Uber Eatsの配送ロボ、開発者はGoogle出身!Cartkenの知られざる実力

三菱電機や楽天、ウーバーイーツが導入



出典:Uber Eats Japanプレスリリース

法改正により実用化フェーズに突入した自動配送ロボット。本格的な商用化フェーズを見据え、各社が開発やサービス実証を加速している。

日本では、Uber Eats Japanと三菱電機が手を組み、ロボットデリバリーサービスに着手した。ウーバーイーツの膨大なデリバリーネットワークはロボット配送の本命の1つであり、覇権を左右すると言っても過言ではないだろう。


ここに白羽の矢を立てられたのが米スタートアップのCartken(カートケン)だ。日本ではなじみが薄い企業だが、数年後にはメジャーな存在になっているかもしれない。

Cartkenとはどのような企業なのか。その正体に迫る。

■Cartkenの概要

グーグルエンジニアが2019年に設立

Cartkenは、カリフォルニア州オークランドで2019年に産声を上げたスタートアップだ。創業者兼CEOを務めるChristian Bersch(クリスチャン・バーシュ)氏は、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ボッシュ、グーグルを経て同社を立ち上げた。


グーグルでは、社内インキュベーター「Area 120」のもとロボット開発を進め、ロボットが図書館に本を返却するBookBotなどを開発していたようだ。BookBotは実際にマウンテンビュー公共図書館でサービス実証が行われている。

BookBotは利用者のもとへ自律走行し、本を受け取って図書館に戻るサービスだ。自動配送ロボットと類似した仕組みであり、ここで培われた技術がCartkenで生かされているようだ。

同社のチームには、グーグル以外にもアップやボッシュ、Lyft、アマゾン出身の技術者が在籍している。AIやロボット工学、自動運転、物流分野などの専門家が集まっているという。

同社は、オークランドのほかミシガン州デトロイト、ドイツのミュンヘン、メキシコの首都メキシコシティ、東京に拠点を構えている。製品開発チームをミュンヘン、リモートオペレーターセンターをメキシコシティに配置している。


モデルCとモデルEを製品化

同社が開発するロボットソリューションは、半径3マイル(約4.8キロメートル)以内に食料品や荷物を配達可能なラストマイル配送をはじめ、キャンパスデリバリーやショッピングモール・オフィスなどにおける屋内配送、カーブサイドピックアップ、工場や倉庫の屋内・屋外におけるマイクロフルフィルメントに対応する。

三菱電機などが導入している自動配送ロボット「Model C(モデルC)」は、長さ71×幅46×高さ60センチの機体に最大27リットル・20キログラムの荷物を積載することができる。日本では最高速度を時速5.4キロメートルに制御し、道路交通法に定められる遠隔操作型小型車として歩道などを走行する。

出典:Cartken公式サイト

また、最大80キログラム積載可能な「Model E(モデルE)」も製品化されている。コンパートメント、棚、高さをカスタマイズ可能で、倉庫内輸送などさまざまな用途で活用できそうなモデルだ。

出典:Cartken公式サイト

パートナー企業にはUberや楽天なども

Cartkenのパートナー企業には、三菱電機のほか、楽天、米Uber Technologies、食品デリバリープラットフォーマーのGrubhub、カナダの自動車部品メーカーMagna、宅配事業者のDPD UK、ドイツでスーパーマーケット事業を展開するREWE Groupが名を連ねている。

三菱電機は、米国法人Mitsubishi Electric Automotive America(三菱電機オートモーティブ・アメリカ)がスタートアップ企業との共創活動を推進しており、その過程でCartkenと巡り合ったという。

CartkenとGrubhubは2022年6月、大学キャンパス内におけるロボット配送実現に向け提携した。まずオハイオ州立大学で試験実証を開始するとしている。

Grubhubは全米250以上の大学キャンパスと提携しており、4,000超の都市で32万店を超えるレストランパートナーが登録しているという。Uber Eatsと同様のサービスだ。こうした即配系のデリバリーサービスと自動配送ロボットの相性は高く、初期のロボットサービスをけん引する業態と言える。

同年7月には、DPD UKとともに英国ミルトン・キーンズの2地区でロボット配送サービス実証に着手することが発表された。成果次第で市内全域にサービスを拡張する予定としている。

DPD UKの倉庫で小包を積み、歩行者・自転車専用道のレッドウェイを走行してシェンリー・チャーチ・エンドとシェンリー・ロッジの住宅街にアクセスするという。

小包の受取人へロボット配送が事前通知され、在宅していることを確認してからロボットが配送を開始する。受取人は随時ロボットの進行状況をマップで追跡でき、自宅に到着すると通知が届く。その後、通知されたコードを使用してコンパートメントを開けて小包を受け取る。コンパートメントを閉じるとロボットは次の配達のため倉庫に戻る仕組みだ。

同年9月には、マグナとCartkenのロボットを製造する契約を結んだことが発表された。すでにミシガン州のマグナの施設でモデルCの製造が開始されており、生産能力は今後数カ月間で増強していく方針としている。

また、提携拡大に伴い、両社は異なる用途やサービスを担うロボットのビジネスモデル構築に向け、同一プラットフォームに基づく新たな自動配送ロボットのモデル製造も行っていくという。契約期間中に数千台規模のロボット生産が予定されているとしている。

同年12月には、Uber Technologiesとフロリダ州マイアミでロボットによる食品配達を行う新たなパートナーシップを発表した。

マイアミデイド郡のデイドランド地域で一部の加盟店を対象にサービスを開始し、2023年中にはその他の都市にも拡大する予定としている。

【参考】Cartken×マグナの取り組みについては「「カナダのデンソー」が自動配送ロボ!Magnaがピザ宅配に挑む」も参照。

日本導入を機に資金調達も?

