独自動車部品大手のボッシュとフォルクスワーゲン(VW)グループのソフトウェア開発子会社CARIAD(カリアド)がパートナーシップを結び、ハンズオフが可能なレベル2やレベル3の開発を共同で進めていくことに合意した。
フォルクスワーゲングループ向けの開発が主体となるが、ボッシュ幹部はロイターの取材に対し、共同開発したソフトウェアをいずれ同グループ以外にも出荷したいとする意向を示している。
開発の主体がハードウェアからソフトウェアに移り変わろうとしている今日においては、全世界の開発企業がターゲットとなる。ボッシュは、全メーカーを対象にした汎用的な自動運転ソフトウェアの開発を本格化させる可能性がありそうだ。
この記事では、両社の取り組みを交えつつ、自動運転ソフトウェア戦略の在り方に触れていく。
記事の目次
■ボッシュとCARIADの取り組み
CARIADはソフトウェア開発に特化したVWグループの子会社
はじめにCARIADの概要に触れておく。CARIADは2020年に設立されたフォルクスワーゲングループの100%子会社で、ADAS(先進運転支援システム)やインフォテインメントプラットフォーム、バッテリーテクノロジー、デジタルビジネスモデルなど、ソフトウェア開発に特化した事業を展開している。
ソフトウェアの基盤となる「フォルクスワーゲンオペレーティングシステム(VW.OS)」の開発も進めており、グループ内全てのブランド向けに統一したソフトウェアプラットフォームを構築し、2025年末までに導入する方針だ。
また、コネクテッド化された自動車や自動運転車に安全でスケーラブルな基盤を提供する「フォルクスワーゲンオートモーティブクラウド(VW.AC)」を2023年にも導入する計画だ。世界最大の自動車用クラウドとして、車両の状態やバッテリー充電、サービス履歴、リモートサービスなど数百万台に及ぶ車両データを処理・分析し、イノベーションを加速するとしている。
自動運転関連では、ロボタクシーなどのサービス用途に限らず、自家用車への導入も見据え、グループ内においてはアウディのチームとCARIADチームが開発に取り組んでいる。最初のステップとしては、ドイツのアウトバーンなどオープンハイウェイにおけるレベル3、レベル4の実現を目指しているようだ。
こうしたソフトウェア開発に力を入れる背景には、「ソフトウェアとハードウェアの分離」がある。ハードウェアの多くは5年前後で更新されるが、ソフトウェアは1年、場合によってはわずか数週間で更新される。この両者を分離し、常に最新に保たれたソフトウェアをさまざまなハードウェアプラットフォームに適用することで、車両のライフサイクル全体を通じた更新や機能拡張、追加サービスが可能になる。
ボッシュとのパートナーシップでは高度なレベル2~3を開発
CARIADとボッシュは、ドライバーにとってより安全でストレスの少ない自動運転機能を全ての車両において迅速に展開することを目指し、協業を進める。
具体的には、フォルクスワーゲングループのブランドで販売される車両において、高速道路や市街地などでドライバーがステアリングホイールから手を離すことができるレベル2のハンズオフ機能や、高速道路で自動運転システムが運転を行うレベル3の開発を進め、一部は2023年からの実装を目指す。合わせて、レベル4の実現に向けても可能性を検討していくことで合意した。
この目標に向け、両社は最先端のソフトウェアプラットフォームを共同開発する。プラットフォームは、フォルクスワーゲングループのブランドで販売される全ての車両に採用されることを目的とする。また、共同開発された全てのコンポーネントパーツは、他の自動車メーカーの車両やエコシステムに統合することも可能になるとしている。
ソフトウェア開発に向け、データを記録・評価・処理するための革新的な開発環境を構築し、360度全方位センサーの情報をもとにデータドリブンなソフトウェア開発を行う予定で、車両の位置確認や横方向・縦方向誘導のための高解像度地図の追加レイヤーの開発なども進める。
プロジェクトに向け、両社は混成チームを結成して作業に臨む。ピーク時には1,000人以上のエンジニアらが参加するほか、エキスパートの新規採用もすでに開始しているという。
将来的には全メーカーをターゲットに?
