物流イノベーションに向け、国が本腰を入れ始めた。道路空間と自動運転技術を活用した「自動物流道路(オートフロー・ロード)」の10年後の実現を目指し、具体化に向けた検討に本格着手したのだ。
既存道路空間の地上や地下に物流専用道を設置し、自動運転技術による無人輸送ネットワークを構築する壮大な計画だ。
夢物語のようなプロジェクトだが、すでに実験に向けた取り組みが進められている。工期や工費に関わるアンケート調査なども実施され、地下部に自動物流道路を構築すると想定した際、概算工費は1キロ当たり7~80億円が見込まれるようだ。
自動物流道路はどのような構想なのか、その全貌に迫る。
▼自動物流道路に関する検討会
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/buturyu_douro/index.html
▼第5回 自動物流道路に関する検討会 配付資料
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/buturyu_douro/doc05.html
▼中間とりまとめ(案) 参考資料
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/buturyu_douro/pdf05/06.pdf
■自動物流道路の概要
物流課題解決に向け道路ネットワークをフル活用
国土交通省所管の「自動物流道路に関する検討会」はこのほど、道路空間をフル活用した自動物流道路構築に向けた中間とりまとめ案を発表した。これまでの議論の流れについては後述する。
とりまとめ案では、「2050年、世界一、賢く・安全で・持続可能な基盤ネットワークシステム(WISENET)」実現に向け政策展開し、新時代の課題解決と価値創造を図っていくとしている。
WISENETは、国土交通省所管の国土幹線道路部会が2023年10月に発表した「高規格道路ネットワークのあり方 中間とりまとめ」で提言されたもので、「World-class Infrastructure with 3S(Smart, Safe, Sustainable) Empowered NETwork」の略となる。
サービスレベル達成型の道路行政に転換し、シームレスなサービスを追求するシームレスネットワークの構築と、国土を巡る道路ネットワークをフル活用し、課題解決と価値創造に貢献する技術創造による多機能空間への進化を図っていくものだ。
大都市内では地下、都市間は地上(高速道路)に専用道を建設?
このWISENETの中に「自動物流道路(Autoflow Road)」も位置付けられている。道路空間を活用した人手によらない新たな物流システムを構築し、道路を多様な価値を支える多機能空間へと進化させる構想だ。
その活用策はまだ確定していないが、地下トンネルに自動運転カートを走行させるスイスの物流プロジェクト「CST(Cargo Sous Terrain)」や、英国で開発が進められているリニアモーターを使用した完全自動運転による物流システム「Magway(マグウェイ)システム」などを参考に、新たな技術によるクリーンな物流システムの実現に向けた検討を進める方針という。
案としては、高速道路をはじめとした自動車専用道路の中央分離帯スペースや路肩スペースを活用して専用走行路を敷設し、自動運転可能な車両(デュアルモードトラック)を走行させる案や、高速道路地下に物流専用のトンネル道を掘削する案などが出ているようだ。
イメージとしては、都市間は地上、大都市内では地下空間を利用し、それぞれのルートを大都市郊外で接続することを想定しているようだ。
デュアルモードトラックは、専用走行路内においては集電しながら自動運転し、一般道ではバッテリーによって手動運転するタイプで、同一の車両で柔軟な輸送を可能にするものを想定している。
日本各地を骨格的に結ぶ高速道路に合わせた効率的なルートを専用走行できれば、効率的なミドルマイル輸送を実現できる。そして、自動運転技術によって無人化を果たすことができれば、ドライバー不足に苛まれることなく24時間輸送し続けることが可能になる。
こうした案が実現すれば、物流イノベーションと呼ぶにふさわしい大変革が訪れることになるだろう。
地下トンネル道は1キロ当たり7~80億円
とりまとめ案には、地上部、または地下部に自動物流道路を構築すると想定した際の現状における施工技術や工費などもまとめられている。
高速道路の中央分離帯などを利用してデュアルモードトラックを走行させる新物流システムの場合、施工スピードは一月当たり約3キロで、概算工費は10キロ当たり254億円と算定している。
例えば、東京―大阪間約500キロに専用道を設ける場合、単純計算で14年弱、工費1兆2,700億円かかることとなる。工期は同時進行が可能なため短縮できそうだ。
一方、地下トンネル道は、高速道路の地下40メートル程度の深さに内径6メートル程度の小口径のトンネルを掘り、最低限の覆工と床版を設置するケースで各建設会社などにアンケートをとったところ、施工期間は10キロ当たり2.3年~4.8年、掘削スピードは一月当たり300~600メートルという。
