ホリエモン参画の自動ロボ、「人にはやや重すぎのモノ」の”超近距離配送”に商機

Hakobotが新たな実証、積載100kgに挑戦



出典:Hakobot公式YouTube動画

自動配送ロボットの開発を進める国内スタートアップの株式会社Hakobot(本社:宮崎県宮崎市/代表取締役:大山純)が、ネジ専門商社・サンコーインダストリーとともに重量物の公道配送実証に乗り出した。新たな活用方法を模索し、需要の掘り起こしを図っていく構えだ。

今回の実証はBtoBの取り組みだが、重量物の配送需要は意外と多いかもしれず、今後自動配送ロボットの新たな役割として「重いものを人の代わりに運ぶ」ことに注目が集まるかもしれない。


ホリエモンこと堀江貴文氏が取締役を務めているHakobotの取り組みをベースに、自動配送ロボットのポテンシャルに触れていこう。

■Hakobot×サンコーインダストリーの取り組み概要

大量のネジを近隣加工業者に運搬

出典:Hakobotプレスリリース

実証は、資本業務提携を結ぶサンコーインダストリーの東大阪物流センター協力のもと実施する。加工前のネジを物流センターから加工業者の深輝精工まで運び、加工後のネジを積んでセンターに戻ってくる内容で、日常的に頻繁に発生している配送業務を人に代わって自動配送ロボットが行う。ネジの重量は計100キログラムに及ぶという。

ルートは200メートル余りで、やや複雑な構造の信号のない交差点で横断歩道を渡り、路側帯付きの直線道路を走行するものと思われる。直線道路は非常に狭いため基本的には白線上を走行し、路上駐車など想定外の障害物がある場合は適宜遠隔操作に切り替え、コースに戻り次第自動運転に切り替えるハイブリッド運用を行うとしている。

自動配送ロボットには、スムーズに作業動線に入れるよう普段使用しているコンテナボックスをそのまま荷室に載せるようだ。


従来、この搬送をどのように行っていたのかは明示されていないが、仮に自動車を使用していたとすれば、その積み下ろし作業とわずか200メートル余りの走行が非効率に感じる。かと言って、台車を使用して人力で運ぶことを考えると、100キログラムクラスのモノを運搬するのはたかが200メートルであれ結構大変だ。

重量物を数百メートル運搬するというのは、実は絶妙にイヤな作業なのだ。

倉庫や工場内作業で重量物運搬の自動化は先行

重量物の短~中距離運搬は、倉庫や工場内で発生しやすい。荷物や資材などの反復的な移動が常に必要とされるためだ。

業務においては、ピッキング作業なども含め多くの工程を自動化したファクトリーオートメーションの導入が進んでおり、無人化・省力化・効率化を推進している。倉庫内などでは、屋内限定や走行ルート上への立ち入り制限や注意喚起、関係者以外の入場制限など安全を担保しやすく、すでに自動搬送ロボット(AGV)の導入が進んでいる。


磁気テープなどの誘導体を活用した経路誘導式(path guide)のように長い歴史を持つタイプがあるほか、近年はLiDARなどを活用して柔軟な自律移動を可能にした「AMR(Autonomous Mobile Robot)」の採用が進んでいるようだ。

【参考】自動搬送ロボットについては「自動搬送ロボット「AGV」「AMR」の違いは?(2024年最新版)」も参照。

自動搬送ロボット「AGV」「AMR」の違いは?(2024年最新版)

屋外でも重量物運搬は需要あり?

