空飛ぶクルマ、「販売競争」に火蓋 個人向けの予約販売など続々

研究開発段階から次のステージへ



出典:Jetson公式YouTube動画

空飛ぶクルマの市場化に向けた動きが活発化している。スウェーデンのスタートアップJetsonは個人向けの予約販売に着手するなど、研究開発から次のステージに進みつつあるようだ。

この記事では、Jetsonの取り組みをはじめ、開発各社の動向に迫っていく。


■Jetsonの取り組み

Jetsonは2017年創業のスタートアップで、小型軽量タイプの個人向けeVTOL(電動垂直離着陸機)の開発を進めている。

初号機となる「Jetson ONE」は、アルミニウムやカーボンファイバーを使用することで重量86キロ、サイズも2,480×1,500×1,030ミリメートルと非常にコンパクトなボディを実現している。折りたたんだ際は、幅900ミリメートルまで縮めることができる。

モーターは高出力電動ブラシレスアウトランナー8基を備え、1基が故障しても安全に飛行することができるという。高放電リチウムイオンで飛行時間20分、飛行速度は最大時速108キロメートル、高度約457キロメートルまで飛行することができる。航続距離は掲載されていないが、単純計算すると最大36キロメートルとなる。

操作は3軸ジョイスティックやスロットルレバーで制御する。三重冗長フライトコンピューターや障害物を検知するLiDAR、万が一の際に使用する緊急着陸用パラシュートなどを備えている。


レクリエーション用途などの超軽量航空機(Ultralight)に分類されるものと思われ、操縦者免許は不要のようだ。報道によると、Jetsonが購入者に1日間の飛行訓練を行うこととしている。

2021年10月に受注を開始し、デポジット(保証金)2万2,000ドル+7万ドルの計9万2,000ドル(約1,060万円)で販売している。

2022年中に納品予定の12機は完売しており、2023年分もすでに103機が予約済みで、残り3機が予約可能となっている(2月11日時点)。米国、カナダ、ドイツ、メキシコ、フィンランド、アラブ首長国連邦など世界各地から引き合いがあるようで、中には日本の「下田市」のクライアントもいるようだ。

▼Jetson公式サイト
https://www.jetsonaero.com/


■空飛ぶクルマ開発各社の動向
すでに販売実績豊富なEhang

中国のEhang(イーハン)はすでにeVTOL「EHang 216 AAV」の販売を行っており、2019年に61機、2020年に70機を売り上げている。2021年第3四半期は8機を納品したようだ。

2021年12月には、長距離EV旅客グレードの「VT-30」の注文を岡山倉敷水島航空宇宙産業クラスター研究会(MASC)から受けたと発表したほか、2022年1月には、エアモビリティ事業を手掛ける日本のAirXから「EH216」50機の予約注文を受けたことをそれぞれ発表している。

AirXによる大型注文は、2025年開催予定の大阪・関西万博での運航を見据えたものだ。豊富な実用実証の実績を誇るEH216が日本に本格導入される日もそう遠くなさそうだ。

なお、EH216は2人乗りで、時速130キロ、航続距離35キロメートルのスペックを誇る。機体価格は2020年時点で33万6,000ドル(約4,000万円)となっている。

▼Ehang公式サイト
https://www.ehang.com/index.html

【参考】大阪・関西万博については「大阪万博が「空飛ぶクルマ万博」になりそう」も参照。

テトラも2021年に予約販売開始

国内では、テトラ・アビエーションが1人乗りモデル「Mk-5」の予約販売を2021年に開始している。当初計画では約40機の予約を受け付け、2022年度中に納品開始する予定という。

Mk-5は8,620×6,150×2,510ミリメートルで重量488キログラム、モデルにより異なるが最高時速108キロ~160キロメートル、航続距離は76~160キロメートルとなっている。価格は約4,000万円という。

同社は2018年設立の東京大学発スタートアップ。2020年に米国で開催された1人乗り航空機の国際大会「GoFly」にレーシングモデル「MK-3」で挑み、破壊的イノベーターに贈られるディスラプター賞を受賞するなど高い技術力を有する。

日本企業が世界を舞台に活躍する日もそう遠くなさそうだ。

▼テトラ・アビエーション公式サイト
https://www.tetra-aviation.com/

空陸両用eVTOL「ASKA」も予約開始

空陸両用のeVTOL「ASKA」の開発を進めるNew Future Transportation(NFT)も2021年に個人向けの予約受付を開始している。

創業者は日本人女性起業家のカプリンスキー真紀氏とイスラエル人のカプリンスキー・ガイ氏夫妻で、ASKAも日本語の「飛ぶ鳥」に由来している。

地上走行と飛行を両立するハイブリッドVTOL「ドライブフライビークル」をコンセプトに据えた4人乗りモデルで、最大時速240キロメートル、航続距離400キロメートルを実現する見込みだ。

