EV大手テスラのXデーが刻々と近付いてきた。イーロン・マスクCEOが10月10日、自動運転タクシーに関する取り組みについて発表する。
業績はもちろん、マスク氏の発言に敏感に反応するテスラの株価は、この発表を受けどのように上下動するのか。場合によっては、市場にとてつもないインパクトを与えることも考えられる。
テスラのこれまでの株価変動要因とともに、自動運転タクシー構想の行方に迫ってみよう。
moomoo証券
記事の目次
■テスラ株の変動
業績発表&自動運転タクシー延期で12%下落
自動運転タクシーに関する発表は当初8月8日を予定していたが、7月23日開催の2024第2四半期決算説明会の場で急遽延期が発表された。自動運転タクシー向けのモデルと言われる「Cybercab(サイバーキャブ)」のデザイン変更などが求められたことに伴い、プロトタイプの製作に時間を要するためという。
前年同期比で純利益が落ち込んだことに加え、この延期の発表でテスラの株価は246.38ドル(7月23日終値)から215.99ドル(7月24日終値)へと約12%下落した。
テスラにとって、こうした上下動は日常茶飯事だ。同社の2024年初の株価は248.42ドル(1月2日終値)だったが、2024年第1四半期決算発表までに緩やかに下降し、決算発表日(4月23日)には144.68ドルの値を付けていた。
しかし翌日には162.13ドルまで上昇し、7月上旬には年初の水準まで戻している。7月1日~2日には、209.86ドルから231.26ドルまで約10%上昇した。おそらく、第2四半期決算の速報に基づく上昇と思われるが、前述したように正式な決算発表後には急落している。
マスク氏の発言で上下動することも
同社の投資家には、熱心なテスラ信者(マスク信者)もいれば、スイングトレードを主体とする短期ホルダーも多いのだろう。多くの機関投資家らの的になっている点も大きく、アナリストの一声にチャートが敏感に反応することも珍しくない。
加えて、テスラの広告塔であるマスク氏の発言力だ。炎上上等のスタンスでビッグマウスを発し続けるその影響力は衰えることなく増すばかりで、良くも悪くも株価を大きく左右している。
モラルを欠いた発言も多く、2018年4月1日には、旧Twitter(ツイッター)で「テスラが全面的に経営破綻したことを伝えるのは残念だ」とつぶやいた。エイプリルフールのジョークだが、前月にはリコールなどを背景に2割ほど株価を下げており、「さすがに笑えない」といった声が相次いだ。同社株価はさらに5%ほど値を下げる結果となった。
同年8月には、Twitterで「420ドルで非公開化することを検討している。資金は確保した」とつぶやいたところ、株価は一時10%超値を上げた。ただ、これはマスク氏独断の発言であり、不正に株価に影響を及ぼす行為などとして米証券取引委員会(SEC)から調査が入り、証券詐欺で訴えられた。
最終的にマスク氏はテスラの会長職を降り、さらにテスラとマスク氏両者がそれぞれ2000万ドル(当時のレートで約22億円)を支払うことで和解する事態に発展した。
2020年5月には「テスラの株価は高すぎる」とつぶやいたところ、株価は10%超値を下げた。黒字化を果たし右肩上がりで高値更新を続けていた際の発言だ。しかし、その翌日には再び値を上げ始めている。
【参考】マスク氏の過去の発言については「電気自動車大手テスラ、株式非公開化も検討 イーロン・マスクCEOがツイート」も参照。
自動運転に関してはオオカミ少年状態?