今回のHakobotとサンコーインダストリーの取り組みは、こうした運搬の自動化を屋外の公道まで延長したようなイメージだ。私有地となる自社敷地内にとどまらず、公道を走行して近隣の倉庫や工場までロボットが資材を運搬する。

特に規制のない私有地に比べ、公道は不特定多数の交通参加者が混在するため、ロボットは一定の要件を満たすスペックで許可を受けなければならない。走行する道路も段差や凹凸があるのが通常で、磁気テープなどの誘導体も自由に設置することはできない。ハードルは格段に上がるのだ。

サンコーインダストリーのように近隣の事業者に頻繁に重量物を運ぶ需要はニッチなものかもしれないが、同所のように町工場が軒を連ねるエリアでは日常的に行われている作業だと考えられる。

100キロクラスの重量物の運搬は稀かもしれないが、ラストマイル配送でも重量のある荷物の配送は多大な労力が必要で、配達員の腕力にも限界がある。

例えば、日本郵便のゆうパックは通常25キロまで、重量ゆうパックでも30キロまでと制限されている。ヤマトや佐川なども通常サービスは20~25キロほどを上限とし、それ以上は別途サービス扱いとなるようだ。

EC全盛の昨今においては、重量物の通販需要も少なくない。また、米や飲料など日用的な需要が高いものでも、量が増えれば結構な重量となるものも多い。人間が苦手とする「重いモノ」を運ぶ需要はあちこちに眠っているのだ。

■Hakobotの概要

走破性と堅牢性を備えた配送ロボットを開発

Hakobotは、自動配送ロボットの開発・実用化を目的に2018年に設立されたスタートアップだ。ホリエモンこと堀江貴文氏が取締役を務めていることでも知られる。

同社のロボットは、どこでも走行可能な丈夫な配送ロボットをコンセプトの1つに据えている。ロボット下部の走行ユニット「Hakobase(ハコベース)」は、走破性と堅牢性に優れた4WD(四輪駆動)と内輪差を限りなく減少させた独自の4WS(四輪操舵)を採用しており、100キログラムまでの積載が可能という。

後述するが、この手の自動配送ロボットで100キログラムの搭載を可能にしているモデルは海外含めそうそう見かけない。4輪操舵のため前後の区別がない走行が可能で、柔軟なルート走行を実現している点もポイントだ。

この走行ユニットに、用途に合わせてカスタマイズ可能な荷室を取り付けて荷物を運搬する。全長1026×全高946(荷室を除く)×全幅660ミリのサイズで、車体重量は98キログラム、最高時速6キロ、最大登坂角度10度のスペックを誇る。

1時間の急速充電で約5時間稼働可能という。自動運転はSLAM方式を採用している。

積載状態での悪路走破性を実証

2022年には、ロケット開発を手掛けるインターステラテクノロジズの協力のもと、北海道大樹町の「北海道スペースポート(HOSPO)」のロケット射場で雪道などの悪路走破性実証や、工具や融雪剤などの重い荷物を載せた状態での走行実証などを行っている。

積載重量を増やせば増やすほど車体自体が沈むため、無積載時に乗り越えられた段差が乗り越えられなくなるなどの懸念があり、一定程度車高を上げることなどで対策していくという。また、車高を上げることで車輌安定度が下がるため、今後も実証を重ね適切なバランスの車高を見極めていくとしている。

名古屋大学との共同研究も

2023年4月には、名古屋大学河口研究室と共同研究を実施したことを発表した。Hakobotのハードウェア設計・開発ノウハウと、同研究室の自動運転開発・制御ノウハウを共有し、より高性能な屋外向け自動配送ロボットの研究開発を推進する。

同研究室は2022年、Hakobaseを元に開発したロボット「UCL-Hakobot」で、ロボットの自律走行技術を競う「つくばチャレンジ2022」にエントリーし、同年6月から共同研究を開始していた。Autoware.Universeへの対応など、機体やプログラムのブラッシュアップを重ねているという。

Hakobotは、つくばチャレンジでの走行実証や共同研究を踏まえ、Hakobaseをいっそうブラッシュアップして完全自社開発で屋外走行可能な自動配送ロボットの新型機のリリースを目指す構えだ。

