米国・中国を筆頭に実用化が進む自動運転。多くの開発企業は自国内での実用化を第一目標としているが、早くも世界展開を目指す動きも活発化している。そのターゲットとして注目度が高まっているのが中東だ。
開発各社はなぜ中東をビジネス対象に据えるのか。自動運転分野における中東の動向に迫る。
記事の目次
■自動運転の展開
米中勢が先行、多くは自国内でサービス展開
公道における自動運転は、米アリゾナ州やカリフォルニア州や、中国の北京をはじめとした主要都市で続々とサービス化が進んでいる。主要プレイヤーは、米国はグーグル系WaymoやGM傘下のCruise、中国はIT大手百度やAutoX、WeRide、Pony.aiといったスタートアップ勢だ。
Waymoは世界初と言われる自動運転タクシーをアリゾナ州で商用化し、その後カリフォルニア州でもサービスを開始している。Cruiseもカリフォルニア州でサービスインした。
中国では、百度が重慶、武漢、北京、深センの各都市で無人の自動運転タクシーサービスを開始しているほか、他都市でも積極的に走行実証や有人サービス実証を進めている。
AutoXは北京、上海、深セン、広州など、WeRideは広州や上海など世界5都市、Pony.aiは広州や北京といったように、サービスの向上・拡大を図っている印象だ。
自動運転サービスの実用化には、現地における膨大な公道実証や各国・各市の許認可などが必要となるため、基本的に各社は拠点となる地をじっくりと精査し、多大なリソースを割いて実証を行う。そのため、複数都市で展開を図るには相当の余力が必要となるのだ。
他国における展開はさらにハードルが高い。自動運転に対する国の姿勢や道路交通ルール、交通参加者の走行習慣などが自国と異なるからだ。さまざまな交通ルールに対応可能な自動運転システムをはじめ、資金面の余力や交渉能力など、多くのものが求められる。
グローバル化を目指す動きも
他方、米国や中国の開発勢においては、他国への展開にメリットもある。競争が激しい自国内で横展開を目指すよりも、競合する開発勢が少ない他国をターゲットにした方がスムーズに事業を進めることができる場合があるのだ。
特に、政府が自動運転導入に意欲的ながら、自国内に有力な開発企業がいない国は狙い目となる。政府との交渉をスムーズに運ぶことができ、大規模フリート展開も視野に収めることができるためだ。
また、他国での実績が呼び水となり、別の国における展開も容易になるかもしれない。他社に先駆けて海外進出を推し進めることで、自動運転グローバル化の第一人者となる戦略だ。
海外進出の有望エリアは中東?
こうした海外進出先の1つとして有望視されているのが、UAE(アラブ首長国連邦)をはじめとした中東地域だ。UAEやサウジアラビアなどは、オイルマネーによって各国政府や政治の主導権を握る王族は潤っており、かつスマートシティに代表される近代化・先進化を図る動きも一部で活発となっている。
その上、ほぼ全ての国に有力な自動運転開発プレイヤーが存在しないのだ。技術開発が盛んなイスラエルのモービルアイを除けば、めぼしいプレイヤーは見当たらない。
潤沢な資金とワンマン的に推進可能な施策のもと、海外で豊富な実績を有する先進企業とパートナーシップを結んだほうが近道となるのだろう。
■中東における各社の取り組み
Cruiseはドバイ交通局と大規模契約を締結
いち早く中東と縁をつないだのが米Cruiseだ。Cruiseは2021年、ドバイ道路交通局と自動運転タクシーを独占的に運行する契約を交わした。
ドバイは2030年までに移動手段の25%を自動運転に切り替える――といった交通施策を進めており、Cruiseとの契約では2030年までに最大4,000台規模の自動運転車を導入するとしている。車両は自動運転専用モデル「Origin」を予定しており、2023年にもサービスを開始する計画を発表している。
Cruiseは2022年2月に米カリフォルニア州サンフランシスコで自動運転タクシーサービスを開始したばかりだ。サービスエリアをアリゾナ州フェニックスとテキサス州オースティンに拡大していく方針も発表している。
ただ、本国での自動運転サービスの評判は好調とは言えない様子で、緊急出動車両の邪魔をしたり交通を遮断したり……といったトラブルが頻繁に報告されている。ついには、サンフランシスコ交通当局がCruiseとWaymoに対しサービス拡大を遅らせるよう要請したようだ。
本国でのサービス拡大に一抹の不安を残す一方、ドバイでは4,000台もの巨額契約を勝ち取った格好だ。GMというバックボーンを武器に、今後も中東エリアとの取引を拡大していく可能性は十分考えられる。
【参考】Cruiseの取り組みについては「ドバイ国家戦略、GMに追い風!自動運転タクシー4,000台供給へ」も参照。
