自動運転と空港(2022年最新版)

人や荷物の移動で活躍、除雪も?



自動運転技術の実用化に向けた取り組みが各所で進められているが、開発のメッカの1つに「空港」が挙げられる。人や荷物の移動が多く、制限区域内でさまざまなモビリティが活躍する空港は、自動運転技術導入によるメリットが高いようだ。

この記事では、空港で活躍する自動運転モビリティについて解説していく。


■トーイングトラクター×自動運転

航空輸送における空港での地上取扱業務(グランドハンドリング業務)の省力化・自動化に向け、自動運転トーイングトラクターの導入を目指す動きも強い。

日本航空(JAL)は成田空港で実証
出典:日本航空プレスリリース

日本航空(JAL)は2019年9月、成田国際空港の制限区域内において自動運転トーイングトラクターの実証を行うことを発表した。実験車両は、BOLDLYの遠隔運行管理システム「Dispatcher」を搭載した仏TLD製の「TractEasy」を使用し、レベル3相当の技術確立を目指すとしている。

2021年3月には、同空港で手荷物搬送用の自動運転トーイングトラクターを国内航空企業で初めて正式導入することを発表している。

【参考】JALの取り組みについては「手荷物搬送×自動運転、「日本初」はJAL!ANAも負けず劣らず取り組み加速」も参照。


全日本空輸(ANA)は羽田空港などで実証

一方、全日本空輸(ANA)と豊田自動織機も2019年から九州佐賀国際空港や中部国際空港で実証や試験運用を重ねており、2021年3月には、新開発の自動運転トーイングトラクターを導入し、羽田空港で初となる実証に着手すると発表した。

新型車両は高精度な屋内外シームレス自動運転を実現する自己位置推定性能を有し、けん引重量の増加や坂路走行にも対応できる走行性能を実現しているという。

羽田空港の制限区域内でレベル3実証を進め、同年10月までに実運航便で試験運用するほか、2025年までにレベル4相当の無人搬送の実現を目指すこととしている。

【参考】ANAの取り組みについては「ANAと豊田自動織機、新開発の自動運転トーイングトラクターで貨物搬送」も参照。


丸紅とZMPの合弁会社も取り組みを実施

また、丸紅とZMPの合弁AiROも2020年11月、成田国際空港の制限区域内で自動運転トーイングトラクターによる旅客手荷物や貨物の輸送を想定した実証を行っている。

車両はZMP製の「CarriRo Tractor 25T(キャリロトラクター25トンタイプ)」を使用し、第2ターミナル本館とサテライト、駐機場間のルートを走行したようだ。

【参考】CarriRo Tractorについては「自動運転ベンチャーのZMP、「CarriRo Tractor」もラインナップに!」も参照。

■バス×自動運転
ランプバス×自動運転

ターミナルビルから駐機場にいる機体までを移動する「ランプバス」の自動運転実現に向けても、各社が開発や実証を進めている。

2019年度には、ANAとAiROがそれぞれ実証を行っている。ANAは先進モビリティ、BOLDLYとともに中国BYD製の57人乗り「K9RA」にLiDARやカメラ、ミリ波レーダー、GNSS、SLAM、慣性航法(ジャイロセンサ・車速)などの各センサー・システムを搭載した車両を使用し、羽田空港第2ターミナル制限区域内の北乗降場から65スポットを巡る一周約1.9キロのルートを、実際に乗客を乗せて走行した。

予定していない手動操作が1キロ当たり2.3回発生し、その約6割は自己位置推定技術の精度に起因していたという。初めて活用したSLAMの安定性に課題を残す結果となったようだ。

一方、AiROはZMP製の11人乗り「RoboCar Mini EV Bus」を使用し、インフラ側に一切手を加えず自動運転を実現する技術やフリートマネジメントシステムなどの検証を中部国際空港で実施している。

出典:国土交通省公開資料

2020年度は、前年度に続くANAのグループと、成田国際空港・東日本電信電話(NTT東日本)・ティアフォー・KDDIのグループが実証を行っている。

ANAのグループは羽田空港第2ターミナル停留所から81・82・84番スポットを巡る一周約2キロのルートを走行し、総走行距離135キロのうち約132キロでレベル3走行を実現したという。手動介入回数は計41回で、このうち28回は走行経路上の他車両を回避するため介入している。

