トヨタ、研究開発費が過去最高1.3兆円!使い道は「自動運転」「Woven City」?

エネルギー関連やSDVに注力?自動運転は平行線?



出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

2024年3月期決算で過去最高益をたたき出したトヨタ。型式認証問題で揺れ続け、2024年7月には認証業務に向けた是正命令が下されたが、2025年3月期第1四半期(2024年4~6月)決算でも営業収益は前年同期比12.2%増の11兆8,378億円、営業利益は同16.7%増の1兆3,084億円を計上するなど好調に推移している。

今期の研究開発費には過去最高の1.3兆円を計上しており、成長領域に6,000億円が充てられる予定だ。果たして、自動運転関連にはどのくらいが割り当てられ、どのような取り組みが行われるのか。


トヨタの研究開発費の使途を探ってみよう。

▼2025年3月期 第1四半期決算|トヨタ
https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2025_1q_presentation_jp.pdf

■トヨタの研究開発費

研究開発費は右肩上がり

トヨタの研究開発費は概ね右肩上がりで推移しており、10年前の2015年3月期に1兆45億円と1兆円を突破し、若干の増減を重ねながら2020年3月期に1兆1,000億円、2023年3月期に1兆2,416億円、そして2025年3月期に1兆3,000億円に達した。

また、設備投資は近年顕著に数字を伸ばしており、2022年3月期に1兆3,430億円、2023年3月期に1兆6,058億円、2024年3月期に2兆108億円、そして2025年3月期は2兆1,500億円となっている。


出典:トヨタ公開IR資料

マルチパスウェイ戦略を具現化

今期は、BEVや水素をはじめとしたマルチパスウェイ戦略の具現化、そしてトヨタらしいSDV(Software Defined Vehicle)の基盤づくりへの投資を加速させる方針で、 成長領域への投資としては設備投資1.1兆円、研究開発費6,000億円の計1兆7,000億円を充てる計画だ。

2024年3月期決算において佐藤恒治社長は「モビリティカンパニーへの変革というビジョンを具体に落とす取り組みに力を入れていく」とし、「変革のカギは、エネルギーとデータの可動性を高めていくこと。電気と水素が支える未来を見据え、クルマが媒体となってエネルギーを運び、再生可能エネルギーを軸とする社会づくりに貢献する。そして、データが生み出すモビリティの価値で暮らしをもっと豊かにしていくことを目指す」とトヨタの行く道を示した。

続けて「今期の重点取り組みテーマは、マルチパスウェイ・ソリューションの具体化と、多様な移動価値を実現するトヨタらしいソフトウェア・ディファインド・ビークルの基盤づくり。この1年、ミッシングピースとなっていたバッテリーEVの具現化を進めてきた。水素については、各地域で事業化の基盤づくりを加速してきた。商用領域での水素モビリティの開発・実装に加え、電車や船舶、発電機など多様なアプリケーションに対する FC システムの提供、また、水素を『つくる』『ためる』の領域の取り組みも進めていく。電気と水素がエネルギーの中心となる未来においても、e-fuel など液体燃料の活用を視野に次世代エンジンの開発も積極的に進めていく」とした。

SDV関連では「この1年は車載OS『アリーン』の開発とソフトウェア基盤整備に注力してきた。これから、生成AIなどの活用により自動運転も含めモビリティの進化を実現していきたい。今後、AI関連の投資も拡充していく。SDVの基盤づくりをさらに進めていくため、インフラや生活に寄り添ったアプリケーションやサービスなど、自動車産業を越えた戦略的パートナーシップの構築に取り組んでいく」とした。


バッテリー関連の取り組みが大きく加速中

電動化関連では、2021年に開催したバッテリーEV戦略に関する説明会において、2030年までに30車種のBEVを展開し、グローバルに乗用・商用各セグメントにおいてフルラインでBEVを揃える計画を明かしている。

