Velodyne Lidarの年表!「自動運転の目」ベンチャーの草分け

契約65社超、DARPA参加から続く自動運転開発史



背景画像の出典:Velodyne Lidar公式サイト/プレスリリース

「自動運転の目」として存在感を高め続けるLiDAR。開発に向け数多くのスタートアップが立ち上がり、熾烈な競争を繰り広げている有力市場だ。

すでに株式上場にこぎつけた企業も出始めており、本格的な市場化時期の到来を予感させるが、こうした「自動運転×LiDAR」の絵図をいち早く描き、第一線で活躍し続けている企業が存在する。米Velodyne Lidar(ベロダイン・ライダー)だ。


LiDARのパイオニアとして名高い同社は、これまでどのような道を歩んできたのか。LiDAR開発に至った背景とともに、同社の取り組みを時系列で追っていく。

■Velodyne Lidarの概要

ベロダイン・ライダーは、エンジニアのDavid Hall(デビッド・ホール)氏が1983年に創業したオーディオ開発・製造の「Velodyne Acoustics」に起源を持つ。30超の特許を持つ発明家としても有名なホール氏は、ロボット工学の知識も豊富で、ラジコン戦闘機の技術を競う大会などにもよく出場していたようだ。

LiDAR開発のきっかけは、2004年に開催された米国防高等研究計画局(DARPA)主催のロボットカーレース「DARPAグランドチャレンジ」への参加だ。当時のカメラやLiDARといったセンサーは自動運転の「目」としては不十分で、第1回大会では参加チーム全てが完走できずリタイアした。

そこでホール氏は新たなLiDAR開発に着手し、翌2005年にソリッドステート式と回転式のハイブリッド機構を備えた3D-LiDARを発明した。複数のレーザー光をくまなく照射することで検知範囲を大幅に拡大し、サラウンドビューを可能にした。


新たな3D-LiDARを搭載して臨んだ翌2005年の同レースは、完走こそできなかったものの多くの注目を集めたようだ。

■2007年:最初の量販モデルとなる「HDL-64E」を製品化

2007年には最初の量販モデルとなる「HDL-64E」を製品化し、同年開催された「DARPAアーバンチャレンジ」では、自チームは不参加とする代わりに、他の出場チームへ新製品を販売したという。

DARPAに参加していた優秀なエンジニアの多くは米グーグルに入社し、2009年ごろから世界に先駆けて自動運転の研究開発に着手したが、DARPAの縁か、同社の自動運転初期モデルにはベロダインの「HDL-64E」が採用されている。

ベロダインは自動運転創成期をセンサーで強力にバックアップし、今日につながる土台を築いた1社と言える。同社がLiDAR開発のパイオニアと言われる所以だ。


出典:Velodyne Lidar公式サイト
■2012年:Caterpillarと独占契約締結

ベロダインは2012年、建設機械大手のキャタピラーとオフロード車向けのLiDARソリューションに関わる独占契約を結んだ。

作業の効率と収益性、現場の安全性を高める目的でLiDARを活用する内容で、自動運転化を目指していたかどうかは定かでないが、採石場などの閉鎖空間は自動運転技術による無人化を図りやすく、効率性や安全性にも貢献できる。測量技術を含め、こうした現場においても早くからLiDARが注目されていたのだ。

■2014年9月:16チャネルのLiDAR「VLP-16」発表

ベロダインは2014年9月、Puckシリーズの最初の製品となるLiDAR「VLP-16」を発表した。汎用モデルで、従来の「HDL-64E」に比べコンパクト化・低価格化を図っている。

なお、発表当初の価格は7,999ドル(約85万円)となっている。当時は、この価格でも「従来に比べ安価」とされていた。その後徐々に低価格が進み、VLP-16は2018年には約半額まで値下げされている。

■2016年:Velodyne AcousticsからLiDAR部門がスピンオフ

ベロダインのLiDAR部門が2016年にVelodyne Acousticsから正式にスピンオフし、「Velodyne Lidar」として事業活動を始めた。

ちなみにその後、音響機器を取り扱っていた従来のVelodyne Acousticsは、2019年に独Audio Referenceに買収された。

創業者兼CEO(最高経営責任者)として辣腕をふるっていたホール氏は、2020年1月にCEO、2021年1月に会長職をそれぞれ退いている。

■2016年:「Puck LITE」「Puck Hi-Res」「Ultra Puck」発表

ベロダインは2016年、より軽量化を図った「Puck LITE」、20度の垂直視野で高解像度を実現する「Puck Hi-Res」、200メートルの長距離検知を可能にした「Ultra Puck」をそれぞれ発表した。

