「自動運転×電車」の最新動向は? 国や企業の開発・取り組み状況まとめ

AI導入せずとも可能?



公共交通における大動脈ともいえる鉄道。この鉄道に自動運転の波が押し寄せている。背景には、運転士や保守作業員など鉄道係員の確保や養成が困難になってきている点が挙げられ、鉄道事業者においてはより一層の業務の効率化・省力化が急務となっている。


その解決策の一つとして自動運転の導入が求められており、国土交通省もついに検討に乗り出した。海外でも近年急速に研究開発が進められており、実用化や普及は秒読み段階とも言われている状況だ。

今回は国内の現状や最新の動向、海外の事例などを参照し、鉄道分野における自動運転の動向を探ってみた。

■電車で自動運転が実現しやすい理由

自動運転の初歩的な技術に、道路上に引かれたラインを読み取りライン上を走行する仕組みや、敷設された磁気マーカーにより誘導する仕組みなどがある。既定のルートをたどる場合に有効な手法で、走行経路が事前に定まっていれば、センサーによる認識能力やAI(人工知能)による判断能力など特別高度な技術を要せず走行することが可能となる。

鉄道はすでに敷設されたレール上を列車が走る仕組みで、走行経路は事前に定まっている。また、踏切などを除いて線路内への立ち入りは原則禁止されているため、本来的には歩行者などが存在せず不測の事態が起こりにくい占有空間となる。日本の鉄道は世界一と言われる緻密で正確な運行計画を実施している点も見逃せない。


このように、鉄道には自動運転にとって都合の良い環境が整っており、不特定多数のものが行き交い複雑に絡み合う一般道路に比べれば一目瞭然と言える好条件がそろっている。

ただ、人間を含む大量輸送を担う公共交通として安全管理面も非常に厳しく、些細なミスが重大な事故につながり兼ねないため、導入に消極的な向きもある。現在は、地下鉄など線路以上に排他的環境を有する新交通システムにおいて自動運転技術が導入されている。

■日本における「自動運転×電車」の現状と動向
新交通システムで自動列車運転装置(ATO)導入

すでに実用化されている自動化技術に、自動列車停止装置(Automatic Train Stop:ATS)や自動列車制御装置(Automatic Train Control:ATC)、自動列車運転装置(Automatic Train Operation:ATO)などがある。

ATSは、停止を示す信号機から一定程度手前まで列車がさしかかった際に運転台のベルが警報を発し、運転士が所定の確認扱いをしないと自動的にブレーキがかかり列車を停止させるシステム。ATCは、レールに流した信号電流を列車の車上装置が連続的にこれを受けることで、信号が示す制限速度以下で走行しているかどうかをチェックし、速度超過の場合は自動的にブレーキを作動させて制限速度以下に抑える装置。これらは、インフラと協調した鉄道版のADAS(先進運転支援システム)と言える。


一方、ATOは運転士がスタートを指示するボタンを押すだけで、その後は列車の加速走行や惰行、制動操作、定点停止などを自動的に行うシステムで、試験走行は1960年に名古屋市営地下鉄東山線で始まった。世界初の実用運転は1970年の日本万国博覧会の会場内で使用されたモノレールとされており、その後1976年に開業した札幌市営地下鉄東西線で営業列車に搭載され、全国の地下鉄に波及していった。

1980年代には、専用の走行路を案内レールに従って走行する新交通システムが誕生し、1981年に開業した神戸新交通ポートアイランド線や大阪南港ポートタウン線をはじめ横浜、広島、東京などで次々と開業し、その大半でATO技術が用いられている。

現在無人運転が行われている日本国内の路線は?

現在無人運転が行われているのは、札幌市営地下鉄の一部区間や神戸新交通ポートアイランド線、同六甲アイランド線、大阪市高速電気軌道南港ポートタウン線、ゆりかもめ東京臨海新交通臨海線、横浜シーサイドライン金沢シーサイドライン、東京都交通局日暮里・舎人ライナー、舞浜リゾートラインディズニーリゾートライン、愛知高速交通東部丘陵線など。安全確認のため乗務員が同乗する場合もあるが、基本的に自動運転が行われているようだ。

また、東京地下鉄(東京メトロ)や仙台市地下鉄、都営地下鉄、横浜市営地下鉄など、多くの地下鉄で運転士乗務のもとATOによる運転が採用されている。

なお、山の急斜面などで鋼索を引っ張って動かすケーブルカーでは、南海電鉄の高野山ケーブルカーが1964年に自動運転車が導入されているようだ。

国土交通省が導入要件検討に本格的に着手

鉄道の自動運転化に対する機運が高まっている中、国土交通省は2018年12月に鉄道における自動運転を導入する場合の技術的要件の検討を開始したことを発表している。

鉄道における自動運転は、これまで人などが容易に線路内に立ち入ることができない新交通で実現されており、踏切のない高架構造などであること、駅にホームドアがあること、自動列車運転装置が設置されていることなどの要件が技術基準などで定められているが、検討会では、一般的な路線を対象にセンシング技術やICT、無線を利用した列車制御技術などの最新技術も利活用し、鉄道分野における生産性革命にも資する自動運転の導入について、安全性や利便性の維持・向上を図るための技術的要件の検討を行うこととしている。

