
ロシア・ウクライナ間の紛争に続き、米国・イスラエルとイラン間の紛争も泥沼化の様相を呈してきた。戦場から白兵戦は消え、無人ドローンで制空権を争うようなやり取りが続いている。ウクライナ軍などは積極的に無人戦闘車両も導入しているようだ。
今後、イラン戦も長期化すれば地上戦が行われる可能性が高まり、米軍が自動運転機能を搭載した無人車両を続々と投入することも予想される。
自動運転技術の軍事転用には賛否があり、せめて防衛用途で使用してほしいところだが、そもそも米国としては軍事目的で自動運転開発を促進したいきさつがある。今日に続く自動運転開発競争は、米国防総省が仕掛けた結果と言っても間違いではないのだ。
米国における自動運転開発と軍事・防衛分野の関係性に迫る。
【参考】関連記事としては「米国防総省ペンタゴン、兵器の自動運転化へAI開発に2200億円拠出か トランプ政権下で”イノベーション”加速化」も参照。
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■米国における自動運転開発
民間の自動運転開発を焚きつけたDARPA
自動運転に関する研究開発は20世紀から行われていたが、現在の開発競争に直結する引き金となったのは、米国防総省の研究開発機関DARPA(国防高等研究計画局)が主催した自動運転レースだ。
米議会は2001年度、2010年までに攻撃用航空機、2015年までに地上先頭車両のそれぞれ3分の1を無人化する方針を発表した。これに基づき、DARPAが企画したのが「DARPAグランド・チャレンジ」だ。
無人の自動運転車で未舗装路を走破する賞金(100万ドル)付きのカーレースを主催し、民間や大学による自動運転の研究開発を焚きつけたのだ。レースは2004年と2005年、2007年の3回にわたり実施された。
【参考】関連記事としては「自動運転、「レース」が技術革新の火種に 日本でも大会が定着」も参照。
セバスチャン・スラン氏はじめ著名エンジニアが多数参加
1回目のグランド・チャレンジ2004は、カリフォルニア州バーストウからネバダ州ラスベガスにまたがる砂漠を含む全長240キロのコースが設定された。道なき道を走行する軍事車両を想定したコース設定だ。
当時の報道によると、先端技術を開発する民間企業やカーネギーメロン大学などから106チームが応募し、最終的にスタートラインに立ったのは15チームという。レースの結果、完走車両は現れず、カーネギーメロン大学の11.78キロが最長という散々な成果となった。
これで参加各チームの研究熱に火が付いたようだ。後にLiDAR開発を本格化するVelodyne創業者のデビッド・ホール氏は、カメラに依存したシステムに限界を感じ、LiDARシステムの改良に着手。現在につながる360度を認識可能な回転式LiDARを開発するなど認識技術の向上に努めた。
翌年に開催されたグランド・チャレンジ2005では、明らかに各チームの技術に進歩がみられたようだ。設定された約212キロのオフロードコースを、制限時間10時間以内に4チームが完走した。優勝したスタンフォード・レーシング・チームのプロジェクトリーダーは、当時スタンフォード大学人工知能研究所の所長を務めていたセバスチャン・スラン氏だ。
スラン氏はその後グーグルに入社し、Google Xを立ち上げ自動運転開発プロジェクトを主導する。Waymoにつながるグーグルの自動運転開発の立役者だ。
2位のカーネギーメロン大学レッドチームでは、後にAurora Innovationを創業するクリス・アームソン氏がテクニカルリーダーを務めていた。
3回目のレースは、空軍基地跡地などを活用して「DARPAアーバンチャレンジ」として2007年に開催され、カーネギーメロン大学などで構成するTARTAN RACINGが優勝した。同チームには、アームソン氏のほかNuro創業者のデイブ・ファーガソン氏、Argo AI創業者のブライアン・サレスキー氏らが名を連ねている。
このほか、1回目の大会に出場していたマサチューセッツ工科大学のチームには、後にCruiseを立ち上げるカイル・ヴォグト氏が在籍していた。
グーグルはDARPA参加チームのスポンサーとして関わっており、その後、有力なエンジニアをスカウトして自動運転開発プロジェクトを進めることになる。自動運転開発競争を繰り広げる有力スタートアップ創業者の多くもDARPAを経験している。
今日の自動運転開発競争の火付け役がグーグルであることは周知の事実だが、グーグルはこのDARPAを踏まえてプロジェクトを立ち上げたと言える。少なからず、DARPAを経験したスラン氏をスカウトしたことでプロジェクトが始まったのは間違いない。
このような形で軍事分野以外で産業化していくことをDARPAが予測していたかどうかは定かではないが、結果として自動運転技術の著しい進歩につながり、米国の新たな産業や技術革新に大きく寄与することとなった。民間で進歩した技術は、軍事面に改めて転用される――という点を踏まえれば、DARPAのチャレンジは大成功を収めたと言えるだろう。
DARPAは、その後も「RACER(Robotic Autonomy in Complex Environments with Resiliency)」プログラムとして、GPSや地図データに依存することなくオフロード環境を自律走行可能な無人地上車両(UGV)の研究などを進めている。
