ライドシェア解禁後、Uberに勝てる日本企業は存在するのか

コスロシャヒCEOが日本進出に意欲



配車サービス大手の米Uber Technologies(以下ウーバー)を率いるダラ・コスロシャヒCEO(最高経営責任者)が、日本でのライドシェアサービスに意欲を示したようだ。


国内では現在、ライドシェア導入の是非をめぐる議論が再燃しており、解禁に傾くのであればウーバーの参入はほぼ間違いないところだろう。同社の日本法人はこれまで波風立てぬよう努めてきたが、状況が一変する日が訪れるかもしれない。

ライドシェアが解禁された場合、やはりウーバーのような専門事業者が業界を席捲するのだろうか。立ち向かうことができそうな日本企業はいるのか。

ライドシェア解禁を前提に、有望な企業の属性に迫ってみよう。

■ウーバーの動向
ダラ・コスロシャヒCEOが意欲

コスロシャヒCEOは、サンフランシスコの本社で日本メディア各社の取材に応じた。報道によると、コスロシャヒCEOは日本でライドシェア議論が再燃していることに関し「日本の政策立案者が決めること」とそっけなく応じつつも、運転手不足への対策として2種運転免許の基準見直しや試験の多言語化などを挙げ、「(日本でライドシェアが)認められれば参入する」と意欲をのぞかせた。


朝日新聞によると、世界4位のGDP(国内総生産)を誇る日本の市場に魅力を感じているようだ。

出典:Ecole polytechnique / Flickr (CC BY-SA 2.0)
日本では2014年に配車サービスを開始

Uberの日本進出は2012年にさかのぼる。日本法人Uber Japanを設立し、アプリを活用したマッチングサービス導入に向けた事業に本格着手する。

翌2013年に第2種旅行業者としてトライアルサービスに着手し、2014年には東京都を皮切りにタクシー配車サービスを開始した。

2015年には、自家用車で移動サービスを行うライドシェア実証「みんなのUber」を福岡県福岡市で実施したが、国土交通省から「白タク行為」と指摘され、中止に追い込まれた。


それ以降は国内タクシー事業者とのパートナーシップを強化し、タクシー配車サービスやコロナ禍で需要を増したフードデリバリー(Uber Eats)などに注力している。

2023年11月現在、日本国内でのタクシー配車サービスは東京や大阪、京都、横浜など21都市で展開している。

ウーバー日本法人の戦略は?

ウーバージャパンは、2020年に日の丸交通とタクシー配車サービスに向け業務提携を結んだ際、モビリティ事業のゼネラルマネージャーが「日本においてタクシーは重要な社会インフラ。違法なライドシェアに反対する立場として、タクシー会社とともにタクシー業界の発展に貢献していく」と声明を発表している。

また、2023年9月には、一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会に賛助会員として正式に加入した。これまで以上に効率的なハイヤー・タクシー車両の配車をはじめ、訪日観光客やビジネス客の移動需要の取り込み、先進的なテクノロジーの活用を通じた売上機会の創出を支援していくとしている。

日本法人としては、タクシー業界とのパートナーシップを深め、協調路線を歩んでいく意向のようだ。

米ウーバーの戦略は?

一方、本家の米ウーバーは、創業事業であるライドシェアサービスを主力に飲食物のデリバリーサービスUber Eatsや運送会社と荷主をマッチングするUber Freightなど事業多角化を推し進めている。

近々では、家具の組み立てや庭掃除、除雪など雑用をドライバーに依頼するUber Tasksの試験運用も開始されるという。もはやドライバー云々ではなく、純粋なマッチングサービス系の事業も模索しているようだ。

過去には、自動運転や空飛ぶクルマの開発も自ら手掛けていた。自動運転に関しては現在グーグル系Waymoなどと手を組み、人の移動やモノの輸送の無人化に向けたサービス実証を開始している。

将来、自動運転技術が確立・普及すれば従来のライドシェアのような有人サービスは減少していくことが予想される。さまざまな可能性を見越し、ウーバーは事業多角化を推し進めているのだろう。

とはいえ、ライドシェア需要を満たす自動運転技術が世界的に普及するには5年10年では足りない。まだまだ多くの時間を要するのだ。自社の代名詞的サービスであるライドシェアを拡大していく戦略もまだまだ続くものと思われ、市場として一定規模を誇りタクシー需要も盛んな日本は、条件さえ整えばすぐさま導入を図っていく可能性が高そうだ。

【参考】自動運転×Uberについては「Uber、いよいよ「自動運転化」を本格化!ライドシェア&配達で」も参照。

ウーバーやディディは即座に対応可能?

もし、日本でライドシェアが解禁され、ウーバーが本格進出した場合、どのような変化が生じるのか。まず、タクシー業界の猛反発は必須となるため、ウーバーのタクシー配車サービスから脱退する動きが一気に加速する可能性がある。

しかし、上述したようにこのタイミングでウーバージャパンが全国ハイヤー・タクシー連合会へ加入したことが謎を深める。連合会側としては、ライドシェアの代名詞的存在であるウーバーは最大の敵とも言えるからだ。

この加入の経緯が憶測を呼びそうだ。ウーバージャパンとしては積極的にライドシェア解禁を働き掛けないことや、解禁時のサービスに一定の線引きをしたうえで、タクシー業界との共存を前提にしたサービス展開を図ることなどを視野に入れているのか……など、水面下の攻防が気になるところだ。

いずれにしろ、ライドシェアが解禁されれば親会社の意向でウーバージャパンは国内ライドシェア導入に向けた取り組みを加速せざるを得ない。ウーバーのプラットフォーム・アプリは現時点でライドシェアに対応しているものと思われ、システム構築・改変などにそれほど手間はかからないはずだ。

