パイオニアの自動運転・LiDAR戦略まとめ ロードマップや開発状況は?

高精度地図の開発にも積極姿勢



出典:パイオニア社プレスリリース

経営改善に向け財務基盤の早期立て直しを図る電機メーカー大手のパイオニア(本社:東京都文京区/代表取締役:森谷浩一)。コネクテッドカーライフの早期実現や高精度地図ビジネスの確立・拡大などによるV字成長を目指すが、中でも期待を込めるのが自動運転車向けの3D-LiDAR(3次元ライダー)だ。

かつてオーディオやカーナビで隆盛を極めた同社は、3D-LiDARで自動運転時代の「開拓者」となれるか。経営状況や3D-LiDARの開発状況などを追ってみた。


■パイオニアの現在の経営危機について

損失、キャッシュフロー…厳しい決算状況

以前から厳しい経営環境にさらされていたパイオニア。2017年度の連結会計年度では、親会社株主に帰属する当期純損失71億円を計上し、フリーキャッシュフローはマイナス172億円に上った。

2018年8月6日に発表された2018年度第1四半期(4〜6月)決算では、営業利益がマイナス15億7500万円と大幅な赤字を計上。当初、取引銀行に経営改善計画を示し借入金の借り換えを行う予定だったが、抜本的な見直し施策の具体化が遅れていることから合意を得ることができなかった。

このため、事業継続の道に暗雲が立ち込め、決算短信には「継続企業の前提に重要な疑義が存在している」という注記が加わり、経営改善策の早期提示と実行を強く求められることとなった。


2018年11月7日に発表された2018年度第2四半期(7〜9月)決算における連結売上高は、カーエレクトロニクスにおいて市販事業、OEM事業がともに減少したことなどにより、前年同期に比べ6.2%減の871億1700万円となった。また、営業損益は、OEM事業における減価償却費の増加や為替の影響などによる原価率の悪化や売上高の減少により、1億1300万円の損失となった。親会社株主に帰属する当期純損益は、主に営業損益の悪化を理由に前年同期の6億1400万円の損失から32億7000万円の損失となった。

2018年度においても連結営業損失を見込んでいることに加え、新興国の市況低迷などの影響からカーエレクトロニクス事業の売上が計画を下回る見込みとなり、2018年11月7日付けで2018年度の連結売上高の予想を従来の3800億円から3500億円に下方修正している。

また、同年度中に返済期限が到来する取引銀行からの借入金については、9月18日に香港投資ファンドのベアリング・プライベート・エクイティ・アジア傘下「Kamerig B.V.」から250億円の融資を受けたことにより返済の目途が立っている。

取引条件見直しやコスト削減の取り組み

業績改善に向け、カーエレクトロニクスにおけるOEM事業では、取引先との取引条件の見直しやコスト削減に加え、投資見直しなどキャッシュフローの改善に向けた取り組みを進めている。市販事業では、利益拡大に向けてスマートフォン連携機能を強化した新製品のタイムリーな市場導入や、音を中心としたエンターテインメント性の追求により、パイオニアならではのコネクテッドカーライフを引き続き推進していく。


また、自動車保険向けのテレマティクスサービスや法人車両向け運行管理サービス「ビークルアシスト」の機能強化を図るなど、ハードとソフトを組み合わせたソリューションビジネスなど、新規事業の強化に積極的に取り組んでいくこととしている。

将来の成長分野である地図事業・自動運転関連では、自動運転に必須となる走行空間センサー「3D‐LiDAR」の製品化に向け、2018年9月下旬から新モデルの出荷を通じた評価、検証を進めているほか、オランダの地図・位置情報サービスのグローバルプロバイダー「HERE Technologies」との連携強化や高精度地図の開発など、自動運転の時代に「なくてはならない会社」の実現に向けた取り組みを進めることとしている。

■パイオニアの3D-LiDARについて

パイオニアが開発を進めている3D-LiDARは、一般道での自動運転レベル3(条件付き運転自動化)以上の自動運転を想定しており、MEMSミラー方式を採用。モーター駆動部をなくし耐久性を高めるとともに、小型化・軽量化の実現を目指している。

また、汎用部品の活用、大量生産を前提とした新規部品の開発や、柔軟なシステム構成をとることで低価格化も視野に入れているほか、独自のデジタル波形信号処理技術によりノイズの除去精度を上げることで、従来のLiDARでは難しかった遠方の物体や黒い物体の検出、降雪時など悪天候時の距離計測も可能としている。

2018年9月には、計測距離が異なる3種4モデルの提供を順次開始。長距離測定用の「望遠タイプ」、中距離用の「標準タイプ」、近距離用の「準広角タイプ」と、標準タイプにLiDARを2台組み合わせた計測幅の広い「デュアルタイプ」を用意している。

本格的な量産化は2020年以降を目途としており、LiDARの開発とともに、自動運転用地図の開発を進め、これらを活用して一般車両から周辺情報を自動的に収集し、自動運転用地図を更新・配信する効率的な地図更新システム「データエコシステム」の構築・提案も行っている。

■パイオニアのLiDAR関係の最近のニュース
シンガポールMooVita社と実証実験 レベル4の商用化目指す
出典:パイオニア社プレスリリース

シンガポールの自動運転関連スタートアップ企業「MooVita」と、パイオニアの3D-LiDARを搭載した自動運転シャトルバスを使った実証実験を開始することを2018年11月に発表している。両社は、実証実験を通じて自動運転レベル4(高度運転自動化)のサービス商用化を目指すこととしている。

MooVitaは、自動運転に関する技術開発を推進するシンガポールの科学技術庁出身者により2016年に創設されたスタートアップで、自動運転ソリューションの提供を専門としている。シンガポールのほか、マレーシアやインドにおいて自動運転関連事業の開発を行っている。

3D-LiDARがルネサスの車載情報システム用SoC「R-Car」に対応 デモカーにも採用

半導体開発を手掛けるルネサス・エレクトロニクス社が開発を進める、車載情報システム用SoC「R-Car」に、パイオニアの3D-LiDARが対応したことを2018年10月に発表している。R-Carは、自動運転時代の車載コンピューティング・プラットフォームとして利用可能なSoC(System-On-Chip)だ。

また、ルネサスがセンシングソリューション統合デモ用に開発したデモカー「Etoile(エトワール)」に、 パイオニアの「3D-LiDAR センサー」が前方障害物検知センサーとして搭載されていることなども紹介されている。

【参考】ルネサスの車載情報システム用SoCについては「パイオニアの3D-LiDARセンサー、ルネサスの車載情報システム用SoC「R-Car」に対応」も参照。

■自動運転時代の勝者へ 3D-LiDAR売り込みで信頼勝ち取れるか

楽観視できる要素がなく、非常に厳しい状況に置かれている同社。絶対的勝者が存在しない将来分野である自動運転関連に勝機を見い出し、復活を遂げることができるかどうかにかかっている。とりわけ、これまで培ってきたレーザー技術などを生かすことができる3D-LiDARには、一筋の光明が感じられる。

量産化は、一般車両への普及が始まるだろう2020年以降を目指しているが、体力は残りわずか。それまでにどれだけ多くの自動車メーカーやサプライヤーの信頼を勝ち取り、出資を得られるかが当面の課題になりそうだ。


関連記事