自動運転ビジネス、異なる財閥間でタッグの動き 実益優先か?

T2を介して三井系と三菱系がタッグ?



自動運転技術を活用した次世代物流システムの構築を進める株式会社T2(本社:千葉県市川市/代表取締役CEO:下村正樹)は2023年6月、三菱地所と資本業務提携を行うことに合意したと発表した。


T2は、総合商社の三井物産が出資して設立したスタートアップで、実質的に三井物産傘下にある。三井物産は、三井財閥の流れをくむ三井グループの中核企業だが、三菱地所は同様に三菱グループの中核を担っている。見方を変えれば、T2を介して三井系、三菱系の旧財閥が自動運転領域にて連携する事例と言える。

総合商社を中心とする財閥系企業はどのように自動運転分野に関わっているのか。T2の概要・取り組みを足掛かりに、旧財閥・商社の取り組みに迫る。

■T2の取り組み
Preferred Networksとともに三井物産が設立

T2は、長距離輸送におけるドライバー不足の深刻化など物流産業が抱える課題解決に向け、自動運転技術を活用した幹線輸送サービス事業の実現を目指し三井物産が2022年8月に設立したスタートアップだ。

AI(人工知能)開発を手掛けるPreferred Networks(プリファードネットワークス)=PFN=の技術提供を受けており、三井物産が有する事業構想力をベースにAI技術を駆使し、自動運転システムの開やレベル4自動運転トラックによる幹線輸送サービス事業などの展開を目指している。


資本金は25億円で、三井物産が80%、PFNが20%を出資している。

三井物産はイノベーション推進に向け、2017年にPFNの第三者割当増資を引き受け、約5億円を出資している。両社はこれまでに深層学習を用いたバイオ・ヘルスケアソリューション事業会社や、地下構造解析を行うAI開発・事業化を目指す合弁Mit-PFN Energyの設立などを行っている。

PFNは2015年にトヨタから出資を受け、自動運転やコネクテッドカーに欠かせない物体認識技術や車両情報解析などの研究開発を進めるなど、すでに自動運転開発に着手している。

AIを軸に結び付きを強める三井物産とPFNによるT2設立は、自動運転実現・商用化に向けた最善手の1つと言えそうだ。


三菱地所が開発する次世代基幹物流施設で自動運転連携を深化

自動運転開発を進めるT2は、2023年6月に三菱地所を引受先とするプレシリーズAラウンドの第三者割当増資を実施し、12.5億円を調達した。三菱地所はT2設立時から連携を進めていたが、改めて資本業務提携を交わし、T2が開発を進めるレベル4自動運転トラックによる日本の幹線輸送と、三菱地所が開発する次世代基幹物流施設を融合させ、発着地点間のシームレスな輸送の実現を図っていく構えだ。

三菱地所は、次世代のモビリティの受け入れを可能とする物流施設の必要性に長年着目しており、2022年2月に高速道路ICに直結した「次世代基幹物流施設」の開発計画を京都府城陽市の先行整備地区で始動させた。2026年竣工予定としている。

高速道路ICに直結した専用ランプウェイの整備を行う日本初の計画で、同社は城陽市以外の関東・中京圏でも同様の検討を進めているという。

高速道路におけるレベル4技術の実用化とともに、こうした高速道路直結のスマート物流拠点が稼働すれば、拠点間の高速道路を完全無人で走行することが可能になる。後続車無人隊列走行の受け入れももちろん可能だ。

三菱地所は、ディベロッパーとして次世代に対応した物流施設・拠点の開発に力を入れているのだ。

【参考】三菱地所の取り組みについては「T2と三菱地所、レベル4自動運転トラックの物流網構築へ」も参照。

■旧財閥の今
戦前の財閥の流れを汲む三井グループや三菱グループが存在

余談含みとなるが、日本にはかつて財閥が存在した。三井、三菱、住友、安田が四大財閥と称され、第二次世界大戦前までの日本経済の中枢を担ってきた。

各財閥は敗戦後に解体され、三井も200社を超える事業体に分散した。現在の三井物産につながる会社は1947年設立の第一物産で、財閥の商号使用が解禁された後の1959年に三井系主要企業が大合同し、新生三井物産が誕生する。

