自動運転と軍隊、「ダイナマイト」の二の舞は避けられるか

技術の軍事転用進む、UGV開発は多用途化



ドライバー不在で自律走行を可能にする自動運転技術。道路交通の効率化や安全に大きく貢献する技術として期待されているが、この自動運転技術に早くから注目している領域がある。軍事領域だ。







軍事領域への技術の活用は賛否両論を避けられないところだが、現実問題として、同領域において自動運転技術はどのように開発され、利用されているのか。

この記事では、軍事領域における自動運転技術の動向に迫っていく。

■軍事領域における無人化技術
多用途開発が進むUGV

軍事領域において、自動運転をはじめとする無人化技術は早くから研究が進められている。例えば米国では、偵察などを目的とした自律走行車両「ALV(Autonomous Land Vehicle)」の具体的な開発が1980年代にすでに始まっている。

21世紀に入ると、遠隔操作技術を活用した「無人地上車両(UGV)」の呼称で実用化が始まり、近年では自動運転技術によって自律走行するモデルの実用化・開発が盛んに行われている。

危険や緊張を伴うシーンが多い軍事領域では、味方の人的被害を抑えるため無人化技術が重宝する。多くの人が懸念を抱くだろう攻撃用途をはじめ、監視や偵察、地雷をはじめとした爆発物処理、汚染地域での活用、物資の輸送、人道支援など、幅広い目的で研究開発が進められている。日本に代表されるように、災害復旧などを視野に入れているケースも当然ある。

武力行使を伴うもの、防衛目的のもの、救済目的のものなどさまざまな用途が想定されるのだ。無人化技術は人的被害を抑える点のほか、人間のように生理的限界を持たないため持続的運用が可能で、運用に伴うコストも将来的に引き下げられる可能性が高い。

是非はつきまとうが、日本の自衛隊のように防衛を主目的とする組織においても、こうした先端技術の研究は対策の観点から必須となる。国防において、技術的優越性の確保は重要な位置を占めているからだ。

■防衛省の取り組み
技術的優越確保という観点

防衛省では、安全保障環境を踏まえた上で技術的優越を確保するため、先進技術動向の把握や将来の研究開発の方向性を示す技術戦略の策定などを進めている。

先進技術の研究開発を担う防衛装備庁先進技術推進センターでは、災害派遣などに活用する機動力に優れた高機動パワードスーツの開発や、詳細な地図情報のない野外において自動運転可能な高度自律化技術、隊員の認知状況や意図を把握し、行動を支援する認識拡張技術、先進マテリアル・デバイス技術などの研究を行っている。

▼防衛装備庁|先進技術推進センター
https://www.mod.go.jp/atla/center.html

多目的自律走行ロボットの研究開発

多目的な活用を念頭に置いた自動運転ロボット(自動運転車)の開発においては、機械学習などの適用によって複雑な環境における走行範囲の拡大を図っている。発展著しい先進技術を取り込み、悪天候下や無舗装路、不整地など厳しい環境下における自動運転技術の研究を進めているようだ。

2014年度から2017年度にかけて悪天候や移動障害物への対応といった研究開発を進め、2018年度からはフォローアップとして無舗装路や不整地などにおける走行能力の向上を図っている。

自動運転車が協調すべき道路インフラがなく、車線や標識、周囲の建物など目印となる構造物などもない環境における自動運転には、高精度3次元地図などの補完技術は通用せず、純粋にセンサーとAIによる認知・解析能力とGPSなどの測位システムに頼るハイレベルな技術だ。

また、SLAM技術の研究も進めている。搭載センサーの情報を統合し、周囲の3次元形状を把握して自己位置を推定する技術で、同研究所は、物体識別への拡張性が高く、パッシブ動作が可能な画像センサーを用いた研究開発に力を入れているようだ。

【参考】関連記事としては「SLAMとは?位置特定と自動運転地図の作成を同時に」も参照。

画像SLAM技術の実用化には、明度変動や移動物体への対処が大きな課題となるため、明度変動や移動物体がある条件下においても動作する実用的な全方位型画像SLAM技術の確立を目指している。

また、技術協力案件として、インドと無人地上車両(UGV)・ロボティクス向けの画像による位置推定技術の共同研究なども進めている。

オフロード画像のセグメンテーションチャレンジ開催

同研究所は2020年12月から2021年3月にかけ、オフロード環境などの実走行で得られた画像を領域分割するアルゴリズムを作成し、認識精度と推論速度を競うコンテスト「オフロード画像のセグメンテーションチャレンジ」を開催した。「精度部門」「推論速度部門」合わせ451人が参加したようだ。

オフロード環境の実走行で得られた画像に対し、「road」「dirt road」「other obstacle」の3つのカテゴリに対応する領域をピクセルレベルで分割・色分けする内容で、精度部門は評価関数を使用し、予測した色塗り領域と実際に色塗りされた領域が重なり合う割合をスコア化し、その精度を判定した。推論速度部門は、画像読み込みや推論実施、推論結果変換までを推論速度と見なし評価した。

▼【入賞者インタビュー】「オフロード画像のセグメンテーションチャレンジ」認識精度部門1位|チームMPRG
https://signate.jp/articles/winners-interview-atla-20210602

■海外における取り組み
米DARPAが自動運転開発を促進

米国における現在の自動運転開発の礎には、米国防高等研究計画局(DARPA)が築いたといっても過言ではない。

DARPAは2004年、防衛上の先進技術開発の観点から未舗装路における自動運転技術を競う「DARPAグランド・チャレンジ」を開催した。同大会は2005年も継続されたほか、2007年には舗装された市街地を想定した「DARPAアーバン・チャレンジ」も開催されている。