2026年納品を目標に掲げ、現在ファウンダーズクラブメンバーの受け付けを行っている。最初の数年間に生産されるモデルを対象とした限定サービスで、エアモビリティのビジネスチャンスを探求するコミュニティを形成していくようだ。

デポジット5,000ドル(約58万円/1年後に返金)で、メンバーは78万9,000ドル(約9,100万円)で事前注文するかタイムシェアサービスを受けるか選択できるようだ。

▼New Future Transportation(NFT)公式サイト
https://www.askafly.com/

空飛ぶバイクも受注開始

日本のA.L.I.Technologiesが開発を進めるホバーバイク「XTURISMO Limited Edition」も2021年10月に受注を開始している。200台限定で、2022年前半にも納車を開始する予定だ。

XTURISMOは内燃機関と電動のハイブリッドで、サイズ3.7×2.4×1.5メートル、重量約300キログラム、最高時速80キロメートルで航続時間は30~40分としている。上空を飛ぶのではなく、地上から1~2メートルほどの高さをホバリングする仕組みだ。価格は7,770万円となっている。

内燃機関は川崎重工グルーブ・カワサキモータース製のエンジンをベースとし、エアモビリティに最適な機体の動きを制御するモーションコントロールユニットや、システム制御やクラウド連携をつかさどるエッジコンピューティングユニットなどを搭載している。ボディには東レ・カーボンマジックと共同開発したCFRP部材を採用し、軽量化を図っている。

空飛ぶクルマではないが、新たなエアモビリティとして要注目だ。

▼A.L.I.Technologies公式サイト
https://ali.jp/

Opener「BlackFly」もまもなく販売?

Googleの共同創業者ラリー・ペイジ氏が出資する米スタートアップのOpenerは、公式サイト上で「25台のBlackFlyユニットがまもなく販売される」としている。

1人乗りで重量343ポンド(約155キロ)、4,200×4,110×1,520ミリメートルの小型軽量eVTOLで、米国内では最高時速100キロメートル、航続距離40キロメートルのスペックを誇る。

3つのフェイルセーフ飛行システムに直感的に操作可能なジョイスティック、緊急着陸用パラシュートシステムなどを備えている。

価格はまだ公表していないが、初期販売時を除き、量産段階ではSUV並みの価格を実現する予定としている。

▼Opener公式サイト
https://opener.aero/

大型案件も続々

このほかにも、一般向けの予約販売はアナウンスしていないものの大型受注案件を獲得した企業が続々と登場している。

独Liliumはブラジルの大手航空会社Azulとブラジルでの共同ブランドネットワークの確立を目指し、2025年までに220機のeVTOLを最大10億ドルで販売する計画を発表している。

米Archer Aviationはユナイテッド航空と提携し、最大200機のeVTOLを販売する見込みだ。生産面ではステランティスとも製造・設計分野で提携を交わしており、2023年にも生産に着手する予定としている。

英スタートアップのVertical Aerospaceはアメリカン航空と最大350機、ヴァージンアトランティック航空は50~150機、アイルランドのAvolonと最大500機もの大型契約をそれぞれ交わした。

米Beta Technologiesは米物流大手のUPSなどから最大150機の契約を交わしている。各社とも機体の開発とともに量産化に目途を立てたからこその案件と言える。

▼Lilium公式サイト
https://lilium.com/
▼Archer Aviation公式サイト
https://www.archer.com/
▼Vertical Aerospace公式サイト
https://vertical-aerospace.com/
▼Beta Technologies公式サイト
https://www.beta.team/

■【まとめ】空飛ぶクルマを取り巻く環境は今後数年間で大きく変わる

研究開発に一定のめどをつけ、販売のフェーズに移行した企業が続々と出始めているようだ。本格的な市場化を前に予約販売の形で前哨戦が繰り広げられている印象で、EhangやLilium、米Joby Aviationのように株式上場する企業も続出している。

各国の法整備や運航ルール、インフラ整備などが追い付き次第、個人向けの販売も本格的に始まる可能性が高い。2024年開催予定のフランス・パリ五輪や2025年の大阪・関西万博などで空飛ぶクルマをお披露目する計画なども具体化しており、今後数年間で空飛ぶクルマを取り巻く環境は大きく変わっていきそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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