自動運転、日本政府の実現目標は?(2024年最新版) セグメント別解説

2025年めどに無人移動サービス50カ所

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社会実装に向けた取り組みが加速し続ける自動運転技術。国は2014年度から「官民ITS構想・ロードマップ」を策定し、早期実現に向けた計画のもと官民協働体制で事業を推し進めている。

同ロードマップは現在その役割を終え、新たな指針となる「モビリティ・ロードマップ2024(仮称)」の策定が進められている。新ロードマップは2024年6月をめどに取りまとめられる予定だ。

今後、自動運転開発や実装はどのように進められていくのか。国の計画や開発各社の動向などをもとに、「自家用車」「物流サービス」「移動サービス」「自動配送ロボット」のセグメント別に解説していく。

<記事の更新情報>
・2024年4月8日:記事全体を最新情報にアップデート
・2023年11月22日:日本初のレベル4移動サービスについて追記
・2021年10月4日:記事初稿を公開

■官民ITS構想・ロードマップについて

冒頭触れた通り、ロードマップは「官民ITS構想・ロードマップ」から「モビリティ・ロードマップ2024(仮称)」へ変わっていくが、現時点のロードマップに関する情報としては、以下の2021年6月公開の資料を参考にしてほしい。

▼官民ITS構想・ロードマップ〜これまでの取組と今後のITS構想の基本的考え方〜
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/2b3315d1-5865-4712-99dd-84c54a396f9b/d2ddcc36/20231211_meeting_mobility-working-group_outline_09.pdf

PDF6枚目(P3)には「自動運転システムの市場化・サービス実現目標(期待時期)と評価」という表が掲載されている。

出典:デジタル庁

■自家用車

高速道路におけるレベル4は2025年をめどに

官民ITS構想・ロードマップでは、自家用車における一般道路での運転を支援するレベル2を2020年まで、高速道路におけるレベル3を2020年めど、高速道路におけるレベル4を2025年めどに実現する目標を掲げている。

一般道路におけるレベル2は、国道など主要幹線道路において前後と左右それぞれの方向への制御を支援する運転支援機能(アダプティブクルーズコントロール+レーンキープアシスト)が登場しているが、信号や交差点の通過を支援する機能は未実装となっている。

高速道路においては、アクセルペダルやステアリングから手足を離すハンズオフ運転が可能な高度なレベル2(レベル2+)が実現している。

レベル3関連では、改正道路交通法及び改正道路運送車両法が2020年4月に施行され、2021年3月に高速道路渋滞時における自動運転システムを搭載したホンダの「レジェンド」が市場化された。海外では、独メルセデス・ベンツがドイツ国内で2022年、米カリフォルニア州とネバダ州で2024年にレベル3搭載車を市場に送り出している。

なお、どちらも渋滞時限定で、高速道路における最高速度を満たすことはできない。今後、BMWも2024年3月から7シリーズを対象にレベル3システムの搭載を開始すると発表している。

ホンダが発売したレベル3乗用車「新型LEGEND」=出典:ホンダプレスリリース

【参考】レベル3の開発動向については「自動運転レベル3とは?」も参照。

高速道路におけるレベル4に向けては、民間において車両技術の研究開発が進められており、レベル4におけるビジネス価値を検討中としている。

国内では、自家用レベル4に関する具体的な計画を明らかにしたメーカーはまだいないが、海外ではイスラエルのモービルアイが中国メーカーと共同開発を進めており、2024年にも中国で発売する計画を明かしている。おそらく計画通りには進んでいないと思われるが、その動向には注視が必要だ。

なお、高速道路上の合流部などにおける道路側から情報提供を行うV2I(路車間通信)の仕組みなどの検討や、高速道路における自動運転車や高度なレベル2技術を搭載する自動車などの走行環境構築に向け、2021年から官民連携による路車協調に関する実証を行い、その結果を踏まえ必要な情報提供システムの仕様策定を進めていく。

【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?定義や実用化状況は?」も参照。

■物流サービス

後続車有人隊列走行技術は商用化へ

出典:豊田通商プレスリリース

物流サービスにおいては、物流の効率化・人材不足の解消を目的に、高速道路におけるトラックの後続車有人隊列走行を2021年まで、後続車無人隊列走行を2022年度以降に実現する目標を掲げている。

有人隊列走行関連では、日本自動車工業会に所属する日野いすゞ、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックスの大型車メーカー4社が各社の技術開発をはじめ協調技術の確立に取り組んでおり、定速走行・車間距離制御装置(ACC)に車線維持支援装置(LKA)を組み合わせた後続車有人システムの商品化を、2021年をめどに商品化する。

