自家用車の自動運転レベルは2025年にどこまでになる?

レベル3進化で市場が変わる?



ホンダが発売したレベル3乗用車「新型LEGEND」=出典:ホンダプレスリリース

自動運転社会が到来し、自動運転バスやタクシーの開発・実用化が世界中で話題となっている。日本でも2025年に一般車道におけるレベル4サービスが誕生する可能性が高く、大きな話題となりそうだ。

一方、自家用車分野ではどうだろうか。近年はEV戦略の是非をめぐる議論が中心となり、自動運転化のトピックは乏しく感じられる。実態はどのような状況となっているのだろうか。


自家用車における自動運転技術の現在地と、2025年の展望に迫る。

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■自家用車における自動運転(ADAS)の現在地

ホンダら3社がレベル3を実用化

自家用車においては、自動運転レベル3が最高峰の技術となっている。ホンダが2021年にレベル3システム「トラフィックジャムパイロット」を実用化したのを皮切りに、メルセデス・ベンツが2022年に「DRIVE PILOT」、BMWが2024年に「Personal Pilot L3」のオプション設定をそれぞれ開始している。

2024年11月時点では、いずれも高速道路渋滞時において自動運転を可能にする。レベル3のため、ODD(運行設計領域)内であってもシステムが自動運転継続困難と判断した際、ドライバーに手動運転要請が行われる(テイクオーバー・リクエスト)。

ドライバーはこのリクエストに迅速に応じ、運転を引き継がなければならない。そのため、自動運転中であっても運転席を離れたり睡眠をとったりする行為は厳禁となる一方、スマートフォーンやカーナビの閲覧などは可能になる。


車両周囲の常時監視義務を免れ、前方から目を離すことができるため、レベル3は「アイズオフ」機能とも呼ばれる。

出典:自動車技術会

今のところ高速道路渋滞時が条件

ホンダは、トラフィックジャムパイロットをリース100台限定の新型レジェンドに搭載した。高速道路などにおける渋滞時、時速50キロ以下まで対応している。

「トラフィックジャムパイロット」を搭載した新型レジェンドを100台限定でリース発売した。世界初の自家用レベル3だ。

メルセデスは、S クラスと EQS セダンの有料オプションとしてDRIVE PILOTを設定している。対象エリアはドイツのほか、米カリフォルニア州とネバダ州の一部主要高速道路にも拡大しており、時速 40 マイル(約64キロ)まで対応している。近々バージョンアップを予定しており、詳細は後述する。


BMWは、7シリーズにPersonal Pilot L3をオプション設定しており、ドイツ国内の高速道路で時速60キロを上限に利用できる。

今のところ、レベル3を搭載可能な車種は以上となっている。レジェンドは現在販売されておらず、日本国内でレベル3を新規で味わうことはできない状況だ。

【参考】自動運転レベル3については「自動運転レベル3とは?」も参照。

レベル2はスタンダード化、ハンズオフ可能なレベル2+も徐々にシェア拡大

レベル3はまだまだ対応車種やエリアが限定的で普及フェーズに達していない。現在、自家用車においてスタンダード化し始めているのは自動運転レベル2のADAS(先進運転支援システム)で、ハンズオフ運転が可能なレベル2+も徐々に対応車種を拡大している。

レベル2は、主に前走車に追従して速度調整しながら走行するアダプティブクルーズコントロールと、レーン内の走行を維持するレーンキープアシストによって自動車の縦方向と横方向の制御を行い、安定した走行を支援する。あくまで運転の主体・責任はドライバーにあり、システムを過信してはならない。

精度に違いはあるものの、これらの機能はスタンダード化しており、運転における疲労軽減や事故抑止に貢献している。

そして、このレベル2を高度化したものは、運転中にハンドルから手を離す「ハンズオフ」を可能にする。通常のレベル2と区別し、レベル2+と呼ばれることが多い。

自動車のアクセルやブレーキといった縦制御とハンドル操作による横制御を高精度で支援することで、ハンドルから手を離すことができる機能だ。もちろん、あくまで運転支援のため、ドライバーは常時車両前方を注視していなければならない。

国内ではレベル2+の浸透はゆっくり?