【参考】2019年度の取り組みについては「【資料解説】空港ランプバスの自動運転実証、ANAやAIROによる実施結果は?」も参照。

ティアフォーのグループは、タジマモーターコーポレーション製の10人乗りバス「GSM8」を改造したモデルを使用し、成田国際空港第2ターミナルから第3ターミナルまでの約700メートルのルートを走行し、レベル4技術やローカル5G・キャリア通信の冗長化構成による遠隔監視技術などについて検証を進めたようだ。

2022年3月には、いすゞ自動車、西日本鉄道、三菱商事の3社が福岡空港で大型バスの自動運転共同実証に着手している。

いすゞ製の79人乗り「エルガ」に外部スタートアップの自動運転ソフトウェアを組み込んだ車両を使用し、レベル2による運行から徐々に段階を挙げ、将来的にレベル4を目指す計画としている。

【参考】いすゞなどの取り組みについては「目指すは完全無人の「レベル4」!福岡空港で自動運転大型バスの実証スタート」も参照。

空港送迎バス×自動運転
出典:BOLDLYプレスリリース

空港敷地内から外れるが、空港と周辺施設などを結ぶシャトルバスの自動運転化を図る動きも活発だ。2020年1月には、東京空港交通、東京シティ・エアターミナル、日本交通、日の丸交通、三菱地所、JTB、ZMPの7社が、東京都の事業のもとMaaSを活用して空港リムジンバスと自動運転タクシー、自動運転モビリティを連携させる都市交通インフラの実証を行っている。

また、2021年11月には、羽田空港に隣接する複合施設「HANEDA INNOVATION CITY(HICity)」の開発を進める羽田みらい開発とBOLDLY、マクニカ、日本交通、鹿島建設の5社が、HICityと羽田空港第3ターミナル間の公道で自動運転シャトル「NAVYA ARMA」を活用した運行実証を行った。

■空港施設内移動×自動運転
出典:WHILLプレスリリース

敷地内が広大な空港では、施設内の移動に利用する自動運転車いすの実装にも期待が寄せられている。規模の大きい空港は、玄関口から搭乗口への移動に数百メートルを要することも珍しくない。高齢者をはじめ足腰に不自由がある方にとっては大きな負担であるほか、施設内が広いため目的地まで右往左往するケースもある。こうした際に、誰もが利用可能な自動運転車いすが重宝するのだ。

空港×自動運転車いすの領域では、WHILLの活躍が目立つ。同社は、羽田空港を運営する日本空港ビルデングがロボット技術の検証を目的に公募した「羽田空港ロボット実験プロジェクト 2016」に採択され、障害物検知・自動停止機能を搭載した「WHILL NEXT」の検証を行うなど早くから実用化に向けた取り組みを進めている。

2019年には、CES2019で「WHILL自動運転システム」のプロトタイプを公開し、アムステルダム・スキポール空港(オランダ)、1羽田空港、ダラス・フォートワース国際空港(米国)、アブダビ国際空港(アラブ首長国連合)、ウィニペグ国際空港(カナダ)の5空港で実証を行った。羽田空港では、日本空港ビルデングとJALとともに、JAL利用者を対象に試乗体験を行っている。

2020年6月には、羽田空港第1ターミナル内でWHILL自動運転システム導入が決定したと発表している。空港内で人の移動を担う自動運転パーソナルモビリティの実用化は世界初という。2021年6月には、国内線第1・第2ターミナル出発ゲートラウンジ全域で順次展開していくことも発表された。

【参考】WHILLの取り組みについては「空港で世界初!羽田に自動運転パーソナルモビリティ WHILLが開発」も参照。

このほか、ロボット開発を手掛けるZMPも202年2月、成田国際空港とANAとともに「RakuRo(ラクロ)」を活用した実証を行うなど、積極的な取り組みが目立つ。

■滑走路の除雪×自動運転

空港では除雪作業の労働力不足も懸念されており、省力化・自動化に向け国土交通省航空局は「空港除雪の省力化・自動化に向けた実証実験検討委員会」を2020年10月に立ち上げ、自動運転やIoTなどを駆使した技術の確立を進めている。

