自動運転技術の軍事・防衛・戦争利用(2023年最新版)

開発競争の火種は「国防」? 日本でも研究が進展か



出典:Kodiak Roboticsプレスリリース

世界では絶えず紛争が起こり、国内では防衛費の増額が賛否の的となっている。こうした紛争や軍事・防衛と密接に関連するのが科学技術だ。火薬や爆薬、製鉄、造船、航空、核など、各時代の最新技術は軍事に転用され、また軍事をきっかけに発展していくものは非常に多い。

自動運転技術もその1つだ。軍事領域においては早くから注目を集めていたが、近年の技術発展が軍事転用に拍車をかけている印象だ。


民間で開発が加速している自動運転技術は、今後軍事領域でもスタンダードなものとなっていくのだろうか。自動運転技術と軍事領域の関係に迫る。

■軍事領域における自動運転技術
軍事領域で注目集める無人化技術

軍事領域で注目されているのは、自動運転技術による「無人化」だ。偵察車両や戦車などを無人化することで、人的リスクを最小化しつつ目的を遂行することが可能になる。

こうした研究開発は古くから行われており、米国と旧ソ連が開発競争を繰り広げた月面探査なども類似例に挙げられる。「月・宇宙を調査する」という大義名分のもと、ロボットや航空、衛星、通信、エネルギーなどさまざまな技術開発が促進され、隠すことなく軍事領域への技術転用なども進められている。

近年においては、AI(人工知能)やLiDARをはじめとしたセンサー類の進化が自動運転技術を大きく前進させたことにより、すでに公に実戦投入されているドローン技術と同様、軍事領域への自動運転技術の導入が本格化しているようだ。


近年の開発競争のルーツはアメリカの国防にあり?
DARPAによる2004年大会のポスター=出典:DARPA公式サイト

この近年の自動運転分野の進化は、グーグルをはじめとした民間が開発主体であり、その用途も民間向けが中心となっているが、そのルーツをたどれば米国防総省の取り組みにつながる。

21世紀における世界的な自動運転開発のルーツは、米国防総省下のDARPA(米国防高等研究計画局)にさかのぼる。DARPAは2004年、軍事要件に適用できる自動運転車技術の開発加速を目的に、自動運転技術を競うコンテスト「DARPAグランドチャレンジ」を開催した。いわゆる「ロボットカーレース」だ。

カリフォルニア州バーストーからネバダ州プリムまでのルート完走を目指す内容で、翌年にも同大会、2007年には市街地エリアを走行する「アーバンチャレンジ」を開催した。

大会には、カーネギーメロン大学やスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学など米国屈指の有力大学などが参戦し、自動運転技術を競った。LiDAR開発で知られるVelodyne Lidar創業者のチームなども参加していた。


この時、グーグルはスタンフォードのチームを後援しており、同チームのリーダーを務めていたセバスチャン・スラン氏は後にグーグルに入社し、Google XやUdacityを創設したほか、同社の自動運転開発もリードした。

また、DARPAのレースにはAurora Innovation創業者のクリス・アームソン氏やNuro創業者のデイブ・ファーガソン氏、Argo AI創業者のブライアン・サレスキー氏、Cruise創業者のカイル・フォークト氏らも参加していた。

DARPAをきっかけに有力なエンジニアが自動運転開発分野に集い、そしてグーグルが仕掛けた自動運転開発競争の波に乗って数々のスタートアップを立ち上げるなど、今日の業界の発展の礎となったのだ。

おそらく、後にDARPAに所属して自動運転技術の研究などを進めているエンジニアもいるはずだ。国家主導の軍事目的の取り組みを契機に、最新技術の研究開発が軍事、民間の双方で加速した分かりやすい例と言える。

【参考】自動運転開発の歴史については「自動運転の歴史と現状(2023年最新版)」も参照。

■日本国内の取り組み
防衛省も無人化技術に注目、軍民両用の研究にも着手か

日本国内でも、自動運転技術を軍事と民間の産業発展に生かす「軍民両用(デュアルユース)」の取り組みが進められるようだ。日経新聞によると、防衛省は2023年度内をめどに大学や研究機関と先端技術の活用に向けた定例協議の枠組みを設け、軍民両用の研究成果を共有するという。使途を広げ、技術革新を後押しする狙いがあるようだ。

