やっぱりトヨタとソフトバンクの組み合わせが最強な件 MaaS系会社で最有力

早くも発表から4カ月で事業着手



出典:TOYOTA Global Newsroom公式Youtube動画から作成

新しいモビリティサービスの構築に向けて戦略的提携を結び、2018年10月に新会社「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」の設立を発表したトヨタ自動車とソフトバンク。発表からわずか4カ月で早くも事業に着手しており、そのスピード感はまるでベンチャー企業さながらだ。

この高い機動力の源はいったい何なのか。トヨタとソフトバンク、そしてモネの動向を探り、その強みに迫ってみた。


■MONETのこれまでとこれから

モネの正確な設立日は2018年9月28日で、2019年1月23日に合弁会社化された。

トヨタが構築したコネクティッドカーの情報基盤である「モビリティサービスプラットフォーム(MSPF)」と、スマートフォンやセンサーデバイスなどからデータを収集・分析し、新しい価値を生み出すソフトバンクの「IoTプラットフォーム」を連携。車や人の移動に関するさまざまなデータを活用することによって需要と供給を最適化し、移動における社会課題の解決や新たな価値創造を可能にする未来のMaaS事業を手掛けることとしている。

事業内容には「オンデマンドモビリティサービス」「データ解析サービス」「Autono-MaaS事業」を掲げており、まずオンデマンドモビリティサービス領域において、2018年度内に自治体や企業と連携した「地域連携型オンデマンド交通」や「企業向けシャトルサービス」の展開を開始することとした。

17自治体と連携、まず豊田市でオンデマンドバス実証

2019年2月には、自動運転社会の実現を見据え、次世代オンデマンドモビリティサービスの提供に向けて全国の17自治体と連携することを発表しており、豊田市における実証実験を皮切りに2018年度中に横浜市、豊田市、福山市でもオンデマンドバスの実証実験を行う。


豊田市では、モネのオンデマンド型交通向けの配車プラットフォームを活用し、2月末からオンデマンドバス「おばら桜バス」を運行する。おばら桜バスは、乗降するバス停や日時、人数を指定して利用可能なオンデマンドバスとして2009年から運行しているが、今回のプラットフォームの導入により、従来の電話に加えスマートフォンから専用のアプリケーションで手軽に予約可能になるほか、バス車内にタブレットを設置し、予約状況に応じた最適な運行ルートをドライバーに提示する。また、バスの運行管理者は、専用の管理者画面から運行状況を確認することも可能になる。

【参考】関連記事としては「MONET、トヨタの企業城下町を走る”呼出型バス”に技術提供」も参照。

三菱地所と丸の内とオンデマンド通勤シャトル実証

また、三菱地所株式会社とMaaS実現に向けた移動時間の変革に関する検討も開始しており、東京・丸の内エリアで2019年2~3月に、スマートフォンのアプリで選択した場所から勤務地付近まで送迎するサービス「オンデマンド通勤シャトル」の実証実験を「ビジネスパーソン」向けと「ワーキングパパ・ママ」向けに実施し、ニーズやオペレーションの検証を行う。

ビジネスパーソン向けはトヨタの「アルファード」を使用し、Wi-Fiサービスや膝上テーブルの提供、充電プラグの設置、軽食の販売などの車内サービスを行う。また、ワーキングパパ・ママ向けは「エスクァイア」を使用し、チャイルドシートの設置や絵本の提供、軽食の販売などを予定している。

将来的にはe-PaletteでAutono-MaaS事業

将来的には、2020年代半ばまでに移動や物流、物販など多目的に活用できるトヨタのモビリティサービス専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette(イーパレット)」による「Autono-MaaS」事業の展開を目指す。

例えば、移動中に料理を作って宅配するサービスや、移動中に診察を行う病院送迎サービス、移動型オフィスといったモビリティサービスを、需要に応じてジャスト・イン・タイムで提供することを想定しており、グローバル市場への提供も視野に事業を展開していくこととしている。

■トヨタのMaaSのこれまでの動き

トヨタは2018年に入ってから急速にMaaSに向けた動きを加速している。基本的には、さまざまな移動サービスを予約や決済なども含めシームレスにつなぐ狭義のMaaSというより、純粋に移動のサービス化を模索している印象だ。

