テスラFSD、「購入型」は何年目で「サブスク型」よりお得に?自動運転機能を将来搭載

一般オーナーは5年が分岐点に?



米EV(電気自動車)大手テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が、同社の「FSD(Full Self-Driving)」オプションを1万2,000ドル(約137万円)に値上げするとTwitterでつぶやいた。1万ドル(約114万円)から1万2,000ドルへの値上げで、北米を対象に2022年1月17日に実施するとしている。


OTA(Over The Air)アップデートによりさまざまな機能を新装し、将来的に自動運転を実現する予定のFSD。実装される各機能に注目が集まるところだが、もう1点注目ポイントがある。サブスクリプションによる展開だ。

一括で購入する場合とサブスクで利用する場合、損得が分かれる利用期間は果たしていつなのか。この記事では、FSDの利用形態における損得の分岐点について考察していく。

■FSDの概要

FSDはわかりやすく言えば、テスラのADAS(先進運転支援システム)である「Autopilot」の高機能版だ。もともとテスラはAutopilotをOTAアップデートすることによって徐々に高機能化し、自動運転を実現する戦略を立てていたが、これを具現化したものがFSDだ。

現在の型式のFSDは一部のオーナーを対象にベータ版の提供が2020年10月に開始され、以降バージョンアップが図られている。主な機能として、高速道路におけるレーン別のナビ機能や自動車線変更(支援機能)、自動駐車機能、駐車中のマイカーをオーナーの元まで自律走行させるスマートサモン機能、一時停止標識や信号機を識別し車両を自動停止させる機能などが備わっている。


なお、マスクCEOは今回の値上げのアナウンスに際し、FSDの価格は性能向上とともに上がるといった発言も行っており、近く新たな機能が追加される可能性もありそうだ。

■一括とサブスク、どちらがお得?

テスラのADAS「Autopilot」は現在標準装備で、かつてはAutopilotの拡張版「Enhanced Autopilot」も存在した。以前は、最先端の主要機能がEnhanced Autopilotに搭載され、5,000ドル(約57万円)のオプション扱いとなっていた。

また、FSDは2016年から存在し、追加で3,000ドル(約34万円)出すことでオプションとして選択できたが、当時は1つも機能が実装されていなかったという。現在のFSDとは仕様が異なるようだ。

一方、現在のFSDは、当初は5,000ドル(約57万円)だったが、1,000ドル値上げ、2,000ドル値上げ…と続き、ついには1万2,000ドルに達した。


このように、それぞれの価格や仕様は都度変更されているため、前提条件が整わない。このため、過去にオプションで支払った額などは考慮せず、純粋に現在の料金体系のみでFSDの一括払いとサブスクを比較する。

実際に計算して比較してみる

FSDの一括購入価格は1万2,000ドル(約137万円)で、サブスク月額は、通常のAutopilotオーナーが199ドル(約2万3,000円)、Enhanced Autopilotオーナーが99ドル(約1万1,000円)となっている。

Autopilotオーナーの場合、月199ドルの支払いで1万2,000ドルに達するには60.3回の支払い、つまり約60カ月を要する。Enhanced Autopilotオーナーの場合、121カ月を要する計算になる。

Autopilotオーナーは、サブスク利用で60カ月を超えると、一括購入価格を上回って支払い続けることになる。同様に、Enhanced Autopilotオーナーの場合は121カ月となる。

Autopilotオーナーは5年が分岐点

単純計算だが、通常のAutopilotオーナーは、サブスク利用が5年を過ぎるとお得感を失うことになる。逆に言えば、5年以内にマイカーを乗り換える場合などは、サブスク利用が得ということだ。

一方のEnhanced Autopilotオーナーは約10年が分岐点となる。車両購入時にオプション料金を支払っているため、サブスクが有利となる期間も長くなるようだ。

なお、今のところ正式なアナウンスはないものの、値上げに伴いサブスク料金も改訂される可能性があることも付け加えておく。

■FSDの搭載率は?

主観だが、テスラのオーナーは比較的裕福かつ新しいもの好きで、マスクCEOの信奉者が多い印象を受ける。だからこそ、FSDという高額オプションが支持されているのだろう……と思いきや、近況はそうでもないようだ。

「Troy Teslike」というアカウントがまとめたレポートによると、FSDの搭載率は2021年第2クォーターの時点で11.1%に過ぎないという。

Autopilotが無料の標準仕様となり、先端機能がFSDに切り替わった2019年に搭載率は46%に達したが、それ以降割合は減少を続けている。

その理由は3点考えられる。1点目は、テスラ車の量産化が本格化したことでこれまでの購買層とは異なる一般層にもテスラが浸透したためだ。冷静かつ慎重な姿勢でFSDを見定めている可能性が考えられる。

2点目は、量産化に伴い海外オーナーが増加した点だ。北米以外の地域ではFSDの全機能を使えるとは限らないため、購入を見送るオーナーが増加しているものと思われる。事実、Troy Teslikeのレポートによると、FSDの搭載率は北米18.6%、欧州16.1%、アジアに至ってはわずか0.5%となっている。

そして3点目は、FSDの機能に対する費用対効果だ。現状のFSDは、スマートサモンなどを除くとADASとしてとりわけ珍しい機能が搭載されているわけではない。あくまでレベル2であり、標準搭載のAutopilotとの差異を考えると、コスト的に見合わないと感じる層が現状多いものと思われる。

こうした理由を踏まえると、お試しでFSDを利用できるサブスクの存在は今後より大きなものへと変わっていく可能性がありそうだ。

■【まとめ】自動運転実現時の価格は果たして?

通常のAutopilotオーナーは、5年以内のマイカー乗り換えを想定すればサブスクの方が得であることが分かった。その一方、FSDを購入する割合はまだまだ低いのが現状のようだ。

ただ、テスラのシステム・ソフトウェアが大幅に進化し、レベル3~4を実現した場合、状況が大きく変わる可能性がある。本格的な自動運転機能の実装が始まれば、費用対効果を考える際の価値基準も大きく異なってくるためだ。

その際、価格改定で大幅な値上げが実行される可能性が高いが、レベル3以降の価格が果たしてどれほどの金額となるか、改めて注目したい。

また、ADASや自動運転機能をサブスク化するビジネス形態についても、今後他のOEMが追随する可能性も考えられる。こちらも合わせて注目だ。

▼イーロン・マスク氏のTwitterアカウント
https://twitter.com/elonmusk

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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