首相が喝!自動運転配送ロボの公道実証「2020年、可能な限り早期に」

自動運転車の基準緩和認定制度を活用か



出典:首相官邸

自動運転技術を搭載した自動配送ロボットの社会実装が大きく前進しそうだ。2020年5月14日に開催された未来投資会議で、新型コロナウイルス感染症拡大への対応とともに低速・小型の自動配送ロボットが議題に上がり、安倍晋三首相から早期実現を促す発言が飛び出した。

いわゆる国のトップによるゴーサインにより、実用化に向けた取り組みが大きく加速することが予想される。今回は、未来投資会議とともに、検討を進める「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」の議論内容に触れ、今後の進め方について触れていこう。


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■未来投資会議を踏まえた首相発言

総理大臣官邸で開催された第38回未来投資会議の議論を踏まえ、安倍総理は新型コロナウイルス対策として「新たな日常をつくり上げる観点から、感染拡大防止を大前提に宿泊、移動、食、イベントといった業界についても新たなビジネス方法の実行に向けた支援を進めていく」とした。

続けて自動配送ロボットに関して「宅配需要の急増に対し、人手を介さない配送ニーズが高まる中、低速・小型の自動配送ロボットについて、遠隔監視・操作の公道走行実証を年内、可能な限り早期に実行する」と述べ、具体的検討を進めるよう関係各大臣に指示を出した。

遠隔監視・操作による自動配送ロボットの公道走行実証を年内、つまり2020年内に実行に移すとした。人を運ぶ自動運転車に比べ遅れがちだった自動配送ロボットの実証を可能な限り加速していく構えのようだ。

■未来投資会議における議論のポイント

未来投資会議では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い非接触型の宅配ニーズが増加し、海外では無人の自動配送ロボットが使用されていることなどから、日本でもできるだけ早期に公道走行実証を実現する必要があるとの方向性が示された。


赤羽国交相「実用化に向けた取り組みを支援」

赤羽一嘉国土交通大臣は「国土交通省として、公道実証における自動配送ロボットの安全性の確保のあり方に関する検討に積極的に協力するなど、実用化に向けた取り組みを支援していく」と前向きな姿勢を見せた。また、タクシーによる有償配送の特例にも言及し「短期間のうちに1000社以上のタクシー会社がニュービジネスとして取り組まれている」ことも紹介した。

武田国家公安委員長「関係機関などと積極的に連携し検討」

武田良太国家公安委員会委員長は「自動配送ロボットの実用化は、安全な走行の確保と車道や歩道を走行することについての国民の理解が必要と考える。警察としては、公道実証を通じて安全性の向上と国民の理解が進むよう、関係機関などと積極的に連携し検討を進めたい」とした。

梶山経産相「早期に実現を図る」

梶山弘志経済産業大臣も「人手を介さない配送ニーズへの対応のため、自動配送ロボットの公動走行実証について関係省庁と連携し、早期に実現を図る」と同調した。

DeNAの南場智子会長「聖域なく素早く規制緩和を行うべき」

会議ではこのほか、テレワークなど新しい働き方の進展や、デジタル・トランスフォーメーションの加速を期待する意見が出された。

ディー・エヌ・エー(DeNA)の南場智子会長は「必ず伸びる分野であるデジタル化・オンライン化による非接触型ビジネス、コンテンツ配信、遠隔教育など、アフターコロナを見据えた分野に対して技術革新、投資、アイデアを総動員して投入していくことも重要。政府の側でも遠隔サービスや自動配送など、必要な分野について聖域なく素早く規制緩和を行うべき」との考え方を示した。

■「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」の構成員

未来投資会議を受け、2020年5月28日に「第2回自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」が開催された。まず協議会の構成員は次の通りだ。

▼事業者
セイノーホールディングス
日本郵便
ヤマト運輸
楽天
三菱商事
三菱地所
森ビル
ZMP
ソフトバンク
Hakobot
パナソニック
本田技研工業
TIS
ロボコム

▼有識者
石田東生氏(筑波大学名誉教授・特命教授)
梅嶋真樹氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授)
佐藤知正氏(東京大学名誉教授)
比留川博久氏(国立研究開発法人産業技術総合研究所情報・人間工学領域領域長補佐)
和佐田健二氏(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構ロボットAI部プロジェクトマネージャー)

