ソフトバンクビジョンファンドとは?(2023年最新版)

自動運転企業への投資やArmの上場に注目

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出典:ソフトバンクプレスリリース

投資会社としての色を年々濃いものへと変えていくソフトバンクグループ。その投資事業をけん引するソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)に対する注目度は高い。

2022年の世界的な株安によってSVFは大ダメージを被ったが、2023年に入ってテクノロジー企業の株価が回復フェーズに入り、SVF復活のシナリオを投資家は織り込みつつある。

今後の注目は孫正義会長が惚れ込む英半導体設計企業Arm(アーム)の上場だ。自動運転分野にもアプローチするArmの成長余力は非常に大きく、ソフトバンクグループの成長を下支えする存在になる可能性は十分だ。

この記事では2023年時点の情報をもとに、自動運転をはじめとしたモビリティ関連分野に対するSVFの投資先などを紹介する。

<記事の更新情報>
・2023年8月15日:2024年3月期第1四半期の決算を受けて情報を更新
・2021年8月15日:記事初稿を公開

■SVFの投資先は438件

2023年6月末時点におけるSVFの投資先は、SVF1が76件、SVF2が272件、そしてLatAmファンドが90件となっている。合計で438件だ。

詳しい投資先については、ソフトバンクグループの決算資料として公開されている以下のデータシートを参照してほしい。該当ページはP8〜13だ。

▼2024年3月期 第1四半期決算データシート
https://group.softbank/system/files/pdf/ir/presentations/2023/earnings-datasheet_q1fy2023_01.pdf

上記のデータシートでは、例えばSVF1の投資先は以下の表で説明されている。

出典:ソフトバンクグループ決算資料(※クリックorタップすると拡大できます)

以下がSVFの2023年6月末時点における累計投資損益だ。2024年3月期第1四半期は、6四半期ぶりに回復に反転していることが分かる。

出典:ソフトバンクグループ決算資料
■上場済み企業
Aurora Innovation(米国)

自動運転開発を手掛ける米オーロラは、SVF1から3億3,000万ドル(約410億円)出資を受けている。オーロラの投資ラウンドにSVFは参加しておらず、おそらくオーロラがUberの自動運転開発子会社ATGを買収した際、Uber株主であるソフトバンクグループがその対価として非公開株を受け取ったものと思われる。

同社は自動運転システム「Aurora Driver」を大型トラックから小型車まで幅広く統合する戦略を展開しており、移動サービス分野ではトヨタ・デンソーと自動運転開発で提携を結び、Uberをはじめとしたライドシェア向けの車両を2024年にも市場化する計画だ。

2021年11月にナスダック上場を果たしており、今後の躍進に期待が寄せられる1社だ。

Didi Chuxing(中国

配車サービス大手の滴滴出行(Didi Chuxing)にも早くから注目しており、2016年以来複数回に及ぶ出資で、総額約120億ドル(約1.5兆円)を投資しているようだ。

2021年6月にニューヨーク証券取引所に上場を果たしたが、米中貿易紛争を背景に中国当局から上場廃止を迫られ、上場廃止に向けた手続きを進めるとともに香港証券取引所に上場することを承認したようだ。

DoorDash(米国)

オンデマンドデリバリーサービスを展開する2013年創業のDoorDashは2018年、シリーズDラウンドでSVFなどから5億3,500万ドル(約665億円)、続くGラウンドでもSVFなど既存株主から6億ドル(約745億円)を調達している。2020年12月にはニューヨーク証券取引所へ上場した。

自動運転関連では、2019年にCruiseと自動運転車を活用した食料品のデリバリー実証を行っている。

Full Truck Alliance(中国)

2017年創業のFull Truck Allianceは2018年、SVFなどから総額19億ドル(約2,300億円)に及ぶ資金調達を実施している。SVFからは追加出資含め17億ドル(約2,100億円)が出資されているようだ。同社は2021年6月にニューヨーク証券取引所に上場した。

トラック配車プラットフォーマーとして業績を上げており、今後、自動運転車が導入される可能性も高そうだ。

Grab(シンガポール)

東南アジアを中心に配車サービスを展開するGrabは、2014年のシリーズDラウンドを皮切りに2015年のシリーズE、2016年のシリーズFと立て続けにSVFから出資を受けている。SVFからの出資は計約30億ドル(約3,700億円)に上る。2021年12月にナスダック市場に上場した。

