自動運転デリバリーの前哨戦!店舗DXで「在庫即反映」を実現せよ

自動運転ラボ主宰・下山哲平インタビュー



下山哲平=撮影:自動運転ラボ

自動運転レベル4や自動走行ロボットの解禁が近付いてきた。移動サービスや物流サービス無人化に向けた取り組みは、いっそう加速していくことが予想される。

物流面では、ラストワンマイルを担う自動運転サービスへの期待が高い。すでに自動走行ロボットを活用した実証が各地で進められており、今後車道を走行するタイプも含めビジネス展開を図る動きが活発になるものと思われる。


特に注目なのが、クイックデリバリーやクイックコマースと呼ばれる分野だ。ECサイトなどオンラインで注文を受け、すぐに宅配するサービスで、自動運転モビリティとの相性も良いとされる。

自動運転ラボを主宰するストロボ代表の下山哲平によると、こうした分野では自動運転実証以外の面ですでに「前哨戦」が始まっているという。この前哨戦とは何を指すのか。下山の談話を交えながら、自動運転デリバリーの今に迫る。

■クイックデリバリーの分類
フードデリバリー系と小売デリバリー系が存在

デリバリーサービスは大きく2つに分けることができる。1つは、ウーバーイーツなどに代表されるフードデリバリー系で、もう1つがスーパーやコンビニなどの小売デリバリー系だ。

フードデリバリー系は、飲食店の料理などを注文・宅配するデリバリーサービスだ。国内では出前館などが早くから事業に取り組んでいたが、ウーバーイーツの登場により配達する側の需要も喚起され認知度が向上し、コロナ禍による宅配需要の増加を追い風にサービス提供エリアが全国に拡大した。


マッチングプラットフォームの活用などにより、複数店舗をまたいだサービス展開が1つの特徴と言える。

一方、小売デリバリー系は、コンビニやスーパー、百貨店などが、インターネットで注文を受けた商品を即日宅配するデリバリーサービスだ。一般的なECによる販売とは異なり、各店舗の在庫商品をベースに即日配達可能な近隣エリアに各店から直接配達する仕組みだ。

下山は「ウーバーイーツのようなフードデリバリー系は、コンビニ商品も宅配対象とするなど後者を兼ねる部分もあるが、大枠でいうと上記の2軸」と話す。

注目高まるクイックデリバリー需要

ウーバーは、食品や日用品などを扱うデリバリー専門店「Uber Eats Market」の開設や、自社ウェブサイトなどで商品を販売するパートナー企業とウーバーイーツの配達ネットワークを結び付ける「Uber Direct」といったサービスの提供に着手し、徐々にサービス領域を拡大させている。


また、ラストワンマイル物流のDXに取り組むエニキャリは、注文サイトの構築から配達管理システム、自転車配送サービスまでをセットで提供するクイックデリバリーエコシステムを展開している。

セイノーホールディングスの子会社GENieも、最短30分で商品を届ける配送網を構築するクイックデリバリーサービス「JUSMie」を開始している。

ラストマイル配送においては、従来のEC経由の宅配需要に加え、こうしたクイックデリバリー需要も大きく伸びており、サービス開発が進展しているようだ。

■自動運転デリバリーの有用性
増加するデリバリー需要に自動運転が貢献
出典:Motional News & Blogs

需要が高まるデリバリーサービスだが、人手は限られている。下山は「ひっ迫する宅配需要に対応するため、自動運転技術を活用化した無人化サービスへの注目も高まりを見せている」と話す。

フードデリバリー系では、ウーバーが米国におけるウーバーイーツ事業において自動運転車やロボットの導入を開始した。同社は自動運転開発を進めるMotionalやNuroと提携し、カリフォルニア州などでサービス実証に着手している。いずれも車道を走行するタイプで、中~長距離の配達にも対応できるモビリティだ。

マッチングアプリによる膨大なサービス網を誇るウーバーの取り組みは、同業他社に波及していく可能性が高く要注目だ。

【参考】ウーバーの取り組みについては「Uber Eats、「人による配達」に終わりの予感!自動運転配送スタート」も参照。

また、近年注目を集めている自動走行ロボット(宅配ロボット)もこうしたデリバリー系との相性が良い。宅配ロボットは主に歩道などを低速で走行し、比較的近距離への配達に適している。注文受注後すぐに配達に向かうため、注文者の不在といったエラーも起きにくく、ロボットが待たされる心配が少ないためだ。

この分野では、米Starship Technologiesがパイオニア的存在として知られている。米国や英国など世界各地でサービス実装を進めており、累計配達回数は400万回を超えるという。一般小売のほか、世界各地の生活協同組合(Co-op)と提携し、走行しやすい大学キャンパス内でサービス展開を拡大しているのもポイントだ。