資金調達関連では、まだシード段階で2021年のラウンドでベンチャーキャピタル2社から投資を受けているだけだ。

今後、日本での導入を機に資金調達が加速することが想定される。その際、Uberや三菱電機などパートナー企業が出資する可能性もあり、協業がいっそう深まっていくことも考えられそうだ。

■日本国内での取り組み

つくば市内のサービスで楽天が導入

楽天グループは2022年5月、茨城県つくば市でパナソニックホールディングスと西友とともに自動配送ロボットによる配送サービスを開始した。

この際はパナソニックが開発した自動配送ロボット「X-Area Robo(クロスエリアロボ)」を使用していたが、サービスを拡大して定常サービス化した11月からは、Cartkenのロボットを導入している。

つくば市内の西友とスターバックス取扱商品を、つくば駅周辺のマンションや戸建て住宅、オフィス、公園・広場などにロボットで配送するサービスで、当初は近接監視・操作者が機体を常時監視し、2023年4月の改正道路交通法施行後に監視者が随行しない遠隔監視・操作型へ移行する計画としていた。

西友からの配送はモデルEを使用している。長さ97×幅56×高さ93センチで、積載容量は約114リットル、最高時速6キロで走行する。スターバックスからの配送には積載容量約24リットルのモデルCを活用している。想定される商品のサイズ・量に合わせてモデルを使い分けているようだ。

2023年6月には、ホテル日航つくばからのデリバリーサービスも開始しており、Cartkenのロボットを三菱電機が同サービス向けに調整したものを使用するとしている。

【参考】Cartken×楽天の取り組みについては「相場は「1回110円」?自動運転ロボによる配送」も参照。

三菱電機はイオンモールで実証

三菱電機とイオンモールは2022年1月、イオンモール常滑でCartkenの自動配送ロボットを活用した商品配送サービスの実証を開始した。3カ月間の長期実証で、モール内のスターバックスの商品を対象に、フードコートや屋外広場まで配送したようだ。

専門店の既存アプリケーションと新たに開発した配送管理アプリケーションを用いたロボット配送で、施設内の離れた場所から自分の居場所や混雑状況に関係なく商品の注文や受け取りが可能という。

三菱電機は、ロボットを活用したシステム構築と国内市場に対応した機能のカスタマイズ、現場導入を進めた。

実証にあたり、三菱電機は周囲にロボットの存在を知らせるためロボット外部にスピーカーを取り付け走行中に音楽を鳴らしたり、商品ボックスにダンパーを取り付けふたがゆっくりしまるようにしたり――と、安全対策を施した。

三菱電機のオウンドメディア「Biz Timeline」によると、実験初日第一号の客は、実証の取りまとめ役を担った三菱電機の担当者、自動車機器事業本部の塚越裕太氏だったようだ。注文後、心配するあまり受け取り場所で待っていられず、スターバックスの店舗から目的地までロボットを見守りながら歩いたという。

スターバックスの店舗から目的地のテーブルまで500メートルほどの距離があり、途中に段差もあったが、コーヒーはまったくこぼれることなく熱いまま届き、胸をなでおろしたようだ。注文は1日平均3〜4件ほどだったという。

自動配送ロボット普及の鍵になりそうなポイントも見つかったという。その1つが導入作業に必須となる事前マッピングだ。ロボットに周辺地図を取得させるのに通常1〜2日かかるところ、Cartkenのロボットは1〜2時間で取得できたとしている。

実験開始後の工事で壁や通路に変更が生じたが、こうした際にも臨機応変に対応し、障害物をスムーズに避けることができたという。

Uber Eats Japanと三菱電機がサービスイン

三菱電機とUber Eats Japanは2024年2月、自動走行ロボットを活用したオンラインデリバリーサービス提供に向け業務提携を交わしたと発表した。Cartkenのロボットを導入し、3月に東京都内の一部地域でサービスを開始している。

Uber Eatsは現在47都道府県を網羅し、加盟店は10万を超えたという。先行エリアの東京での取り組みがうまくいけばサービス対象エリアを拡大していくものと思われるが、そのポテンシャルは非常に大きい。

数年後、Cartkenのロボットが日本市場を席巻している可能性もありそうだ。

【参考】Uber Eats Japanと三菱電機との取り組みについては「5年後の日本、配送ロボが歩道を埋め尽くす懸念 Uber Eatsが口火」も参照。

■【まとめ】マッピング速度は大きな武器、三菱電機とのコンビに注目

三菱電機、楽天を介する形ですでに日本国内でサービス実証済みであることがわかった。三菱電機が綿密に連携することで、国内での導入もスムーズに広がっていきそうだ。

三菱電機の担当者が話すように、マッピング作業の速さも大きな武器となる。自動配送ロボットの走行エリアは非常に細かく、車道を走行する自動運転車よりもある意味複雑なためだ。

ZMPやパナソニック、ティアフォーといった国内勢に対し、Cartkenが今後どのように存在感を高めていくのか。その動向に要注目だ。

【参考】関連記事としては「自律走行ロボットの種類は?(2024年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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