三井不動産は戦前に独立しており、戦後、清算中の三井本社を吸収合併した。戦後の復興期や高度経済成長とともに大きく成長し、日本を代表する総合ディベロッパーの地位を不動にしている。

日本最古の銀行とされる三井銀行は、多くの変遷を経て三井住友銀行(三井住友フィナンシャルグループ)として存在している。

各社とも「三井」の冠とともに旧財閥の系譜を引いているが、資本関係など特段の結びつきもなく、現在ではそれぞれが独立した巨大グループを形成している。あくまで別個の企業体なのだ。

その一方、戦前の財閥の流れを汲む「三井グループ(二木会)」も存在する。三井物産、三井不動産、三井住友銀行を「グループ御三家」に、三越伊勢丹や三井の名を継ぐ各企業をはじめ、トヨタ、東芝、富士フイルムなども名を連ねている。

トヨタとの関係は、同社の礎となった豊田佐吉氏にさかのぼる。佐吉氏が動力織機による事業化を進める際に旧三井物産が業務提携・資金支援を行っていたのだ。

三井グループに表面的な結束力はないとされているが、一定の友好関係にあることは間違いない。

三菱も同様で、三菱商事や三菱重工業、三菱UFJ銀行、日本郵船、三菱地所をはじめとする旧財閥関連企業や、ENEOSホールディングス、ニコンなどが名を連ねる三菱グループが存在する。資本関係のような明確な結び付きがなくとも、人材交流などが行われているようだ。

T2においては三井系と三菱系が連携?

このように、旧財閥を中心とした各グループは、密接なつながりはなくとも一定の友好関係にあると言える。新規事業などに向け異業種と手を組みたい場合は、グループ内企業を優先してもおかしくはないはずだ。

そう考えると、三井物産系のT2が三菱グループの三菱地所と手を組む──と聞くと、頭の中に「???」が浮かぶ。三菱地所がT2の事業とピンポイントでマッチする次世代基幹物流施設の開発に着手していることが背景にありそうだが、三井系ディベロッパーの三井不動産も物流イノベーションを掲げ、EC特化型物流センターの開発やドローン配送を見据えた賃貸用R&D区画の整備などを進めている。

三井不動産サイドの気持ちとして、「一言相談してくれても」……とはならないのだろうか。意外とドライな関係なのかもしれない。または、実益優先の動きとも言えそうだ。

商社が自動運転ビジネスのけん引役として台頭?

ともかく、T2が開発する自動運転技術を、三井物産が旗振り役となってマネジメントし、多様なパートナー企業と結び付けながら社会実装・サービス化を強力にけん引していく構図に間違いはない。

黎明期と言える自動運転業界の主役は、T2のような自動運転システム開発企業だ。いかに優れた自動運転技術を世に送り出すかに大きな注目が集まっている。

しかし、サービス化・ビジネス化が進むとともに、その主役の座は業種を超えて拡大していくことになる。自動運転技術が有するポテンシャルを存分に引き出し、さまざまな用途に効果的かつ効率的に実装して事業を成立させるアイデアや仕組みなどを導き出した企業なども、大きな注目を集めることになる。

同時に、技術とサービス、需要と供給を引き合わせる役割も重要となる。自動運転システム開発事業者の多くは、自ら単独で移動サービスなどを手掛けることはない。バズ事業者など既存の移動サービス事業者や自治体、プラットフォーマーなどと手を組んで、あるいはシステムを販売するような形でビジネス展開をしていくことになる。

こうした際に台頭してくるのが商社だ。自治体などにおける需要の掘り起こしや折衝、パートナー企業とのマッチング、物品の調達、インフラ設備の整備、海外展開支援など、多岐に渡るノウハウを存分に発揮し、ビジネス化を強力に後押ししてくれるのだ。