掘削可能延長は5~10キロ程度で、概算工費は10キロ当たり70億~800億円、つまり1キロ当たり7〜80億円と幅があるようだ。仮に100キロの地下専用道を設ける場合、工期は23~48年、工費は700~8,000億円となる計算だ。こちらも工期は短縮可能と思われるが、地上に比べればどうしても時間はかかりそうだ。
パレットやコンテナの規格統一化が必須
こうしたシステムを効果的に稼働させるためには、パレットやコンテナの規格統一化も必須となる。自動物流道路で輸送する荷物の規格のイメージとしては、自動物流道路で輸送する荷物はパレタイズされた荷物を積載可能な仕様とし、拠点での他モードからの積み替えを自動化できるよう作業に必要な要件を定めるとしている。
荷物の要件(案)では、官民物流標準化懇談会パレット標準化推進分科会が取りまとめた標準的なパレットの規格を採用している。
自動荷役を可能とするため、土台となるベースのサイズを1,100mm×1,100mm×144~150mmとし、フォークリフト差し込み口の設置や荷物管理用のICタグを付与する。ベースを含む最大重量は1トンとする。
走行時以外の無人化・省力化も欠かせない
また、走行時以外、荷物の積み込みや荷卸しの無人化も欠かせない。可能な限り無人化を推し進め、最大限効率性・省力化を図っていく必要がある。
自動物流道路における物流拠点において想定される荷役としては、自動フォークリフトによるトラックからの荷卸しやカートへの積み込み、AGV(無人搬送ロボット)による運搬、荷卸し・荷積みロボットによるカートからの荷卸し、ソーターロボットによる運搬、自動積み込み装置によるトラックへの荷積みなどが想定されている。
新東名の建設中区間で社会実験、10年後に先行ルート実現
自動物流道路の構築に向けては、各種技術開発などが必要になる。このため、実験的なフィールドを設定し、 技術やオペレーションなどの検証を行っていく方針だ。
実験線については、将来的な完成形の路線の一部や物流拠点間を結ぶ路線など、実際の輸送を見据えて区間設定を行う。実験は各工程の自動化や物流標準化、ロジスティクスの最適化など物流の省人化・効率化や脱炭素化の最大限の実現を目指して行う。
技術やオペレーションの検証にあたっては、技術開発の進捗に応じて段階的に進めていくこととし、走行中給電やAI・IOTによるスマートロジスティクスなど新技術の積極的な活用を図ることとしている。
検証項目としては、インフラ面における走行フィールドの構築(必要面積、自動走行誘導、走行中給電)や荷物滞留機能、輸送カートの走行技術・制御や荷物の積込み・積卸し、振動などの荷物への影響、走行中給電、拠点(ハブ)における荷物の積込み・積卸し(技術・速度)、他モード接続、必要面積、システム面における物流・車両運行データマネジメントやスマートロジスティクスなどを挙げている。
社会実験は、新東名高速道路の建設中区間(新秦野~新御殿場)などを想定している。第一期区間は、先行ルートとして小規模な改良で実装可能な区間などにおいて10年後を目途に実現を目指す。物流量も考慮しながら、大都市近郊の特に渋滞が発生する区間を想定している。
その後の長距離幹線構想としては、物流量が特に大きい東京―大阪間を対象に据える計画としている。
■物流革新に向けた政府の動向
政策パッケージに基づく物流関連2法を改正
政府は2023年3月、課題が山積する物流の革新に向け「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を設置した。
物流の2024年問題に代表される物流危機やカーボンニュートラルへの対応を図るため、荷主、事業者、一般消費者が一体となって日本の物流を支える環境整備を進めることとしており、以下を軸に議論を進めている。
- ①荷主・物流事業者間等の商慣行の見直し
- ②物流の標準化やDX・GX等による効率化の推進
- ③荷主企業や消費者の行動変容を促す仕組みの導入
①では、荷主・物流事業者間における物流負荷の軽減に向けた規制的措置などの導入や、納品期限・物流コスト込み取引価格などの見直し、多重下請構造の是正に向けた規制的措置の導入、トラックGメンによる監視の強化、適正運賃収受・価格転嫁円滑化、標準的な運賃制度の拡充・徹底――などを図っていく。
②では、バース予約システムや自動化・機械化といった即効性のある設備投資の促進、モーダルシフトや脱炭素化などの物流GX推進、自動運転やドローン物流、自動配送ロボットなどによる物流DXの推進、パレットやコンテナの規格統一化などの物流標準化の推進、高速道路のトラック速度規制の引き上げ、利用しやすい高速道路料金の実現、ダブル連結トラックの導入促進、貨物集配中の車両に係る駐車規制の見直し、地域物流等における共同輸配送の促進――などを進めていく。
③では、荷主の経営者層の意識改革・行動変容を促す規制的措置の導入や、荷主・物流事業者の物流改善を評価・公表する仕組みの創設、消費者の意識改革・行動変容を促す取り組み、再配達削減に向けた取り組み――などを進めていくこととしている。
