小型・中型トラックを主力に大型トラックやバスの開発・製造を手掛ける商用車メーカーのいすゞ。国内小型トラックシェアで不動の1位に立つほか、近年は海外売上高比率も伸ばすなど、グローバル展開も推進している印象だ。
CASEに象徴される激動の時代を迎え、どのような戦略で次代に立ち向かっていくのか。この記事では2023年時点の情報をもとに、自動運転を中心に同社の戦略や取り組みに迫る。
<記事の更新情報>
・2023年7月13日:2030年までの投資計画について追記
・2022年5月26日:記事初稿を公開
記事の目次
■自動運転関連の戦略
進化する物流に向けイノベーションを促進
2019年3月期から2021年3月期にまたがる前中期経営計画では、「既存事業の深化」と「次世代に向けた新化」を掲げ、従来からのコア事業で収益拡大を図るとともに、先進技術開発の加速やデジタルイノベーションの推進、新規事業創出など将来に向けた種まきに取り組んできた。
先行技術開発では、隊列走行・自動運転、先進安全、コネクテッド、EV(電気自動車)、高効率ICE(内燃機関)を重点領域に据え、開発と実装を進めてきた。隊列走行は国の音頭のもと2017年に実証実験を開始したほか、先進安全技術では2018年に歩行者にも対応したAEBS(衝突被害軽減ブレーキ)を市場投入している。
コネクテッド関連では、車両のコンディションをリアルタイムで把握可能な「PREISM(プレイズム)」の搭載を2018年に開始し、2019年以降標準化を進めている。また、顧客車両の稼働情報やベストプラクティス情報、積載物情報など商用車に関わるさまざまな情報を統合管理するプラットフォームの構築に向け、異業種を含めたパートナーとの連携を加速させていくとしている。
自動運転技術の研究開発では、2016年から協業を進める日野のほか、ボルボ・グループとの連携も密にしている。
市街地配送車や清掃車の自動運転化なども推進
2022年3月期から3カ年の中期経営計画2024では、2040年までにカーボンニュートラル化に対応できるフルラインアップを確立し、2030年代に主要モデルにおいてハイブリッドをはじめとしたEVの量産販売を拡大する戦略をはじめ、コネクテッドサービス基盤の構築や自動運転技術の確立など、さらなるイノベーションの基軸を固めていく。
▼中期経営計画(2022年3月期~2024年3月期)
https://www.isuzu.co.jp/company/investor/plan/pdf/all_2022-2024.pdf
自動運転関連は、高速道路における大型トラックや港湾における低速自動運転や自動駐車、限定区域内における自動運転バス、市街地における道路清掃車への応用、市街地閉鎖空間における自動運転配送の実証など、実生活環境への展開・普及を見越しさまざまなユースケースにおける実証を進めていく計画だ。
高速道路関連では、日野や三菱ふそうなどとともに国が推し進める隊列走行実証に参加し、2021年2月に後続車の運転席を無人とした隊列走行実証に成功している。商業面では、2020年型ギガに全車速ACCとLKASを搭載し、市場化を進めるとともに、いすゞ中央研究所と大型トラック単独での自動運転を研究し、一部技術を量産の開発に活用しているという。
道路清掃車向けの自動運転技術はいすゞテクニカルセンターオブアメリカを中心に開発を推進している。すでにデモ走行を行っている。
市街地における自動運転配送では、米NVIDIAが有する乗用車の走行環境認識技術といすずの判断・制御技術を組み合わせる形で開発を推進している。2020年に藤沢工場構内で市街地を想定した走行実証を開始しており、2021年以降に走行エリアの拡大を図っていくとしている。
■自動運転などの2030年までに1兆円投資
いすゞは2023年5月に、自動運転技術の開発加速や電気自動車(EV)の導入などを目的として、2023年ごろまでに1兆円規模の投資を行うという目標を明らかにしている。投資額のほぼ半分は開発費に充て、工場を含む設備投資などに2,000億円規模を充てる。各種ソフトウェアの開発にも費用を投じる。
上記については、いすゞの新たな経営理念体系「ISUZU ID(イスズアイディー)」が発表される中で明らかになったものだ。自動運転技術の実用化は物流DXの一環として取り組む予定で、新時代の「運ぶ」を創造する新サービスの可能性を追求するという。
▼いすゞ、新たな経営理念体系「ISUZU ID」を策定 -ESG視点経営の深化、イノベーションを加速- _ いすゞ自動車
https://www.isuzu.co.jp/newsroom/details/20230512_1.html
■自動運転関連のトピック
ボルボ・グループと戦略的提携
いすゞは2019年、ボルボ・グループと商用車分野における戦略的提携に向けた覚書を締結したと発表した。自動運転技術をはじめとした先進技術やCASE対応に向けた技術的な協力体制構築のほか、アジアを中心とした海外市場での大型トラック事業強化など、幅広い協業可能性を追求していく。
戦略的提携の第1弾として、日本をはじめとするアジア地域での事業強化に向けてボルボ・グループが保有するUDトラックスをいすゞに譲渡するとしている。
商用車分野における戦略的提携の基本契約は、2020年10月に正式に締結したと発表している。また、UDトラックスの事業取得は2021年4月までに手続きを完了している。事業取得価格は約200億スウェーデン・クローネ(2,430億円)となっている。
両社は、それぞれが得意とする領域を互いに補完しながら優れた技術とスケールメリットを生かし、商用車における既存技術や先進技術開発の協業を進める。先進技術分野では、商用車の自動運転やコネクテッド、電動化などの将来を見据えた技術開発を加速する方針だ。
福岡空港で大型自動運転バス実証に着手
いすゞと西日本鉄道、三菱商事、福岡国際空港は2022年3月、大型自動運転バス実用化に向けた共同実証実験を実施することに合意したと発表した。