競技そのものは純粋に自動運転技術を競う内容で、スタンフォード大学やカーネギーメロン大学などから多くの研究者が参加した。

各チームの後援を行った米グーグルは、参加した優秀なエンジニアとのパイプを作り、自動運転開発プロジェクトに着手した。また、同大会には、Velodyne LidarやAurora Innovation、Argo AI、Nuroの創業者など、後に自動運転分野で大活躍する多くのエンジニアが参加していた。

各エンジニアはもともと自動運転開発に高い関心を持っていたと思われるが、DARPAをきっかけにグーグルが事業化に着手し、民間開発の波が世界に波及していったことに間違いはない。この点において、自動運転分野におけるDARPAの功績は非常に大きいものと言えそうだ。

AI研究開発にも注力

米軍の戦闘車両研究開発技術センターは、軍用車の列を自動制御するシステム「AMAS」を2014年に開発するなど研究を続けているが、本格的な自動運転車の実装には至っていないようだ。

DARPAは2018年、AI(人工知能)開発部門に20億ドル(約2,200億円)を投資する計画を発表するなど、開発を加速する方針を打ち出している。

また、2020年には、AIに対する敵対的な攻撃に対する防御方法を開発する「Guaranteeing AI Robustness against Deception(GARD)」プログラムを発表した。

AIの認識能力を逆手に取り、誤認識させるような攻撃に備える研究開発で、インテルなどと共同で研究を進めていくこととしている。

誤認識をめぐっては、コンピューターセキュリティを手掛けるマカフィーが同年、ADASにおけるモデルハッキングの検証結果を発表している。道路標識に簡易な加工をすることで、テスラの標識認識システムを誤認させることに成功したのだ。また、国内では、ホンダのADASによる認識システムが某ラーメンチェーンの企業ロゴを「車両進入禁止」の標識に誤認識したことが話題となった。

こうしたAIの誤認識の問題は、軍事のみならず一般社会の自動運転においても安全性を大きく脅かす。悪用されれば深刻な脅威となり得るのだ。こうした研究への注力は、民間の開発にも大きなプラスになることは言うまでもない。

イスラエル軍は自動運転軍用車を本格配備

遠隔操作型のUGVを早くから実用化していたイスラエル軍は2016年、毎日新聞の取材にAI自動運転による軍用車の配備を開始したことを明かしている。本格配備は世界初で、搭載する兵器の使用は遠隔操作が必要という。

また、同国の国営企業IAI(イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ)は、国境や重要施設の偵察と監視を自動で行うことが可能な警備システム「Guardium」をはじめ、障害物を取り除くことができる「RobDozer」、高い機動性を備えた「RoBattle」、無人歩兵戦闘支援システム「Rex MK II」などを開発・製品化している。公式サイトでも紹介されている。

▼IAI公式サイト
https://www.iai.co.il/

UGVプラットフォーム「THeMIS」を製品化

エストニアのロボット開発企業Milrem Roboticsは、UGVプラットフォーム「THeMIS」を製品化している。いわゆるモジュール形式でさまざまな用途に活用でき、機関砲やランチャーを搭載可能な「Type-X」や、物資輸送や救助、消防などに活用可能な「The Multiscope UGV」などがある。

▼Milrem Robotics公式サイト
https://milremrobotics.com/

■航空機分野における無人化

軍事領域では、航空機の無人化技術も大きく進んでいる。航空無人機は、第1分類「形態型・ドローン」、第2分類「近距離見通し内運用型」、第3分類「遠距離見通し外運用型」、第4分類「戦闘型」、第4分類「特殊飛行方式」に分類され、国内外で開発が進められている。

第1分類は民間でもおなじみのドローンをはじめとした普及モデルだ。第2分類は、近距離遠隔操縦システムや、民間で開発が進められている「空飛ぶクルマ」相当の技術がここに分類されるものと思われる。

第3分類は高高度滞空が可能なモデルで、米国やイスラエルを中心に偵察・監視任務の無人機が各国で運用されている。日本では、弾道ミサイル警戒監視用の無人機を想定した航空機搭載型小型赤外線センサーシステムインテグレーションの研究が進められているようだ。

第4分類は、戦闘支援無人機をはじめ、自動あるいは遠隔操作で搭載した武器を使用可能な戦闘型のタイプを指す。米国がすでに運用中らしいが、武器の使用にはまだ遠隔操作が必要なようだ。

第5分類は、大型飛行船のように、一般的な航空機の推進・浮揚方式とは異なる飛行方式を採用したタイプを指すようだ。英国では、ソーラー発電を活用したソーラープレーンが飛行実証段階にあるという。

■【まとめ】自動運転技術が負の側面を持たぬよう、世界規模の対策を

軍事領域において、自動運転技術はすでに実用化段階にあることがわかった。防衛や人命救助を目的とするものもあれば、武器を搭載可能な攻撃目的のものもある。

無人化技術によって自国民や自国兵士の安全を担保するのは理解できるが、武力行使を伴う戦争への利用はやはり大きな懸念を抱かざるを得ない。

ダイナマイトのように、先進的な科学技術は時として「死の商人」となる。自動運転技術が負の側面を持たぬよう、世界規模の対策に向け議論を進めていく必要なのではないだろうか。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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