当初計画では、2023年内の販売を目指すとしていた。計画はやや遅れているものと思われるが、着実に進化を遂げているようだ。

【参考】Hakobotの取り組みについては「ホリエモン取締役のHakobot、新型自動配送ロボを近々リリースか」も参照。

ホリエモン取締役のHakobot、新型自動配送ロボを近々リリースか

サンコーインダストリーと資本業務提携

2023年8月には、サンコーインダストリーとの資本業務提携が発表された。2022年からサンコーインダストリーの物流センターを中心とした近隣区間での定期ネジ配送について協議を進めており、新型ロボットを活用して物流センターが所在する東大阪市内での公道走行実現を目指し、実証実験などの取り組みを展開していくとしている。

今回のネジ配送も、この提携の一環だ。Hakobotは東大阪市を中心に関西圏での事業展開を推進していく構えで、9月に近畿大学構内での実証、11月にイベント「HANAZONO EXPO」内での実証などをそれぞれ計画している。

▼Hakobot、工場と工場を自動配送ロボットでつなぐ、100kgの工業製品搬送を公道で行う実証実験を実施
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000035462.html

■各社の自動配送ロボットの概要

パナソニックは最大30キログラム

パナソニックが開発した自動配送ロボットは全長115×全幅65×全高115センチの機体で、最高速度時速4キロ、最大積載量30キログラムを誇る。モビリティサービスプラットフォーム「X-Area」とともに多用途なサービス展開を見込む。

楽天や西友とともにサービス実証を重ねた神奈川県横須賀市や茨城県つくば市では、米の運搬などにも対応したほか、冷蔵・冷凍食品なども配送している。配送においては、こうしたチルド対応の需要も高そうだ。

【参考】パナソニックの取り組みについては「重たい米もOK!楽天&西友、パナ製自動配送ロボで国内初サービス」も参照。

ZMPは50キログラム

ZMPが開発した自動配送ロボット「DeliRo(デリロ)」は、全長96.2×全幅66.4×全高108.9センチの機体に最大50キロを積載して運搬することができる。最高速度時速6キロで、荷物を積み込むロッカーは1、4、8ボックスから選択することができる。

目や音声で歩行者などとコミュニケーションを図ることができるのが特徴だ。

【参考】ZMPの取り組みについては「「人手」に代わる自動配送ロボ、姫路駅前で社会実装目指し実証」も参照。

Cartkenは20キログラム

三菱電機が日本導入を進めている米Cartkenの自動配送ロボット「Model C(モデルC)」は、全長71×全幅46×全高60センチの機体に最大27リットル・20キログラムの荷物を積載することができる。

Uber Eats Japanが採用しており、フードデリバリー用途であれば20キログラムの積載でもスペック上は全く問題ないのだろう。

【参考】三菱電機とCartkenについては「Uber Eatsの配送ロボ、開発者はGoogle出身!Cartkenの知られざる実力」も参照。

LOMBYは非公表?

LOMBYが開発を進める自動配送ロボット「LM-A」は、全長970×全幅638×全高963ミリの機体に前方荷室305×460×37ミリ、後方荷室365×460×37ミリを備える。最大積載重量は発表されていないようだ。

セブン‐イレブン・ジャパンのネットサービス「7NOW」と連携し、2023年に東京都の南大沢エリアで配送実証サービスが行われている。

【参考】LOMBYの取り組みについては「24時間低コスト!スズキと組む自動配送ロボ企業のLOMBY的未来」も参照。

■【まとめ】重量物運搬が新たに商機に

多くの場合、食べ物を中心としたデリバリーを想定しており、また荷室スペースに限りがあるため、積載重量についてはスペック的にそこまで力を入れていないように感じる。鉄の塊でも扱わない限り、最大100キログラムはオーバースペックとなるだろう。

ただ、それを実現するには、ロボットそのものにハイスペックな耐久性や走行能力が求められることになる。その意味で、力持ちなHakobotのロボットは他社と差別化を図ることができそうだ。

重量物の運搬需要は、米や飲料などを中心に意外に多いものと思われる。人力では20~30キログラム程度の運搬も大変だ。こうした「重量物運搬」を広く宣伝することで、スーパーなどへの導入・利用が促進されるかもしれない。

自動配送ロボットの新たな商機に注目だ。

【参考】関連記事としては「自律走行ロボットの種類は?(2024年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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