トヨタもホンダも日産も「一時休戦中」の合弁会社の正体

協調路線を敷くダイナミックマップ基盤



出典:ダイナミックマップ基盤公式サイト

開発やサービス実装に向けた競争が激化の一途をたどる自動運転業界。特に、ライバル関係にある自動車メーカーは常に臨戦態勢を敷いている印象だ。

各社がしのぎを削り続けている業界だが、一部の領域では休戦して協調路線を歩んでいる。その代表例が高精度3次元地図だ。







国内外で高精度3次元地図の作成・運用を手掛けるダイナミックマップ基盤(DMP)には、トヨタ・ホンダ・日産ら各自動車メーカーが出資し、自動運転に有用なデジタルインフラの整備をバックアップしている。

この記事では、DMPの成り立ちや取り組みを通して、各社が協調体制を敷く高精度3次元地図の有用性について解説していく。

■ダイナミックマップ基盤設立の経緯
SIPの事業をもとに各社共同で設立

DMPの成り立ちは、国の事業である戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に端を発する。

SIPでは自動運転用の地図情報の高度化に向け、2014年度から高精度な地図やダイナミックマップ構築に向けた試作・評価などの研究開発を進めてきた。

2015年度は、三菱電機、アイサンテクノロジー、インクリメント・ピー(現ジオテクノロジーズ)、ゼンリン、トヨタマップマスター、パスコ、三菱総合研究所の7社で構成する「ダイナミックマップ構築検討コンソーシアム」が内閣府から事業を受託し、データ仕様書や地図データ作成要領などの取りまとめを行ってきた。

続く2016年度は、ダイナミックマップ基盤的地図の作成やダイナミックマップセンター機能の検討を行う段階に至った。

そこで、三菱総合研究所を除くコンソーシアムメンバー6社といすゞ、スズキ、トヨタ、日産、日野、富士重工(現スバル)、本田技研工業、マツダ、三菱自動車の自動車メーカー9社の計15社が共同出資し、マップの作成や運用を手掛ける企画会社「ダイナミックマップ基盤企画株式会社」を設立した。

これまでの研究を熟知し、かつ高精度3次元地図やダイナミックマップの開発・運用に適した存在と言える地図サプライヤーや測量システムベンダー、ITS機器開発、自動車メーカーが手を組み、共同事業に乗り出したのだ。

同社は2017年6月に企画会社から事業会社へ移行し、その際に社名から「企画」を抜いて「ダイナミックマップ基盤株式会社」に改称して今に至る。

なお、出資企業は2023年1月現在、上記15社にINCJ(産業革新投資機構)、ジャパン・インフラストラクチャー・イニシアティブ、三井物産、SBIインベストメント、TGVest Capital、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタル、ダイハツが加わり、計23社となっている。

自動運転に有用な高精度3次元地図

自動運転システムは一般的に、カメラやLiDARなどの車載センサーで外部の状況を把握し、そのデータをもとにAI(人工知能)が自動車の制御を判断する。自車両の位置はGPSなどの測位システムや慣性センサーなどを使用する。

これらのシステムで一定程度の自律走行が可能になるが、より精度を高めるためには高精度3次元地図の使用が有用となる。あらかじめマッピングした高精度3次元地図を活用することで、車線や標識をはじめとした道路環境を正確に把握することができ、また高精度3次元地図上にマークされた標識などの物体とリアルタイムでセンサーが検知した物体を突合させることで、自車位置をセンチメートル単位まで正確に把握することも可能になる。

高精度3次元地図は、自動運転におけるデジタルインフラとして非常に有用なのだ。

デジタルインフラとして各社が協調体制を構築

林道や農道を除く日本国内の一般道は総延長約128万キロに及ぶ。この全ての道路をマッピングするのは非常にコストも手間もかかる。作成後も、変更がないか定期的に更新作業を行う必要がある。

これらの作業を自動運転開発各社が個別に行うのは効率的でないことは明らかだ。道路交通の安全に資するデジタルインフラとして高精度3次元地図を整備・管理し、各社が低コストで手軽に利活用できる状態にすることが望ましい。

この整備・管理という役割を担っているのがDMPだ。高精度3次元地図を自動運転分野における協調領域として捉え、位置補正技術の開発やMMSによる計測、車線や標識をはじめとしたオブジェクトのラベル化、各種データの統合までを行っている。

高精度3次元地図を利用したい企業は、ダイナミックマップ基盤とライセンス契約し、作成済みのデータをベースに必要に応じてデータの追加や加工などを行って使用することができる。

