ドイツ企業VolocopterのEVエアタクシー、万博で日本の空を飛ぶ!?

JALとコンビで参戦、東京でも実証へ



出典:Volocopter公式サイト

日本における空飛ぶクルマ実用化に向けたマイルストーンとなる大阪・関西万博。このほど、万博で空飛ぶクルマを運航する参加企業が2023年2月21日に発表された。

全日空×Joby Aviation、日本航空、丸紅、SkyDriveの4事業者で、このうち日本航空はドイツeVTOL(電動垂直離着陸機)開発スタートアップVolocopter(ヴォロコプター )とコンビを組む予定だ。


国内外の有力企業が集い、空飛ぶクルマ実用化を世界に発信する場としても注目を集める万博。その1社に名を連ねるVolocopterとはどのような企業なのか。その全貌に迫る。

■Volocopterの概要
世界初と言われるeVTOLの有人飛行を公開

Volocopterは2011年、ドイツの小都市ブルッフザールで創業した。当時の企業名はE-Voloだ。同年、世界初と言われる垂直離着陸が可能な電動マルチコプターVC-1による有人飛行を公開し、注目を集めた。マルチコプターの中心に座席を設けたようなシンプルな作りで、高さ2メートルほどの飛行だったが、偉大な一歩と評価されているようだ。

その後2人乗りの機体の開発に着手し、2016年に第2世代となるVC-200がドイツ航空当局から超軽量航空機として飛行許可を取得し、テスト飛行を本格化させた。なお、許可取得に向けた実証においてすでに遠隔操作による無人飛行も繰り返していたようだ。

2017年には、ドバイの道路交通局(RTA)と自律型エアタクシーのテストに向け5年間取り組んでいく契約を交わした。同年ドバイで行われたデモンストレーション飛行では、最高高度60メートルで500メートルのルートを8分で自律飛行したという。


Skyportsと提携し、バーティポートの開発を推進

2018年には、都市向けのエアタクシーインフラストラクチャのビジョンを発表した。都市間を結ぶポイントツーポイントの移動を可能にするエアタクシーポートで、eVTOLの効率的な離着陸を可能にするVolo-Hubとそれを拡張するVolo-Portで構成されている。

ポート開発に向けては、2019年に空港運営を手掛けるドイツのFraportや、バーティポート開発を手掛ける英Skyportsとパートナーシップを結んでいる。

2019年には、最新のエアタクシーモデルとなる第4世代のeVTOL「VoloCity」のデザインを発表した。欧州航空安全機関(EASA)が同年策定したVTOL向けの特別条項「SC-VTOL-01」の基準を満たすよう設計されており、航続距離35キロ、速度110キロで飛行することができるという。

EASAからは、年末までに正式に設計に関する承認(Design Organization Approval)を得ている。


【参考】関連記事としては「バーティポートとは?「空飛ぶクルマ」の離着陸場」も参照。

シンガポールでも飛行実証に着手

2019年にシンガポール民間航空局(CAAS)などの協力のもと、シンガポールで本格的な実証に着手するとともに、Skyportsと共同で設計・構築したバーティポート「VoloPort」のプロトタイプも公開した。10月には、マリーナベイ上空で有人飛行にも成功している。

モノの輸送などを担う「VoloDrone」発表

また同年には、物流や農業、インフラ、公共サービスなどへの事業拡大を可能にする「VoloDrone」のデモンストレーターを発表した。ユーロパレットパッケージと互換性のあるサイズの着陸装置間のスペースに多種多様なモノを積載可能なモデルで、最大200キログラムまで積載可能という。

この年、農業機械大手の米John Deereとも提携を交わし、農業用途に適した大型ドローンなども発表している。

機体の注文も徐々に増加 エアタクシーフライトの予約販売も

ドイツ国内では、バイエルン州とラインラント=プファルツ州でも緊急医療サービス向けの実証を開始した。その後、2020年に航空救助組織ADAC Luftrettungが2023年の運用テストに向け、VoloCity2台を予約したことも発表されている。

2020年には、世界初となるエアタクシーのフライト予約の一般販売を開始した。具体的な日程や場所などは明かされていないが、今後2~3年で商用VoloCityフライトを開始する予定とし、300ユーロで約1時間 のフライトが楽しめるようだ。

欧州ではこのほか、フランスやイタリアで同社のエアモビリティ導入に向けた取り組みが進められている。フランスでは2024年の実現を目指しているようだ。

このほか、サウジアラビアでもスマートシティプロジェクト「NEOM」のもと15機のエアモビリティを購入することが発表されている。

米国では、東京センチュリー子会社で航空機リース事業を手掛けるAviation Capital GroupがVolocopterのeVTOLについて最大10億ドルのファイナンス・ソリューションを提供することに基本合意している。

アジアにおける取り組み
シンガポールでは具体的な計画が進行

Volocopterは、シンガポールを拠点にアジア地域でエアモビリティサービスを拡大していく方針だ。

具体的な事業化が進められているシンガポールでは、2020年にエアタクシーサービスを開始するコミットメントに達し、今後3年以内にサービスを実現する計画を発表している。