同委員会では、除雪車両(プラウ車)に自車位置測定技術を用いた運転支援ガイダンスシステムを搭載し、2022年1~2月に北海道の稚内空港で実証を行う方針を決定した。公募の結果、パナソニックシステムソリューションズジャパン、エルムデータ、アイサンテクノロジーの3社がそれぞれ提案・応募している。

パナソニックシステムソリューションズジャパンは、ネットワーク型1周波RTK-GNSSによって自車位置を測定し、空港施設図面を加工したガイダンス用地図を用いて自車位置と周囲の白線や滑走路端、滑走路中心線灯などの地物を表示・警告する運転支援ガイダンスシステムを導入した。

また、複数台の除雪車が隊列を組んで作業を行うための他車両の位置確認手段や、ドライバーが装着したスマートグラスを通して、グラスが映した映像を管理事務所にリアルタイム伝送したり遠隔コミュニケーションしたりする技術も提案している。

エルムデータはRTK-GNSSで自車位置を測定し、除雪車両に搭載した機器で位置情報などの必要なデータを取得して車両の位置情報や進行方向といった必要な情報を画面上に表示・警告する運転支援ガイダンスシステムを提案している。

アイサンテクノロジーはGNSSとIMU複合航法システムによって自車位置を測定し、あらかじめ作成した空港内地図をベースに位置情報を付与した空港内設備を配置し、リアルタイムに車両位置情報を重畳して表示・警告する運転支援ガイダンスシステムを提案している。

積雪地域における位置推定では、地表の小さな地物を目印にすることが困難となる。センチメートル級の自車位置推定技術をどのように実現し、その上でどのように短時間で除雪というタスクを成立させるかがカギとなりそうだ。

■旅客搭乗橋×自動運転

ターミナルビルと航空機を接続する旅客搭乗橋(パッセンジャーボーディングブリッジ/PBB)も自動運転化を図る動きがあるようだ。三菱重工交通・建設エンジニアリングは2021年4月、成田国際空港とICT・IoT技術を活用した世界初の自動運転旅客搭乗橋の実装に向けた共同開発契約を締結したと発表した。

同月には、プロジェクト第一弾として、カメラ画像の解析で航空機ドアを認識し、操作パネルのレバーを倒すだけで旅客搭乗橋の移動から飛行機へ搭乗橋を装着する手前までを自動運転する技術の実運用を開始している。

今後、タブレットなどの操作パネルによる遠隔操作や複数基の同時装着など、自動運転機能の向上に寄与する技術を順次開発し、最終的には「人の手を介さず航空機に装着可能な世界初の完全無人自動運転旅客搭乗橋」の実現を目指す計画としている。

【参考】自動運転旅客搭乗橋については「自動運転技術の「トリプル導入」で空港が近未来化!旅客搭乗橋も新たに」も参照。

■国土交通省の取り組み

空港を所管する国土交通省は2020年1月、IoTやAI、自動化技術などの先端技術を活用した航空イノベーションの推進に向け、「航空イノベーション推進官民連絡会」を設立し、官民一丸となった取り組みを進めている。

同会が作製した官民ロードマップによると、PBB自動装着(自動運転旅客搭乗橋)やランプ車両自動運転、手荷物の自動積み付け・取り降ろしや搭降載補助、貨物ドーリー・牽引車自動運転(自動運転トーイングトラクター)、貨物のパレットへの自動積載や自動受け渡し、航空機のリモートプッシュバックやリモート牽引、自走用車両などの実用化が盛り込まれている。

ランプ車両自動運転や自動運転トーイングトラクターは2020年までにレベル3を達成し、2030年に向けてレベル4~5を開発していく計画だ。

■【まとめ】さまざまなモビリティの自動運転化に期待

制限区域となる空港は、一般車両や歩行者などを規制しやすいため自動運転技術の導入が容易に思われる一方、滑走路など独特の交通規制がしかれ、かつ非常に高度な安全性が求められるため、一筋縄ではいかないようだ。

空港ではこのほかにもパッセンジャーステップカーやカーゴローダーやベルトローダー、化学消防車、キャビンサービスカーなど、さまざまなモビリティが使用されている。すでに実用段階に入ったモビリティをはじめ、各モビリティの自動運転化に向けた取り組みに引き続き期待したい。

【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事