【参考】国土交通省の取り組みについては「一般鉄道路線での自動運転導入へ、技術的要件の検討開始  国土交通省」も参照。

JR東日本やJR東海、JR九州も研究開発促進

民間では、JR東日本が積極的に動き始めた。経営ビジョン「変革2027」の中で、将来的にはドライバーレス運転により安全かつコストコントロールができる列車を目指すことに言及しているほか、技術革新中長期ビジョンにおいても自動運転技術やロボット化、AIによる業務支援などを進めていくこととし、輸送サービスの質的変化を図っていく構えだ。

2018年12月には、より高性能なATOの開発に向け、山手線E235系を使用した試験走行を山手線全線(34.5キロ)で行うことを発表した。想定されるさまざまな走行パターンを用いて試験を実施し、加速や惰行、減速など車両の制御機能と乗り心地の確認や、運転士が運転中に必要な情報を運転台の前方に直接投影するヘッドアップディスプレイの視認性試験などを行う予定。また、2018年10月に発表した新幹線の試験車両「ALFA−X」の開発状況に関し、将来的な自動運転技術の搭載を目指すため、列車運転に必要なさまざまな制御の自動化についての研究開発を加速させていることを明らかにしている。

自動運転関連ではこのほか、安全性をさらに高めるため連続的な速度のチェックを行うことができるATS-PやATS-Psの整備をはじめ、無線を使った列車制御システム(ATACS)の導入を進めている。

JR東海は、2027年開業に向け開発を進めるリニア中央新幹線に自動運転システムを導入する予定だ。東海道新幹線の正確性と安全性をベースに、運転士が乗車して列車の速度を制御する方式ではなく、地上にある指令室で列車をコントロールする高精度・高信頼のシステムを採用することとしている。

一部報道によると、JR九州も在来線に自動運転システムを導入する計画を立てており、2019年にも試験実施する方針という。部署を横断したプロジェクトチームを編成し、メーカーなども交えながら自動運転技術について研究開発を進めている。

■海外における「自動運転×電車」の現状と動向
路面電車から長距離輸送まで、実用化秒読み

フランスでは、国鉄が列車の自動運転の開発に着手し、2023年までに加速・減速を自動的に行うことができる列車の試験・実用化を図る計画を発表したことが報じられているほか、同国の鉄道車両メーカーのアルストム社がオランダで自動運転技術を搭載した貨物列車の長距離輸送を行う計画を発表している。

英国では、ロンドン周辺の鉄道路線網を運行する列車運行会社「ゴヴィア・テムズリンク・レールウェイ」が、自動運転モードを搭載した列車を試験的に導入しており、2019年にもATOの本格導入を開始する予定という。

ドイツでは、シーメンス社が自動運転路面電車の開発を進めており、デモンストレーション走行なども実施している。搭載しているカメラなどのセンサーが歩行者など周囲の危険を察知すると自動で停止するなどAIが判断する仕組みで、自動車における自動運転と類似したシステムを採用している。

中国では、高速鉄道の自動運転化が推進されており、同国の最高国家行政機関である国務院が公式チャットで、世界初の時速350キロでの自動運転に成功し、近く運転実験を行うことを2018年4月に発表している。6月には、瀋陽~黒山間で自動制御による走行テストが行われ、最高速度は350キロに達したという。

このほか、英国の大手鉱業グループであるリオ・ティント社は、オーストラリア国内で自動運転列車による鉄鉱石の初輸送に成功したことを2018年7月に発表している。オーストラリア当局の許可を得て、機関車3台からなる自動運転列車に鉄鉱石2万8000トンを積み、約280キロの走行に成功したようだ。列車の運行状況は1500キロ以上離れた場所から遠隔監視したという。

【参考】リオ・ティント社の取り組みについては「英リオ・ティント、自動運転列車で鉄鉱石輸送に成功 世界初の自動運転鉄道網に」も参照。

■技術的には及第点 不測の事態踏まえた安全性の確保が課題に

鉄道の自動運転化は技術的にはすでに可能な領域に達しているが、安全面を重視し、不測の事態を一つずつ塗りつぶして一寸の事故も許さない仕組みづくりに苦慮している感を受ける。駅のホームや踏切など、事故が集中している個所の対策は以前から火急の問題として取り上げられており、こういった事故が起こらない環境の構築が喫緊の課題となりそうだ。

線路上の保守点検を行う保線作業もロボット導入や遠隔監視などによる無人化が検討されており、こういった業務や、地方の過疎化路線における実証実験などを皮切りに進めていくのも有効と思われる。

人材不足の補填や効率化にとどまらず、安全性をさらに高める意味も含め自動運転導入の機運が高まっていくことに期待したい。


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