2030年までにシンガポールで4~6カ所のVoloPortを設置することとし、現時点における計画ではマリーナサウス、セントーサ、チャンギ地区などを予定している。

第一段階ではシンガポール中心部の観光ルートに焦点を当て、マリーナ・ベイ・サンズやセントラル・ビジネス地区、F1レース場、シンガポール・フライヤーなど、マリーナ・ベイ地区の観光用周遊路と、セントーサ島とシンガポールのスカイラインを一望できるルートを検討しているという。

第二段階では、シンガポールの立地を利用し、インドネシアやマレーシアなど国境を超えた飛行も検討している。チャンギ空港をVoloPortのネットワークと接続し、シンガポール国内の主要スポットや近隣諸国のビジネス中心街への移動手段に活用する方法なども模索している。

アジアではこのほか、2021年にマレーシアにおけるバーティポート展開に向けたフィージビリティスタディを実施する覚書をマレーシア空港と交わしている。

中国ではGeely(吉利科技集団)の子会社Aerofugiaと合弁を設立し、同国にエアモビリティを導入する計画が進められている。2021年には、150機のエアモビリティを購入する契約を交わした。

韓国でも乗員付きの公共エアタクシーの試験飛行を金浦空港と仁川空港で実施済みで、同国でモビリティプラットフォーム事業を手掛けるカカオモビリティと提携し、エアモビリティ導入に向けたフィージビリティスタディを実施している。

【参考】シンガポールにおける取り組みについては「独Volocopter、シンガポールで3年以内に「空飛ぶタクシー」!現地当局とタッグ」も参照。

■日本における取り組み
万博飛行に向けパートナー企業も続々

日本関連では、エアモビリティ分野における新規事業創出に向け、日本航空と三井住友海上火災保険、MS&ADインターリスク総研と2020年9月に業務提携を交わしたことを発表している。eVTOLを用いた移動や物資輸送サービス実現に向け、日本における市場調査や事業参画などの共同検討を進めていくほか、日本におけるVolocopterの実証飛行に向けた準備に関する検討なども行うとしている。

2021年には「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」に参画し、2025年開催予定の大阪・関西万博でのeVTOL飛行に向けた取り組みを本格化させた。

2025年日本国際博覧会協会は2023年2月、同万博での空飛ぶクルマ運航事業参加企業として、ANAホールディングス×Joby Aviation、日本航空、丸紅、SkyDriveを選定したと発表した。このうち、日本航空がVoloCityを使用する予定だ。

また、日本市場に参入するための重要な戦略的パートナーとして、住友商事から出資を受けたことも発表されている。

国土交通省航空局(JCAB)からの型式承認取得に向けた申請もすでに行われており、2023年3月にはグランフロント大阪でフルスケールのVoloCityを展示する。Volocopterは、早ければ2023年内にも公開試験飛行を実施する予定としている。

【参考】大阪・関西万博については「大阪万博が「空飛ぶクルマ万博」になりそう」も参照。

東京都の事業にも採択

ベイエリアを舞台に最先端テクノロジーの実装を進める東京都の「東京ベイeSGプロジェクト 先行プロジェクト」において、NTTコミュニケーションズ、NTTアーバンソリューションズ、東京センチュリー、そしてVolocopterの4社が次世代モビリティの分野で将来的な空飛ぶクルマの有人輸送を想定した重量物の物流輸送を提案し、このほど採択を受けた。

VoloCityやVoloDroneを活用し、小型・大型ドローンの試験飛行や空飛ぶクルマ実機による試験飛行、社会受容性向上に資するイベント開催などを行っていく計画だ。

【参考】東京ベイeSGプロジェクトについては「東京都、「埋立地」で空飛ぶクルマ実装へ 夏ごろに事業者募集」も参照。

■資金調達関連

2017年に行われたベンチャーラウンドには、ダイムラー(現メルセデス・ベンツ)が参加している。
2019年のシリーズCラウンドには、中国Geelyが参加し、中国事業に向けた足掛かりを作った。同ラウンドにはその後三井住友海上が参加している。

2021年のシリーズDには、東京センチュリーやインテルキャピタル、NTT、Continentalなどが名を連ね、2022年のシリーズEには住友商事が参加している。

これまでの資金調達総額は7億8,060万ドル(約1,000億円)となっている。

■【まとめ】2024年に社会実装開始予定 今後の事業展開に注目

数多い空飛ぶクルマスタートアップの中でもVolocopterは草分け的存在であり、実績も豊富なようだ。明確に世界戦略を推し進めており、各国進出に向けた取り組みも盛んに行っている。

日本では万博に注目が集まるが、同社は2024年をめどにフランスやシンガポールなどで実用化を目指す予定としておいる。万博までにどれほどの技術・サービス水準に達しているか、また万博後に日本でどのような事業展開を図っていくかなどにも注目していきたい。

▼Volocopter公式サイト
https://www.volocopter.com/

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事