完全自動運転時代になくなるもの

自動車の装備や交通インフラ、交通制度が激変



トヨタが開発する自動運転EV「e-Palette」。完全自動運転はまだできないが、従来のバス・シャトルと比べても、かなり見た目のデザインは変わっている。運転席はない=出典:トヨタプレスリリース

道路交通に多大なイノベーションをもたらす自動運転技術。近い将来、運転手のいない車両があちこちで走行する風景が日常のものとなるかもしれない。

技術が高度化し、条件や制限なく自動運転が可能となれば、従来の自動車に必須とされる装備や交通インフラなども変わっていくことが予想される。


この記事では、完全自動運転時代の到来とともに消え去る可能性があるものについて解説していく。

■自動車からなくなるもの
手動制御装置や運転席が不要に

完全な自動運転が可能な自動運転車においては、ハンドルやアクセル、ブレーキなどの制御装置が必要なくなる。従来、運転手が行っていた運転操作を全てコンピューターが担うため、手動用の制御装置は一切必要なくなるのだ。

さらに言えば、「運転席」という区分も必要なくなる。運転用に特別に設えられた席は無用となり、車内は全て一般乗員向けのシートに置き換えることが可能になる。シートレイアウトの自由度も増しそうだ。

バックミラーやドアミラーといったアナログな装備も不要となりそうだ。周囲の状況は車両に搭載されたセンサーが常時検知しており、降車時の安全確認もセンサーが行い、衝突の危険がある際は注意喚起やドアを開かないようにすることもできる。


このほか、タコメーターや燃料計などの装置も必要なくなる。車両の状況を乗員が常時把握する必要はなく、代わってコンピューターが把握し、必要に応じてアラートを発すればよいためだ。

完全自動運転時代は、車両が備えるべき安全装置などの保安基準も大きく変更されることになりそうだ。

自動車特有の「走り」の個性がなくなる

完全自動運転車が自家用車市場においてシェアを伸ばし始めると、カー用品の取り扱いも変わってきそうだ。ハンドルカバーや交換ペダルなどは不要となるほか、吸排気系や足回り関連などクルマの走行性能に関わる改造パーツなども需要を落とすかもしれない。

走行性能は一定程度画一化され、自動車特有の「走り」の個性がなくなるからだ。代わって、音響や映像関連、内装関連などの需要が伸びることが考えられる。手動制御ではなくなったマイカーは、走行性能よりも快適性を求める向きが強くなるかもしれないためだ。


後付けのカーナビゲーションやドライブレコーダー、レーダー探知機なども自動運転車には不要となりそうだ。ナビやドラレコは自動運転の機能に取り込まれている。また、自動運転車は原則交通違反を犯さないため、レーダー探知機を設置する必要もなくなるためだ。

■完全自動運転時代になくなるもの
道路標識や信号機も?

次に、全ての自動車が完全自動運転車に置き換わった社会を想定してみよう。まず、手動運転車はなくなるため、従来の道路標識は大きく形を変えることになる。車両(自動運転車)を対象とした標識は全てコンピューターに組み込むことが可能になるため、データとして取り扱われることになるかもしれない。

比較的歩行者などが少ないエリアでは、信号機も不要となる可能性が考えられる。自動運転車、車両同士で通信する車車間通信(V2V)などを活用した協調走行が可能なため、歩行者などに注意を払えるような道路交通の仕組みがあれば十分となるのだ。歩行者は、信号のない横断歩道を渡る感覚で道路を横断すれば、自動運転車はしっかりと停止してくれる。

運転免許制度も不要に

全ての車両が自動運転化されれば、当然「運転手」という存在もなくなる。これは、運転に必要な「運転免許」に関わる制度も用済みになることを意味する。

運転操作にまつわる技能は必要なくなり、所有者は道路交通に関する最低限のルールを学んでいれば事足りるのだ。ある意味、自転車ユーザーのようなものだ。強いて言えば、乗員として突発的な故障や事故などに対応できる知識があれば良いことになる。

なお、全ての車両が自動運転化される世界は現状想像しにくいだろう。クルマを操る楽しさを主張する声も小さくない。ただ、自動運転車は徐々に普及し、自家用車の分野でも市場を広げていくことはほぼ間違いない。20年、30年後には世論が一変し、交通事故撲滅に向け手動運転を禁止する動きが出る可能性も考えられる。

実際、リサーチ企業の英IDTechExは、将来手動運転を禁止する動きが出てくるだろうことを予測するリポートを発表している。

手動運転の魅力は現状否定できないが、遠い将来において今の常識が通用するとは限らないのだ。

【参考】手動運転禁止については「早ければ2040年代に!「手動運転禁止」6つのメリット」も参照。

交通事故がなくなる(激減する)

なくなるとまでは言えないが、完全自動運転時代には交通事故が激減することが予想される。自動運転車は飲酒運転もあおり運転もせずに道路交通法を順守し、安全最優先で走行するからだ。

警察庁によると、2020年中に国内で発生した交通事故は30万9,178件に上る。このうち、原付以上運転者の第1当事者(最初に交通事故に関与した事故当事者のうち、最も過失の重い者)の法令違反交通事故件数は28万8,995件となっている。事故全体の約93%で自動車などの第1当事者に法令違反があるという結果だ。

法令違反の内訳を見ていくと、安全不確認やわき見運転、漫然運転、交差点安全進行など、ヒューマンエラーが大半を占める。交通事故の約9割は、ドライバーの不注意などによって引き起こされているのだ。

ヒューマンエラーがつきものとも言えるドライバーを自動運転システムに置き換えれば、理論上この9割の事故はなくなる。システムエラーや誤認識などコンピューター特有の事故が発生する可能性はあるものの、交通事故を大きく抑制することができるのは間違いなさそうだ。

【参考】自動運転車による交通事故抑制効果については「自動運転の事故率は?抑止効果は9割以上?」も参照。

自家用車もなくなるかも?

場合によっては、自家用車も激減、もしくはなくなるかもしれない。「走り」の個性を失った自動運転車は、徐々に所有欲を減退させる可能性がある。快適に移動できることが重要視されるのだ。

自家用車の稼働率は平均5%ほどと言われており、一日の大半を駐車場で過ごしている。乗りたいときに乗れる反面、タクシー利用などに置き換えたほうが実は経済的にお得……というオーナーは少なくない。しかし、タクシーなどでは長距離走行や自由な移動に制限がかかるのも必然となる。

こうした葛藤を自動運転車は解決する。自動運転タクシーやカーシェアサービスであれば、呼べばどこでも無人で駆けつけ、従来に比べ運賃も低額になることが想定される。目的地で乗り捨てることも可能だ。

自動運転の普及とともに利用コストが大幅に下がれば、所有することに特段の意義がない限りこうしたサービスを利用する方がお得になり、かつ利便性も高いものへと変わっていくのだ。

■【まとめ】未来を見据え時代の需要に早期対応を

「完全自動運転時代」は言わば極論のようなもので、しばらくは手動運転車と自動運転車が共存していくことになる。ただし、数十年先、大げさに言えば100年先を見通した際、完全自動運転時代が到来している可能性は十分考えられる。

こうした未来を見据えることで、自動運転時代に需要が激減するもの、あるいは激増するものなどに早い段階でアプローチし、サービス化・ビジネス化することが可能になる。

来たるべき自動運転時代はどのような交通社会となるのか。今から想像を巡らせてみるのも一興だ。

【参考】関連記事としては「完全自動運転とは?(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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