拝啓Google様。自動運転タクシーの日本事業の「秘策」あります

世界展開にはパートナーが必須?

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拝啓Google様。拝啓Waymo様。

あなたが道を切り開いた自動運転開発は世界に波及し、自動車メーカーからスタートアップまで非常に多くの企業があなたの背を追いかけ、技術水準を飛躍的に高める結果となりました。その功績は大変大きく、開発企業の多くがあなたをライバル視しつつも尊敬の念を抱いていることと思います。

さて、あなたがアリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーを商用化してから丸5年が経過しました。時の流れは早いものですね。あなたはその後、2021年にカリフォルニア州サンフランシスコ、2023年には同州ロサンゼルスとテキサス州オースティンでそれぞれパイロットプログラムに着手しました。

フェニックスとサンフランシスコではドライバー不在の無人運行を可能とし、残る2都市も近く正式にサービスインすることでしょう。自動運転タクシーサービスは今後も拡大していくことでしょう。

■海外進出を考えていないのでしょうか?

ところで、あなたは海外進出を考えていないのでしょうか?あなたのライバルであるGM・Cruise様は、ドバイ進出やホンダとのパートナーシップのもと日本進出を計画しています。

今のところ、米国と中国以外では実用域に達した自動運転サービスはなく、大半が未開拓となっています。自動車大国の日本やドイツでも本格的な実証は行われていません。

こうした状況下、あなたのビジネスネットワークをもってすれば、世界展開も決して無理筋な話ではないと思います。日本市場への進出などいかがでしょうか?

■日本市場への進出は外国企業単独では難しいです

日本では、外国企業単独での事業は難しいものと思いますので、業界関係企業とのパートナーシップが重要になりそうです。自動運転ではありませんが、かつてUber Technologiesがライドシェアの可能性を試そうと福岡県福岡市で実証プログラムを行いましたが、「白タク」行為に該当するとして、あっさりと当局から指導が入り、中止を余儀なくされました。

当時の取り組みは、産学連携機構九州と連携して行われましたが、タクシー事業者などのモビリティ業界を味方につけていなかったと記憶しています。あくまで可能性の話ですが、もしモビリティ事業者がパートナーに加わっていた場合、明らかに白タクとみなされる行為を避けつつ、ライドシェア導入に向け一筋の光を残した実証をやり遂げられたのではないかと思います。

自動運転タクシーも、これに近いことが起こるかもしれません。自動運転レベル4の走行を認可する法整備は整っていますが、タクシーサービスの許可はまた別物となる可能性があります。また、黒船ではありませんが、外国からの完全な第三勢力が新たな競争相手に加わる場合、業界も黙って受け入れるとは思えません。

過剰にライバル視される可能性が考えられ、場合によっては社会受容性や信頼性を損なわせるようなネガティブ情報が出回り、世論が左右されるかもしれません。

【参考】関連記事としては「ライドシェアとは?(2024年最新版) 仕組みや解禁時期は?」も参照。

■業界関係企業を口説き落とすことが必要です

こうした点を踏まえると、業界関係企業を口説き落とすことが先決となるかもしれません。Uberはその後、純粋なタクシー配車サービスとして各地のタクシー事業者と手を組み、日本における事業基盤を築きました。

グーグル様も、日本進出の折にはぜひタクシー事業者をはじめとした運送サービス事業者などの既得権益者と手を組み、各社と共存・サポートするような形で入り込めばスムーズに事業化を進められるかもしれません。

ドライバー不足が顕在化する昨今におきましては、タクシー事業者の中にも無人運転を実現するレベル4に興味を示す企業は間違いなくいることでしょう。

ライバルであるCruiseと手を組むホンダは、すでに一部タクシー事業者と自動運転サービス実用化に向け検討を始めています。こうした動きが具体化すれば、これを契機に各社が動き出す可能性も考えられます。今が動き出すときではないでしょうか?

【参考】関連記事としては「ホンダの自動運転タクシー、Googleすら未実現の「運転席なし」」も参照。

トヨタに話を持っていくのが面白いかも

そういえば、グーグル様は自動車メーカー各社との仲も良好とうかがっております。FCAやボルボ・カーズをはじめとする各社と提携し、車両の供給を受けていますよね。

日本関連では、2019年に仏ルノーと日産とパートナーシップを交わし、フランスと日本における無人モビリティサービスの展開に向け検討を開始すると発表していました。その後の展開はどうなったのでしょうか?進展はありましたか?

日産も自ら自動運転開発に積極的なため折り合いがつかないのかもしれませんが、各国で一定の地盤を持つメーカーと手を組んでサービスに着手するのも良策かと存じます。

日産との話が折り合わないのでしたら、最大手のトヨタに話を持っていくのも面白いかもしれません。トヨタは、自動運転サービスを見越した戦略車としてAutono-MaaS車両「シエナ」を製品化しており、提携する米May MobilityやAurora Innovation、中国Pony.aiがそれぞれ自動運転システムを統合しています。グーグル様も手を組んでみてはいかがでしょうか。

【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略(2024年最新版)」も参照。

■グーグル様のサービスと共存・両立可能です
出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

トヨタの日本国内におけるレベル4の取り組みは「e-Palette」が中心ですが、サービス用途を限定せずじっくりと実証を進めている印象で、グーグル様のサービスと共存・両立可能と思います。