自動運転技術は、人の移動やモノの輸送にとどまらず、小売や宿泊、娯楽などさまざまなサービスと結びついて移動に付加価値をもたらす。同時に、地域の観光や交通、インフラ、不動産など多岐に渡る業種に影響を及ぼし、関連ビジネスの輪を拡大していくことが想定される。

さまざまな分野にアンテナを張り巡らせ、多彩なネットワークとノウハウを有する商社は、こうした新興領域における事業化を得意としている。

今後、商社を中心に大規模社会実装・ビジネス化に向けた取り組みが加速していく可能性は十分に考えられるだろう。

■商社の自動運転領域の取り組み
三井物産は自動運転分野でも国内外でマルチな活躍

三井物産は2019年、子会社を通じてシンガポールにおける自動運転商用化に向けた国際コンソーシアムを設立した。

国内移動事業者WILLERの現地法人と、三井物産子会社のCar Clubらによる取り組みで、国立公園「ジュロン・レイク・ガーデン」で自動運転の運行サービス実現に向けた実証に着手することとしている。

2021年には、高精度3次元地図データを扱うダイナミックマップ基盤に出資したことが発表された。ダイナミックマップ基盤によると、三井物産はこれまで高精度3次元地図を用いたアプリケーション開発や顧客開拓などを連携して進めてきたという。改めて株主として参画してもらうことで、国内外におけるデジタルインフラデータ事業者としての地位を確立していく構えだ。

いずれも、海外に広いネットワークを有する商社としての活躍に期待が寄せられている印象だ。

国内では、三越伊勢丹とリアルゲイトとともに、自動運転車「SC-1」とトレーラーハウス型モビリティ空間を活用した移動型コンシェルジュショップの実証を2021年に実施しているほか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)やテラドローンなどとともにコンソーシアムを組み、空飛ぶクルマ実現に向けドローンやヘリコプターを用いた飛行実証を2023年に行っている。

【参考】三井物産のシンガポールにおける取り組みについては「WILLERや三井物産子会社Car Club、シンガポールで自動運転商用化へ」も参照。

【参考】ダイナミックマップ基盤への出資については「三井物産、ダイナミックマップ基盤に株主参画!出資企業唯一の総合商社」も参照。

三菱商事は配送ロボットや自動運航船なども

三菱商事も負けていない。同社は2020年、三菱地所とティアフォーなどとともに、岡山県玉野市で自動配送ロボットの公道走行に向けた実証を行っている。

2022年には、いすゞ自動車と西日本鉄道とともに福岡空港でレベル4大型バスの実証を行ったほか、2023年には自動運転ビジネス・サービス化に向けたワンストップソリューションを提供する合弁「A-Drive」をアイサンテクノロジーと設立している。

「海」においては、旭タンカー、エクセノヤマミズ、商船三井と2019年にEV(電気推進)船の開発・普及に向けたジョイントベンチャー「e5ラボ」を立ち上げた。e5ラボは2021年、海上のDX化推進に向けMarindowsを設立し、世界初の全自動EV船エコシステム「DroneSHIP」の開発などを進めている。

海外では、マクニカとともにインドネシアで自動運転実証を開始することが2019年に発表されている。

【参考】自動配送ロボットにおける取り組みについては「三菱商事と三菱地所が「自動運転×配送」に注力!?国内初の実証実験、岡山県玉野市で」も参照。

【参考】空港における取り組みについては「目指すは完全無人の「レベル4」!福岡空港で自動運転大型バスの実証スタート」も参照。

■【まとめ】自動運転分野にはあらゆる業種の企業が参画

三井系、三菱系ともに商社の取り組みは非常に多岐に渡り、今後自動運転分野で活躍することは間違いない。その一例がT2の取り組みとなるのだろう。

今後、自動運転分野にはあらゆる業種の企業が参画し、新規性あふれるサービスを展開していくことが予想される。異業種を結び付け事業化を図る商社の取り組みにも注目したいところだ。

【参考】関連記事としては「自動運転業界のスタートアップ一覧(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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