▼自治体
岩手県
つくば市
千葉市
東京都
横須賀市
福岡市

▼省庁
内閣官房
警察庁交通局交通企画課
経済産業省
国土交通省

■官民協議会での意見のポイント

協議会では、①自動走行ロボットを活用した新たな配送サービスの実現に向けて②宅配用自動走行ロボット(近接監視・操縦型)公道実証実験手順について③自動走行ロボットの基準緩和認定制度について④自治体からの発表⑤低速・小型の自動配送ロボットについて⑥今年度の官民協議会の進め方などについて――を議題に意見が交わされた。

①自動走行ロボットを活用した新たな配送サービスの実現に向けて

ECの発達などを背景に、宅配要望の増大などの影響を受け物流現場における人手不足が深刻化し、特にラストワンマイル配送に多くの人手がかかっている点や、新型コロナウイルスの影響による非対面・非接触の配送ニーズの増加などを受け、自動走行ロボットによる配送の実現に向けた取り組みを加速していく方針について説明がなされた。

また、経産省が2019年度にWGを4~5回開催し、検討結果として課題認識の共有、ビジョン及び自動走行ロボットの位置づけ、ユースケース、自動走行ロボットの実現により想定されるベネフィットについてまとめたことが報告された。

自動走行ロボットの位置付けでは、人が乗らないこと、歩道・車道・路側帯・歩道と車道の区別のない道路・私有地を走行すること、歩行者や他のモビリティと共存し、安全な速度と方法で活用されることとしている。

ユースケースでは、走行場所とサービス(提供価値)の組み合わせで分類することとし、走行場所は「歩道などを走行」「原則として歩道などを走行するが、必要に応じて車道を走行」「原則として車道を走行するが、必要に応じて歩道などを走行」の3パターンを想定した。サービスは、ラストワンマイルにおけるオンデマンド配送と、買い物難民などを対象とした配送サービスに類型した。

想定されるベネフィットでは、消費者利益として遠隔・非対面・非接触での配送ニーズへの対応、オンデマンド配送ニーズへの対応、生活必需品の調達ニーズへの対応を挙げている。社会においては、ラストワンマイルにおける人手不足の解消や不要な接触機会の削減による感染症の予防、再配達の削減、配送と同時巡回による防犯や高齢者らの見守りなどを挙げた。

②宅配用自動走行ロボット(近接監視・操縦型)公道実証実験手順について

2020年4月に「宅配用自動走行ロボット(近接監視・操縦型)公道実証実施手順」を示している。手続きは、2019年に警察庁が策定した宅配用自動走行ロボット(近接監視・操縦型)公道実証実施手順に基づいて実験計画案を作成し、関係都道府県警察と調整の上、所轄警察署へ道路使用許可を申請する。

実証実験では、実験車両に随行するなどした警察官らによる公道審査を経ることが条件に付されている。また、実証実験においては、アンケート調査など地域の評価を検証することとした。

近接監視・操縦型の宅配用自動走行ロボットの公道実証はまだ行われておらず、スムーズな実験実施に向け、警察庁として必要な連絡調整を行うため事前相談を促した。

③自動走行ロボットの基準緩和認定制度について

自動運転車の公道走行にあたっては、国土交通省が2017年2月に「自動運転車の実証実験に係る基準緩和認定制度」を創設し、2020年4月には手動運転時に通常のハンドルなどと異なる装置で操作する特別装置自動車なども対象とするなど、適用範囲を拡大している。

自動走行ロボットに関しては、現時点で基準緩和の認定を行った実績はないものの、自動運転の実証事例を参考に安全確保措置を講じながら基準緩和認定し、公道実験を促進させていく方針とした。

基準緩和認定の手続きは、申請者が公道走行の概要説明書、車両外観図、自動運転システムの概要説明書、保安基準適合検討書、安全確保措置の内容、遵守事項の誓約書等の書類を用意し、地方運輸局へ申請する。地方運輸局は、自動車の構造や使用の態様の特殊性により保安基準の適用を除外するものとして指定すべき保安基準の条項や、自動車の運行が道路交通などに与える支障の有無などに基づいて審査し、基準緩和認定を行うこととしている。

④自治体からの発表

千葉市、つくば市、横須賀市がそれぞれの取り組みを発表した。

千葉市は、幕張新都心の回遊性向上を目的に、自動運転モビリティサービスの導入に向けた実証実験を行うとともに、ステークホルダーとの調整や実証フィールドの確保といった実証に係る相談支援や、経費の一部を補助する財政的支援、国家戦略特区を活用した規制改革などを行っている。