トヨタブランドは2021年当時、170超の国と地域で約100車種のエンジン車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池自動車を投入している。レクサスブランドも90以上の国と地域で約30車種を投入している。

トヨタが強みを持つハイブリッド技術などに加え、今後はBEVも一つの軸となり、マルチパスウェイ戦略をより強化していくことになる。

トヨタは2023年7月、中国トヨタ最大のR&D拠点・トヨタ知能電動車研究開発センターにエンジニアを集中し、電動車全般の現地開発を強化するとともに、中国の実情にあった自動運転・先進安全機能の現地設計・開発を加速すると発表した。

同年10月には、北米統括会社のToyota Motor North Americaが北米の電池工場Toyota Battery Manufacturing, North Carolinaに約80億ドルを追加投資することも発表している。BEV用電池の生産能力を増強していく目的だ。

また、同月には、出光興産とBEV用の有力な次世代電池である全固体電池の量産化に向け、固体電解質の量産技術開発や生産性向上、サプライチェーン構築に両社で取り組むことに合意したと発表している。

2024年3月には、プライムアースEVエナジーを完全子会社化し、社名をトヨタバッテリーへ変更することを発表した。マルチパスウェイ戦略にバッテリー事業で貢献すべく車載用電池の量産体制を強化していく構えだ。

電動化関連は、この1年で大きく動き出していることがよくわかる。この動きは2024年度も継続されていくのだろう。

2025年実用化予定のAreneがSDVの軸に

トヨタのSDVを支えるコア技術が、ソフトウェアプラットフォーム「Arene(アリーン)」だ。車載OSとして2025年の実用化、そして2026年に次世代BEVへの搭載を目指している。

アリーンがサプライヤー共通の開発プラットフォームとなることで、効率的かつ横断的な開発や統合を進めることが可能になる。

トヨタ生産方式の原則を自動車のソフトウェア開発にも適用し、品質や信頼性、性能を向上させる取り組みが本格化し、自動車の知能化も大きく加速していくことが期待される。

大詰めの段階を迎えているだろうアリーンの開発。このアリーンの実用化により、クルマ作りや自動車そのものがどのように変わっていくか、要注目だ。

SDV(ソフトウェア定義型自動車)の意味は?自動運転化の「最低条件」

■トヨタの自動運転開発

近年は自動運転開発に消極的?

目下の開発軸はバッテリーや水素といったエネルギー面とSDVに置かれているものと思われるが、自動運転開発も気になるところだ。

近年、トヨタは自動運転関連の取り組みに関する公式発表が乏しい。サービス専用モビリティ「e-Palette」の継続実証なども特にアナウンスされていない。

ホンダ日産は自動運転サービスの具体的な計画を相次いで発表している。ホンダは2026年に東京都内で自動運転タクシー、日産は2027年度に地方を含む3~4市町村で自動運転モビリティの提供を開始する計画だ。

トヨタは自動運転に関してもBEV同様急がず慌てず――の姿勢を貫くのだろうか。今は時期尚早と捉え、水面下で地道に研究開発を続けているのだろうか。

2024年1~2月に愛知県内の愛・地球博記念公園でe-Paletteの運行が行われたようだが、トヨタからの発表は特にない。

また、2024年7月に東京都内でトヨタが関係する自動運転実証が行われるとの報道があったが、8月現在公式アナウンスはなく、実証関連で名前が挙がったMONET TechnologiesやMay Mobilityによる発表もない。

【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略(2024年最新版)」も参照。

【参考】国内自動車メーカー各社の取り組みについては「トヨタ、自動運転タクシーの参入見送りか 日産は2027年、ホンダは2026年に展開へ」も参照。

まもなく稼働するWoven Cityが転機に?

