自動運転、「人を運ぶ」以外の活用形まとめ アイデア次第で用途は様々!

ビジネスチャンスは「応用」にあり

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出典:(左から)Suning Holdings Groupプレスリリース/SEQSENSEプレスリリース/Mobymart公式サイト

自家用車向けの自動運転レベル3(条件付き運転自動化)や無人で走行可能な自動運転タクシー・バスの開発など、自動運転技術の社会実装に向けた取り組みが加速度を増している。人の移動に変革をもたらす技術の発展が著しく進んでいる。

一方、配送ロボットのように人を運ぶ用途以外でも開発競争は過熱しており、既存の開発分野をはじめ、今後どのような分野に自動運転技術が応用可能か、アイデアが問われる局面を迎えつつある。

今回は、人を運ぶ用途以外の既存開発分野を中心に、今後どのような可能性が見出せるのかといった観点を交え、自動運転技術が有するポテンシャルに触れていこう。

■物流を担う自動運転

人の移動とともに自動運転技術が活用されるケースとして最も期待を寄せられているのがモノの移動だ。物流の各場面で自動運転技術を活用することで、ドライバー不足の解消や人件費の圧縮などが可能になる。

自動運転トラック

モノの長距離移動では、自動運転トラックの活用が見込まれる。現在、高速道路における有人・無人の隊列走行の実証実験が盛んに行われており、後続車有人隊列走行を2021年までに、後続車無人隊列走行を2022年以降実現する計画が進められている。

また、自動運転レベル4のトラックの開発も進められており、国内ではスウェーデンのボルボグループのUDトラックスや独ダイムラーの連結子会社である三菱ふそうなどが開発を進めている。

海外では、米グーグル系ウェイモやTuSimpleなど、米国で実証が盛んに行われている。

【参考】トラックの隊列走行については「後続車が自動運転化へ!トラック隊列走行、3つの技術段階」も参照。自動運転トラックの開発については「自動運転トラックの開発企業やメリットまとめ」も参照。

宅配ロボット

物流において、ラストワンマイルを担う宅配ロボットの需要も高い。道路上を走行する中~大型タイプから、歩道や敷地内を走行する小型タイプまでさまざまなモデルの開発が進められている。

海外では米スターシップ・テクノロジーズなどが実用化域に達しており、新型コロナウイルス対策によるコンタクトレス配送で注目を浴びている。

国内でも配送ロボットの公道実証に向けた環境整備が鋭意進められている。2020年中にも可能になる見込みで、ZMPを筆頭に国内開発企業の勢いも格段に増しそうだ。

【参考】配送ロボットの公道実証については「首相が喝!自動運転配送ロボの公道実証「2020年、可能な限り早期に」」も参照。

搬送ロボット

工場内など特定用途で用いられる自律走行が可能な搬送ロボットは、すでに実用化が広がっている。多くは磁気テープなど地面に設置したガイドに基づいて走行するタイプだが、近年ではマッピング技術を生かし、LiDAR(ライダー)などの各種センサーを搭載して自律走行するタイプも続々と実用化が始まっている。

無人化された物流倉庫から自動運転トラックが各地の配送拠点にモノを運び、そこから宅配ロボットが小売店や住宅にモノを運ぶ――物流においては、このような将来像がいつの日か実現するのかもしれない。

【参考】搬送ロボットについては「パナソニック、物流向け自動運転搬送ロボットを発売」も参照。

■移動販売車

自動運転が実現すれば、車両を小売店舗に改装した移動可能な無人店舗が実用化される。現在、小売店舗を中心に電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするRFID技術を活用し、レジを無人化する取り組みが広がっているが、こうした無人精算を可能にする技術と自動運転技術が組み合わされば、無人の移動小売店舗が完成する。

こうした自動運転移動店舗は、米RobomartやスウェーデンのMobymartがすでに試験運用を行っているほか、トヨタMaaS専用次世代EV「e-Palette(イーパレット)」なども、こうした活用を可能にする。

