自動運転タクシーの実用化に沸く中国だが、配送や小売りなどの用途で活用する自動運転車の実証も加速しているようだ。自動運転配送車両の開発を手掛ける中国スタートアップのNeolix(新石器)が2021年5月、北京市から公道走行免許を取得した。同社は自動運転車150台以上を導入し、コンビニエンスストアサービスを展開する方針だ。
コンタクトレス配送を実現する自動運転配送車はコロナ禍において社会的意義を増し、同社も大きな注目を集めていたが、着実に実績を積み重ねて自動運転サービスの実用化を加速させるとともに、サービス用途の拡大を図ってきたようだ。
この記事では、頭角を現したNeolixの企業概要やこれまでの取り組みを解説する。
記事の目次
■Neolixの沿革
アポロ計画に早期参画
Neolixの自動運転開発は2016年にスタートした。組織の設立は2015年とも2018年とも言われており定かではないが、創業者兼CEOのYu Enyuan(余恩源)氏が2016年に製品の研究開発を開始している。
早くから中国IT大手のBaidu(百度)が主導する自動運転プラットフォームのオープンソースプロジェクト「Project Apollo(アポロ計画)」に参画しており、2018年の百度の開発者会議でアポロのシステムを搭載した初号機「SLV10」を発表した。
ギガファクトリー稼働、コロナ禍を機に頭角現す
2019年には、1万3,600平方メートルの面積を誇るギガファクトリーの稼働を発表している。江蘇省常州市の武進高新区に位置しており、年間1万台の生産能力を持つとしている。各種報道によると、同社はこれまで120台の車両を生産しており、また200台以上の予約を受注しているとされており、異例の規模となる生産施設を早期建設したと言える。
同年には、中東最大のECプラットフォーマーNoonと戦略的パートナーシップを締結し、中国外での実証にも着手している。報道によると、このパートナーシップで自動運転車5,000台を受注したという。
2020年には、3世代目となる新型車「X3」の量産を開始したほか、資金調達ラウンドA+で2億元(約34億円)ほどを調達したことを発表している。
時期を同じくして新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、コンタクトレス配送への注目度が一気に高まり、同国EC大手のアリババやJD.comなど各社から注文が殺到したようだ。
同社の自動運転車はコロナ被害の大きいエリアで医療物資の配送支援や食品輸送などに活用されたほか、アポロと共同で無人防疫車をリリースし、武漢市などで自動運転による消毒を行ったようだ。UAE保健予防省の協力のもと、中東でもコンタクトレス配送が実施されている。
その後も実用実証は加速しているようで、2021年には「ケンタッキーフライドチキン」(KFC)を売る無人販売車の登場も話題となっているようだ。
【参考】コロナ禍におけるコンタクトレス配送については「自動運転デリバリー、新型コロナが規制緩和の引き金に?」も参照。ケンタッキーの無人販売については「自動運転車がケンタッキーを販売!中国で登場、Twitterで話題に」も参照。
自動運転デリバリー、新型コロナが規制緩和の引き金に?中国で配送ロボットが活躍、事業化加速の予感 https://t.co/1SEpPEdndc @jidountenlab #自動運転 #デリバリー #新型コロナウイルス
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) April 6, 2020
■Neolixの取り組み
北京市から公道走行免許取得
北京市は2021年5月、自動運転配送車両の管理指針を発表し、NeolixとJD.com、Meituanの3社に自動運転実証エリアの公道走行を許可した。
Neolixは150台以上の無人車両を導入し、コンビニエンスストアとしてサービスを開始することとしている。いわゆる小売用途だ。同社は65度の温かさを保つ必要があるランチボックスや、マイナス18度で冷蔵されるアイスクリームなど、天候などに左右されることなく、温度管理された貨物ボックスモジュールで維持・運搬できるとしている。