いすゞ「エルガ」をベースにした大型の自動運転バス1台を福岡空港に導入し、国内線・国際線旅客ターミナルビル間約1.4キロを結ぶ連絡バスの走行経路で実証を行う。当初はレベル2走行からスタートし、その後段階的に自動運転技術を高め、技術評価・改善や安全性・利便性に関する知見の獲得、運用・サービス両面における課題点の検証などを進め、将来的なレベル4実現につなげていく。
なお、自動運転システムは、いすゞが培ってきた車両制御技術を外部スタートアップの自動運転ソフトウェアに組み込んだという。計8つのLiDARを搭載し、大型ボディの周辺360度をスキャンする仕様だ。
【参考】福岡空港での取り組みについては「目指すは完全無人の「レベル4」!福岡空港で自動運転大型バスの実証スタート」も参照。
UDトラックスと神戸製鋼がレベル4実証
UDトラックスと神戸製鋼は2021年11月、神戸製鋼所の加古川製鉄所内でUDトラックスが開発したレベル4搭載の大型トラックを用いた自動運搬技術の実証実験を行うと発表した。超スマート社会に不可欠なスマート物流サービスと製造・物流現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)の促進を目指すとしている。
UDトラックスは2018年、2030年までの取り組みを示した次世代技術ロードマップ「Fujin & Raijin(風神雷神)―― ビジョン2030」を発表し、大型トラックの特定用途における自動運転や電動化といった技術の早期実装に向けた取り組みを加速している。
これまでに、大型トラックによるレベル4の自動運転デモンストレーションを公開しているほか、2019年8月には国内初となる一部公道を使用した大型トラックによるレベル4技術の実証を北海道で実施している。
神戸製鋼との取り組みでは、製鉄所内の運搬コースの一部ルートで大型トラック「クオン」をベースとしたレベル4車両1台を使用し、走行実験を行う。限定領域における反復作業の自動化の有用性などを検証していくものと思われる。
【参考】UDトラックスの取り組みについては「UDトラックス、自動運転レベル4の共同実証実施へ 神戸製鋼所と合意」も参照。
■CASE関連のトピック
富士通などとコネクテッド技術開発へ
コネクテッド関連では、いすゞとトランストロン、富士通が新たな商用車情報基盤「商用車コネクテッド情報プラットフォーム」の構築を進めている。いすゞやトランストロンの約50万台に及ぶ商用車に関する車両コンディション情報や位置情報などの遠隔取得データを統合する。
いすゞの「PREISM」や商用車テレマティクス「MIMAMORI(みまもり)」での車両データの活用ノウハウをはじめ、トランストロンのクラウド型運行支援サービスや富士通のクラウドサービス・コネクテッドサービスといったDX技術によって相乗効果を生み出し、物流業界のさまざまな課題に応える新サービスの提供を2022年10月に開始する見込みだ。
また、2021年4月には、トヨタと日野とともにCASEの社会実装・普及に向けた商用事業プロジェクト「Commercial Japan Partnership(CJP)」を開始している。
事業推進に向けトヨタが設立した新会社「Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)」を通し、トヨタのモビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)をベースとした広範なデータプラットフォームとの連携も推進していくこととしている。
ホンダとFC大型トラックを共同開発
EV関連では、ホンダと燃料電池(FC)をパワートレインとした大型トラックの共同研究契約を2020年1月に締結したことが発表されている。
いすゞの大型トラック開発技術とホンダのFC開発技術を生かし、カーボンフリー社会の実現に向けFCパワートレインシステムや車両制御などの基礎技術基盤の構築を目指す構えだ。
■【まとめ】横の連携進む商用車メーカー
サイズ・重量のある商用車は自動運転開発のハードルが高く、商用車メーカー間の連携は欠かせないものとなってきた印象だ。
自社技術をはじめ、トヨタや日野、グループ内のUDトラックスなどの技術をどのように融合し市場化していくのかが今後の焦点となりそうだ。また、近い将来、海外で先行するスタートアップ勢が国内市場や国内各メーカーにアプローチしてきた際、どのような対応を行っていくのかといった観点にも注目したい。
■関連FAQ
2022年6月時点では自動運転技術を提供していない。先進運転支援システム(ADAS)は提供しており、衝突被害軽減ブレーキや前方衝突警報機能、車線逸脱警報機能などを搭載している。
取り組んでいる。これまでに経営計画でトラックの隊列走行や自動運転を重点領域に据えており、隊列走行の実証実験は2017年から取り組みを開始している。2021年2月には、日野や三菱ふそうなどとともに国が進める実証に参加し、後続車の運転席が無人の隊列走行を成功させている。
2022年3〜4月にかけ、西日本鉄道と三菱商事、福岡国際空港とともに、福岡空港で大型自動運転バスの実証実験を実施した。いすゞ製「エルガ 2RG-LV290Q3」が車両として使用され、LiDARや望遠・広角カメラ、ミリ波レーダー、ジャイロセンサ、GNSSアンテナなどを搭載して自動運転化した。
2019年、自動運転技術をはじめとした先進技術などの分野に関し、ボルボ・グループと戦略的提携に向けた覚書を締結している。神戸製鋼との取り組みにも注目だ。いすゞ傘下のUDトラックスは神戸製鋼と、レベル4搭載の大型トラックの開発・運用に挑んでいる。
2022年6月現在、日本国内ではまだ自動運転トラックが商用ベースで実用化されていない。国はまず、高速道路での自動運転トラックの展開を目指している。
(初稿公開日:2022年5月26日/最終更新日:2023年7月13日)
【参考】関連記事としては「完全自動運転とは?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)