【参考】関連記事としては「自動運転と軍隊、「ダイナマイト」の二の舞は避けられるか」も参照。
■米国防総省×民間企業の取り組み
Forterraは防衛産業を事業の柱に
軍事領域に注力した自動運転開発を手掛ける企業として、Forterraが近年事業を拡大しているようだ。同社はもともとRobotic Research Autonomous Industries (RRAI)という社名で、防衛分野をはじめ自動運転バスやトラックの開発など広範にわたる事業を手掛けてきたが、2024年にForterraに社名変更し、防衛分野への事業シフトを進めている。
最高技術責任者(CTO)を務めるジョセフ・パトニー氏は、DARPAグランド・チャレンジ2005への参加経験を有する。
Forterraは2025年1月、開発を進める自動運転システム「AutoDrive」が、米海兵隊向けのOshkosh Defense社の遠隔操作式遠征火力地上ユニット「ROGUE-Fires」に統合されると発表した。国防総省が地上車両の自律走行に特化した初の生産契約という。
これにより、海兵隊があらゆる環境下でオフロード用途向けに高い機動性を備えた自動運転技術を展開できるようになるという。
2025年9月には、米陸軍が進める無人システム(UxS)の自律性実証計画を支援する企業として選定されたことを発表している。将来の戦闘ニーズに対応するため、陸軍はあらゆる作戦設計領域で運用可能な自律型ソリューションの取得を目指しており、「AutoDrive」を4両の歩兵分隊車両(ISV)に統合する計画としている。
同月には、英軍事企業のBAEシステムズと自律型装甲多目的車両(AMPV)のプロトタイプ開発に向け協業することを発表した。
自動運転バスやトラックではなかなか頭角を現すことができなかったようだが、軍事領域で本領を発揮することになりそうだ。
Overland AIも米軍と連携して無人ソリューションを開発
ワシントン大学ロボット学習研究所所長を務めるバイロン・ブーツ氏を中心に2022年に設立されたスタートアップOverland AIは、防衛分野向けの無人自律走行ソリューションの開発で米軍と連携している。
ブーツ氏は以前から米国陸軍研究所と連携してロボット開発などを進めており、Overland AIは現在第82空挺師団、第1騎兵師団、第173空挺旅団、第36工兵旅団、第2海兵兵站群、特殊部隊各部隊とパートナーシップを結んでいるという。
最も過酷な地形に対応可能な自動運転システム開発をはじめ、無人機が複数領域で連携運用できるシステム開発なども手掛けている。
Kodiak AIは国防総省向けの特別設計車両を公開
自動運転トラックの開発で知られるKodiak AI (Kodiak Robotics)も防衛分野のソリューション開発に力を入れている。
2022年10月に国防総省と契約し、陸軍ロボット戦闘車両(RCV)プログラム主導の地上車両の自動化支援に着手した。その後、国防総省の国防イノベーションユニット(DIU)と契約し、2023年に特別設計された自律型軍事プロトタイププラットフォームを公開している。
2024年には、軍用地上車両の開発を手掛けるTextron Systemsと提携し、RIPSAW M3に自社の自動運転システムを統合している。
【参考】関連記事「米Kodiak、軍事用にフォードF-150を自動運転化 国防総省に納品へ」も参照。
老舗Oshkosh Defenseも無人化技術の開発に本腰
自動車関連事業を手掛ける老舗Oshkosh Corporation傘下で防衛関連モビリティの開発を手掛けるOshkosh Defenseは、2025年に開催された米国陸軍協会の展示会で多目的自律走行車両ファミリー(FMAV)を発表した。
自律型発射機ソリューション「極限多目的自律型車両(X-MAV)」や、多連装ロケットシステムを搭載可能な「中型多目的自律走行車(M-MAV)」、量産型自律走行車「軽量多目的自律走行車(L-MAV)」で構成されている。
戦闘車両の開発・納入で実績のある老舗も、やはり無人化技術の開発・導入に本腰を入れているようだ。
Ghost Roboticsは軍事用4足歩行ロボットを開発
4足歩行ロボットの軍事活用もすでに始まっている。2015年設立のGhost Roboticsは、偵察や爆発物探知などこれまで人間が行っていた任務を代替可能な4足歩行ロボット「Vision 60」を実用化しており、すでに1000機以上納入しているという。
3時間以上の連続歩行を可能としており、幅広いカスタマイズ可能なペイロードをサポートしている。速度や行動範囲に制限はありそうだが、複雑な地形を移動するのに4足歩行ロボットは有効だ。SF映画の世界がすでに現実となっているようだ。
■【まとめ】米国にとっては軍事利用が本筋?
「自動運転技術を軍事転用するなんてけしからん!」という声も聞こえてきそうだが、米国にとっては軍事利用が本筋と言っても過言ではない。
一方で、軍事目的で本格化した研究開発が一般社会にイノベーションをもたらす例も少なくない。自動運転もその一つと言える。
きれいごとが通じないのが軍事分野だが、人の犠牲を一切巻き込まない形で自動運転技術が活用されることを願うばかりだ。
【参考】関連記事「自動運転技術の軍事・防衛・戦争利用」も参照。













