新型コロナウイルスの影響で非接触型のサービスが注目される中、人の輸送や物の配送についても非接触でのサービスが望まれるようになり、自動運転技術や自動配送ロボットへの関心が高まっている。
社会の関心も後押ししてか、2020年は自動運転に関する実証実験が日本各地で盛んに行われている。中でも、自動運転バスの実証実験は予定のものも合わせると10件以上にのぼる。
記事の目次
■国交省と経産省の共同事業・中型自動運転バス実証実験
国土交通省・経済産業省の共同事業である5地域での中型自動運転バスの実証実験が、2020年7月から開始されている。
限定地域での無人自動運転移動サービス実現という政府目標に向けて、中型自動運転バスでの公共移動サービスの事業化に向けた検証を進めるため、2019年度に中型自動運転バスを2台開発し、5地域の運行事業者を選定したものだ。
この実証実験では、技術面での検証に加えて、実際に客が乗車することでの事業面での検証も行うという。使用される車両は、56人乗りのいすゞ自動車の中型バス車両「エルガミオ」をベースにしている。
滋賀・大津市での取り組み
滋賀県大津市では2020年7月12日から9月27日まで、大津市と京阪バスがJR大津駅から琵琶湖ホテル、びわ湖大津プリンスホテルを結ぶ約3キロを自動運転バスで有料運行する実証実験を実施した。
実証期間中の8月30日、乗客を乗せて運行している際に、丁字路をUターンするため右旋回したところ、車体左前のセンサーカバーが歩道柵の支柱部分に接触する事故が発生した。けが人はおらず、およそ半月後、自動運行を無乗客時のみに限定して運行を再開させた。
【参考】関連記事としては「接触8秒前に手動介入、運転手の判断ミスが要因 自動運転バスの接触事案」も参照。
兵庫・三田市での取り組み
兵庫県三田市では2020年7月20日から8月23日まで、神姫バスがニュータウン地域であるウッディ中央駅を起点とした約6キロの循環ルートで、運賃無料で中型自動運転バスの実証実験を行った。
福岡・北九州市での取り組み
福岡県北九州市の苅田町では2020年10月22日から11月29日までの日程で、西日本鉄道が中型自動運転バスが北九州空港とJR朽網駅間の約10.5キロを1日6往復する実証実験を行うことが発表されている。無料で乗車できるが、予約が必要だ。
この実証では交差点の安全性を検証するため、運行区間全ての信号10カ所に「信号情報提供システム」を導入し、情報伝達時間の短縮のため一部ではクラウドを介さず信号機と車両で直接通信を行う新方式を採用する。さらに、見通しが悪い交差点にカメラなどの複数のセンサーを活用しAIが画像処理と将来予測を行う、公道での実験は日本初となる「危険情報提供システム」を導入する。
また、GPS電波が入りにくくなる区間に「磁気マーカー」を埋設し、車両位置認識精度を向上させることで走行の安定性を検証する。
【参考】関連記事としては「西日本鉄道、中型自動運転バスの実証開始へ 信号と無線通信、交差点での危険予測も」も参照。
茨城・日立市での取り組み
茨城県日立市では2020年10月上旬から2021年3月上旬まで、茨城交通がKDDIらとともに、道の駅日立おさかなセンターとJR常磐線常陸多賀駅の間を結ぶ約9キロの区間で実証を行うことが発表されている。
通常の路線バスのダイヤに自動運転バスのダイヤを追加設定して運行する。通常の移動手段として多くの利用者に乗車してもらい、2022年以降の本格的な商用運行に向けた課題抽出を進めることが目的だ。
この実証では、路側センサーによる車両からの死角低減や、遠隔監視装置で路側センサーの稼働状態をモニタリングして運行管理についても検証する。
【参考】関連記事としては「ひたちBRTで自動運転バスの実証実験!2022年以降に商用運行目指す」も参照。
神奈川・横浜市での取り組み
神奈川県横浜市では神奈川中央交通が12月上旬から2021年3月上旬まで、「首都圏丘陵地の郊外住宅地における持続的な交通サービスの提供」をテーマとして実証実験を行う予定だ。
丘陵地帯が広がる桂山公園から高齢化が進む住宅団地「上郷ネオポリス」、庄戸地区を循環する約6キロのルートを中型自動運転バスが無料で運行予定だという。
■運転席無人自動運転バスが営業運行
横浜市と相鉄バス、群馬大学、日本モビリティは2020年10月5日と14日に、大型バスの遠隔監視・操作での運転席無人自動運転の実証実験を、日本で初めて営業運行で実施した。
これは、2020年7月27日と29日に実施した日本初となる大型バスによる運転席無人、遠隔監視・操作での実証実験の成功を受けて行った。運転席に運転士を配置した自動運転バスの営業運行も行う。
よこはま動物園正門と里山ガーデン正面入口間の約900メートルを無料で、各便先着で最大25名を乗せて走行した。