自動運転に関する発言ももはや名物化している。2016年ごろから言及することが多くなり、「今年中に実現する」「年末までにオーナーの元に送り出す」といった類の発言を毎年のように繰り返している。もちろん、今のところ実現していない。
オーナーや投資家は期待感と失望感を繰り返し味わわされており、最初のうちは一喜一憂していたが、最近では慣れっこになってしまった感もうかがえる。オオカミ少年状態だが、全体としては期待感が上回っているからこそ今のテスラがあるのだろう。
自動運転タクシー関連でも過去にビッグマウス
自動運転タクシーに関しては、2016年7月に発表した「マスタープランパート2」の中で触れている。自動運転車を活用したシェアリングサービスに言及しており、これが自動運転タクシー構想の原型となっている。
テスラの専用スマートフォンアプリをタップし、マイカーをテスラの共有フリートに追加することで、各オーナーはマイカーを無人自動運転タクシーとして稼働可能になる。正確に言えば、自動運転ライドヘイリング(ライドシェア)サービス構想だ。
この構想は、2019年に開催した投資家デーで正式に公表された。オーナーは、FSD(Full Self Driving)を搭載した自動運転車をリース契約で所有し、使用しない時間帯にマイカーをテスラの配車サービスプラットフォーム「TESLA NETWORK(テスラネットワーク)」に登録することで、ロボタクシーとして無人で稼働させることができる――といった内容だ。
テスラの試算によると、オーナーは1マイル(1.6キロメートル)あたり0.65ドル(当時のレートで約71円)を得ることができるという。
9万マイル(約14万5000キロメートル)走行すれば3万ドル(同約330万円)得ることができ、この分をリース料金と相殺できる。事故の際の責任はテスラが負い、リース契約終了後は車両をテスラに返却する。
マスク氏は当時、自動運転技術を2019年中に完成し、2020年末までに市場化すると豪語していた。自動運転タクシーも2020年中に100万台以上稼働させるとしていた。もちろん、このマスク氏のビジョンはいまだ達成されていない。
【参考】2019年発表のロボタクシー構想については「米テスラ、2020年に100万台規模で自動運転タクシー事業」も参照。
ロボタクシーの量産を2024年ごろスタート?
2022年第1四半期決算説明会では、ハンドルもペダルもないロボタクシーの量産を2024年ごろにスタートし、市場化する計画を発表した。
ロボタクシー車両は自動運転を念頭においてゼロから設計しており、その外観は未来的で、ハンドルやペダルを排除することで設計の自由度を高めるという。これがオーナーカーを指すものなのか、純粋な商用車を指すものなのかは不明だ。
ハンドルなどを備えないオーナーカーであれば、さすがに技術的に追い付かない可能性が高く、商用車専用かもしれない。だとすれば、これまでのロボタクシー構想とは内容が変わってくる。
いずれにしろ、現時点で量産化は正式発表されていない。10月の発表でこの計画に対するロードマップが改めて示される可能性も高そうだ。
【参考】2022年発表のロボタクシー構想については「マスク氏「2024年までに自動運転タクシー」 運賃はバス並み」も参照。
■自動運転タクシー発表の影響
発表受け株価は爆上げ?爆下げ?
マスク氏にとって、自動運転開発の期限はそれほど重要ではないのだろう。本気で「〇×までに~」という期限を信じて邁進していたとしても、相次ぐ約束破りを重ねるうちに自重するのが普通だ。テスラの自動運転開発を宣伝することが主体であり、話題として盛り上がれば良い――くらいに考えているのかもしれない。
さて、10月10日に迫った自動運転タクシー発表会はどうなるのか。いくつかのシナリオが考えられる。
一つ目は、再延期、または発表取りやめだ。株価にマイナスに影響することとなるが、マスク氏ならあり得るだけにやや心配だ。ただ、会場となる映画スタジオはすでに押さえており、株主が参加する方法なども発表されているため、開催されることはほぼ間違いない。
では、発表されたとして、その内容が期待外れだった場合はどうだろうか。想像を下回るありきたりの車体で、自動運転機能もお粗末だった場合だ。例えば、会場で自動運転のデモンストレーションを行ったものの、何らかの事故を起こす可能性もある。
過去、マスク氏はサイバートラックのお披露目時、その頑丈さをピーアールしようと窓に向かって鉄球を投げたところ、窓が割れてしまったことがある。これは笑い話で済んだが、自動運転の場合、致命的な評価を下される恐れもある。
こうした事態が発生した場合、その影響は開催を取りやめたケースよりも負の方向に働き、株価が10%以上下落する――といったことも考えられるだろう。テスラとしては一番避けたいシナリオだ。
一方、洗練された自動運転タクシーがお披露目され、デモンストレーションも上々の出来だった場合、テスラへの期待は大きく膨らむ。実用化・市場化に向けたロードマップも具体化され、「2025年中に実現」など発表されれば同社の株価は爆上がりし、テスラバブルが再度発生する可能性もある。
後々、ロードマップの期限は守られないかもしれないが、それでも未来に向けた期待が勝り、上昇し続ける、あるいは高水準で推移する可能性も考えられそうだ。
自家用車の新モデルが発表される可能性も
発表当日、合わせて自家用車の新モデルもお披露目される可能性がある。小型の低価格帯の新BEV「モデル2」の発表が有力だ。後述するが、同モデルは自動運転タクシー「サイバーキャブ」とプラットフォームを共有している可能性もあり、「自家用車仕様」と「自動運転仕様」の同時発表でより大きな注目を集めることも考えられるだろう。
■サイバーキャブに関する情報
サイバーキャブは小型モデル?モデル2と共有?
