MaaS実現を目指す各陣営と地域プロジェクトまとめ

JR東日本やMONET、小田急などがリード



全国各地でMaaS実現に向けた取り組みが産声を上げている。モビリティ変革コンソーシアムやMONETコンソーシアムといった大掛かりな組織化から、地域プロジェクトとして立ち上がった協議会の結成などグループ化が進んでいるようだ。


今回は、MaaS実現に取り組む各陣営をピックアップし、現時点におけるMaaS開発分野の業界地図をあらわにしていこう。

■MaaS Japan:小田急電鉄&ヴァル研究所が中心で

小田急電鉄株式会社と株式会社ヴァル研究所が中心となり、交通データやフリーパス・割引優待などの電子チケットを提供するためのデータ基盤として開発を進めているのが「MaaS Japan」だ。

2019年4月に両社によって開発が発表され、翌5月には九州旅客鉄道株式会社、遠州鉄道株式会社、日本航空株式会社、JapanTaxi株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)の各社が、データの連携およびサービスの検討を行うことに合意し、仲間入りした。

「MaaS Japan」は、小田急電鉄がヴァル研究所の支援のもと開発しているデータ基盤で、鉄道やバス、タクシーなどの交通データや各種フリーパス・商業施設での割引優待をはじめとした電子チケットの検索・予約・決済などの機能を持つ。


このデータ基盤は、MaaSアプリへの提供を前提とした日本初のオープンな共通データ基盤として、他の交通事業者や自治体などが開発するMaaSアプリにも活用できるものにしていく方針だ。

今回の連携では、九州旅客鉄道と遠州鉄道が運行情報や施設情報、乗車券や特急券、企画乗車券などの一部情報を提供し、小田急電鉄が開発するMaaSアプリ上における情報表示や商品の予約受付・販売を目指していく。

日本航空も運航情報を提供し、小田急のアプリ上における検索結果の表示のほか、将来的には他の交通事業者・自治体などが開発するアプリでも同様に運航情報を表示できるよう検討を進めていく。

【参考】MaaS Japanについては「存在感高まる「MaaS Japan」、タクシー配車システムとも連携へ 小田急電鉄が発表」も参照。


また、JapanTaxiとDeNAは、両社が保有するタクシー配車システムと「MaaS Japan」を接続し、小田急のアプリ上でシームレスにタクシーの予約・配車・決済サービスができる環境の構築を目指し、将来的には他の交通事業者・自治体等が開発するアプリにおいても同様のサービス展開できるか検討していくこととしている。

小田急はまた、2018年12月にヴァル研究所とタイムズ24株式会社、株式会社ドコモ・バイクシェア、WHILL株式会社と、MaaSの実現に向けシステム開発やデータ連携、サービスの検討を相互に連携・協力することに合意している。

ヴァル研究所の検索エンジンと連携し、小田急グループの鉄道やバスなどの交通データをはじめ、タイムズ24のカーシェアリングサービスやドコモ・バイクシェアのサイクルポートのデータ表示を可能にしていくほか、次世代型電動車椅子の開発を進めるWHILLとの連携も行い、ラストワンマイルの移動手段につなげていく構えだ。

【参考】小田急とヴァル研究所の取り組みについては「「小田急MaaS」アプリ実現へ、2019年に実証実験実施」も参照。

■モビリティ変革コンソーシアム:2019年8月時点で157団体・企業が参画

解決が難しい社会課題や次代の公共交通について、交通事業者をはじめ各種国内外企業、大学・研究機関などがつながりを創出し、オープンイノベーションによってモビリティ変革を実現する場として設立された組織。JR東日本を中心に、2019年8月時点で157団体・企業が参画している。

【参考】モビリティ変革コンソーシアムについては「【インタビュー】将来あるべきMaaSの姿を模索 JR東日本のモビリティ変革コンソーシアム」も参照。

この中で、「Door to Door 推進ワーキンググループ」の活動としてJR東日本が日立製作所とドコモ・バイクシェア、国際自動車が協力し、新たなスマートフォンアプリ「Ringo Pass」にSuicaID番号とクレジットカード情報を登録することで、複数の交通手段を利用することができるシステムを開発した。

また、Suica認証による交通事業者・デマンド交通・商業施設の連携に関するMaaS実証として、日本電信電話、NTTデータとともにデマンド交通連携の実証実験を行っている。

このコンソーシアムを基にJR東日本はMaaS実現に向けた取り組みを加速しており、2019年4月にMaaS事業戦略を一元的に企画・立案し、強力かつスピーディに推進する新たな組織として、技術イノベーション推進本部内に「MaaS事業推進部門」を設置した。

また、同月から東京急行電鉄株式会社と株式会社ジェイアール東日本企画とともに、鉄道やバス、AI(人工知能)オンデマンド乗合交通、レンタサイクルなどの交通機関をスマートフォンで検索・予約・決済でき、目的地までシームレスに移動できる2次交通統合型サービス「観光型MaaS」の実証実験を「静岡デスティネーションキャンペーン」に合わせて伊豆エリアで開始している。2019年7月には、新潟県観光協会と10月から新潟市内において「観光型MaaS」の実証実験を行うことも発表している。