両社の協業がフォルクスワーゲングループに向けたものであることは言うまでもないが、ボッシュ幹部が取材で語った「共同開発したソフトをいずれVW以外にも出荷したい」とする意向は、世界を股に掛ける大手サプライヤーとしては至極当然なものだ。
高度ADASや自動運転技術によってソフトウェアの重要性が大幅に増すこれからの時代、自動車産業における開発の軸はハードウェアからソフトウェアに徐々に移り変わっていく。そして、ソフトウェアはハードウェアと異なり、その技術を業界に浸透させやすく、広く活用されてこそビジネス性が増す。
ボッシュのみならず、フォルクスワーゲングループとしても新たなビジネス領域として本格着手する可能性じゃ十分考えられそうだ。
▼CARIAD公式サイト
https://cariad.technology/
■自動車・自動運転とソフトウェア
自動車・自動運転車向けの車載OSは、制御系・情報系ともに自動車メーカーらが独自開発を進める一方、グーグルやBlackBerryなどのように他社向けに広く開発しているものが今後スタンダードな存在となっていきそうだ。
自動運転をつかさどる自動運転OSも、徐々に開放的な環境が出来上がりつつある印象だ。自動運転システムは自動車メーカー、スタートアップらがそれぞれ独自開発を進めているが、自ら自動運転タクシーなどの独占的サービス展開を進めている企業はソフトウェア面で閉鎖的だが、実用化で一歩先を行くスタートアップ勢の多くは車両の生産能力を持っていないため、OEMの協力が欠かせない。
こうした場合、同業他社との競争を勝ち抜くためにはいかに多くの車体プラットフォームに対応できるかが重要となるため、おのずとオープンな姿勢となる。さまざまなプラットフォームへの統合が前提となるのだ。
例えば、GM傘下のCruiseは狭い範囲のパートナーシップに限定した開発を進めている。親会社であるGMや出資パートナーのホンダを主体とし、今のところ他社に広げていく姿勢を見せていない。
一方、Waymoは自社向けに自動運転システム「Waymo Driver」を開発し、自動運転タクシーなどのサービスを展開しているが、パートナー拡大には積極的なスタンスをとっており、FCA(ステランティス)や日産、ルノー、ボルボ・カーズ、ダイムラートラックなどと協調路線をとっている。
Aurora Innovation、Argo AIといった独立系企業は、懇意とする自動車メーカーを持ちつつもパートナー拡大路線を前提とした事業展開を進めている。自動運転開発分野では、このスタンスが主流となっている印象だ。
オープンソース・オープンプラットフォームも拡大傾向に
自動運転システムをオープンソース・オープンプラットフォーム化し、広く普及や導入を図る動きもある。代表格はティアフォーだ。
ティアフォーは自動運転ソフトウェア「Autoware」をオープンソース化することで、業界全体に及ぶ水平分業的な発展を推し進め、自動運転社会の早期実現を目指している。
Autowareの権利は、同ソフトウェアの国際標準化を目指す非営利団体「The Autoware Foundation(AWF)」に譲渡されており、同団体がオープンソースプロジェクトをサポートしている。メンバーには、トヨタ系のウーブンプラネットや英Arm、オランダTomTom、仏Navya、日立、米インテル、米Velodyne Lidarなどが名を連ねている。
中国では、IT大手百度(Baidu)が展開するオープンソフトウェアプラットフォームを活用した「Project Apollo=アポロ計画」が一大勢力を誇っている。中国系企業をはじめ、中国市場を見据える世界各国の自動車メーカーらも名を連ねており、現在メンバー数は176社を数えるようだ。
■【まとめ】自動運転システムも汎用性が求められる時代に
自動車OS同様、自動運転システムも汎用性が求められる時代が到来しそうだ。各社の自動運転システムが一定の精度に達すれば、おのずとそれぞれのシステムの差異が縮まる。その後は、自動運転能力そのものよりも、カスタマイズ性や費用対効果などにより多くの目が向けられる可能性が考えられる。
こうした未来を見据えると、早い段階でシェア獲得に動き出す必要がある。スタートアップ勢が先行する中、自動車メーカーや大手サプライヤーがどの段階で大きな動きを見せるのか、要注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転システムの役割・仕組みまとめ(2022年最新版)」も参照。