また、発展型として割込車や登坂路、車線変更などにも対応したより高度な車線維持機能を加えた技術開発・商業化を目指すこととしている。

後続無人隊列走行関連では、新東名高速道路の長泉沼津IC~浜松いなさIC間約140キロの区間で実証実験を進め、2021年2月に後続車の運転席を実際に無人とし、助手席に保安要員を乗せる形で3台の大型トラックが時速80キロで車間距離約9メートルの車群を組んで走行することに成功している。

高速道路におけるレベル4自動運転トラックは2025年度以降に

今後の取り組みとしては、2025年度以降の高速道路におけるレベル4自動運転トラックの実現を目指し、高性能トラックの運行管理システムについて検討を進めていくほか、新東名・新名神の6車線化によって三大都市圏を繋ぐダブルネットワークの安定性・効率性を向上させるとともに、新東名の静岡県区間を中心に本線合流部での安全対策や既存のSA・PAの拡幅などの実証環境整備を進めるなど、インフラ面の整備も進めていく方針を掲げていた。

自動運転支援道に向けた取り組みにも着手

デジタル時代の社会インフラとなる「デジタルライフライン」を整備する中長期計画として策定が進められている「デジタルライフライン全国総合整備計画」においても、先行的な取組み(アーリーハーベストプロジェクト)として2024年度から「自動運転支援道」整備に向けた実証を開始する見込みだ。

物流関連では、新東名高速道路の駿河湾沼津SA~浜松SA間の100キロ超の区間が選定され、2024年度から合流支援情報や車線変更を支援するための情報提供をはじめ、自己位置特定精度を向上する環境整備、V2X・V2N通信の環境整備などを進めていく計画だ。また、2025年度以降には東北自動車道の6車線区間の一部でも実施する。

このほか、高速道路上の車道以外の用地や地下を活用した物流専用の自動輸送についても調査を行う。自動運転技術などの新技術の導入期や、個別の事業者が新技術を用いた車両を保有するハードルが高いため、これらを促進するようなスキームの具体化を図っていく方針だ。

民間の開発も大きく加速

T2の実験車両=出典:T2プレスリリース

高速道路における自動運転トラック実現に向けては、トラックメーカー以外にも三井物産が出資するT2や米TuSimpleなどが開発を進めている。

また、三菱地所が高速道路IC直結の「次世代基幹物流施設」の開発計画に着手するなど、民間の動きも活発化し始めている。

【参考】T2や三菱地所の取り組みについては「T2と三菱地所、レベル4自動運転トラックの物流網構築へ」も参照。

■移動サービス

2025年めどに50カ所で無人サービス実現

移動サービスに関しては、限定地域での無人自動運転サービスを2020年までに実現する目標を掲げていたほか、高速道路におけるバスの運転支援・自動運転を2022年以降に実現することとしていた。

2022年12月に閣議決定されたデジタル田園都市国家構想総合戦略においては、新たに2025年度をめどに50カ所程度、2027年度には100カ所以上で自動運転移動サービスを実現する目標が掲げられた。

この目標達成に向け、2024年度には社会実装につながる一般道での通年運行事業・実証を20カ所以上に倍増するとともに、自動運転のすそ野拡大を図るためすべての都道府県で1カ所以上の計画・運行を目指すとしている。

【参考】新たな政府目標については「自動運転、2024年度に一般道20カ所以上で通年運行 政府目標」も参照。

専用走行空間においてレベル4相当を達成

出典:JR東日本プレスリリース

無人移動サービスでは、2017年度から道の駅などを拠点とした自動運転サービスの実証を続けてきた秋田県北秋田郡上小阿仁村の道の駅「かみこあに」で2019年11月、ルートの一部を専用道とすることで無人運行を実現した。その後は主にレベル2で走行しているという。

また、車内に保安要員を置かず、遠隔技術によって1人が3台を監視するレベル3の無人自動運転移動サービスも福井県永平寺町で2021年3月にスタートした。

2023年4月の改正道路交通法施行でレベル4運行が「特定自動運行」と位置付けられ、これに合わせ同町の自動運転システムもレベル4自動運行装置として国内初の認可を受け、同年5月に運行許可を取得してレベル4運行を行っている。

特定自動運行の認可は、2024年4月現在、ティアフォー(神奈川県相模原市内の物流拠点「GLP ALFALINK相模原」内)とBOLDLY(東京都内の羽田イノベーションシティ内)、JR東日本(気仙沼線BRTの柳津駅~陸前横山駅間)の計4件となっている。

【参考】国内のレベル4サービスについては「自動運転、次は東北で「なんちゃってレベル4」認可 汎用性に課題感」も参照。

日立市で自動運転支援道実証にも着手

デジタルライフライン全国総合整備計画におけるアーリーハーベストプロジェクトでは、茨城県日立市の大甕駅周辺で2024年度にも自動運転支援道整備に向けた取り組みに着手する。

計画では、まずリスクが低いエリアにおいて、幅広い用途を想定してレベル4相当の自動運転バスやカートを用いた外部支援に関する技術検証及びビジネス実証を行い、将来的な外部支援の在り方の具体化や事業モデルの確立につなげていく。