実証都市Woven Cityはもちろん、トヨタのお膝元である愛知県豊田市でサービスインに向けた取り組みを進めるのも良いかもしれません。愛知県は自動運転実装に理解がありますし、中規模の地方都市でサービスインし、その後の拡大につなげていくのも王道の1つかと思います。

三菱自動車やスバル、マツダと手を組むのも利害が一致しそうです。3社はレベル4サービスに関する取り組みにそれほど力を入れておらず、自動運転開発企業との結びつきも他社ほど強くない印象です。グーグル様と手を結ぶことで新たな第一歩を踏み出し、自動運転サービス分野でトヨタ、ホンダ、日産を一気に追い抜くことも考えられそうです。

このように日本進出に向けてはさまざまな戦略が考えられますが、こうした国内企業と結びついた草の根活動が、日本に受け入れられるためのブランディングとロビー活動につながっていくと思います。

グーグル様が腰を上げれば、その知名度と実績から興味を示す自治体も続々手を挙げることが期待されます。日本の自動運転サービス実装の起爆剤となるためにも、ぜひご検討のほどお願い申し上げます。

敬具

■グーグル(ウェイモ)の自動運転ビジネスモデル

以上が自動運転ラボからGoogleへの応援レターだ。メッセージはこの辺にして、以下、Googleの自動運転事業を改めて包括的に説明していこう。

世界展開のフェーズはいつ訪れる?

世界に先駆けて自動運転タクシーサービスを開始したグーグル(Waymo)。世界を股にかけるテクノロジー企業として一気に世界進出路線を歩むものと思われたが、今のところ米国内でのサービスにとどまっており、海外展開を具体化したビジョンも示されていない。

各国の法規制や交通ルールの違いなどが障壁となっている可能性もあるが、一方で日産との提携のように、日本における無人モビリティサービスの展開に向け検討を進めるなど模索する動きも見せていた。

そもそもWaymoのビジネスモデルは、どこに重点を置いているのか。収益面では、以下などが考えられるが、今のところ収益が上がっているのは②の直営タクシーサービスによる運賃が中心になっているものと思われる。

①自動運転システムの販売

①は、さまざまなタイプの自動車に自社の自動運転システム「Waymo Driver」を統合可能にすることで、自動運転車の導入を検討する企業に柔軟に自動運転車を提供していくビジネスモデルだ。導入予定地域における自動運転に対応する必要があるが、将来的にはこうしたビジネスを展開していく可能性は十分考えられる。自動運転技術を欲する自動車メーカーに直接提供していくケースもありそうだ。

現在、自社の自動運転タクシーの主力モデルはFCAとジャガーランドローバーの既存車種となっているが、中国の自動車メーカー浙江吉利控股集団(Geely)とのパートナーシップでは、ハンドルやペダルを備えない自動運転サービス専用車両の開発を進めている。

こうしたオリジナルモデルは、あくまで自社直営サービスで用いるのか、あるいは中国での展開なども視野に入れているのか、新たな取り組みに注目が集まるところだ。

【参考】Geelyとの取り組みについては「Google、「中国企業」に自動運転車の製造委託 相手はGeely」も参照。

②自動運転タクシーなどのサービスによる利益

②の直営サービスによる利益は、ドライバーレスが前提となる。自動運転化の改造は自社で行うことができるため、高額に思われがちな自動運転車の初期導入コストは思いのほか低く抑えることができる。これまでの研究開発費を償却しつつサービス提供エリアを拡大していくビジネスモデルだ。自らのサービス運用で培ったノウハウを、①で自動運転車を販売した事業者に提供していくビジネスも可能となる。

一定エリアをしっかり網羅することができれば、サブスクリプション形式で自家用車需要を取り込むこともできそうだ。自家用車における大半の移動は一定エリア内に留まるため、比較的安価な月額方式でサービスを提供できれば、自家用車を手放す層も少なくないものと思われる。

③プラットフォームサービス

③は、自動運転タクシーサービス「WaymoOne」などのベースとなるプラットフォームサービスを展開していくビジネスモデルだ。Uberのグーグル版のようなイメージだ。

単純なプラットフォームではUberの二番煎じとなってしまうが、Androidのように拡張可能なプラットフォームとして、他社製自動運転車を交えながらエリアや事業者ごとに拡張可能な仕様にすることで、MaaS分野における覇権を狙うこともできる。

【参考】Waymoの自動運転戦略については「Waymoの自動運転戦略」も参照。

■【まとめ】世界展開の第一歩として日本を選択するのはあり?

グーグル・Waymoのビジネスモデルにはさまざまな道が考えられるものの、今のところどの道を目指しているかは不明だ。

現在は自動運転システムの絶対的な向上を図るフェーズだ。安全性の向上はもちろんのこと、さまざまなエリア展開を容易にする学習力の向上などが一定水準に達しない限り、なかなか拡大路線に踏み込めないのだろう。

ただ、遅かれ早かれ世界進出を果たし、交通環境が異なるエリアでも対応可能なシステムを構築していくものと思われる。であれば、世界展開の実証地として日本を選択し、意欲のある企業や自治体をパートナーに実証に着手するのもありではないだろうか。

Waymoが進出すればそのエネルギーが国内開発勢にも飛び火し、開発が大きく加速していくことも考えられる。

自動運転の代名詞的存在となったグーグル・Waymoが、今後世界においてどのような存在感を発揮していくのか、改めて注目したい。

【参考】関連記事としては「拝啓Apple様。まず1台だけ自動運転タクシーをローンチしては?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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