このほか、「MaaS Japan」の中心となる小田急電鉄、ヴァル研究所とも連携した活動について検討を進めるなど、固まった組織ではなく広範にわたるコンソーシアムのネットワークを生かした各種取り組みを推進している印象だ。JR東日本が核になることにより、それぞれの取り組みが将来つながりを持ち、巨大なMaaS組織を形成する可能性は十分考えられるだろう。

【参考】JR東日本と小田急との取り組みについては「JR東日本と小田急、MaaS分野で連携検討 独自開発アプリなど連動か」も参照。

■MONETコンソーシアム:トヨタ自動車とソフトバンクが主導

トヨタ自動車とソフトバンクが2018年10月に設立を発表したMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)もMaaSを事業の柱に据える一社だ。

トヨタのコネクテッドカー情報基盤「モビリティサービスプラットフォーム(MSPF)」とソフトバンクの「IoTプラットフォーム」を連携させる試みに取り組んでおり、その一環として、相乗り可能なオンデマンドバスの配車予約の実証実験を「MONETプラットフォーム」を用いて各地で行っている。

2019年3月には、モビリティイノベーションの実現に向け企業間の連携を推進する「MONETコンソーシアム」の設立を発表。多様な業界・業種の企業参加のもと、自動運転を見据えたMaaS事業開発などの活動を行うことで、次世代モビリティサービスの推進と移動における社会課題の解決や新たな価値創造を目指すこととしている。

発表時点で、コカ・コーラ ボトラーズジャパンやサントリーホールディングス、JR東日本、フィリップス・ジャパン、三菱地所、ヤフーをはじめとする計88社が参加している。モビリティ変革コンソーシアムと比較し、小売りなどのサービス系企業の参加が多いのが特徴だ。

モネは自治体との連携協定なども促進しており、モビリティ変革コンソーシアムとは異なる視点からMaaSの実現に取り組んでいる。

■MaaSを日本に実装するための研究会:民間企業や有識者、自治体が参加

一般社団法人ブロードバンド推進協議会がMaaS実装を推進するため、民間事業者や有識者、自治体などによる「MaaSを日本に実装するための研究会」を2019年3月までに発足した。

MaaSを取り巻くさまざまな課題について意見交換を行い、報告書として取りまとめ関係省庁へ提出したり、実装に向けた事業者間の連携実現などを図っていくこととしている。

参加者には、3月時点でJR東日本やモネ・テクノロジーズをはじめ、akippa、notteco、SBドライブ、ジョルダン、JTBコミュニケーションデザイン、みちのりホールディングスなど26団体が名を連ねている。

【参考】MaaSを日本に実装するための研究会については「「MaaSを日本に実装するための研究会」発足 トヨタとソフトバンクが共同出資のMONETも参加」も参照。

■my route:JR西日本とトヨタ自動車が福岡で実証実験

my routeは、西日本鉄道株式会社とトヨタ自動車が2018年11月から福岡市で実証を進める、スマートフォン向けマルチモーダルモビリティサービスだ。

駐車場検索のAkippa、シェアサイクルサービス「メルチャリ」を展開するメルカリグループをはじめ、JapanTaxi、アクトインディ、アソビュー、ipoca、サンマーク、福岡市の協力のもと、福岡市周辺のバスや鉄道、地下鉄といった公共交通やタクシー、レンタカー、自家用車、自転車、徒歩など、さまざまな移動手段を組み合わせた移動ルートの選択肢を提供している。また、タクシーの予約や決済、西鉄バスのデジタルフリー乗車券の購入を可能にするなど、移動手段の予約から利用までを1つのアプリの中で行うことができるサービスを提供するほか、イベントや店舗・スポット情報も提供し、外出のきっかけ作りや目的地付近での回遊性の向上を図っている。

■京急アクセラレータープログラム:オープンイノベーションで新規事業を創出

京浜急行電鉄株式会社と株式会社サムライインキュベートが手掛ける、ベンチャー・スタートアップ企業とのオープンイノベーションによって新規事業の創出を目指す取り組み。

「モビリティを軸とした豊かなライフスタイルの創出」を新規事業創出のビジョンに掲げ、同プログラムにおいて「Mobility(移動)」「Living・Working(くらし・働き方)」「Retail(買い物)」「Entertainment(観光・レジャー)」「Connectivity(テクノロジーの活用)」の各テーマごとに新たな顧客体験の創出を目指すとともに、鉄道を軸とした移動インフラと各サービス、および沿線地域をつなげていく「地域連携型MaaS」の実現を図ることとしている。

2019年4月に発表されたプログラム第2期の採択企業は、空飛ぶクルマなどの新たな次世代交通網の創出を目指す株式会社AirX、荷物預かりシェアリングサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」を展開するecbo株式会社、宿泊予約やレストラン予約などができる旅行特化型AIチャットボットサービスを展開するtripla株式会社、タクシー相乗りマッチングサービスを手掛ける株式会社NearMe、傘のシェアリングサービス「アイカサ」を展開する株式会社Nature Innovation Groupの5社。

