
XR(クロスリアリティ)技術開発を手掛ける国内スタートアップのDUAL MOVEが、総額2.34億円の資金調達を実施すると発表した。開発を深化させていくとともに、車窓への実装や量産化に向けた開発パートナーの探索、他の領域への応用展開を進めていく方針としている。
同社が開発を進める透過型ディスプレイを応用した独自XRシステムは、自動運転車を活用した新たなビジネスやエンターテインメントの可能性を拡大していくポテンシャルを秘める。
DUAL MOVEはどのような技術で新たな道を開拓しようとしているのか。その取り組みに迫る。
記事の目次
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■DUAL MOVEの取り組み
NHKロボコン大賞受賞者が設立
DUAL MOVEは、車載用XRのプラットフォーム開発を目的に2023年に設立されたスタートアップだ。創業者兼CEOの佐藤塁氏は早くからプログラミングに親しみ、高専時代にNHKロボットコンテストで大賞を受賞した。その後、大学では分子細胞生物学を専攻するなど化学分野を学んだという。こうした複数分野に渡る専門知識が同社の技術を支えているようだ。
佐藤氏はその後、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)体験システムに関するデバイスやソフトウェア開発を手掛けるバーチャルウインドウを2018年に仲間と立ち上げ、独自のXR新技術を武器としたDUAL MOVEを2023年に設立するに至った。

日本総研のコンソーシアムから派生
DUAL MOVEの前身となる取り組みは、2021年に日本総合研究所が設立したコンソーシアムだ。自動車の車内での映像や音響などのコンテンツが飛躍的に高度化・多様化する時代を見据え、移動に伴って気持ちを動かすような車内空間のあり方を検討する「DUAL MOVEコンソーシアム」を立ち上げた。
CASE時代を迎え、自動車がインターネットに接続される「Connected」により今後さらに大きな変革が起きることを想定している。さまざまなソフトウェアコンテンツを車内で活用することが可能になり、近年、それらのコンテンツの高度化・多様化に資する要素技術が進化しているという。
一つ目が「HMI(Human Machine Interface)」機器の高度化だ。車窓へのAR画像の表示やバイノーラルサウンド、触覚や芳香制御などにより、外部環境と一体化した臨場感の高い車内空間の実現が可能になったという。
二つ目には、「バイタルセンシング」を挙げている。カメラによる表情分析機能や赤外線など各種センサによる体温、心拍、心電などの取得により、移動者の状態を的確に把握することが可能となる。こうした技術の組み合わせにより、移動者の状況や現在地、外部の風景に応じた臨場感の高いコンテンツの提供が可能になるとしている。
これまでも大手自動車メーカーやIT企業などにより、車窓ディスプレイを活用したコンテンツ表示や5G環境を前提とした大容量映像配信などの検討が行われているが、ユーザーからどのような車載コンテンツやサービスが求められているかについては、十分な検証が行われていないのが現状という。
そこで、コンソーシアムでは車載機器や部材の製造メーカーをはじめ、将来的に車載コンテンツを制作・利用する主体と見込まれる旅行会社や小売企業、映像制作会社など関連事業者とともに、車内空間のプロトタイプを活用し、車載コンテンツによるサービスの魅力検証、魅力向上のために必要な車内空間の変革の方向性、サービスモデルの検討などを行うとしている。
自動車が本来的に有する「利用者の身体を移動する(MOVE)機能」に加え、「利用者の気持ちを動かす(MOVE)機能」が求められるようになるとし、このようなコンセプトをコンソーシアムでは「DUAL MOVE」と名付けた。
同コンソーシアムにはバーチャルウインドウが参画しており、この取り組みを契機に企業としてのDUAL MOVEが誕生したものと思われる。
なお、コンソーシアムにはこのほか、アルプスアルパインや積水化学工業、TPR、テイ・エス テックなどが参画している。
2022年には、プロトタイプの製作を発表した。車室の前方半分からなり、AR映像を表示可能な車窓ディスプレイや立体音響機器等を備えており、実際に車両で道路を走行したときに360度カメラで撮影した映像を車窓や天井面に投影することで、実際の車両走行時と同様の体験を行うことができるという。
世界初のコア技術「透過型XR技術」
DUAL MOVEが開発を進めるのは、自動車などの車窓への映像表示を可能にし、車窓越しに見える実際の景色に映像を重ね合わせるXRコンテンツ「車窓XR」を表示する技術だ。「心と身体をMOVEする」をコンセプトに据え、移動体験領域に変革をもたらす構えだ。

「車窓XRなどの最先端技術を活用することで、これからのクルマは単に場所を移動(MOVE)するためのものではなく、気持ちも動かす(MOVE)製品になっていく」とし、デジタルコンテンツによって移動体験を豊かにすることを目指す。
XRは、VRやAR、MR(複合現実)、SR(代替現実)など、現実世界と仮想世界を融合して新しい体験を作り出す技術の総称だ。同社は、世界初のコア技術「透過型XR技術」により、車の窓を介して現実世界の風景と仮想CGオブジェクトを融合させることで、ユーザーに新たな体験を提供する。
透過型XR技術を実現することで、ドライバーをはじめ助手席や後部座席の同乗者も一緒にさまざまな体験を共有することが可能になる。
例えば、恐竜の博物館に向かう道中、リアルなCGの恐竜たちが車窓越しに出迎えてくれるような演出が可能になるという。実際の風景上のビルが恐竜によって壊されていくような表現を通じ、古代世界に来たような体験を提供できる。
