自動運転、With/Afterコロナ時代の実証実験や研究開発の在り方は?【特集「自動運転×テレワーク」第2回】

シミュレーターなどがキーファクターに



シミュレーターもかなりリアルに近くなりつつある=出典:Nvidia公式ブログ

緊急事態解除宣言が発令され、新型コロナウイルス対策も大きな節目を迎えた。まだまだ油断はならないものの、新しい生活様式を取り入れながら徐々に平穏な生活を取り戻していくことになりそうだ。

コロナ禍では、自動車の生産部門が世界各地で縮小され、需要にも停滞ムードが漂っている。オフィス部門もテレワーク化が進行した。自動運転分野においては、各地の実証実験が中止され、研究開発に影響が出た企業もあるだろう。


多大な影響を及ぼす新型コロナウイルスだが、こうした事態がいつまた襲ってくるとも限らない。Withコロナ時代に向けた取り組みが今後も強く求められることになるのだ。

そこで今回は、Withコロナ時代における自動運転の実証実験やテストに焦点を当て、その在り方に迫ってみよう。

■自動車業界で進行するテレワーク化

トヨタは、東京本社と名古屋オフィスで勤務する従業員を原則在宅勤務としたほか、独自に緊急事態宣言を出した本拠地の愛知県では、発表翌日から公共交通機関を利用して出勤する県内の本社や事業所、工場の従業員も原則在宅勤務としたようだ。

日産は、事業継続のため出社がやむを得ない業務を特定して出社する従業員を最小限に絞り込み、それ以外の業務に従事する従業員は在宅勤務とした。


ホンダも国内全事業所を原則在宅勤務としている。緊急事態宣言の解除に伴い、特定警戒都道府県以外の事業所は在宅勤務を推奨レベルに落とすなど、柔軟かつ慎重に対応を進めているようだ。

生産現場となる工場では基本的にテレワークは困難なため、各社とも稼働停止やラインの減少などで対応している。徐々に落ち着きを取り戻しているものの、世界的な新車需要の低迷を受け、生産調整はいましばらく続く見込みだ。

【参考】各社のテレワーク状況については「コロナ下、自動車業界のテレワーク対応状況は!?トヨタ、デンソー、日産…」も参照。

このように、自動車業界も他業種同様テレワークが浸透している。元々トヨタなどの大企業では、育児や介護と仕事との両立などの観点から在宅勤務や自宅近くの他事業所におけるリモートワークなどを推奨する取り組みが進められていたため一定程度の土台は出来上がっていた。


今後は、感染症対策など一過性の取り組みを抜きに、新しい働き方としてテレワーク導入をどれだけ定着させられるか――といった観点も軽視できない時代となりそうだ。

なお、日産はこうしたテレワーク推進を背景に、「One More Room クルマを、もう1つの部屋に」をキャッチフレーズに据えた特設サイトを公開している。

ガレージのクルマを活用して在宅勤務をより快適にする4つのヒント・アイデアとして、「ダンボールハンドルデスク」「料理用ボウルWi-Fiルーター」「古着リユースクッション」「エコノミークラス症候群対策ストレッチ」を提案している。

■自動運転開発はオンラインでできることも多い
コロナ禍で停滞する自動運転の実証実験

では、自動運転開発の現場ではどうだろうか。開発においては、システムを構成する各種ソフトウェアやセンサーの研究開発と実車に積み込んでの実証を繰り返し、修正・改善しながらシステム全体の高度化を図っていく。ダイナミックマップや通信技術など、主要要素となる技術も同様だ。

とりわけ、センサーが取得したデータをもとに歩行者や障害物、車線、他車、信号などを的確に判別し、自動運転車の停止や回避といった制御を行う自動運転システムの検証が重要だ。時間や場所、天候、季節などで刻一刻と変わるさまざまな状況において的確な判断を下すためには、あらゆるケースを網羅すべく可能な限り公道を走行し、データを収集しなければならない。同一の交通環境は存在しないからだ。

自動運転の開発において重要なこの公道実証が、新型コロナウイルスの影響で停滞している。例えば、国内外の自動車メーカーら28機関参加のもと、2019年10月にスタートした東京臨海部における自動運転の実証実験は、緊急事態宣言を受け一時中止を余儀なくされた。

東京都における緊急事態宣言解除の決定に伴い、5月26日に実証を再開すると発表したが、この実証に合わせて日本自動車工業会が7月に実施する予定だった「自動運転実証の公開」もすでに延期が発表されている。

実証そのものは「3密」に当たらないケースが多いものと思われるが、積極的判断で自粛を決定したものだけではなく、中には自粛ムードの高まりから中止を余儀なくされたものなどもある可能性が高そうだ。

公道実証の不足を埋めるシミュレーション技術がスタンダードに

こうしたコロナ禍においては、実証を始めとした研究開発の停滞も一定程度は致し方ないものだ。ただ、自動運転ラボを主宰する下山哲平氏は「自動運転分野においては『密』を回避しながらできる研究開発が多いのも事実だ。その代表格が、シミュレーターを使った検証だ」と指摘する。

