【インタビュー】中島聡氏「若者に刺激とメッセージを」 シンギュラリティ・ソサエティ、テーマに「自動運転」

「一方通行」から「双方向」へ、オンラインサロンも



自動運転ラボのインタビューに応じる一般社団法人シンギュラリティ・ソサイエティの代表理事・中島聡氏=撮影:自動運転ラボ

若者に刺激とメッセージときっかけを与えたい——。「iモードを世の中に送り出した男」として知られる夏野剛氏が参画——。設立1カ月でアプリリリース——。

世界的天才プログラマーの一人で「Windows95を設計した日本人」としても知られる中島聡氏。2018年8月8月にNPO(非営利法人)として立ち上げた一般社団法人シンギュラリティ・ソサイエティ(本拠地:東京都渋谷区)が、設立と同時に早速活動を活発化させている。取り組むテーマの一つが「自動運転」だ。


なぜいま中島氏は新団体を発足させたのか。そしてなぜテーマの一つに自動運転を選んだのか。米シアトル在住の中島氏の来日中に、自動運転ラボは東京都内でその理由や想いについてインタビューした。

記事の目次

【中島聡氏プロフィール】なかじま・さとし 1960年生まれ、北海道出身、米シアトル在住。早稲田大学・工学修士、ワシントン大学・MBA。MicrosoftでWindows95やInternet Explorer3.0/4.0のチーフアーキテクトなどを歴任。ソフト会社UIEvolution創業者。シンギュラリティ・ソサエティ代表理事。著書に『LIFE IS BEAUTIFUL』『エンジニアとしての生き方―IT技術者たちよ、世界へ出よう!』『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』など。ブロガーとしても活躍中。ブログ「Life is beautiful〜永遠のパソコン少年の理科系うんちく」。

■「一方通行」から「双方向」へ、メンバーを集めプロジェクト立ち上げ
Q シンギュラリティ・ソサエティを立ち上げた経緯や、株式会社ではなく一般社団法人にした理由などについて教えて下さい。

昔からブログとメールマガジンを書いておりまして、テーマは多様ですが、よく書くのは、働き方や日本の社会の問題点についてなどでした。読者の中にもその分野に興味を持ってくれている方が多くおりました。ただブログやメールマガジンですと「一方通行」なので、メンバーを集めて実際にプロジェクトや会社を立ち上げたい、もっと本腰を入れて取り組みたいと思っていました。

目的はお金ではないし、本当の意味での社会貢献をしたい、その先にあるものを作りたい、と色々考えまして、NPO(非営利法人)という形態を選びました。会社を立ち上げる場合はそこからスピンアウトをすればよいと思いました。


Q 世界初のモバイルインターネット「iモード」の開発を手掛けた夏野剛さんが発起人として参画した経緯などについて教えて下さい。

NPOの構想がはじまった時、発起人を何人か集めたいと思っていたころに、それまでに面識はあった夏野さんと直接お話しをしてみて、すぐに意気投合しました。夏野さんも僕も、社会や技術が目まぐるしく変化している中で、日本は乗り遅れているな、ということに危機感を感じていたんですね。

若い人たちが漠然と感じている不安や疑問を解消するために、僕らの世代からメッセージを送る必要性がある。そして、刺激を与えて、チャンスを与えたいね、という意見で一致しました。

Q 「シンギュラリティ」とはAI(人工知能)が人間の知性を上回る「技術的特異点」のことを指しますが、団体名を「シンギュラリティ・ソサエティ」とした想いなどについてお聞かせ下さい。

AIが進化する中での価値観の変化や、これから社会に起こっていくことをみんなに理解してほしい、という想いがありました。

こうした変化を受け身で待っていても仕方がないので、「今何をしなくてはいけないか」ということを多くの人に考えてみてもらいたいと思っています。そしてそこから何らかの行動が生まれるきっかけを、シンギュラリティ・ソサエティが作っていければ良いなと考えています。


■情報発信やオンラインサロンが活動の柱、テーマの一つが自動運転
Q 実際の団体としての活動はどのような形でされていますか。

シンギュラリティ・ソサエティの事業は、動画やブログを通じた情報発信とオンラインサロンの2本柱です。

オンラインサロンは初回を8月24日に開催しました。NPOが開催するオンラインサロンということで、副業禁止の会社に所属している方からはかなり喜ばれました。遠慮なく活動ができるからです。

FacebookやSlackでもメンバーとは常に話をしていて、1カ月に1回くらいは会いましょう、という形にはなっているのですが、基本的にはオンラインでのコミュニケーションがメインです。物理的な拠点は必要ないのも面白いところです。

また、ただ議論だけ、話しているだけ、ではなくて、そこからいくつかのプロジェクトを立ち上げて、社会的にインパクトを与えられるサービスや商品を開発していきたいと考えています。その中のテーマの一つが「自動運転」です。