事業はすでに動き出しており、2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定したほか、10月には可能な施策の前倒しを図るため「物流革新緊急パッケージ」を取りまとめた。2024年2月には、中長期的な対策「2030年度に向けた政府の中長期計画」を策定・公表している。
2024年4月には、これら政策パッケージの中身を盛り込んだ物流関連2法の改正案が成立し、5月に公布されている。
【参考】物流向け自動運転道については「イーロン・マスク流で地下に?日本政府、「物流向け自動運転道」実現へ 夏にルート選定」も参照。
■自動物流道路の事業例
東京外環自動車道ではベルトコンベアで土砂搬出
東京外環自動車道では、トンネル工事の土砂を搬出するため高速道路の路肩・中央帯空間を活用してベルトコンベアが設置されている。ベルトコンベアは防護パネル内に設置されているため同所を走行しても気づかないが、大泉JCTから約6キロ離れた新河岸川水循環センター敷地内の仮置き場まで土砂を運搬しているという。
すでに高速道路の路肩・中央帯空間の活用は始まっているのだ。
スイスでは地下に500キロの貨物専用道路を構築するプロジェクトが始動
スイスでは、主要都市間を結ぶ総延長500キロに及ぶ地下物流システム「CST」の建設プロジェクトがすでに具体化している。地下に構築された貨物専用空間を、自動輸送カートが時速30キロで24時間体制で運行する一大プロジェクトだ。
要所に設けられたハブで地上・地下間の荷物のやり取りを行う。2025年までに明確な計画を策定し、2026年に第1期工事を開始する。先行区間はヘルキンゲンとチューリッヒを結ぶ約70キロの区間で、2031年に運用を開始する計画だ。
その後、2045年までにジュネーブからザンクトガレンに至る約500キロの区間を完成し、運用開始する。建設費用は約330億スイスフラン(約5兆円)と試算している。インフラ建設やシステム運営に公的資金を投入せず、民間資金で賄うという。
【参考】スイスの取り組みについては「建設費5兆円!自動運転専用の「スイス地下トンネル」計画、総延長は500キロ」も参照。
ロンドンでは無人リニアモーター専用線を敷設するプロジェクト
英国西ロンドン地区では、電磁気力を動力に物流輸送用に開発したリニアモーターを使用した完全自動運転による物流システム「Magway(マグウェイ)システム」の開発が進められている。既存の鉄道敷地内にMagway専用線を敷設し、既存交通に影響を与えずに走行することを可能にする。
大手物流事業者の物流施設から小売業者などの物流施設や店舗などへ直接輸送する。線路敷地から各社の物流施設へのルートは地下などにMagway専用線の敷設を想定しているという。
イーロン・マスク氏は移動用途で専用地下道建設
物流用途ではないが、米国ではイーロン・マスク氏率いるBoring Companyが地下道路プロジェクトを推し進めている。自動車が走行する専用道を地下に設けるのだ。
LVCC 新展示ホールと既存キャンパスを結ぶ「LVCC ループ システム」はすでに完成しており、歩行で45 分かかる移動を約 2 分に短縮しているという。
このLVCC ループとストリップ沿いのリゾート、ハリー リード国際空港、アレジアント スタジアム、ラスベガスのダウンタウンなどを結ぶ「ベガス ループ」も現在建設中という。
大林組や豊田中央研究所らも次世代道路構想「ダイバーストリート」を発表
大林組は2021年、トヨタグループの未来創生センターと豊田中央研究所と共同で、次世代道路構想「ダイバーストリート」を構築したと発表した。
ダイバーストリートは地下空間を有しており、物流システムの高度化や無電柱化、共同溝などの効率的なインフラ配置に貢献する。高い機能を有する路面機能によって、自動運転の路車間通信や走行中給電なども可能とし、次世代モビリティとの融合にも寄与できるという。
【参考】大林組などの取り組みについては「「トヨタの街」に、地上と地下が一体の次世代道路!?自動運転も想定」も参照。
■【まとめ】地下に活路を見出す?
すでに隙間なくインフラが整備され込み入った地上部を再開発するより、地下の方が自由度の高い開発を行える場合もある。際限なく掘り進められるわけではなく、費用対効果、所要時間なども考慮しなければならないが、地下に活路を見出すのはアリだろう。
都市間輸送で計画を進めている高速道路の有効活用については、建設中の新規区間はともかく既存道路で実際にどれだけのスペースを確保できるかがカギとなりそうだ。
現実的に実用化できるのか?――と疑問に思う人も少なくなさそうだが、国策としてすでに動き出しているのが事実で、実現可能性も一定程度調査済みのはずだ。
今後、どのように事業が具体化されていくのか必見だ。
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【参考】関連記事としては「自動運転とは?(2024年版)レベル別の開発状況・業界動向まとめ」も参照。