短期的には、他の交通参加者との隔離が可能なBRT専用区間などの限定空間から導入を開始し、それを起点に路線を拡張する形で面での整備を進めていく方針だ。

【参考】自動運転支援道については「自動運転支援道、茨城県日立市の一般道で「先行導入」へ」も参照。

■自動配送ロボット

2020年を境に取り組みが急加速

歩道を前提に低速走行する自動配送ロボットをめぐっては、道路交通法や道路運送車両法など制度上明確な位置付けが行われていなかったことから実用化に向けた国内の動きは非常に鈍く、2020年4月に監視・操作者が近くで見守りながら追従する「近接監視・操作」型に限り、歩道走行を含めた公道実証を行うことができる枠組みが整備されるにとどまっていた。

このような中、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い宅配需要が急増し、非接触型の配送ニーズが高まったことで状況は一変する。2020年5月開催の未来投資会議において、当時首相を務めていた安倍晋三氏が早期実現を促す発言を行い、遠隔監視・操作型の公道走行実証を可能な限り早期に実現するとともに、その結果を踏まえ制度設計の基本方針を決定する目標が掲げられた。

その後、公道実証においては自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準を準用して道路使用許可を得るなど手続き関連の整備が進み、また「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」がスタートしたことを受け、同年秋頃に公道実証が一気に加速し始めた。

2021年6月には、警察庁が「特定自動配送ロボット等の公道実証実験に係る道路使用許可基準」を発表し、一定の走行実績があるロボットの許可審査を一部簡素化している。

【参考】自動配送ロボットをめぐる国の動向については「首相が喝!自動運転配送ロボの公道実証「2020年、可能な限り早期に」」も参照。

改正道交法で「遠隔操作型小型車」を定義

2023年4月には、改正道路交通法において小型自動配送ロボットは「遠隔操作型小型車」と定義され、届け出制で公道走行が可能になった。

電動車いす同等の長さ120センチメートル以下、幅70センチメートル以下、高さ120センチメートル以下のサイズで、電動機によって時速6キロメートルを超える速度を出すことができないことなど一定要件を満たすロボットが遠隔操作型小型車に位置付けられた。

走行エリアを管轄する都道府県公安委員会へ、通行場所や遠隔操作場所、連絡先、非常停止装置の位置、遠隔操作型小型車の仕様に関する事項などを事前に届け出ることで走行が可能になる。

【参考】遠隔操作型小型車については「自動配送・宅配ロボットの届出・審査の流れ」も参照。

継続的取り組みが徐々に拡大中

出典:Uber Eats Japanプレスリリース

開発勢としては、ZMPやHokobot、LOMBY、ティアフォーといった新興勢をはじめ、パナソニックやホンダ、川崎重工業などの大手も参入している。

パナソニックが神奈川県藤沢市や茨城県つくば市などで継続的にサービス提供するなど、本格実用化に向けた各社の取り組みは加速傾向にある。

また、三菱電機は米Cartkenと提携し、Uber Eats Japanのデリバリープラットフォームにロボットを導入する計画を発表している。2024年3月に東京都内の一部エリアで実装が始まったようだ。

【参考】自動配送ロボットの動向については「配送ロボ、市場規模40倍で「超ドル箱」化へ 2030年に4,000億円予測」も参照。

中型・中速モデル実用化に向けた調査も開始

出典:京セラコミュニケーションシステム公式YouTube動画

歩道をメインに走行する小型の自動配送ロボットとは別に、車道をメインに走行する中型・中速モデル実用化に向けた取り組みも一部で進められている。京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が北海道石狩市や千葉県千葉市で実証を重ねている。

こうしたタイプは「遠隔操作型小型車」にあたらない。車両の大きさや構造に応じて原動機付自転車か自動車に該当することとなるが、無人走行するにあたってその存在があいまいとなっている。現在、経済産業省が中型・中速モデル実用化に向けた調査を進めている段階だ。

今後、明確な定義のもと車体サイズや走行速度、走行ルールなどが定められるものと思われる。

【参考】中型・中速モデルについては「自動配送ロボ、「中速・中型」クラスも法整備へ 経産省が調査開始」も参照。

■【まとめ】新ロードマップに注目

自家用車や移動サービスなど、各セグメントでおおむね計画通りに進んでいることが分かった。今後は、2025年をマイルストーンに無人移動サービス実装に向けた取り組みが拡大し、各地で目にする機会が増えることとなりそうだ。

自家用車においては、レベル3採用メーカーがようやく増え始めた状況だ。今後、制限速度などの面も含めどのように拡大していくか必見だ。

近々では、2024年6月に取りまとめられる予定の新ロードマップがどのようなものとなるか注目だ。

■関連FAQ
記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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