東大AIベンチャーが宇宙事業!「自動運転」技術を武器に

TRUST SMITH、月面上に実験施設を建設へ



出典:TRUST SMITHプレスリリース

東京大学発AI(人工知能)ベンチャーであるTRUST SMITH株式会社(本社:東京都文京区/代表取締役社長:大澤琢真)の勢いが止まらない。自動運転分野に続き、今度は宇宙産業にも手を伸ばすようだ。自社が保有するAIやロボティクス技術を応用し、無人ロボット技術による月面上の実験施設の建設を目指すという。

自動運転に必要とされる認識技術や位置特定技術などは、宇宙産業においても有用だ。今後、自動運転技術を応用する形で宇宙開発分野に新規参入する動きが強まる可能性が考えられる。


TRUST SMITHの取り組みをはじめ、自動運転技術と宇宙関連技術の親和性に触れていこう。

■TRUST SMITHの宇宙産業への進出
AI技術を武器に宇宙開発の課題を解決

TRUST SMITHによると、これまでの宇宙開発は莫大なコストがかかり、また軍事利用も視野に入れていることなどからNASA(米航空宇宙局)やJAXA(宇宙航空研究開発機構)といった政府機関によるプロジェクトが大半だったという。

しかし、近年はテクノロジーの発展によりコスト低減が可能となり、イーロン・マスク氏のSpaceXによるロケット打ち上げなど、民間企業による商用目的の宇宙開発が盛んになってきている。

一方、宇宙空間においては、放射線によるダメージなどがあるため人間が取り組める作業時間は少なく、可能とされる作業も限定される。多大な訓練や多くの準備、滞在期間の制約など、解決すべき課題が山積している。


そこで同社は、これまでに培ってきたロボットの目や足、腕、頭脳となる技術を活用して宇宙産業へ参入を目指す。自動運転や経路計画、物体認識、データ分析などの技術を応用することで、宇宙開発におけるさまざまな課題の解決を図っていく。

具体的には、宇宙ステーション外において動的環境が変化する極限環境下でのアームロボットによる「ロバストな自動ピッキング」作業や、自動航行ドローンと画像認識アルゴリズムを活用した宇宙機やステーション街などの「故障検知システムによる点検の自動化」、さまざまな車両を自動運転化するアルゴリズムを活用した、外乱が想定される極限環境下における「月面探査機の自動運転」などを想定している。

宇宙ステーション船内外の作業や軌道上における作業、月面探査・基地開発作業など、多岐に及ぶ用途に自社技術を活用していく構えだ。

■TRUST SMITHの技術
ロボティクスや自動運転、物体認識技術など

工場や倉庫内作業のオートメーション化に向けた研究開発で培ってきたアームロボット技術には、動的障害物を自動回避する特許取得済みの「モーションプランニングアルゴリズム」をはじめ、乱雑に積まれた物体に対する「把持候補点生成アルゴリズム」、未学習の対象物をピッキングする「物体認識アルゴリズム」、荷物の積み付けを自動算出する「積み付け計画アルゴリズム」、自律走行可能な移動式ロボットアームを用いた「ピッキングシステム」などがある。


アームロボット「ADAM SMITH」は、センサーで障害物を自動検知し、衝突を回避しながら目的物まで到達することができる。3次元オブジェクト認識技術で目的物を分別し、ピックアップ作業まで一貫して行うことが可能という。

出典:TRUST SMITHプレスリリース

AGV(無人搬送車)関連では、あらゆる車体に適用可能な汎用型の「自律走行アルゴリズム」や、1,000台規模の移動ロボットを最適に制御する「群制御アルゴリズム」などの技術を有する。

磁気誘導やSLAM方式で自律走行可能なAGV「Kaghelo」をはじめ、自律走行やマッピング機能を有する環境協調型フォークリフト「YOKOHAMA RUNNER」などがすでに製品化されている。

画像認識関連では、曲面を含む物体や上下反転しているような物体にも対応可能な「領域切り分けアルゴリズム」や、AI-OCRと画像内の対象ラベルを特定するアルゴリズムを組み合わせた「入出荷検品の自動化システム」などの技術を開発済みだ。

画像認識技術によって自動で異常検知を行うAI「GARDIA」は、工場における機械の故障など異常をいち早く発見し、生産効率の向上や効率の良いメンテナンスを実現する。

出典:TRUST SMITHプレスリリース

このほか、ドローンの無人充電を可能にする世界最高精度の自律着陸システムについても特許取得済みという。ドローンを自動航行させるAI「DEEP HORNET」なども開発済みだ。

出典:TRUST SMITHプレスリリース
工場敷地内における自動運転にも注力

TRUST SMITHは、東京大学の学生らが2019年に設立したAIスタートアップで、スマートファクトリー技術をはじめ自動運転車や自動配送ロボット、自動運航船などの研究開発も行っている。