トヨタはこのまま沈黙を貫くのか?――と言いたいところだが、Woven Cityの存在を忘れてはいけない。Woven Cityは2024年に第一期工事を完了し、2025年に一部の実証を開始する予定となっている。こちらも大詰めの段階を迎えており、実証パートナーの募集が徐々に熱を帯び始めている。

Woven Cityは未来のモビリティを試す街の形をしたトヨタの新しいテストコースとされており、モビリティカンパニーへの変革を目指す豊田章男会長肝いりの事業だ。

単なる乗り物としての「移動(Move)」に留まらず、ヒト・モノ・情報・エネルギーのモビリティを通じて「心までも動かす(Move)」ことをビジョンに据えており、その全貌はおそらくトヨタ自身もまだ描けていないものと思われる。

ただ、同所で自動運転の実証が行われることは間違いない。e-Paletteをはじめとした自動運転モビリティが住人の移動を担い、そして移動コンビニなどさまざまなアイデアを具現化していく場になるのだ。

どのタイミングで具体的な実証や事業を公表していくのか気になるところだが、第一期工事が完了する前後でパートナーや住民の本格募集が始まるものと思われる。

自動運転技術を活用したサービスパートナーはもちろん、自動運転開発を手掛ける企業の参加も可能かなど、注目点は多い。今後の動向に引き続き注目したい。

【参考】Woven Cityの動向については「トヨタWoven City、一般からアイデアの募集開始!来年、実証スタートへ」も参照。

自家用車はレベル2+を拡大、レベル3は?

自家用車における自動運転技術やADASの進化にも注目したいところだ。トヨタは今のところ自動運転レベル3以上の搭載について一切の発表を行っていない。レクサスも同様だ。新型クラウンなどフラッグシップの登場時に毎回注目されるが、見送りが続いている。

まずはハンズオフ運転が可能な自動運転レベル2+相当の普及を重視している可能性もある。運転する楽しさと安全性、快適性を併せ持つマイカーの普及だ。

トヨタのハンズオフ機能は、MIRAI(Toyota Teammate)とレクサス「LS」(Lexus Teammate)に搭載された「Advanced Drive(アドバンストドライブ)」を筆頭に、ノア・ヴォクシーに搭載された「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」がある。後者は自動車専用道路において時速40キロまでの渋滞時に作動できる。

アドバンストドライブ(渋滞時支援)はアルファード・ヴェルファイア、クラウン、ランドクルーザー250、センチュリーにも搭載されており、対象モデルは拡大傾向にある。

オーナーカーからデータ取得、自動運転開発に利用

トヨタは、Toyota Teammate、Lexus Teammate、Toyota Safety Sense、Lexus Safety System +を搭載している一部車種を対象に、特定条件を満たした場合に限り動画形式で車外画像データを取得している。

一定の衝突や衝突に近い状態などが発生した場合や、渋滞や悪天候など特定の交通環境にある道路を走行している場合などで、取得したデータは自動運転や先進安全、地図関連技術に向けた研究開発や、車外画像データを利用した商品・サービスの提供、交通状況の配信、自動運転や先進安全システム用の地図の提供などに利用されている。

つまり、自動運転開発は当然ながら進められているのだ。e-Paletteをはじめ、自家用車におけるレベル3実現の可能性も十分残されている。

沈黙が続くトヨタだが、Woven CityやSDV(アリーン)などの動きに合わせ、そろそろ明確な自動運転戦略を公表してもおかしくない時期に差し掛かっているのではないだろうか。

莫大な研究開発費のうち、自動運転が占める割合は今後増加の一途をたどるはずだ。2024年度中に自動運転戦略の発表はあるのか。要注目だ。

■【まとめ】どのようなロードマップのもと自動運転を実現していくのか

BEVや水素、SDV関連に投資を集中させるフェーズを迎えていることもあり、自動運転に関する取り組みが目立たないだけかもしれないが、そろそろ明確な動きを見せてほしいところだ。

どこでも通用するレベル4を開発するためには、Woven City以外の一般公道での実証が必要不可欠となる。表舞台に立たずしてレベル4は成しえないのだ。

トヨタはどのようなロードマップのもと自動運転を実現していくのか。2024年度中に動きが出ることを期待したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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