公道走行を仮想化するモデルが一般的で、コンピュータ内に構築した仮想の道路空間上でさまざまな交通シーンやシナリオを再現し、そこでAIやセンサーの精度などを検証するのだ。コンピュータ内で実証を繰り返すことが可能になるためコストや時間の節約にも有用で、よりリアルで実態に即した検証環境を構築できれば、精度の高いシミュレーションを手軽に行うことができるようになる。

こうしたシミュレーションは多くの開発企業が導入しており、例えば米グーグル系ウェイモは2018年5月、自動運転シミュレーションにおける総走行距離が50億マイル(約80億キロメートル)に達したことを発表している。

この時の公道上における実際の累計走行距離は600万マイル(約960万キロ)で、実環境と比較し1000倍近い走行を仮想空間で行っていたことになる。ウェイモの自動運転開発の強みを支えるキーファクターと言えるだろう。

【参考】グーグルの取り組みについては「月往復10,000回分を自動運転で仮想走行 グーグル系ウェイモ」も参照。

米NVIDIAも自動運転シミュレーションを提供しているほか、米Ansysや独PTVグループ、仏ダッソー・システムズ、国内でもNTTデータNJKなどこの分野の開発企業は増加傾向にある。イスラエルのコグナタや独Automotive Artificial Intelligence(AAI)、ハンガリーのAImotiveなど、スタートアップの参戦も意欲的だ。

オープンソース化を図る動きも活発で、世界全体の自動運転開発を加速させる原動力として注目が高まっている。

こうしたシミュレーターを有効活用することで、今回のコロナ禍のような状況においてもしっかりと自動運転システムの研究開発を進めることができるのだ。

自動運転分野では遠隔会議も日常に

国境を越えた提携がスタンダードな自動運転分野においては、テレビ会議システムなどを用いた遠隔型の会議は日常茶飯事だ。こうした企業はテレワーク環境がすでに構築されているようなもので、BtoBをはじめBtoC、CtoCタイプのWEB会議システム構築も大きな負担なく進めることができる。

見方を変えれば、これからの自動運転分野においてはテレワーク環境構築の必然性が増すことも考えられそうだ。

■Withコロナ時代への適用は研究開発の加速につながる

自動運転シミュレーターの活用やテレワークシステムなど、コロナ禍のような有事に対応する技術・システムは、自動運転分野においてスタンダードなものであることがわかった。

こうしたシステムをいち早く構築・導入することで、研究開発の生産性や効率性を高めコストとスピードの両面で競争力を生み出すことが可能になる。

採用活動のヒキにも

また、多様な働き方の導入はエンジニアらの採用においても大きなメリットになる。柔軟なワークスタイルが優秀なエンジニアを呼び込むきっかけとなり、結果として技術競争力が向上するポジティブスパイラルが生まれる可能性もあるだろう。

下山哲平氏は「リアルなオフラインでの走行テストが必要なことに変わりはないが、仮想化シミュレーションなどリモートワーク・オンラインで出来る技術がこれまで以上に発展する可能性がある」とした上で、「それらを要所要所で活用することで、オフラインの作業総量を減らす工夫なども進むだろう」と語る。

コロナ禍を契機に新しい生活様式や働き方が求められているが、この変革は決してマイナスではない。プラスに捉えることで、いち早く未来型の企業へと脱皮を図ることが可能になるのだ。

【参考】関連記事としては「【目次】この機を逃すな!「自動運転×転職」特集」も参照。

■【まとめ】社会変革を受け入れ、さらなる進化を

コロナ禍では、人の移動が減る一方、EC需要やデリバリー需要を背景にモノの輸送が増加し、タクシーによる貨客混載の取り組みが活発化している。また、コンタクトレス(非接触)が可能な自動運転配送ロボットに注目が集まり、世界各地で実用化や実用実証が加速するなど、業界としてプラスの面も出ている。

需要を見通しづらい自動車販売においては、これを契機に移動サービスへの取り組みを加速するのも手だ。小型モビリティやサイクルシェアなど移動手段を多角化し、混雑解消を図りながらMaaSの浸透を図る契機とも言えるだろう。

自動運転の実証においても、オンラインによる開発手法の導入をはじめ、作業工程を見直すなど初心に帰ることで新たな発見があるかもしれない。働き方も同様だ。

コロナ禍による社会変革を受け入れ、修正を図りながら人の移動やモノの輸送に変革をもたらすべく、自動運転やMaaSのさらなる進化に期待したい。

>>特集:目次

>>特集第1回:コロナ下、自動車業界のテレワーク対応状況は!?トヨタ、デンソー、日産…

>>特集第2回:自動運転、With/Afterコロナ時代の実証実験や研究開発の在り方は?

>>特集第3回:自動運転開発、コロナでのテレワーク化はむしろ追い風?

>>MaaS・自動運転業界向け!ストロボが「テレワーク導入・人事コンサル」開始

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事