自動運転関連技術は、工場敷地内における用途に主眼を置いており、自動搬送トラックの実用化でスマートファクトリー化をいっそう推し進める構えだ。2020年12月には、自動運転車による工場内の事業自動化を支援する関連会社SMITH&MOTORSの設立を発表している。

■宇宙産業への参入
月面調査などは自動運転と共通する部分が多数

宇宙におけるさまざまな調査や研究開発の大半は無人で行われる。宇宙空間での作業にはまだまだ多くの制約があり、人が自由に行動できる環境にないためだ。

このため、地上の自動運転同様、遠隔監視・操作や自律判断・制御技術が宇宙でも重宝されるのだ。例えば月面で調査活動を行う際、無人探査車がSLAM技術でゼロからマッピングを行い、地面の凹凸を認識しながら走行する。重力など環境に違いはあれども、ベースとなる技術に関しては地球上における自動運転と共通する部分が多いものと思われる。

シミュレーションや自動化技術、SLAM技術などの開発を推進

宇宙開発に向け、国は2020年度に「宇宙開発利用加速化戦略プログラム(スターダストプログラム)」を創設し、戦略的に取り組んでいくプロジェクトの選定や支援を行っている。

国土交通省と文部科学省は、このプロジェクトのもと宇宙無人建設革新技術開発推進事業に着手し、2021年度に公募・審査を経て10件の技術研究開発を選定した。

このうち、自動化・遠隔化をはじめとする無人建設技術において、立命館大学などの「月面の3次元地質地盤図を作成するための測量・地盤調査法」や技研製作所の「重力に依存しない杭圧入技術・インプラント工法の宇宙空間での適用可能性に係る調査」、熊谷組などの「索道技術を利用した災害対応運搬技術の開発」、鹿島建設などの「建設環境に適応する自律遠隔施工技術の開発-次世代施工システムの宇宙適用」、清水建設などの「自律施工のための環境認識基盤システムの開発及び自律施工の実証」、小松製作所の「月面建設機械のデジタルツイン技術構築」が選定された。

2022年度には、新たに大成建設などによる「月面環境に適応するSLAM自動運転技術の開発」や有人宇宙システムによる「トータル月面建設システムのモデル構築」など3件が追加されている。

鹿島建設とJAXA、芝浦工業大学は、環境が異なる月面での自律遠隔施工確立に向け、仮想空間上で再現可能なシミュレーション・プラットフォームの開発を進める。このプラットフォームを月面施工検討用に拡張することで月面の大規模施工シミュレーションを実現するほか、地上における自律自動化施工システムにも成果を活用していく方針だ。

清水建設とボッシュは、地球からの信号が数秒単位で遅延する環境を前提に、地球側での判断を極力少なくした自律施工実現に向けAIによって建機側の判断範囲を広げ、自律分散型に近い施工を可能とするシステムを構築・実証するという。

大成建設とパナソニック アドバンストテクノロジーは、測位衛星システムがない月面環境での位置情報取得に向け、LiDAR-SLAM技術と人工的な特徴点を活用するランドマークSLAM技術を統合し、特殊環境に適応可能な自動運転技術の構築を目指すとしている。

【参考】大成建設らの取り組みについては「大成建設、月面に適応する「SLAM自動運転技術」開発へ」も参照。

自動車メーカーも宇宙事業を本格化

トヨタは2019年、燃料電池車技術を用いた月面でのモビリティ「有人与圧ローバ」の研究に向け、JAXAと共同研究協定を締結した。2020年には、試作車の愛称を「LUNAR CRUISER(ルナ・クルーザー)」と命名し、シミュレーションによる動力や放熱の性能確認、タイヤの試作・走行評価、VR(仮想現実)や原寸大模型を活用した有人与圧ローバ内部の機器配置の検討など、各技術の要素となる部品の試作や試作車の製作に取り組んでいることを発表している。

一方、ホンダも2021年、新領域への取り組みとして宇宙領域への挑戦を掲げている。燃料電池や高圧水電解技術を生かした月面での循環型再生エネルギーシステムの構築をはじめ、多指ハンドやAIサポート遠隔操縦機能、高応答トルク制御技術などの月面遠隔操作ロボットへの応用、再使用型の小型ロケットの研究開発などを進めていく構えだ。

【参考】トヨタの取り組みについては「トヨタ自動車、JAXAに協力してAI自動運転技術を宇宙で提供へ」も参照。

■【まとめ】自動運転分野からの新規参入に注目

今後、モビリティ技術や自動運転技術、建設技術などを月面探査に応用していく動きが加速していくものと思われる。同時に、TRUST SMITHのような高度なAI技術を有するスタートアップの参入も続発し、宇宙開発が大きく進展する可能性が考えられる。

親和性の高い自動運転分野からの新規参入にも注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転業界のスタートアップ一覧(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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