自動追従機能や自律移動機能が搭載されており、搬送作業を快適に行うことができる。
現在市場に出ている無人搬送車(AGV)や自動搬送ロボットは、磁気テープで走行経路を直接引くライン式と、レーザーセンサーを使ってマッピングし、ロボットにルートを覚えこませるSLAM式が主流だが、CarriRoは走行通路にランドマークというシールのようなものを貼ることで、画像認識によって位置補正と走行指示情報を同時に受け取りながら走行する仕組みを採用している。タブレット上で走行ルートパターンを設定することもできるという。
CarriRoシリーズは、宅配向けのロボットや人間も搭乗できる搬送車タイプなどさまざまなバリエーションの開発・製品化が進められている。
【参考】CarriRoについては「ZMP、自動運転可能な物流支援ロボ「CarriRo」に人間搭乗用オプション」も参照。
ヤマトホールディングス:ロボネコヤマトはじめ空飛ぶネコ?も開発中
宅配の自動運転化を目指すヤマト運輸の「ロボネコヤマト」に対し、ヤマトグループの持ち株会社ヤマトホールディングスはドローンを活用した「空の輸送」の実用化に着手している。
人が乗るスペースを持たない無人の自動運転型輸送機に荷物を載せる「ポッド」をつけて運行する計画で、機体の開発・製造は米テキストロン傘下のベルヘリコプター社が担う。小型機と大型機を開発し、それぞれ7キロ、453キロの積載量を備えるという。2019年8月までに機体の試験デモを実施し、2020年代半ばまでに実用化する予定。
【参考】ヤマトの空の輸送については「ヤマト、空の自動運転機を10年以内に実用化 米ベルヘリコプター社が開発担う」も参照。ロボネコヤマトについては「ロボネコヤマトが神奈川県藤沢市内を走る 自動運転車両を使った配送実験」も参照。
■倉庫内で進む自動運転の実用化 AIと組み合わせ多用途に
自動運転技術に関しては、倉庫内作業向けの実用化が進んでおり、多機能化が図られるとともにAI・ビッグデータと組み合わせた効率的かつ自発的な動作を行うモデルが今後増加するものと思われる。私有地内で無人化なども図りやすい倉庫は、自動運転技術の導入に最適な場所の一つといえる。
物流面では、ラストワンマイルにおける自動運転実用化を進める動きが主流で、隊列走行の実証なども着々と進められている。ただ、日常的なトラックの運行に対してはADAS搭載による自動運転レベル2の実現がまず先で、オプティマインドが取り組むような配送計画の効率化など、自動運転以外の業務改善策も鋭意進める必要がありそうだ。
何はともあれ、2020年代初頭には隊列走行やラストワンマイルにおける自動運転の実用化が始まる見込み。各社の開発競争はますます熱を帯びそうだ。
【参考】ラストワンマイルについては「ラストワンマイルとは? 課題解決に向け自動運転技術など活用」も参照。