実証実験の例として、これまでに、WHILLによるパーソナルモビリティの試乗体験ツアーや、NTTドコモらによる次世代パーソナルモビリティ「ILY-Ai」の実証実験、ZMPによる次世代モビリティ「RakuRo」の自動運転体験イベントなどを挙げた。

つくば市は、誰もが移動制約なしに不自由なく出かけられる社会を目指し、移動支援などを行うさまざまな実証や法制度の整理に取り組んできており、2019年から産業技術総合研究所らが開発したセニアカーET4DやMarcusなどを用いた公道実証を行っている。

また、研究学園都市として2007年から取り組んでいる自律走行ロボットの技術公開チャレンジも紹介した。

【参考】つくば市の取り組みについては「茨城県つくば市、全国初の電動車いすの自動運転公道実証」も参照。

横須賀市は、YRP(横須賀リサーチパーク)における最先端の情報通信技術や自動車製造、造船といった工業力など産業的な強さと、第5世代移動通信システム5GやCASEMaaSなどの技術トレンドを掛け合わせ、社会課題の解決や新規ビジネスの創出などを図る「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ」の取り組みを紹介した。

これまでに、楽天が市内の公園などを活用し、自動運転ロボットによる配送サービスなどを実施している。

【参考】横須賀市の取り組みについては「楽天の自動運転・MaaS・配送事業まとめ ライドシェア企業へ出資も」も参照。

⑤低速・小型の自動配送ロボットについて

未来投資会議が「遠隔監視・操作」型の公道実証を早期に行い、公道走行すべきという問題を提起したことと、安倍首相からも可能な限り早期実行できるよう、具体的に検討を進める旨指示が出たことを受け、2019年度のユースケースのさらなる具体化に向け、取り組みを進めやすいよう具体的なイメージや提案を各事業者に要請した。

⑥今年度の官民協議会の進め方などについて

今後の進め方として、低速・小型に対し集中して議論を進めていくことになるが、官民協議会の枠組みでは低速・小型の話に限ったことではなく、さまざまなロボットが提案されている一方、公道走行に限らず私有地に入ったサービスや私有地内で走行するロボットサービスも想定される。

このため、2020年度は事業者からの提案を受け、課題整理や実証計画の議論を進めていく方針とした。また、ユースケースが重要で、ビジネスに昇華するための具体的な議論を進めていく必要があり、キーとなる社会受容性を高めていくことが重要になっているとし、その中で社会的インパクトやロードマップを官民協議会として整理していくこととした。

■官民協議会における質疑応答のポイント

質疑応答では、「単に実証実験を行うのではなく実装に向けたプロセスへの開発が重要」「環境とロボットと人の3つの要素を考えると良い」「プレイヤーがまだ揃っていないため、参入を促して新しい技術開発を進めることで、一気に裾野を広げることと技術の積み上げの両方ができると思う」など、さまざまな意見が飛び交った。

中には、「搭乗型の話がいくつかあったが、搭乗型を運用しようとすると、シェアリングの際に空で搬送することが必要になるが、今回のような人の乗らないタイプの自動運転が認められれば、シェアリングの際のシェア搬送ができる」といったアイデアも出されたようだ。

また、新型コロナウイルスを契機とする意見も多く出され、「技術普及の大きな機会となる。ゆっくりやらずに一気に普及できるように進められれば」「非常な逆境であるが、別の見方をすれば一つのチャンス」「人が近づけない場所にもロボットは近づくことができ、新たな価値が加わっている」など、課題解決に向け前向きに開発を進めるべきとする主張が多数を占めたようだ。

■【まとめ】自動運転車の実証ルールの応用が有力 早期実現に向け官民一丸に

2020年内の公道実証に結び付けるための近道は、自動運転車の公道走行に関わる各種制度を応用することだ。歩道などの区分における走行の取り扱いをどのように規定するかが一つのポイントで、ロボットと歩行者との共生をどのように育んでいくかが問われそうだ。

いずれにしろ、2020年中に大きく事態が動いていくことに間違いはない。ZMPをはじめとする国内開発プレイヤーをはじめ、新たなプレイヤーの出現にも期待したい。

【参考】関連記事としては「自動運転関連、国の公募案件と受託企業まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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