同社はこれまで、Drive.ai(アップルが買収)やNuTonomy(Aptivが買収)などの自動運手開発企業とパートナーシップを結ぶなど、自動運転技術の導入に意欲的な面を見せている。

JD Logistics(中国)

EC大手京東商城(JD.com)系列で、スマート物流システム開発を手掛けている。2021年にSVFから出資を受け、同年香港市場に上場している。

2017年に自動運転小型トラックの開発を発表したほか、2018年にレベル4相当の技術を備えた大型トラックや自動配送ロボットを発表するなど、自動運転開発にも意欲的だ。

配送ロボットは、楽天との提携のもと日本国内の実証にも用いられている。

XAG(中国)

自動運転可能な農機やドローンの開発を手掛ける2007年設立の企業で、SVFから2020年に出資を受けている。2021年には、上海証券取引所の「科創板」に上場した。

農業向けドローンでシェア拡大を図るほか、無人走行可能な農作業車の量産化も進めている。地理測量・地形マッピングを手掛けるXGEOMATICSも展開している。

■未上場企業
Arm(英国)

ソフトバンクグループが2016年に3.3兆円もの巨額で買収した半導体大手のArmも、SVFの投資先として名を連ねている。

2020年に同業のNVIDIAに売却する計画が持ち上がったが、独禁法に抵触する恐れから米連邦取引委員会などが反対し、売却を断念した。

ただ、世界的な半導体需要を背景にArmの業績は右肩上がりを続けており、クラウドや自動車、IoT、メタバースなど、あらゆる革命をけん引する第2の成長期を見越し、2023年中に「半導体業界史上最大の上場」を目指す方針だ。ソフトバンクグループの今後の命運を担うArmの上場は成功するのか、注目だ。

Brain Corporation(米国)

AIソフトウェア「BrainOS」を武器に自律走行可能なロボット開発を進めるスタートアップ。2017年のCラウンドでクアルコムとSVFから計1億1,400万ドル(約142億円)を調達し、同年ソフトバンクロボティクスと提携を交わしている。

清掃ロボットの開発が主体だが、人が同乗可能なモデルも製品化しており、応用すれば自動運転パーソナルモビリティも開発できそうだ。

Cambridge Mobile Telematics(米国)

AIを駆使したテレマティクス技術開発を手掛けており、スマートフォンや車内カメラ、サードパーティ製のデバイス、自社開発したDriveWell Autoを搭載したコネクテッドカーなど、数百万に及ぶIoTデバイスからセンサーデータを収集・分析し、それらをコンテキストデータと融合してさまざまなアプリを展開している。

2018年にSVFから5億ドル(約620億円)の出資を受けたことを発表している。

DiDi Autonomous Driving(中国)

DiDiの自動運転開発部門にもSVF2が別途出資している。DiDiの自動運転開発部門は2016年に立ち上がり、2019年に独立してDiDi Autonomous Drivingとなった。

北京、上海、蘇州、米カリフォルニア州などで公道試験ライセンスを取得し、自動運転タクシーの開発を進めている。ボルボ・カーズとのパートナーシップなどに注目だ。

Getaround(米国)

個人間カーシェア事業を手掛けるスタートアップで、SVFのほかトヨタからも出資を受けている。過去、スマートフォンでドアの解錠やエンジン始動などを行うデジタルキー技術の実証をトヨタと進めており、カーシェアや自動運転タクシーなどのキー技術として今後注目が高まりそうだ。

Light(米国)

カメラベースの知覚プラットフォーム開発を手掛けており、10センチから1,000メートルに及ぶ広範囲で物質の3D構造を認識し、深度情報を提供することが可能という。

2018年の投資ラウンドをSVFが主導しているほか、ソニーやフォックスコンなどからも出資を受けている。

MapBox(米国)

高いカスタマイズ性能を誇る地図開発プラットフォームサービスを手掛けるスタートアップで、2017年にSVFなどが総額1億6,400万ドル(約203億円)の出資を行っている。

2020年にソフトバンクと共同出資し、日本法人「マップボックス・ジャパン」を立ち上げ、販路拡大を図っている。

Nauto(米国)