ラインアップを拡充することで、自動運転実証向けやマッピング向け、ドローン向けなど、さまざまなシーンへの導入を図る狙いだ。

■2016年8月:フォードと百度から1億5,000万ドル出資

ベロダインは2016年8月、米フォードと中国の百度(Baidu)からそれぞれ7,500万ドル、計1億5,000万ドル(約160億円)の出資を受けたと発表した。

フォードは当時、今後5年間でハンドルやブレーキなどを搭載しない自動運転車をリリースすると発表しており、LiDARセンサーの高度化・商業化にも高い期待を寄せていた。なお、フォードは2020年にベロダインが上場した際7.6%の株式を保有していたとされているが、2021年2月までに全株売却したことが発表されている。

緊密なパートナーシップ関係にあるArgo AIが独自LiDARを開発していることが背景にあるようだ。

一方、百度は2020年にベロダインのLiDAR「Alpha Prime」の販売契約を結んでいる。Apolloプロジェクトのパートナー向けに提供していく方針のようだ。

■2017年1月:メガファクトリー開設

ベロダインは2017年1月、LiDAR生産を大幅に増強するメガファクトリーをカリフォルニア州サンノゼに開設すると発表した。モーガンヒルの製造施設やアラメダの研究センターに次ぐ3カ所目の拠点で、これにより生産能力が4倍以上になったという。

高まる需要に応えるための事業拡大で、2018年には100万基以上のLiDARを生産予定としている。

出典:Velodyne Lidarプレスリリース
■2017年4月:「Velarray」をリリース、11月には「VLS-128」も

ベロダインは2017年、最新LiDARとして4月に「Velarray」、11月に「VLS-128」をそれぞれ発表した。

Velarrayはソリッドステート式で、125×50×55ミリのコンパクトサイズながら最大120度の水平視野と35度の垂直視野、そして200メートルの検知範囲を提供する。

VLS-128は128個のレーザーを備えた高解像度モデルで、前モデルHDL-64の4倍のデータポイントと密度で画像を生成することができるという。

■2017年9月:ダイムラーの自動運転開発にLiDAR採用

ベロダインは2017年9月、自動運転開発を進めるメルセデス・ベンツの北米R&D部門からLiDARの発注を受けたことを発表した。VLP-32C Ultra Puckが採用されたようだ。

■2018年12月:ニコンから出資、受託生産契約も締結

光学機器メーカーのニコンは2018年12月、ベロダインに2,500万ドル(約27億円)を出資し、自社技術とLiDARセンサー技術の融合に向け多角的なビジネスアライアンスの検討を開始したと発表した。

翌2019年4月には、ベロダインと受託生産契約を締結し、LiDARの量産を今下期から開始する予定であることも発表している。

■2018年12月:Postmatesの配送ロボットにLiDAR採用

ベロダインのLiDARは自動走行ロボットにも導入されている。配送プラットフォーマーの米Postmatesが開発を進める配送ロボット「Postmates Serve」にベロダインの「VLP-16Puck」が採用されたことが2018年12月に発表されている。

なお、Postmatesは2020年に配車サービス大手Uberに買収されている。今後、フードデリバリーなどの分野で同ロボットが導入される可能性も考えられる。

■2019年1月:中国HoloMaticがLiDAR採用

ベロダインは2019年1月、自動運転開発を手掛ける中国スタートアップのHoloMatic(禾多科技)が自社製LiDARを採用していることを明らかにした。

HoloMaticは2017年創業で、スマートバレーパーキングソリューション「HoloParking」や、高速道路でレベル3.5を実現する「HoloPilot」などの開発を進めている。

■2019年3月:Clearpath RoboticsがLiDAR採用

ベロダインは2019年3月、自律走行可能なロボット開発を手掛けるClearpath Roboticsと研究用ロボットプラットフォーム向けにLiDARセンサーを提供するパートナー契約を結んだと発表した。

Clearpath Roboticsは屋内・屋外向けの各種自動走行ロボットの開発を手掛けており、顧客は世界で500社以上に上るという。ベロダインのLiDARは取り付けが簡単で消費電力が少なく、Web構成ツールが含まれているため、ロボットプラットフォームとシームレスに統合できるよう設計されている。