【参考】関連記事としては「I・TOP横浜の路線バス自動運転プロジェクトに、日本モビリティが参画」も参照。
■空港島全域を自動運転バスで移動
愛知県はNTTドコモらと、内閣府の未来技術社会実装事業を活用し、自動運転の社会実装を見据えた実証実験の一環として、常滑市中部国際空港島で「空港島全域における自動運転車両による移動」をテーマにした自動運転の小型バス車両を運行させる実証実験を行った。
2020年10月3日から10月18日までの一部曜日において、空港ターミナルビルや愛知県国際展示場などを周回するルートで実証実験を実施した。経路の一部である愛知県国際展示場の敷地内においては、車両の運転席を無人状態とし、遠隔監視席からの自動運転を行った。
車載センサーであるLiDAR(ライダー)で捉えた周囲の情報と、あらかじめ記憶された3D地図を照合する経路把握の方式に加え、衛星の電波が届きにくい箇所でも車両位置を把握できる「磁気マーカシステム」による経路把握の方式を併用した。複数の異なる道路管理者が関わるルートに磁気マーカ方式を活用するのは全国でも珍しく、実装を想定した取り組みと言える。
また、自動運転バスでの実施は日本初となるAIのカメラ画像解析による車内の忘れ物検知システムの実証実験も実施した。
【参考】関連記事としては「「併用方式」で実施!中部国際空港島での自動運転バス実証 愛知県が発表」も参照。
■SIPに2期連続参加の埼玉工業大学
埼玉工業大学は2020年6月、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」に参加する形で、東京臨海部実証実験の羽田空港地域における自動運転バスによる実証実験を開始したことを発表した。
埼玉工業大学は、2017年にスタートしたSIP第1期の実証実験にも参加しており、私立大学では唯一の2期連続の参加となった。
この実証実験では、自動運転レベル4相当の次世代型公共交通システムの実現を目指し、公共交通機関であるバスの定時性の向上や磁気マーカーを活用した自動運転の実現、緩やかな加減速やバス停への正着制御などを検証した。
【参考】関連記事としては「私大唯一の2期連続!埼玉工業大、自動運転バスでSIP第2期の実証実験に参加」も参照。
■ソフトバンク系BOLDLYが数多くの実証実験
ソフトバンクの子会社で自動運転関連事業を手掛けるBOLDLYは、2019年度に計23回の自動運転実証を実施したが、2020年に入っても多くの実証実験を行っている。
2020年2月には、埼玉県川口市で自動運転バスの実証実験を行った。日野ポンチョがベースの自動運転バスが使用され、川口市の複合施設「SKIPシティ」と鳩ヶ谷駅前の広場を結ぶ往復3.4キロを走行した。BOLDLYの自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」で遠隔監視が行われた。
地震の揺れが到達する前に車両を停止させるシステムや押しボタン式信号機の情報を取得することで、安全に横断歩道の手前で停止するシステムの検証も実施した。
また、2020年秋から茨城県境町の公道で国内初の実用化事例として自動運転バスを運行させる予定だ。新型コロナウイルスの影響で当初の4月スタートという計画が延期されていた。自治体による自動運転バスとして運行が始まる形となる。
使われる自動運転バス車両は、仏NAVYA社製の「NAVYA ARMA(ナビヤアルマ)」。ハンドルがない最大15人乗りのバスで、最大速度25キロで走行し、一度の充電で平均9時間の走行が可能だ。運行開始に向けて、すでに車両3台を輸入したことや、走行予定ルートの3Dマップデータの収集・作成を終えたことなどが明らかにされている。
2020年9⽉には、⽻⽥空港に隣接した⼤規模複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」の開発を進める⽻⽥みらい開発に協力し、すでにNAVYA ARMAの定常運⾏を開始している。
【参考】関連記事としては「ついに!国内初の自治体自動運転バス、2020年秋に走行開始 ソフトバンク子会社BOLDLY」も参照。
■【まとめ】自動運転バスの実用化・社会実装へ大きく前進
決まったルートを走行する定期運行バスは、一般車両よりも自動化しやすいこともあり、自動運転バスの実用化は今後スピード感を帯びて進んでいくと考えられる。各地で実施されている自動運転バスの実証実験から目が離せない状況が続く。
【参考】関連記事としては「自動運転とは?2020年にレベル3解禁、基礎知識を徹底まとめ!」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)