アイサンテク、「ワンストップ自動運転」で三菱商事と新会社

「A-Drive」設立しサービスインまで支援



撮影:自動運転ラボ

測量技術を武器に自動運転分野で活躍するアイサンテクノロジー株式会社(本社:愛知県名古屋市/代表取締役社長:加藤淳)が、新たな領域の事業に本格着手するようだ。三菱商事とともに新会社「A-Drive」を立ち上げ、自動運転ワンストップサービスの事業化を推し進めていく。

A-Driveはどのような事業展開を行っていくのか。アイサンテクノロジーのこれまでの取り組みとともに、その概要に迫っていく。


■将来見据えてワンストップサービス

アイサンテクノロジーと三菱商事は、自動運転ワンストップサービス提供に関わる事業を行う新会社A-Driveを共同出資で設立する。2023年2月7日設立予定で、出資比率はアイサンテクノロジー60%、三菱商事40%となっている。

両社はこれまで自動運転実証の中で情報交換や協業を重ねてきた。アイサンテクノロジーが培ってきた実証に関する知見やノウハウと、三菱商事が培ってきたモビリティサービス開発などに関する知見を融合し、顧客が自動運転車両を利用する上で必要となる機器やシステム・インフラ設備などの調達支援や、自動運転車を運行するためのコンサルティングなどのサービス提供をはじめ、さまざまな自動運転ニーズに対するサービス展開を行っていく。

つまり、自動運転導入を検討している顧客などに対し、準備段階からサービスインに至るまでに必要となるソリューションから各種作業など、トータルかつワンストップで提供していくということだろう。

出典:アイサンテクノロジーIR資料(※クリックorタップすると拡大できます)
■アイサンテクノロジーの取り組み
3次元マッピング事業に早期着手

測量機器やソフトウェア開発などを手掛けるアイサンテクノロジーは、自動運転開発を進める国内勢の中では古参の部類で、早くから同分野への進出を図ってきた。その主力となるソリューションの1つが「モービルマッピングシステム(MMS)」だ。


三菱電機が開発した、車両に搭載したGPSアンテナやカメラなどの機器で走行しながら道路周辺の3次元空間位置データを取得するMMSに早くに注目し、正規代理店契約を結んで業績を上げてきた。

当初は、国が進める国土強靭化計画のもと路面調査をはじめとしたインフラ維持管理調査が主力だったが、自動運転開発がトレンドとなって以降ITS分野における高精度地図作成業務なども増加し、合わせて関連するソフトウェア開発などにも注力している。

2016年度には、名古屋大学などとともに自動運転の公道実証を実施する「アーバンドライブワーキンググループ」をインターネットITS協議会の中に立ち上げ、技術検証や社会受容性検証などに着手している。2015年3月には、愛知県名古屋市守山区の公道1.5キロの区間で実際に実証走行を行っており、この時に自動運転向けの高精度地図データベースの作成を行っている。

また、同年度には戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のもと「衛星測位活用検討コンソーシアム」を立ち上げ、走行環境、衛星システムの組み合わせ、測位方式、準天頂衛星の補強信号など7,000通り超に及ぶデータ分析によってマルチGNSS(衛星測位システム)の可用性評価を取りまとめている。


三菱電機など7社でコンソーシアム

2015年には、SIPの事業のもとダイナミックマップ開発に向け三菱電機など7社でコンソーシアムを構成し、協調領域における高精度3次元地図構築に向けた取り組みを本格化する。2016年には、国内主要自動車メーカーを交え事業会社となるダイナミックマップ基盤を共同設立し、国内主要道路のマッピングを開始した。

自動運転分野では、自車両の位置特定は必須の要素技術となる。また、高精度3次元地図も自動運転の精度や安全性を高めるデジタルインフラとして非常に有用だ。

MMSは2023年現在車両8台を保有しているほか、各地方整備局への導入6台、累計販売台数は国内最大となる60台以上を誇る。MMSを活用した計測サービスをはじめ、評価ツールや点群調整・編集ツール、CADツール、オルソ作成ツールなどさまざまなアプリケーションを開発し、二次加工まで対応したサービスを展開している。

高精度3次元地図関連では、道路上の静的要素をデータベース化した地図情報「ADASmap」の開発・提供や3次元データ処理ソフトウェア、アーカイブデータの販売などを行っている。