■2019年7月:IdriverplusがLiDAR採用

ベロダインは2019年7月、自動運転開発を手掛ける中国スタートアップのIdriverplus(智行者)が自社LiDARを採用したと発表した。

Idriverplusは、自動駐車などを可能にする自動運転システム「Pegasus」をはじめ、レベル4の低速自動運転配送車「AC1」や屋外屋内共用業務用自動掃除器「Viggo」などを製品化している。日本でもTHKインテックスなどをパートナーにビジネス展開を開始している。

■2019年7月:Mapper.aiを買収

ベロダインは2019年7月、マッピングテクノロジー開発を手掛ける米スタートアップMapper.aiを買収したと発表した。これにより、レーンキープアシストやアダプティブクルーズコントロールなどを可能にするADASソフトウェアソリューション「Vella」の開発グループの強化を図る。

■2019年8月:Optimus RideがLiDAR採用

ベロダインは2019年8月、自動運転開発を手掛ける米スタートアップOptimus RideがベロダインのLiDARを採用したと発表した。

Optimus Rideは2015年創業で、低速自動運転シャトルの開発を手掛けており、マサチューセッツ州やニューヨーク州などで実用実証が進められている。

■2019年10月:ヒュンダイモービスとADAS開発に向け協業

ベロダインは2019年10月、韓国ヒュンダイグループのサプライヤーであるヒュンダイモービスとLiDARベースのADAS開発に向け協業すると発表した。

レベル2から4に至るスケーラブルなADAS機能を可能にする「Velodyne Velarray」をパッケージ化し統合していく方針で、2021年に最初のLiDARシステムを商品化するとしている。

■2020年1月:100ドルLiDAR「Velabit」発表

ベロダインは2020年1月、超小型・低価格の新型LiDAR「Velabit」を発表した。

Velabit は61×61×35ミリの超小型サイズで、60度の水平視野角、10度の垂直視野角で最大100メートル先まで検知可能という。価格は100ドル(約1万1,000円)としている。

出典:Velodyne Lidar公式サイト
■2020年3月:NAVYAと販売契約締結

ベロダインは2020年3月、自動運転シャトルバスの開発を手掛ける仏NAVYAと複数年にわたる販売契約を結んだと発表した。

NAVYAは2015年からベロダインのLiDARソリューションを使用している。

■2020年7月:ニューヨーク証券取引所へのSPAC上場発表

ベロダインは2020年7月、特別目的買収会社GrafIndustrialとの合併でナスダックにSPAC上場すると発表した。同市場へのLiDAR開発専門企業の上場は初となり、合併後の取引開始は9月30日となった。

出典:Velodyne Lidarプレスリリース
■2020年8月:信号機とLiDARを統合 スマート交通確立へ

ベロダインは2020年8月、ネバダ大学リノ校とのパートナーシップのもと、スマート交通システムの開発を進めていくと発表した。

信号機にLiDARを統合し、歩行者や自転車などを検出・カウント・追跡し、交通分析や混雑管理、安全性の向上を図っていくとしている。

■2020年12月:フォード系企業と自動運転大型トラック開発で協業

ベロダインは2020年12月、自動運転大型トラックの開発において、トルコの商用車大手フォード・オトサンと協業することを発表した。フォード・オトサンは今後ベロダイン製LiDAR「Velarray H800」を使用し、自動運転大型トラックの開発を進めていくという。

■【まとめ】活躍の場広げるベロダイン、躍進はまだまだ続く

ベロダインとのパートナーシップ・販売契約はその後、May Mobility(2020年12月)、Trunk.Tech(2021年1月)、ThorDrive(2021年2月)、AGM Systems(2021年4月)、Gatik(同)、Faraday Future(同)などがそれぞれ交わしており、EV(電気自動車)やトラック、農業機器、ドローン、トーイングトラクターといった多彩な分野でベロダイン製LiDARが活用されている。現在、65社以上が契約しているようだ。

自動運転創成期を支え、有力スタートアップが台頭する近年においてもますます活躍の場を広げている印象だ。自動運転技術は各分野への応用も進んでおり、それに伴ってLiDAR需要も拡大を見せている。ベロダインの本当の躍進はこれから訪れるのかもしれない。

▼Velodyne Lidar公式サイト
https://velodynelidar.com/
▼Velodyne Lidarプレスリリース一覧
https://velodynelidar.com/press-release/

※自動運転関連企業の取り組みを年表化した記事は「タグ:年表」よりまとめて閲覧頂けます。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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