一部メディアやアナリストによると、サイバーキャブはモデル3やモデルYよりも小さいプラットフォームを採用しているという。
テスラはこれまで低価格帯の新BEV「モデル2」を2025年後半に市場化する目標を掲げており、このプラットフォームを活用することで自動運転タクシーの量産効果を高める可能性がある。
今のところ、テスラの自動運転タクシーは豪華なモデルではなく、低コスト化に焦点を当てている――とする見方が強い。これが正しければ、モデル2とベースを共有することで生産効率を上げることは十分考えられる。
新モデルの投入を求める声が多い中、果たしてテスラはどのような戦略を打ち出すのか。要注目だ。
カリフォルニア州で実証走行の目撃相次ぐ
自動運転実証に関しては、自動運転タクシーの発表会場となるカリフォルニア州バーバンクでデータ収集していると思われるテスラ車両の目撃が相次いでいるようだ。ルーフに従来とは明らかに異なるセンサー群を搭載したテスラ車両が頻繁に走行しているという。
車両はモデル3のようだが、サイバーキャブ用の実証車両ではないかといった憶測が広がっている。
カリフォルニア州の道路管理局(DMV)によると、テスラは運転手付きの公道走行ライセンスを取得しているものの、2023年の走行実績はない。
テスラは、自家用車向けの自動運転(ADAS)システム「FSD」を進化させて自動運転を実現する戦略を採用しており、基本的にエリアを制限せず各オーナーカーからデータを収集してレベル5実現を目論んでいる。
ただ、走行可能エリアとなるジオフェンスを設けない手法では許認可の関係上自動運転の実現は現実的に難しいはずだ。
もしかしたら、自動運転サービスの早期実現に向け、Waymoなどと同様まずは一定領域で実用化を図り、順次拡大していく戦略に方針転換したのかもしれない。
レベル4という現実路線への転換となるが、レベル5に向けた過程である限り、投資家は賛同する可能性が高く、株価爆上げにつながるかもしれない。
マスク氏の頭の中にはどのような戦略が描かれているのか。こうした面にも要注目だ。
【参考】テスラの取り組みについては「テスラの自動運転技術・Autopilot/FSDを徹底分析(2024年最新版)」も参照。
■【まとめ】市場にかつてないインパクトをもたらす可能性も
EVメーカーとして一定の地位を築き、次のフェーズに差し掛かった感が強いテスラ。自動運転タクシーの発表は、「自動運転」が同社の新たな原動力となり得るか、その一端が垣間見える発表になるはずだ。
そして、それに対する投資家判断は株価に反映される。場合によっては、かつてないインパクトを市場にもたらす可能性もある。
発表まで残り1カ月を切った。果たしてテスラは、投資家の期待に応えることができるのか。要注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転、米国株・日本株の関連銘柄一覧(2024年最新版)」も参照。