また、無人の自動運転タクシーを配送や小売りに活用する動きも見られる。移動販売車のように曜日や時間帯にによって需要が見込めるエリアへ柔軟に出店したり、大きな集客が見込めるイベントに出店したりするほか、オンデマンド方式での販売形式も模索されている。

小売り以外でも、移動カラオケ店や会議室など、需要が見込めそうなサービスはビジネスとして社会実装される可能性もありそうだ。

【参考】無人コンビニについては「「無人コンビニ」の開発状況まとめ 自動運転技術で「移動式」も」も参照。

■農業用機械

スマート化が進む農業分野でも、自動運転技術を搭載した農業機械(農機)の開発が進められている。農機も搭載する技術水準によって自動運転レベル化が図られており、GPSなどを備えて直進走行など操作の一部を自動化した「搭乗状態での自動操舵」がレベル1、ほ場内やほ場周辺のオペレーターの常時監視(目視)のもと遠隔操作や自動化技術によって農機が動く「有人監視下での自動化・無人化」がレベル2、オペレーターがモニターなどで遠隔監視し、自律制御を行う「完全無人化」がレベル3となっている。

自動運転の仕組みのベース部分は乗用車などと同じだが、GPSユニットとほ場周辺に設置したRTK(Real Time Kinematic)基地局による補正情報のもと、自己位置を特定する技術が主流となっているようだ。

現在、トラクターやコンバインでレベル2相当の農機が実用化されているほか、田植機も近々レベル2が実用化される見込みだ。

【参考】自動運転農機の開発については「無人トラクター・コンバインの開発企業まとめ 農業向け、自動運転技術など活用」も参照。

■建設機械

農機同様自動運転化が進むのが建設機械(建機・重機)だ。種類が豊富で作業も複雑なため、タブレット端末などを活用した遠隔操作が主流となっているが、ブルドーザーなどで実用化が始まっているほか、油圧ショベルやクローラダンプなどでも実用実証段階に達しているようだ。

また、鉱山など特定領域におけるダンプトラックの自動運転化も早くから進んでおり、現在は領域外を含めた自動運転技術の実証も行われている段階だ。

建機や現場によっては、オペレーターによる緻密な作業を要する場面も多いが、自動運転技術の導入によって省力化や安全性を向上することができるため、ロボティクス技術を含め様々な観点からイノベーションが推し進められているようだ。

【参考】建機の自動運転化の取り組みについては「いま自動運転ダンプが熱い!大成建設が実用化に目途、業界で開発競争」も参照。

■除雪車

北海道や東北、北陸など降雪量が多い地域では、道路上に降り積もった雪を避ける除雪車が冬の風物詩となっている。昼夜を問わず広範囲に降り積もる雪の除雪作業は作業員への負担が重く、オペレーター不足なども懸念されている。

こうした現状を踏まえ国も本腰を入れており、除雪車の自動運転化を図る取り組みが各地で進められている。高精度3Dマップと準天頂衛星からのリアルタイム高精度測位情報を組み合わせることでセンチメートル級の位置推定技術を確立し、正確な除雪を可能にするのだ。

将来的には、道路脇などに押し寄せられた雪を排雪場に運搬するダンプトラックをはじめ、自動運転除雪ロータリーと協調したダンプトラック、凍結個所を特定し、必要な量の凍結防止剤を自動散布する作業車など、さまざまな面で自動運転技術ン導入に期待が寄せられるところだ。

【参考】除雪車の自動運転化については「雪道にも自動化の波!国も推進する「自動運転×除雪」」も参照。

■警備ロボット

無人で巡回することが可能な自動運転警備ロボットの実用化も盛んだ。各種センサーで人や障害物などを検知しながら走行するほか、AIで不審者を特定する技術や非常通報装置、温度センサーや煙センサーなど、さまざまな異常に対応可能な機能が搭載されている。