商業面でのイノベーションを推進する効果と合わせ、国側としても開発コストの低減を図ることが可能になる。具体的な検討内容などは明かされていないものの、自動運転技術は有力候補の1つに挙げられる。

防衛省は過去、陸海空の移動無人化に資する以下などのような研究を進めている。

  • 無人水中航走体(UUV)や無人水上航走体(USV)に関する「無人航走体構成要素の研究」(2010年度)
  • 画像を用いた新しい測位・航法技術「画像ジャイロ応用技術の研究」(2013年度)
  • 情報収集や監視、物資輸送などで使用する陸上無人機技術に関する「車両型無人プラットフォーム技術の研究」(2014年度)
  • 特殊環境下で狭隘空間に進入しての偵察任務で使用する「遠隔操縦式小型偵察システムの研究」(2015年度)
  • 武力攻撃や災害派遣などに使用可能な「多目的自律走行ロボットの研究」(2016年度)
  • 長期間の水中航走を可能にする「水中無人航走体長期運用システム技術の研究」(2019年度)
  • UUVの多目的化や能力向上を可能とするモジュール化技術を確立する「長期運用型UUV技術の研究」(2022年度)
  • 無人機群による着上陸侵攻などに対処する「無人戦闘車両システムの研究」(2022年度)

車両型無人プラットフォーム技術の研究では、脅威発生源の状況確認や情報収集などを想定し、夜間無灯火走行や危険地域を高速移動する機能を備えた無人モビリティの実現に向け、試作や所内試験などを行ったようだ。

多目的自律走行ロボットの研究では、武力攻撃への対処や災害派遣などを目的に、悪天候下や障害物が存在する環境下における自律走行機能の向上を図るべく長期にわたり研究を進めている。

2020年度には、オフロード環境の実走行で得られた画像を領域分割するモデル作成を競う「オフロード画像のセグメンテーションチャレンジ」を防衛装備庁先進技術推進センターが開催するなど、民間・個人技術の導入にも積極的だ。

一般公道主体の市街地における自動運転技術は圧倒的に民間主体の開発が先行しているが、オフロードをはじめとした特殊環境下における自律走行技術はまだまだ未知数な部分が多い。こうした領域においては、軍民両用の研究を進めることで新たな視点の開発が促進される可能性が高そうだ。

【参考】防衛省の取り組みについては「自動運転と軍隊、「ダイナマイト」の二の舞は避けられるか」も参照。

■海外の動向
米国ではKodiak Roboticsが陸軍や空軍と連携

軍事技術の開発が盛んな国では、自動運転軍用車の実戦投入はすでに始まっており、イスラエルは完全無人の車両を2016年に配備したことが明かされている。官民それぞれの研究開発の距離も近く、LiDAR開発を手掛けるInnoviz Technologiesのように、国防軍出身のエンジニアが創業することも珍しくないようだ。

中国は国家戦略のもとAI開発を強力にバックアップしており、自動運転分野における同国企業の躍進は著しいが、軍民融合の観念のもと、民間技術の軍事領域への転用を推し進めることも予想されている。

米国では、自動運転開発を進めるKodiak Roboticsが2021年、米空軍中小企業イノベーション研究契約を交わし、ドーバー空軍基地のフライトラインを走行できる自動運転車用のソフトウェアプラットフォームを開発した。翌年には、米陸軍と国防イノベーションユニット(DIU)からロボット戦闘車両に自動運転プラットフォームを統合する契約も交わしている。なお、同社のドン・バーネットCEO(最高経営責任者)もDARPAレース経験者だ。

同社も軍民両用に言及し、商業用途と防衛用途の両方に向け設計された技術が政府に利点をもたらすとしている。

■【まとめ】軍民両用の研究が促進されるのか注目

米国やイスラエルなどでは軍事産業の一環として民間が技術開発を進めることは一般的であり、軍民両用の研究はスタンダードなものと言える。

一方、「軍」の存在そのものに賛否の声が付きまとう日本では、企業として軍事領域への進出・協力を宣伝すること自体がはばかられる場面も少なくない。

賛否は置いておき、軍民両用の研究がイノベーションや民間活力を増進することは間違いない。軍備拡大路線を歩もうとする政府の意向がこうした面にも反映されていくことになるのか、要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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