各社はプログラムに沿い、オンデマンド・シャトル(相乗り)の試験運行などのテストマーケティングを進めていく。

また、京急とサムライインキュベート、株式会社ヒトカラメディアの3社は2019年7月、東京都内に「モビリティ変革」と「MaaS」をテーマとしたオープンイノベーション拠点「AND ON SHINAGAWA(アンドオン品川)」を開設したことも発表しており、スタートアップらの支援を強化するとともにMaaS実現に向けた取り組みを加速していく方針だ。

【参考】KEIKYU ACCELERATOR PROGRAMについては「「モビリティ変革」「MaaS」がテーマのイノベーション拠点 京急などが発表」も参照。

■ZMP×日の丸交通ら7社:空港リムジンバスと自動運転タクシーを連携

東京空港交通株式会社、東京シティ・エアターミナル株式会社、日本交通株式会社、日の丸交通株式会社、三菱地所株式会社、株式会社ZMP、株式会社JTBの7社は2019年7月、MaaSを活用し空港リムジンバスと自動運転タクシーを連携させた都市交通インフラの実証実験を行うことを発表した。

ZMPと日の丸交通らが2018年に取り組んだ自動運転タクシーの営業サービス実証実験を発展させる形で、成田・羽田両空港と東京シティ・エアターミナルを結ぶ空港リムジンバスと自動運転タクシーを連携させ、空港から丸の内エリアへのスムーズな移動を目指すこととしている。

■新モビリティサービス推進事業における枠組み

国土交通省が進める新モビリティサービス推進事業においても、全国各地で新たな枠組み・陣営が誕生している。

兵庫県神戸市では、同市とみなと観光バス、日本総合研究所、神戸空港タクシー、大和自動車交通が協議会を組み、MaaSアプリの開発や実証を進めている。茨城県日立市では、同市とみちのりホールディングス、茨城交通、茨城大学、電鉄タクシー、日立製作所などがジョルダンを交え実証を進めている。

同様に、群馬県前橋市では、同市や群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センター、NTTデータ、未来シェア、ジョルダン、各交通事業者が前橋版MaaS実証委員会を設置。京丹後地域では、WILLERや丹後海陸交通、全但バス、AZAPAらが各自治体とともに協議会を構成するなど、19地域でそれぞれの陣営がMaaS実現に向け取り組んでいる。

【参考】新モビリティサービス推進事業については「いざMaaS元年へ!決定した19の先行モデル事業の詳細 自動運転やライドシェアの導入も」も参照。

■観光型MaaSの取り組み

新モビリティサービス推進事業と一部重複するが、観光型MaaS構築に向けた取り組みもにぎやかだ。瀬戸内エリアでは、JR西日本が進める観光型MaaSの実証実験「setowa」に、ジョルダンや電脳交通、タイムズ24、JR西日本レンタカー&リース、しまなみジャパン、ぐるなび、ジェイアール西日本フードサービスネット、日本旅行、瀬戸内海汽船の各社が参加。JapanTaxiも参加し、連携した取り組みを進めている。

また、同エリアではANAホールディングスやscheme verge、高松商運、ことでんグループ、JR四国、日新タクシー、川県旅客船協会、電通、香川大学、せとうち観光推進機構、高松空港、穴吹興産らが連携し、MaaSアプリ「Horai」の連携基盤システム開発実験などを行っている。

一方、沖縄県の久米島では、豊田通商が地元のレンタカー会社やホテルなどと連携し、観光型MaaS事業「久米島Ha:mo」を2019年7月にスタートしている。

【参考】瀬戸内エリアにおける取り組みついては「タクシー配車アプリJapanTaxi、瀬戸内エリアにおける観光型MaaSの実証実験と連携!」も参照。

■【まとめ】各陣営メンバーが入り混じるMaaSプロジェクト、異業種連携とともに加速

広範なネットワークと全国基盤を持つJR各社や、MaaS分野に力を入れるトヨタ(モネ・テクノロジーズ)らが巨大なコンソーシアムを形成するほか、鉄道やタクシーなどの交通事業者らが地域型MaaSの開発に取り組み、プラットフォーマー系が各陣営に合流するような構図だが、各陣営間で重複する企業も多い。明確なグループ分けができないのは、横の連携や他業種連携が必須となるMaaSの特徴と言えるだろう。

今後、各地においてMaaS上における交通事業者のサービス連携が進むとともに、汎用性に優れたプラットフォームが開発され、地域間の連携による中長距離の移動への対応なども進んでいくものと思われる。

MaaS開発は黎明期を迎えたばかりだが、開発の勢いは想像以上に強い。モビリティサービスの変革を肌で感じられる日は、思いのほか早く訪れそうだ。

【参考】関連記事としては「MaaS(マース)の基礎知識と完成像を徹底解説&まとめ」も参照。


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