こうした理由から、競争関係にある自動車メーカーも高精度3次元地図の領域では協調体制を敷いているのだ。

【参考】ダイナミックマップについては「ダイナミックマップとは?」も参照。

■ダイナミックマップ基盤の取り組み
高速や自動車専用道を網羅、2023年度からは一般道にも拡大

DMPは、2021年9月時点で国内高速道路や自動車専用道路の上下線計3万1,910キロをマッピング・製品化している。

収録地物は、区画線や路肩縁、道路標識といった実在地物をはじめ、車線リンク(車線内の中心線)など現実世界に存在しない仮想の地物もデータ化している。

2023年度には、次世代の高精度3次元地図データの導入も開始する予定だ。収録路線を一般道まで随時拡大してカバレッジを拡張していく。計画では、2023年度までに国内約8万キロ、2024年度までに約13万キロを整備することとしている。

また、これまでは日本と北米で異なるデータフォーマットを使用していたがこれを統一し、システム開発や評価の負荷を軽減する。大幅な低価格化も実現し、小型車や軽自動車への導入も促進していく。

収録地物も充実を図っていく。高度なADAS(先進運転支援システム)や自動運転に必要とされる厳選された地物と属性情報を3次元の位置情報として収録する。自己位置推定をはじめ、車載センサーで補いきれない要素やシーンの補助、先読み走行の参照情報などさまざまな用途に活用可能という。

【参考】次世代の高精度3次元地図データについては「道路の3Dデータ化、一般道も対象に!ダイナミックマップ基盤、ADASや自動運転向けに」も参照。

北米や欧州などでも事業展開

DMPは海外展開にも積極的だ。2019年に同業の米Ushrを買収し、北米市場に参入するとともに他地域への展開を進めていく方針を発表した。UshrのHDマップは、2017年に米GMのハンズオフ運転を可能とするADAS「Super Cruise」に採用されている。

2022年には、北米におけるマッピングエリアを40万マイル(約65万キロ)以上に拡大し、Super Cruiseの対応エリアは2倍になったという。

2021年には、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)から北米事業向けに最大5,000万ドルの出資を受けたほか、2022年にはDMPの欧州拠点DMP Europeに対し、DMPが最大4,050万ユーロ、JOINが最大4,000万ユーロを拠出し、欧州をはじめとした新たなエリア展開を図っていく方針を発表している。

プロパイロット2.0やホンダのレベル3などで採用

DMPの高精度3次元地図は、ハンズオフ運転を可能にする日産の「ProPILOT 2.0」に2019年に採用されたのを皮切りに、2021年には条件付き自動運転を可能にするホンダのレベル3システム「Honda SENSING Elite」にも採用されるなど、レベル2+やレベル3乗用車の分野で活躍している。

また、自動運転実証の場でも多く活用されている。中部国際空港制限区域内における実証をはじめ、滋賀県大津市など全国5カ所で進められている中型自動運転バスの運行実証、しずおか自動運転ShowCASEプロジェクトにおける実証、長野県飯山市における除雪支援システムの実証など、公道・非公道を問わずマッピング技術が活躍しているようだ。

協業も続々

DMPは2019年、ソフトバンクとともに測定データを準リアルタイムに確認する実証に着手した。測定データをソフトバンクの閉域網内のMECサーバー上で処理・逐次解析することで、正確に測定できなかった情報などを走行中の車内や遠隔地から準リアルタイムで確認することに成功した。

測量作業を効率的に進めることを可能にする技術で、引き続き5Gを活用したリアルタイムな地図生成などの実現性についても共同で検討していく方針としている。

2020年には、トヨタグループのTRI-AD(現ウーブン・プラネット・ホールディングス)が開発した自動地図生成プラットフォーム「AMP」を活用し、車両センサーで収集した画像データから道路上の変化した箇所を検出してマップの効率的な更新を可能にする実証を行っていくことも発表している。

2021年には、仏サプライヤーのヴァレオとも手を結んだ。両社は、自動運転システムの開発促進に向け正確な自車位置推定とHDマップ更新を行うテクノロジーとビジネスモデルを共同開発していくとしている。

■【まとめ】協調領域があるからこそ

自動運転において協調領域となり得る開発分野は、このほか通信インフラや通信手法、充電、サイバーセキュリティなどが考えられる。一定の統一規格が必要だったり、安全性を向上する上で公共性が高かったりする領域だ。
例えば充電関連では、東京電力と中部電力の合弁e-Mobility Powerに対し、トヨタ、日産、ホンダ、三菱自が揃って2021年に出資を行っている。

協調領域における取り組みは、今後もさまざまな場面で表面化していくものと思われる。こうした協調領域があるからこそ、各社は効率的かつ効果的に自社開発を推し進め、社会実装を加速させることができるのだ。

協調領域と競争領域、それぞれにおける各社の取り組みに引き続き注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転向け地図・マップ解説」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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