MaaSの目玉は「e-Palette Concept」

MaaSを象徴する目玉として同年1月に初公開した「e-Palette Concept(イーパレット・コンセプト)」は、ライドシェア仕様をはじめ、ホテル仕様、リテールショップ仕様といったサービスパートナーの用途に応じた設備を搭載することができ、移動や物流、物販など多目的に活用できる次世代のモビリティサービス車両に位置付けている。

開発における初期パートナーとして、米EC大手のAmazon.com(アマゾン)、中国ライドシェア大手のDidi Chuxing(ディディ)、米ファストフードチェーン大手のPizza Hut(ピザハット)、米ライドシェア大手のウーバー、マツダがそれぞれ参加しており、サービスの企画段階から実験車両による実証事業に至るまで共同で進めていく予定だ。

2020年代前半にさまざまな地域でサービス実証を目指すほか、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には、一部機能を搭載した車両で大会に貢献することとしている。

【参考】イーパレットについては「トヨタのe-Paletteとは? MaaS向けの多目的EV自動運転車」も参照。

ウーバーとライドシェア領域で協業

海外においては、ウーバーとライドシェア領域における協業を検討する旨の覚書を2016年5月に締結し、戦略的出資を行っているほか、東南アジアで配車サービスを手掛けるGrab(グラブ)とも同地域における配車サービス領域で2017年8月に協業を開始している。

また、2018年7月には、MSPFを活用したカーシェアサービス「Hui」を米ハワイ州で開始している。サービスの運営は、同州のトヨタ販売代理店Servco社が行っている。

このほか、2018年11月に発表し、2019年2月に事業化したサブスクリプションサービス「KINTO」なども、従来の「自家用車を所有」する考え方から一歩踏み出したものであり、MaaSに向けた伏線とみることもできそうだ。

■ソフトバンクのMaaSのこれまでの動き

モビリティ事業に本格参入するためグループ傘下のベンチャーとして2016年にSBドライブを設立している。

SBドライブを設立し、モビリティ事業に本格参入

SBドライブは、自動運転技術の導入や運用に関するコンサルティングをはじめ、旅客物流に関するモビリティーサービスの開発・運営を手掛けており、各地の自治体などと連携し、地域公共交通の課題解決や産業振興、次世代モビリティーサービスの創出に向けてさまざまな実証を進めている。

近年は自動運転バスの導入と自社開発した遠隔監視システム「Dispatcher(ディスパッチャー)」に力を入れており、西日本鉄道株式会社や江ノ島電鉄株式会社など、同システムを試験導入する動きも増えてきている。

世界のライドシェア事業者への出資も

ソフトバンクグループとしては、世界各地の有力ライドシェア事業者への出資・資本参加が際立っており、新しい移動サービスの確立に向け先行投資を惜しまない姿勢だ。

国内では、2019年2月に神奈川県と「Society5.0」の実現に向けた連携と協力に関する包括協定を、また岐阜市と地域活性化と市民サービスの向上に寄与することを目的とした包括連携協定をそれぞれ結んでおり、神奈川県との協定では、次世代モビリティサービスに向けたMaaSを推進するため、各種関連データの連携・利活用など実証事業を展開する。岐阜市においても、具体的内容は不明だが協定の中にMaaSが盛り込まれており、何らかの形で移動サービスを活用する考えのようだ。

【参考】ソフトバンクと自治体との協定については「ソフトバンク、神奈川県とMaaS事業推進などで協定締結」も参照。

■「トヨタ×ソフトバンク」で開発から実用化までのプロセスを網羅

トヨタは新しい移動サービスそのものの開発やMSPF事業に力を入れており、ソフトバンクは移動サービスの実用化に向けた課題の抽出や需要の掘り起こしなどを進めている。

自動運転・MaaS車両の開発とプローブ情報の収集・解析プラットフォームをトヨタが手掛け、実用化におけるソフトサービスや一般ユーザー向けのプラットフォームをソフトバンクが手掛けるような印象で、両社を合わせると開発から実用化までのプロセスが浮かび上がってくる。

このプロセスを実践するのがモネだ。新しい移動サービスの確立に向け、両社の強みを最大限生かすことが可能なモネは、次世代モビリティ業において国内最強の組み合わせといえるだろう。

4月以降もさまざまな場で実証実験を進めるものと思われ、早く新しい移動サービスの輪郭は予想以上に鮮明化されそうだ。


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