事実、京都府京丹後市ではウーバーのアプリを活用した自家用有償運送が行われている。法律にのっとり一定の制限はあるものの、利用方法はライドシェアそのものだ。

ギグワーカーとなるドライバーの募集や管理も、海外での経験を持ち込むことで非常にスムーズに行うことができる。Uber Eatsなどを含めユーザーの認知度も高いため、サービス展開におけるハードルは非常に低そうだ。

こうしたことは、中国のライドシェア大手DiDi Chuxing(滴滴出行)も同様だ。同社もソフトバンクと合同で日本法人DiDiモビリティジャパンを立ち上げ、日本国内でタクシー配車サービスを展開している。ライドシェアのゴーサインが出されれば、ウーバー同様即座に対応可能なものと思われる。

【参考】京丹後市における取り組みについては「地域ライドシェアを「Uberアプリ」で配車!人口4,500人の町で独創的試み」も参照。

■国内プラットフォーマーの動向
タクシー事業者直系はあり得ない?

では、ライドシェアが解禁された場合、日本のライドシェア事業はウーバーやDiDiに席巻されてしまうのか。国内事業者でライドシェア参入が見込まれる企業はないのだろうか。

有力なのは、タクシー配車サービスやMaaSを展開するプラットフォーマーだ。タクシー配車プラットフォームの最大手GO(旧Mobility Technologies)は同事業で頭一つ抜きんでており、全国ネットワークもほぼ構築済みだ。DeNAも関わっており、システム開発能力も非常に高い。

しかし、同社はタクシー大手の日本交通系企業であり、川鍋一朗氏(日本交通会長)が会長を務めている。川鍋氏は全国ハイヤー・タクシー連合会の会長も務めており、ライドシェア反対勢力の急先鋒として知られる。

こうした背景を踏まえると、他社含めタクシー事業者直系のプラットフォーマーがライドシェア事業に着手するのは現時点では考えられない。

あるとすれば、ライドシェア解禁議論にタクシー業界が加わり、共存可能となる制約を課した上で導入ルールを策定した場合だ。タクシー業界が一歩妥協し、自らの意向を反映させることと引き換えにライドシェアを認めるならば、タクシー事業者も新規事業としてライドシェアに乗り出すことができそうだ。

第三者プラットフォーマーは有力?

このほか、タクシー配車サービス大手には、ソニー直系のS.RIDE(旧みんなのタクシー)も存在する。現在はタクシー事業者向けのサービス提供にとどまるが、同社はAI(人工知能)やITなどの新たな技術を活用した新たなモビリティープラットホームの開発や、より利便性の高いモビリティサービスの追求をビジョンに掲げている。

ライドシェア事業に参入したとしても違和感はなく、むしろMaaS分野での取り組みを加速させる引き金になるかもしれない。

新進気鋭のMaaS系プラットフォーマーも?

タクシー事業者直系のプラットフォーマーに比べ、新進気鋭のMaaS系プラットフォーマーのほうがライドシェア導入におけるあつれきは低い。タクシーをはじめバスや電車、カーシェアなどさまざまなモビリティを対象としているため、新たな移動サービスの選択肢を増やすことに抵抗はないのだ。

ただ、タクシー配車のようなマッチング形式のサービスを自ら展開していない場合、例えばバスや鉄道などの情報のみを統合したようなMaaSであれば、プラットフォームの基礎が異なるため一からシステムを構築しなければならない場合が多い。

例えば、トヨタが展開する「my route」でタクシーを利用する場合、ルート詳細画面からタクシー配車事業者(GO)を選択すると、その事業者のアプリに遷移する。自らのプラットフォームにはフレキシブルにドライバーと利用者を結びつける機能を備えていないのだ。

基本的には、自社がライドシェアを運用するのではなく、他社のライドシェアサービスを自社MaaSプラットフォームに取り入れる……といった形になりそうだ。

つまり、MaaS系プラットフォーマーでも、S.RIDEのように独自のマッチングサービスを展開している企業のほうが適していると言える。

例えば、空港を起点としたシャトルサービスなどを手掛けるNearMeであれば可能ではないだろうか。タクシー事業者航空事業者などと連携し、送迎シャトルサービスを希望する利用者とマッチングするプラットフォームは、ライドシェアにも応用可能ではないだろうか。

【参考】NearMeについては「「第4の公共交通」目指すNearMe、シリーズBで13億円調達」も参照。

もしくは、すでに純粋な相乗りマッチングサービス「notteco(のってこ!)」を展開しているアディッシュプラスはどうか。Nottecoは同一方面に向かう人を結びつける、営利目的ではない相乗りサービスだ。本質部分はライドシェアそのものであるため、営利ライドシェアの展開も容易と思われる。

仮にライドシェアが解禁されたとしても、全面解禁ではなく他国に比べ厳格なドライバー管理やエリア・時間帯などを絞った部分解禁となる可能性が高い。さらには、エリアごとに自治体と手を結んだ一社独占形態のサービスとなるかもしれない。

局所的なサービス展開であれば、新規参入企業にもウーバーやDiDiに立ち向かうチャンスが訪れるものと思われる。

■【まとめ】議論の方向はどちらに傾くか

国が現在進めているライドシェア解禁議論がどういった方向に進むかによって、ライドシェア参入事業者の面々も変わりそうだ。

まだ解禁されると決まったわけではないが、現在の流れを踏まえると部分的解禁に動く可能性が高い。その場合、エリアや時間帯など細かな条件・制約を付けてタクシー業界の反発を抑え、妥協点を探っていく形になりそうだ。

今後、議論はどのような方向に進むのか。また、どのタイミングで議論がまとまるのか。まずは規制改革推進会議の動向に注目だ。

【参考】関連記事としては「ライドシェアの法律・制度の世界動向(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事