出典:日産プレスリリース

ハンズオフ搭載車種は2010年代後半に登場し、じわりじわりと対象車種を広げている。国内メーカーでは、日産が2019年に新型スカイラインで実装を開始した「ProPILOT2.0(プロパイロット 2.0)」で先陣を切った。現在の搭載車種はアリアとセレナとなっている。

続くスバルは2020年、自動車専用道路上での渋滞時(時速0~50キロ)で使用可能な渋滞時ハンズオフアシスト機能を備えた「アイサイトX」をレヴォーグに設定した。現在、レガシィアウトバック、レイバック、WRX S4などに搭載されている。

ホンダは2021年、レベル3システムを含む「Honda SENSING Elite」でハンズオフ機能も提供している。対象車種はレジェンドだ。

トヨタは2021年、高度運転支援技術「Toyota Teammate/Lexus Teammate」の新機能として「Advanced Drive」を設定し、ハンズオフ機能の提供を開始した。対象車種はMIRAIとレクサスLSだ。

トヨタはその後、時速40キロを上限とした「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」も実装している。アルファードやクラウン、ヴォクシー、ランドクルーザー250などに設定されている。

国内では、渋滞時限定のハンズオフは拡大傾向にあるが、速度全域のハンズオフはそれほど広がっていない印象だ。

北米ではハンズオフがスタンダード的存在に?

一方、北米ではレベル2+がスタンダード化を始めているようだ。国土面積が広大で移動距離が長くなりがちな米国では、こうした運転支援システムに対する需要が高いものと思われる。

GMはハンズオフ機能「Super Cruise」を2017年に実用化し、2024年11月時点でキャデラック「エスカレード」やシボレー「ブレイザーEV」など各ブランド含め20車種に搭載している。

走行可能な対象道路の拡大も進めており、2024年2月に米国とカナダで総距離約40万マイル(64万キロメートル)から約 75 万マイル(120 万キロメートル)に拡張した。小さな都市や町を結ぶマイナー高速道路を追加したという。

フォードはハンズオフ機能「BlueCruise」をマスタングマッハ-EやF-150、F-150ライトニング、エクスペディション、エクスプローラーに設定している。北米の高速道路13万マイル(約21万キロ)を対象としている。

異端児的存在のEV大手テスラは、基本的に対象道路を設定しない縦横無尽なレベル2「FSD」の開発を進めている。2024年のバージョンアップで実質ハンズオフを可能にしたようだ。

同社はハンズオフをうたっていないが、テスラオーナーの中には前方監視義務を怠るドライバーがおり、重大事故が懸念されていた。対策として、これまではハンドルにセンサーを内蔵しドライバーがしっかりと握っているかを確認していたが、バージョンアップにより車内のドライバーモニタリングシステムで代替できるようにした。

このアップデートにより、ドライバーはしっかりと前方を監視しながら運転席に座っていれば、ハンドルから手を離した状態でもFSDを使用することが可能になった。

欧州ではBMWがハンズオフに注力

欧州勢では、BMWが渋滞時ハンズオフ機能のスタンダード化を図っているほか、最高時速130キロに対応した最新のハンズオフ機能「ハイウェイ・アシスタント」の搭載も進めている。5シリーズや7シリーズ、iX、X5など欧州仕様の7車種に対応しているようだ。

フォルクスワーゲンやボルボ・カーズは、今のところハンズオフ対応車種は出していないようだ。

■2025年に予想される自家用車の進化

メルセデスがレベル3を進化、時速95キロまで対応可能に

出典:Mercedesプレスリリース

自動運転・ADAS領域においても着実に進化を続ける自家用車だが、2025年にはどのような動きが予想されるのか。

レベル3では、メルセデスがまず動く予定だ。2024年9月にDRIVE PILOTの次期バージョン導入を発表しており、高速道路で時速95キロまで前方車両を追従できるようになるという。

現在ドイツ連邦自動車交通局に申請中で、2025年初頭にも販売開始する見込みという。価格は据え置きで、既存のDRIVE PILOTユーザーは無償でアップグレードできる。

これまでの渋滞時限定は実用性に乏しかったが、時速95キロまで速度域を拡大できれば、基本的に高速道路における通常走行が可能になり、ユーザーの利便性が一気に増す。

レベル3に対するイメージが一新され、注目度が大きく増していく可能性があり、追随を図る他社の動きも加速していくかもしれない。自家用車における自動運転技術の最高峰の動向に要注目だ。

中国でレベル3の波が一気に押し寄せる?