ドバイ国家戦略、GMに追い風!自動運転タクシー4,000台供給へ https://t.co/mpIOWoNCCL @jidountenlab #自動運転 #GM
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) January 9, 2023
WeRideはUAEから国家ライセンス取得
中国WeRideも中東エリアに攻勢を仕掛けている。同社は2022年、UAEを構成するアブダビ首長国の首都アブダビで行われた無人レベル4実証に協力した。
地元の地理空間データ企業Bayanatとアブダビ交通局や統合交通センターなどの取り組みにWeRideが自動運転システムを提供する形で参画し、自動運転タクシー「TXAI」実用化に向けた走行実証を進めたようだ。
同年には、サウジアラビアの首都リヤドでも同国AI(人工知能)企業SCAIと組んで自動運転バスの試乗会を行っている。どういった経緯でアブダビやサウジアラビアの企業と手を組むことになったかは定かでないものの、相応のアプローチを仕掛けた可能性は高い。
2023年7月には、ドバイの首長でUAE副大統領兼首相を務めるムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下が、UAEがWeRideに対し自動運転走行を認める国家ライセンスを付与したことをSNSで発信したようだ。
WeRideによると、中東初の国家レベルのライセンスで、WeRideはこの許可によりUAE内のさまざまな路上で自動運転実証や運用を行うことが可能になるという。同社は1年以上前からUAEの特定道路で公開テストを実施していたとしている。
明確に中東を注力エリアに据え、自動運転サービスの商用化を推し進めている格好だ。
【参考】WeRideのアブダビでの取り組みについては「中国WeRide、世界で飛躍!アブダビの自動運転タクシーにシステム提供」も参照。
【参考】WeRideのリヤドでの取り組みについては「中国WeRide、中東で「完全無人の自動運転バス」実証!レベルは「4」」も参照。
【参考】WeRideへの国家ライセンス付与については「中国WeRide、UAEで自動運転車の国家ライセンスを取得!」も参照。
中国WeRide、UAEで自動運転車の国家ライセンスを取得! https://t.co/AA9esvLqop @jidountenlab #WeRide #自動運転
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) July 14, 2023
■欧州勢や日本勢も
Einrideや三笠製作所もUAEとコネクション構築
米中勢以外にも中東地域へアプローチしている例はある。スウェーデンの自動運転トラック開発企業Einrideは2023年5月、UAEエネルギー・インフラ省と自動運転EV(電気自動車)網の整備に向け覚書を交わしたと発表した。
550キロに及ぶ貨物モビリティグリッドを構築し、2,000台のEVと200台の自動運転車、8基の充電ステーションを配備する計画としている。
日本勢では、三笠製作所がドバイ警察と手を組み、世界初となる移動式交番の実用化を進めている。2017年に遠隔自動運転が可能なスマート警察署「SPS‐AMV(Smart Police Station-Autonomous Mobile Vehicle)」の開発プロジェクトに着手し、翌2018年開催の中東最大の展示会「GITEX2018」でコンセプトモデルを披露した。
2号機の開発にも着手しており、2023年2月までに納車完了したことを発表している。
【参考】三笠製作所の取り組みについては「ドバイ警察に「自動運転無人交番」納品!謎の日本企業の正体」も参照。
ドバイ警察に「自動運転無人交番」納品!謎の日本企業の正体 https://t.co/ip8hLaU9rL @jidountenlab #自動運転 #交番
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) February 23, 2023
■【まとめ】中東には多くのマネーと需要が眠る
今のところ明確に中東エリアへ攻勢を仕掛けているのはWeRide1社で 、その他の企業は単発かもしれないが、こうした動きが今後顕著となり、国王や首長へのセールスを強化する動きが活発化する可能性が考えられる。
多くのマネーと需要が眠る中東。自動運転をはじめとしたスマートソリューションを売り込むべく、日本企業もどんどん動き出すことに期待したい。
【参考】関連記事としては「自動運転、中東の最新事情」も参照。