静的情報の高精度3次元地図に加え、動的情報や準動的情報、準静的情報を地図側に付与し、自動運転車両に配信するダイナミックマップ「D -ADASmap(ディーエーダスマップ)」の独自開発も進めている。

ティアフォーなどと自動運転実証に積極参画

自動運転実証では、多くの場面でティアフォーと強力なコンビネーションを発揮している。アイサンテクノロジーは2017年、ティアフォーと岡谷鋼機と3社でワンマイルモビリティ事業化に向けた業務提携を結び、出資を行っている。

3社はワンマイルモビリティのプロトタイプとなる初号機「Milee(マイリー)」を同年完成し、一般公道における遠隔型自動運転の実証に成功している。

その後、2018年には東京都内初となる自動運転公道実証、愛知県による複数台の遠隔型自動運転システムを活用した実証、2019 年には損害保険ジャパン日本興亜とインシュアテックソリューション「Level IV Discovery」の共同開発に向け業務提携を交わしたほか、愛知県飛島村と自動運転技術を活用したモビリティサービスの実用化に向けた連携協定、兵庫県、たつの市、上郡町及び佐用町と自動走行実用化に向けた連携協定をそれぞれ締結した。

2020年には長野県塩尻市などと自動運転技術実用化に向けた包括連携協定を締結したほか、高精度3次元地図の計測事業強化と自動運転実用化に向け新拠点「アイサンテクノロジー モビリティセンター」を開設している。

2021年には、損害保険ジャパン、ティアフォーと「自動運転向けデジタルリスクアセスメント」を開発し、提供開始した。2022年には、東京大学も交えレベル4自動運転サービス向け「自動運転システム提供者専用保険」も開発している。

自動運転の導入支援やコンサル事業も展開

現在、事業としては自動運転に関わるアプリケーションの提供や導入支援、運用サポートサービスなどを提供しており、自動運転用地図作成をはじめODD(運行設計領域)の定義、センサーの搭載検討、車両架装、シナリオ評価、リスクアセスメントに至るまで協力パートナーとともにサポートしている。

自動運転サービス導入に向けた実装コンサルティングサービスや技術コンサルティングサービス、データ活用コンサルティングサービスなども提供している。

冒頭の三菱商事との新会社も、こうした事業に類似した事業展開を行っていくことになりそうだが、アイサンテクノロジーが実施している既存事業と差別化を図っていくのか、あるいは将来的な事業の移行を見越した展開を行っていくのかなど、要注目だ。

株価の動向にも注目?
出典:Trading View

アイサンテクノロジーの株価の動向にも注目だ。同社は1997年にジャスダックに上場し、現在は東京証券取引所スタンダード市場に移行している。

国内外で自動運転開発の機運が高まった2015年末ごろには、高精度3次元地図などを武器とするアイサンテクノロジーの将来性にも大きな注目が集まり、一時9,000円台まで値を上げたことがある。

その後緩やかに値を下げ再び1,000円台で推移することになるが、自動運転実証が話題になると瞬間的に2,000円台に上昇するなど、比較的敏感に株価が反応する傾向がうかがえる。

今回の合弁設立は自動運転時代の到来を見据えたものだが、改正道路交通法の施行により2023年度にはレベル4サービスの実装が勢いづくことは間違いない。アイサンテクノロジーの取り組みが市場に歓迎され、2,000円台を超えてかつての高騰を再現することになるのか――こうした観点からも注目したい。

■三菱商事もかねてより自動運転にアプローチ

ちなみに三菱商事も自動運転に対するアプローチをこれまで行ってきている。例えば2022年3〜4月にかけての大型自動運転バスの共同実証実験の実施についても発表しているし、インドネシアで初の自動運転車の実証実験にも2022年に取り組んでいる。

また、自動配送ロボットの分野でも三菱商事は動いている。例えば2020年には、ルート最適化技術を活用して行う低速・小型自動配送ロボットの公道走行の実証実験への参加を発表している。

■【まとめ】両社の知見が融合するA-Driveの動向に注目

両社の強みがどのような形でA-Driveの事業に結び付き、業績を上げていくのか。今後の動向に要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転、米国株・日本株の銘柄一覧(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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