不審者発見時、音や光などで威嚇する装置を備えたモデルのほか、中国では電気棒やテーザー銃(電極を飛ばすスタンガン)を搭載したモデルもあるそうだ。

現在は商業ビルや空港、複合施設内などでの活用がメインとなっているが、まちの見回りロボットとしての導入が実現すると犯罪抑止効果が一気に高まりそうだ。小学校や幼稚園、町内会などによる導入を見据えたモデルの開発にも期待が持たれる。

防犯の観点では、無人パトカーの実用化を見据えた取り組みもオランダやドバイなどで始まっている。見回りのほか、柔軟に走行可能な移動オービスのように各種交通違反を取り締まることも技術的には可能になりそうだ。

■清掃ロボット

警備ロボット同様に実用化が進められているのが清掃ロボットだ。各種センサーやマッピング技術のもと、自動で施設内をめぐり床面洗浄などを行う仕組みだ。

発展系として、落ちているごみを拾い集めながら歩道を走行するロボットや、道路脇の落ち葉などを一掃する自動運転作業車なども将来開発が進むと注目を集めそうだ。

■災害対策ロボット

毎年大規模な災害が発生している災害大国の日本では、地震や台風などの爪痕が各地に刻まれている。第一波が収まった後、被災状況の確認をいち早く進めなければならないが、二次災害の恐れもあり、有人では困難な場面も多くあるのが実情だ。

こうした現場にロボット技術を活用する取り組みは早くから進められており、広範な被災状況の確認や被災者の検知など、さまざまな場面への応用・実用化に大きな期待が寄せられている。

無人のドローン技術も含め、被災地へ物資を運ぶことも可能だ。自動運転建機や配送ロボットなどが必要とされる場面もある。応用範囲が広く、かつ社会に求められる技術として、この分野での研究開発のいっそうの進展に期待したいところだ。

■スポーツ分野での活用

日産は2018年、ウクラナで開催されたサッカーのUEFAチャンピオンズリーグ決勝戦で、自動運転支援技術「プロパイロット」を活用して自動的にフィールドの白線を引く自立型ロボット「ピッチアール」を披露した。

一方、トヨタは2019年、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、槍やハンマーなどの投てき物を回収・運搬する自律走行ロボット「FSR(Field Support Robot)」の導入を発表している。

スポーツ分野ではこのほか、従来トンボでならしていたグラウンドの整備に自動運転技術を導入したり、ゴルフの打ちっぱなしの球拾いを行ったりするなど、考えればキリがないほど活用の道がある。

費用対効果に疑問を持たれそうだが、日産やトヨタのように、多くの観衆が注目する場で技術をPRするにはうってつけかもしれない。

【参考】トヨタのロボット開発については「「トヨタ×オリンピック」!登場する自動運転技術や低速EV、ロボットまとめ」も参照。

■植栽も動く時代に?

電通国際情報サービスのオープンイノベーションラボは2020年2月、植栽展示会「CONNECT」で自律移動ロボットを用いた「動く植栽」の実証実験を実施した。本来動かないものが自律的に動くことでどのような価値が生まれるのか――といった内容の取り組みだ。

こうした発想にならえば、例えば公園のベンチが自動で移動することも考えられる。より日当たりの良い場所へ自動で移動したり、雨の日は屋根の下へ移動したりするのだ。オープンカフェなどの屋外に設置されたテーブルや椅子などにも活用できるかもしれない。細かいところでは、小売店などが営業中に表に出すスタンド看板に自律走行させることも可能だろう。

【参考】電通国際情報サービスの取り組みについては「え、こんなものにも自動運転技術?イノラボの「動く植栽」に注目」も参照。

■【まとめ】既成概念に捉われない発想が将来のビジネスに

多くは実用化を見据えすでに開発が進められている分野だ。今後は、「動く植栽」のように既成概念に捉われない柔軟な発想でさまざまなモノに自動運転技術を導入する取り組みが、将来の大ヒットにつながるのかもしれない。

自動運転技術を導入したら面白そうなアイデアコンテストを開催すれば、将来のビジネスの種がポツポツと顔を出すのではないだろうか。異業種参入の道は、こういった観点からも生まれるのだ。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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