【参考】Starship Technologiesの取り組みについては「自動運転導入は大学キャンパスから!?米で100大学導入計画」も参照。

国内では、ロボット開発を手掛けるZMPがENEOSやエニキャリなどと協力し、飲食店など複数店舗の商品をピックアップして配達するサービス実証に着手している。

小売デリバリー系では西友などが早くから注力
出典:楽天プレスリリース

一方、コンビニやスーパーなどに代表される小売デリバリー系は、単体で取り扱う商品数が多く、独自のECサイトを構築してサービス展開する例が多いのが特徴だ。

米国では、小売り大手のウォルマートやクローガーなどがNuroやCruiseなど開発各社と提携し、サービス実証を進めている。

セブン&アイ・ホールディングス傘下の米国法人7-ElevenもNuroと提携し、カリフォルニア州でネットコンビニサービス「7NOW」を活用した配達実証を行っているほか、韓国のコリアセブン(ロッテグループ)も自動走行ロボットの開発を手掛けるスタートアップNeubilityと提携し、ソウル市内でサービス実証を進めている。

【参考】海外セブンイレブンについては「韓国と米国のセブンイレブン、自動配送ロボや自動運転車で無人配送に挑戦」も参照。

国内では、西友と楽天が早くから手を結び、神奈川県横須賀市などで実証を進めている。近年はパナソニックも加わり、同社が開発した「X-Area Robo」を活用したサービス実証を行っており、茨城県つくば市では最短30分で配達するオンデマンド配送にも取り組んでいる。

【参考】西友などの取り組みについては「自動配送、「早さ」も追求!最短30分、楽天などが展開」も参照。

■自動運転デリバリーの「前哨戦」
自動運転デリバリーはまだまだ加速

すでにサービス化を見据えた取り組みが国内外で進められている自動運転デリバリー。下山は「道路交通法の改正により、国内では2023年度にサービス実証が大きく進展する可能性が考えられる」と指摘する。

自動走行ロボットの開発には、ZMPやパナソニックをはじめ、Hakobot、ティアフォー、LOMBYといった新興勢も力を注いでいる。自動運転デリバリーサービスの実用化にはまだまだ多くの課題が山積している状態だが、サービス実証の加速とともに課題の一つひとつが解消されていくことに期待したいところだ。

カギは「在庫即反映システム」?

他方、下山は別の観点から新たな課題を提起している。店舗側における、在庫を即反映するシステムだ。

「特にスーパーやコンビニの自動運転デリバリーにおいて、手軽に『超小ロット×超単納期』(30分以内)を実現していく上で、自動運転実用化の前段階で『店舗在庫をリアルタイムでネットから確認して買える』ことが必要になる。せっかく自動運転宅配で手軽にコンビニやスーパーの商品を宅配オーダーできるようになっても、店頭在庫に今何があるのか?が全て分かるようにならないと、やはり店舗で買うよりは不便(選択肢が少ない)となってしまう」

こうしたデリバリーサービスは、個々の店舗の在庫に依存することになる。この在庫を正確に把握し、注文サイトとリアルタイムで連動するシステムがなければ、せっかく注文してもキャンセル扱いとなるケースや、逆に在庫が補填されたにも関わらずサイト上では売り切れのままになるなど、サービスとしての質が問われることになる。

■デリバリーサービスを左右する「店舗DX」

在庫即反映システムの活用は、セブン‐イレブン・ジャパンが好例だ。同社は通販サイト「セブンネットショッピング」をはじめ、最寄り店舗から最短30分で商品を配達するスマートフォン向けの販売サービス「7NOW」などを展開している。

7NOWは2023年2月現在、北海道、東京都、神奈川県、広島県の計3,000超の店舗でサービス展開しており、切手など一部を除く店頭取扱商品を対象に、スマートフォンから注文を受け次第迅速に宅配している。配送料は110~550円だ。

出典:7NOW公式サイト

膨大な数の商品を取り扱うコンビニなどは、すべての商品の在庫をリアルタイムで把握するのは困難だ。バックヤードに在庫がなく、店頭に並べている数個で売り切れの商品がある場合、その残数をECサイトにリアルタイムで反映できなければ、注文したにもかかわらず売り切れ……といった問題が生じる。

商品の回転が速いコンビニなどでは、こうした問題はレアケースではない。そのため、在庫が豊富など取り扱いやすい商品しかECで販売できないケースは珍しくない。

そこで、7NOWは店舗の在庫をリアルタイムで販売サイトに反映させるシステムを採用した。このシステムにより、数千点に及ぶ商品をECでも効率的に販売することが可能になったという。

同社はこうしたシステムの内製化を進め、今後7NOW対象店舗を5,000店規模まで増加させる計画としている。コンビニの実店舗が飽和に近付き新規出店数が伸び悩むことが想定される今後、デリバリーサービスによる新たな需要を掘り起こし、収益化を図っていく狙いのようだ。

下山は「いずれ自動運転が普及して安く宅配できるようになったとしても、そもそも店舗DX的にこのようなリアルタイム処理の仕組みが整備出来ていないと『話にならない』ということになる。自動運転デリバリー時代の勝者を今から見極めようとするなら、デリバリーサービスに力を入れる各社の前哨戦の動きを見るのが一番」と考察する。

■【まとめ】DX化による「下地構築」の重要性

将来的に自動運転サービスを導入し収益向上を図るためには、日頃の業務においてもDX化を推進し、全体最適化を図っていかなければならないようだ。

サービス形態によるが、膨大な商品を取り扱うクイックコマース型はこうしたDX化による下地があってこそデリバリー事業が生きたものになる。

各社の取り組みを参照するなどし、現段階でできる業務改善に早期に取り組むことが自動運転デリバリー時代の勝敗を左右することになりそうだ。

下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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