人が運転している車は渋滞を起こす、事故も起こす、タクシーは高い、路線バスは不便、少子高齢化が進むとインフラがペイしなくなる、ちょっと外れた地域に行くと市民の足を政府が負担しないといけない状態。これからの20年後を見たとき、こうした色々な問題の解決方法として、僕自身は自動運転しかないと思っています。

5〜6人乗りの自動運転車がそこら中を走り回っていて、乗りたい人がアプリや特殊なデバイスで行き先を伝えると連れていってくれる。そして値段はバスと同じくらい、というのが答えだと思っています。

【参考】オンラインサロンは月額5400円。メインテーマは「自動運転車と街」「自動化と社会保障、教育」「監視社会とプライバシー」「貧富の差と民主主義」「仮想現実と少子高齢化」「サステイナブルな発展」の6つ。詳しくは「Singularity Society – DMMオンラインサロン」を参照。

Q シンギュラリティ・ソサエティを立ち上げ後すぐに「bus 2.0」というアプリがiTunesアプリストアでリリースされました。すごいスピード感ですね。乗り合いタクシー(乗り合いバス)サービスを提供する事業者や地方自治体のために作られたエミュレータということですが、詳しくお話を聞かせて下さい。

現在日本の地方都市においては高齢化と過疎化が進み、ローカル線や路線バスが事業として成り立たなくなりつつあります。自動運転車はこうした課題を解決すると期待されていますが、一方で安全に公道を走れるようになるまでの道のりは長いと考えています。その自動運転が実現するまでの期間、住民の足を確保するための方法として注目を集めているのが乗合タクシーや乗合バスです。

bus 2.0ではこうした乗合タクシーや乗合バスの配車アルゴリズムを開発しております。乗客の待ち時間や遠回りをどう最小化するか、というものです。つまり自動運転が実現するまでの間、地方の足の確保に貢献しようというのがこのアプリの位置づけです。「2.0」とは「路線バスとは違いますよ」という意味です。

bus 2.0のアプリ画面。乗客の待ち時間を最小化する最適なルート選定が行われる様子が分かる。アプリのダウンロードは「こちら」から。

まずはiTunesアプリストアでエミュレータとしてリリースしました。現時点ではデモなので僕が作っていますが、メンバーも増えてきたので実際にサービスとして展開していきたいと考えています。

このアプリを使ったビジネスモデルとしては、シャトル事業者に対するSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)ビジネス。基本はシャトル1台あたり月額がいくら、もしくは乗客からの課金ベースで手数料がいくら、などという形があるかと思います。基本的にはオープンなソフトウェアとして展開しますが、ルーティングや配車はオーダーでカスタマイズする。それを月3万円くらいの安価な値段設定で展開していければいいですね。

シャトル事業者がエンジニアの雇用やITコンサルタントや大手企業への外注などを通じてゼロからアプリを作ろうとすると莫大な費用が掛かりますが、それを回避できるような価格設定を考えています。

■エンジニアの方へメッセージ:「これをやりたいから」というポジティブな発想で挑戦を
Q 自動運転やAIなど革新的な技術がますます進化を遂げる21世紀を生きるエンジニアの方々へ、メッセージを頂けませんでしょうか。

まず、自動運転はいろんな意味でものすごく社会を変えるインパクトがあります。パソコンやスマホと比べものにならないくらいかもしれません。

そしてその変化を起こすのはエンジニアたちです。日本のエンジニアはとても優秀です。今の関わっている領域につまらなさを感じている方々には是非このマーケットに来てほしいです。自動運転事業に関われることの楽しさを感じてほしいですね。

そして「今の会社がだめだから退職して他を見つける」というネガティブなスタンスではなく、「これをやりたいからこうする」というボジディブな発想をしてほしいですね。

僕たちはそういった方々がチャレンジしたくなるようなテーマを見つけてあげることができると思っています。そして多様な働き方でちゃんと成功できる、活躍できるという実例を増やしていきたいと考えています。

Q 今後の展開は、どのようなことを考えていますか。

優秀な人材・技術を集めた実行部隊として活動したいですね。社会的なインパクトも与えたいですし、色々なプロジェクトをスピンアウトして、スピーディーに物事を進めたいと思っています。

オンラインサロンでは「コンペがやりたい」と言ってくるメンバーもいます。熱量がとても高いので、課題に対してアイデアを持ち込むという人たちが多いです。そうしたメンバーを集めて、発想で勝負をして、スピーディーにプロットタイプがどんどん作れますよ、ということをアピールし、実現していきたいですね。

■若者やエンジニアの活躍の場が広がることに大きな期待

スタートアップやベンチャーが注目される中、まず非営利団体として活動しはじめたシンギュラリティ・ソサエティ。中島氏や夏野氏の主導の下、若者の活躍の場が広がることを願いつつ、今後の展開にも注目していきたい。


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