また、マップ連携コンテンツを高度に実現することも可能になる。走行ルート上に軒を連ねる店舗のうち、「おいしい鰻屋」がどの建物なのかを正確に指定し、XRにより情報を付加することで「よし、行こう」という気持ちを強くさせることなどもできるという。
現在は研究開発を中心とした事業フェーズで、実事業化に向けた準備を行っている段階だ。DUAL MOVEコンソーシアムで行われた、プロトタイプ筐体を用いたユーザーマーケティング調査の結果を継承し、自動車業界の将来予測のもと研究開発と並行で事業計画を立案し進めていく方針としている。
透過型ディスプレイ×裸眼3Dディスプレイ技術を融合
同社はこれまでに、透明パネルに裸眼3D映像を表示する装置「tXRディスプレイ」の開発に成功し、自動運転技術が普及した先の車窓への実装を目指した取り組みを進めている。
透過型ディスプレイは、国内外の大手メーカーがすでに市販化しており、デジタルサイネージとしての利用を中心に普及が進んでいる。また、特殊なグラスやゴーグルにより映像を立体的に見せる3D映像の仕組みもすでにアミューズメント施設や映画館などで一般使用されているが、近年はグラスやゴーグルをかけず裸眼のまま3D映像を体験できる裸眼3Dディスプレイも登場し、徐々に認知度が広がっているという。
同社は、この透過型ディスプレイと裸眼3Dディスプレイの技術を掛け合わせた仕組みを独自に考案し、世界初の透過型裸眼3Dディスプレイの開発に成功した。
これを「transparent(透明な)」「true(真の)」「three-dimensional(3次元)の頭文字である「t」を用いて「tXRディスプレイ」と名付け、車窓への実装を介した事業化と自動車産業以外の領域を含む社会実装に向け取り組んでいる。
■仮想現実と自動運転
自動運転時代の新たな商機に
完全無人の自動運転が実現すれば、運転席のドライバーも運転操作義務を免れ、助手席の乗員同様「お客様」状態となる。自動運転時代は、いかに移動時間を有効に過ごすか――といった観点が重視されるようになる。
また、自動運転専用に設計された自動車であれば、人間による運転を前提としたハンドルやミラーなどの設備は必要なくなる。極論、周囲の状況を正確に把握するための透過率の高いウィンドウも必要なくなる。こうした自動運転専用車両であれば、ほぼ全面をディスプレイ化することも可能かもしれない。
ウィンドウ越しの景色にさまざまなコンテンツを連動する形で重ね合わせることで、従来では考えられないような新サービスが誕生するかもしれない。自動運転車の付加価値向上にも資する有力な技術となりそうだ。車外の人向けに外側に表示することで、広告ディスプレイとして活用することもできるだろう。
透過率に問題がなければ、レベル3をはじめとした自家用車市場においても商機が広がる。普段は通常のウィンドウとして、運転の妨げにならない程度のHUD(ヘッドアップディスプレイ)として機能する。場合によっては、助手席など運転席以外の角度から見た際にさまざまなコンテンツを閲覧できるよう機能させることもできるかもしれない。
自動運転に切り替えた際は、XRが本領を発揮し、ナビゲートとともにさまざまなサービスを提供する。アイデア次第でサービス向上・ビジネス拡大が見込まれるだけに、今後同技術を活用したサービス開発が大きく進展していく可能性が高そうだ。
ヤマハとソニーはMRサービスを展開
類似例としては、ヤマハ発動機とソニーグループが取り組むエンターテインメント車両「SC-1(Sociable Cart/ソーシャブルカート)」が挙げられる。
SC-1は、ヤマハ発動機の自動運転技術とソニーのエンターテインメント映像技術を融合させたモデルで、2017年にコンセプトモデルが完成した。2018年以後、リゾート施設などでARによって映像や音声を重畳したエンターテインメントコンテンツを楽しめる乗車体験サービスを実施している。
透過ディスプレイではなく高精細ディスプレイを窓の代わりに配置している点で異なるものの、新たな乗車体験の創出という観点で類似している。
乗員向けのMR(複合現実)サービス「MR:Ride(エムアールライド)」に加え、2023年には人と車が一緒に散策をして車外から楽しめるサービス「Zoromo(ゾロモ)」を開始した。
2024年11月には、SC-1で培ったMR技術を活用した「MR Cruise(MRクルーズ)」の第一弾として、大和自動車交通と共同で「タイムトリップタクシー」へのサービス提供を開始している。
凸版印刷とTISも透明ディスプレイで実証
凸版印刷とシステム開発大手TISは2020年、大阪府吹田市の万博記念公園で実施される自動運転実証において遠隔コミュニケーションサービス「TeleAttend(テレアテンド)」を活用した遠隔観光案内サービスを提供すると発表した。
TeleAttendは、XR技術により遠隔コミュニケーションやリアル空間とバーチャル空間が融合したアクティビティを可能にするサービスで、車内の透明ディスプレイにバーチャルキャラクターを表示し、現実空間のガイドのように施設内の説明や観光地の紹介をするという。
【参考】凸版印刷とTISの取り組みについては「自動運転×XR技術!大阪の万博記念公園で遠隔観光案内サービス」も参照。
■【まとめ】景色とリアルタイムで融合させたさまざまなサービスが誕生
現状、窓とは別にディスプレイを設置したうえでXR技術を活用したサービスを展開する事例が増加中のようだが、DUAL MOVEの技術が実用化されれば、窓としての機能とディスプレイとしての機能を両立させ、景色とリアルタイムで融合したさまざまなサービスを生み出すことができる。
後部座席の窓であればレベル2以下の乗用車でも実装可能なため、自動運転時代を待たずとも新たなエンタメや情報、広告ビジネスが誕生するかもしれない。
将来性豊かな最新技術のさらなる発展に期待したい。
【参考】関連記事としては「自動運転業界のスタートアップ一覧」も参照。