中国でも大きな動きがあるかもしれない。中国工業情報省は2024年6月、レベル3システムの公道実証を自動車メーカーら9社に承認したと発表した。上海汽車や長安汽車といった従来からの自動車メーカーをはじめ、BYDやNIOといった新興EV勢も名を連ねている。

なお、中国は米国や日本でおなじみのSAE基準による自動運転レベルの区分けを行っておらず、独自の「自動車運転自動化等級」を設定しているが、概ねSAE基準と同等のようだ。

公道実証は北京や上海、広州、深センなど7エリアで可能となり、実証後の認証試験に合格すれば量産モデルの開発が可能になるようだ。

もともと中国勢はレベル3に意欲的で、特にNIOなどの新興勢は自動運転開発を推進している。Xpengやファーウェイは今回の承認を受けていないようだが、レベル4を見据えた開発を進めている。

中国政府の意向次第となるが、2025年中に自家用車のレベル3走行を可能にする制度が新設されてもおかしくはない。こうした動きに開発各社が敏感に反応し、こぞってレベル3の市場化を図るのが中国だ。

レベル4開発同様、ひとたびゴーサインが出されれば開発・実用化競争は一気に過熱し、自家用車における自動運転領域でも世界トップ水準に達する可能性は十分考えられるため、中国の動向にもしっかりと注目したいところだ。

マスク×トランプ効果でテスラが躍進?

出典:トランプ氏公式X(https://x.com/realDonaldTrump/status/1852569802725900547/photo/1)/イーロン・マスク氏公式X(https://x.com/elonmusk/status/1855152953944162426/photo/1)

テスラの動向も気になるところだ。ロボタクシー「サイバーキャブ」の発表会で、イーロン・マスクCEOは2025年中にモデル3とモデルYに完全自律型のFSDを搭載し、カリフォルニア州とテキサス州で稼働させる構想を発表した。

サイバーキャブ量産化の前段階の取り組みで、おそらく移動サービス向けのものと思われるが、ついにFSDが花を咲かせる時が訪れるのかもしれない。

トランプ次期大統領とも密接な関係も構築しており、早い段階で自動運転規制の緩和・整備が米国全土で進む可能性もある。米運輸省道路交通安全局(NHTSA)などに睨まれがちなテスラだが、風向きが大きく変わっていくのか、トランプ氏の政策とともに要注目だ。

【参考】テスラの動向については「トランプ氏、自動運転車の「規制緩和」示唆 テスラに恩返しか」も参照。

日本はSDV元年を迎える?

日本ではどのような変化・進化が起こるだろうか。自家用車においてホンダに次ぐレベル3実装にまず注目が集まるところだが、今のところこれといった動きはなく、うわさもたたない状況だ。まずはレベル2やレベル2+の強化で広くユーザーを取り込んでいくことが先決なのかもしれない。

トヨタは、2025年にソフトウェアプラットフォーム「Arene(アリーン)」の実用化を開始する予定で、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)に力を入れる。

協業も発表した日産・ホンダも、次世代SDVプラットフォームに関する基礎的要素技術の共同研究を行うことに合意し、2025年中を目途に基礎研究を終える計画だ。

自動車が、従来の「機械」から「コンピュータ」へと進化していくターニングポイントを迎えるのかもしれない。

このほか、スタートアップTuringの動きにも注目だ。同社は2025年に自社開発車100台の販売をマイルストーンに掲げている。

自動運転機能の実装は未定だが、2030年目標の完全自動運転EV1万台の生産に向けた大きな一歩を踏み出すかもしれず、その動向に注目したい。

SDV(ソフトウェア定義型自動車)の意味は?自動運転化の「最低条件」

■自動運転システムの将来予測

今後5年間はレベル2からレベル2+・レベル3への移行期に

矢野経済研究が2022年8月に発表した「ADAS/自動運転システムの世界市場の調査」によると、ADAS搭載車両は、レベル1が2021年の2,517万台から2025年には2,128万台に減少する一方、レベル2は同1,493万台から3,502万台へと大きく数字を伸ばすという。

レベル2+も同86万台から1,069万台へと大きくシェアを拡大する。レベル3は同100台から40万台と予測している。

すでにレベル1からレベル2への移行が進行しており、2024年にそのシェアは逆転し、今後その差を広げていく見込みだ。

また、レベル2も2030年にかけてその伸びは鈍化し、代わってレベル2+とレベル3がシェアを拡大し続けるという。

2025年以降は、やはりレベル2+のスタンダード化とレベル3に注目が集まることになりそうだ。

【参考】矢野経済研究所による調査結果については「レベル3以上の自動運転車、2030年に世界で700万台規模」も参照。

レベル3以上の自動運転車、2030年に世界で700万台規模

■【まとめ】レベル3進化で市場が変わる?

なかなか日の目を浴びることがないレベル3だが、メルセデスがレベル3の進化バージョンを実装すればこれに引っ張られる形で各社が動き出し、市場が大きく変わっていくかもしれない。2025年の注目ポイントだ。

日本では大きな動きはなさそうだが、SDV化は将来の自動運転化に資する重要な革新と言える。ハード主体からソフト主体へと変わっていく第一歩を迎えようとしているのだ。

自動運転技術をはじめ、未来の自家用車がどのように変わっていくのか、その一端を垣間見ることができる一年となりそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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