AIを搭載した安全運行管理プラットフォーム開発などを手掛けている。2017年にSVFやトヨタ、BMWなどから総額1億5,900万ドル(約198億円)を調達している。

同社の車載機は高度なコンピュータビジョンとマシンラーニングを搭載しており、道路環境や運転に関する各種データを収集することができるほか、ドライバーモニタリング機能も備えている。収集したデータを自動運転分野に活用する取り組みなども進めているようだ。

Netradyne(米国)

エッジコンピューティングやコンピュータビジョン技術を駆使したドライブレコーダーをはじめ、コンピュータビジョンやSLAM、クラウドソーシングなどを活用した3次元HDマップ開発などを手掛ける。

2021年のCラウンドでSVFなどから総額1億5,000万ドル(約186億円)を調達している。

Nuro(米国)

車道を走行する自動運転配送ロボットの開発を手掛ける有力スタートアップで、2019年にSVFから9億4,000万ドル(約1,170億円)の資金調達を行っている。

カリフォルニア州車両管理局から自動運転車の商用許可を取得するなど本格実用化に向けた取り組みは着実に前進しており、第3世代となる配送ロボットの生産に向け中国BYDと提携するなど、量産段階を迎えつつあるようだ。

Ola(ANI Technologies/インド

インド最大の配車サービス事業者で、ソフトバンクからは2015年以後たびたび出資を受けている。子会社で電気二輪製造を手掛けるOla Electric Mobilityも別途出資を受けている。

各種モビリティサービスをはじめ、スマートフォンアプリと連動した車内サービスなどの開発も進めている。

Robotic Research(米国)

軍用自動運転車の開発に長く携わってきた企業で、近年はタグボートからUAV、シャトル、大型路線バス、フルサイズトラックに至るさまざまなモビリティへの統合を進めている。

同社の自動運転システム「AutoDrive」は、Local Motors自動運転シャトルバス「Olli」をはじめ、Pratt&MillerやNew Flyerなどが導入しているという。

SVFは、2021年に総額2億2,800万ドル(約260億円)を調達したAラウンドに参加している。

Gaussian Robotics(中国)

自律走行可能な清掃ロボットの開発を手掛けている。2021年にSVFが出資しており、同年には同社が開発した業務用全自動床洗浄ロボット「Scrubber 50」の日本国内販売をソフトバンクロボティクスが開始している。

Keenon Robotics(中国)

配膳ロボットを中心に案内ロボットや消毒ロボットなど屋内向けの自律走行ロボットの開発を手掛けている。2021年にSVFから出資を受け、ソフトバンクロボティクスとのグローバルパートナーシップのもと、サービス業界におけるロボットシステムの導入拡大を図っている。

■売却済みの企業
NVIDIA(米国)

自動運転分野で大活躍中の半導体大手NVIDIAもソフトバンクグループの代表的な出資先の1つだった。2016年にグループが約3,000億円で同社株を取得し、SVFに移管後、2018年に価格下落をヘッジするカラー取引によって売却した。

商談は流れたものの、その後もArm売却をめぐる戦略で同調するなど一定の関係を保っているようだ。

Cruise(米国)

SVFは2018年、米GM傘下の自動運転開発企業Cruiseに対し、総額22億5,000万ドル(約2,800億円)の出資を行うと発表した。

分割融資により、これまでに最低でも9億ドル(約1,120億円)を出資済みだが、GMは2022年3月、SVFが所有するCruise株を21億ドル(約2,600億円)で買い取ることを発表した。時期については未発表だが、SVFの公式サイトではすでにCruiseは「Exited=終了した」と表記されている。

■【まとめ】業界を支える「屋台骨」としての活躍に期待

世界経済の停滞から各社の時価総額は落ち、2022年はソフトバンクグループの業績に暗雲が立ちこめたが、株式相場の回復とともに、同社の復活に対する期待感も強い。自動運転をはじめとするモビリティ業界を支える屋台骨の1社としてとして、引き続きソフトバンクグループの活躍に期待したい。

■関連FAQ

(初稿公開日:2021年8月15日/最終更新日:2023年8月15日)

【参考】Cruiseについては「孫氏、売却益12億ドルか 自動運転企業Cruiseの株式売却で」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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