利用者は、車両に搭載されたスクリーンやスマートフォンで注文することで、決済と商品の受け取りを即時実行することができる。
なお、北京市はコネクテッドカー実用化に向けた政策を推し進めており、2021年4月には人の移動を担う自動運転サービスの商業運用を前提に、百度、Pony.ai、Didi Chuxingの3社に走行許可を付与している。
モジュール方式採用の最新車両「X3」
最新のX3はモジュール設計となっており、パーツを組み替えることでさまざまな用途に活用することができるようだ。加熱・保温モジュール、冷蔵モジュール、ロッカーモジュール、ロジスティクスモジュール、パトロールモジュールがすでに用意されており、今後もさまざまなモジュールを追加していく方針だ。
自動運転システムは、LiDAR5基、カメラ9基、ミリ波レーダー2基、超音波センサー14基を備え、NVIDIAのxavierコンピューティングプラットフォームのもと360度の視界を確保しながら無人運転を実現している。
バッテリーは交換式で、24時間365日連続稼働することができる。
さまざまな用途に対応
同社は、自動運転車を活用したソリューションとして、ロジスティクスをはじめパトロールやパブリックサービス、コーヒーの販売、ダイニング、リテール、金融サービス、広告など、さまざまな使い方を構想しているようだ。
すでにいくつかの用途において実用実証を進めているようだ。リテール・ケータリング向けのサービスカーは、モジュール式コンテナによって加熱、冷蔵、オゾン消毒機能を備え、さまざまな種類の食品や飲料、商品を販売することができる。ビッグデータの収集やリアルタイム予測、インテリジェント配車により、最も需要の高いエリアで運行できるとしている。
無人パトロール車は、深センのベイエリアの公園などで実証している。自動巡回や遠隔運転、リモートモニタリングをはじめ、ガスや温度の検出が可能という。モジュラー設計により、車両はさまざまな種類のセキュリティ機器と互換性を持たせることもできる。
自動運転車を活用した教育サービスとして、第2の教室となるスマートキャンパスの取り組みも清華大学などの協力のもと進めているようだ。
セキュリティや小売、物流改善などの用途で自動運転車をキャンパスに配備し、大学生が自動運転車を直接体験し、既存の車両プラットフォームに基づいて機能やモジュールを開発可能にする取り組みを行っている。
これまでに、北京や上海、深セン、アモイ、西安など中国の30超の都市をはじめ、ドイツ、スイス、シンガポール、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、タイ、オーストラリアで商業展開している。同社によると、海外展開には日本も含まれているようだ。
広がるパートナーシップ
国内パートナー・クライアントにはアリババや美団、JD.COMといったEC系企業をはじめ、China Post、中国工商銀行、人民日報、新華社などが名を連ねる。
海外では、noonのほかスイスポストやタイの国家放送通信委員会やシリラート病院などがパートナーシップを結んでいるようだ。
エコシステムパートナーには、百度やHUAWEI(ファーウェイ)、中国聯合通信、中国移動通信、中国電信、情報技術企業のiFlytek、AIチップ開発を手掛けるHorizon Roboticsが名を連ねている。
研究機関関連では、中国情報通信研究院(CAICT)や中国科学院、清華大学、同済大学、北京郵電大学、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)と協力関係にあるようだ。
■【まとめ】日本国内での展開に注目
車体は軽自動車を2回りほど小さくしたようなサイズ感で、イメージとしては米Nuroに近いが、配送に限らずさまざまな用途・サービスを可能にしている点がNeolixの魅力だ。
この1、2年で事業を急拡大している印象で、日本での事業展開も今後注目の的になる。日本国内では、歩道をメインに走行する宅配ロボット実用化に向けた取り組みが加速しているが、車道を走行する配送ロボットの扱いがどのように規定されるか気になるところだ。
法整備・運用ルールなど2021年度中に動きが出てくる見込みで、要注目だ。
【参考】関連記事としては「ラストワンマイル向けの物流・配送ロボット10選」も参照。