Microsoft(マイクロソフト)の自動運転戦略と取り組みまとめ Azureシェア拡大中

武器はクラウドプラットフォーム



パソコン向けのOS「Windows」で一世を風靡し、2019年には史上3社目となる時価総額1兆ドル(約106兆円)を記録した米マイクロソフト(本社:ワシントン州/最高経営責任者:サティア・ナデラ)。IT業界の巨人は今なお健在のようだが、自動運転分野においてはどのような位置付けになっているのか。


系列のWaymo(ウェイモ)によって同分野で圧倒的な存在感を誇示する米グーグルと比較すると、存在感が薄く感じられることは否めないが、マイクロソフトも実は自動運転分野における取り組みを着々と進めている。今回はそんなマイクロソフトの自動運転領域における戦略に迫ってみよう。

■自動運転分野における取り組み
「Azure」が自動運転開発を強力支援

マイクロソフトにおける自動運転領域の核となるのが、クラウドプラットフォーム「Microsoft Azure(アジュール)」だ。

アジュールは、ビジネス上の課題への対応を支援するため拡大を続けるクラウドサービスの集合体で、世界規模の巨大なネットワークに対し、お気に入りのツールやフレームワークを使ってアプリケーションを自在に構築、管理、デプロイすることができる。

いわばソフトウェアやアプリを円滑に開発・稼働させるためのインフラとなるもので、さまざまなデータベースやAI、ブロックチェーン技術が活用でき、使い勝手の高さから自動運転をはじめとした各方面で導入が広がっている。


自動運転分野では、コネクテッド技術をはじめネットワーキング、コンピューティング、ストレージ、データ取り込み、データ分析、認知サービス、機械学習(ML)、人工知能(AI)、シミュレーションといった幅広い開発をサポートする。

マイクロソフトはアジュールを開発する前から自動車分野に関わっており、2007年には米自動車大手のフォードと共同開発したコネクテッドシステム「SVNC」を実用化している。

その後、2008年にアジュールを発表し、2010年に正式にサービスを開始した。以後、過熱する自動運転開発の波に乗る形で自動車業界における注目度を高めていく。

独自動車大手のBMWが2011年、クラウドベースのソーシャルマーケティングにアジュールを利用するなどさまざまな分野で活用が進み、特にマイクロソフトが2017年に発表したアジュール上で構築されたコネクテッドカー向けのプラットフォーム「Microsoft Connected Vehicle Platform(MCVP)」により、マイクロソフトを開発パートナーとする動きが加速した。


MCVPは、予測型のメンテナンス、車内生産性の向上、先進ナビゲーションの開発、顧客インサイトの獲得、そして自動運転機能の開発といった5つを核に据えたプラットフォームで、コネクテッドカーから大量のセンサーや使用動向データを収集し、自動車メーカーがそれを有効活用することなどを可能にしている。

自動運転ソリューションに備わる機能

マイクロソフトの自動運転ソリューションでは、①データの取り込みとストレージ②ビッグコンピューティングサービス③自動運転プラットフォームのテストと評価④自動運転ソリューションの検証――といった機能が備わっている。

①では、ネットワークベースの取り込みシナリオと、オフラインのアプライアンスベースの取り込みシナリオの両方に対応する包括的ソリューションセットがさまざまな運転シナリオを提供する。アジュールでは、膨大なデータを扱うシミュレーションやレンダリング、評価の各ワークロードに関するコスト効率に優れたスケーラビリティとパフォーマンスのニーズに対応するため、スケーラブルな階層化ストレージモデルも提供される。

②では、4つの統合ソリューションによって構成される「Azure Big Compute」により、自動運転の開発をはじめモンテカルロシミュレーション、計算流体力学、有限要素の分析、無限要素の分析など、モデルとツールを必要な規模で入手することができるという。

③では、迅速かつ正確な結果が得られるシミュレーションプラットフォームを使用することで物理的制約を緩和し、自動運転車の検証に要する期間を短縮することができる。

④では、実際のデータとクラウドベースのシミュレーションを組み合わせることで、自動運転車開発の検証に伴う課題を克服することが容易になる。

同社のソリューションの活用により、自動車業界のイノベーションを加速し、新しいビジネス機会の実現や持続可能なモビリティ環境の構築を進めることができる。

■「ルノー・日産・三菱」× Azure

ルノー・日産アライアンスは他社より一足早く2016年にマイクロソフトと提携を交わし、アジュールをコネクテッドカー開発に活用する方針を打ち出した。

アライアンスは、アジュールの高い安全性と規格適合性に対する厳格なコミットメントを評価したとし、最先端のナビゲーションシステムや予防メンテナンス、車両向けのサービス、遠隔からの車両状況の把握、外部へのモバイル接続や無線通信によるプログラム更新などを共同開発することとした。

また、2019年3月には、ルノー・日産自動車・三菱自動車3社が車両を販売している市場のほぼ全てでコネクテッドサービスの提供を可能にする新しいプラットフォーム「アライアンス インテリジェント クラウド」の立ち上げを発表している。

アジュールによるクラウド、AI、IoT技術を展開した共同開発の成果物で、コネクテッドカーから得られる膨大なデータに基づいた高度なサービスの実現に必要となる、安全に車両データを保持、管理、分析するためのプラットフォームを提供するとしている。

【参考】日産のコネクテッド戦略については「日産のコネクテッド機能「NissanConnect」を徹底解説 自動運転も視野に」も参照。

■BMW × Azure

マイクロソフトとの提携関係が長く続いているBMWも、「BMW Connected」をはじめとしたクラウドサービスの多くにアジュールを活用している。

2019年4月には、スマートファクトリーソリューションの共有を目的に提携を強化したことを発表。アジュールの産業用IoTクラウドプラットフォーム上に構築されたオープンプラットフォーム「Open Manufacturing Platform」に対し、自動車産業をはじめ製造業全般に及ぶ広い参加を呼び掛け、自動運転技術を活用した輸送システムの効率的な開発を推し進める構えのようだ。

同年5月には、パーソナルアシスタント機能などの車両インフォテインメントしすてむのマルチモーダル・インタフェースを強化するプロジェクトについて発表しており、「BMW Intelligent Personal Assistant」との会話を様々なドライバーがよりナチュラルに行うことができるオープンソースプラットフォームの開発などを共同で進めることとしている。

■ボルボカーズ × Azure

スウェーデンの自動車メーカー・ボルボカーズも早くからアジュールを導入しており、開発プラットフォームにアジュールを採用したことが2011年に発表されている。

また、2015年11月にはマイクロソフトが開発したヘッドマウントディスプレイ(HMD)方式の拡張現実ウェアラブルコンピューター「HoloLens」を活用し、次世代に向けた自動車技術を共同開発することを発表。2016年1月には、次世代の自動車テクノロジーを共同開発する更なる一手として、スマートバンド「Microsoft Band 2」を介してボルボ車にリモート音声コントロール機能を提供する新たなコネクテッド機能についても発表した。

トヨタ × Azure

トヨタとマイクロソフトとの関係も長く、そして深い。2012年に稼働したグローバルクラウドプラットフォームを活用した次世代テレマティクスサービスの情報インフラ構築の際、マイクロソフトのクラウド技術が活用されている。

2016年4月には、市場での車両から得られる情報の集約と解析、そしてその結果を商品開発へ反映させる新会社「Toyota Connected」をマイクロソフトとの合弁で設立した。

車載通信機(DCM)を装着した車両から得られるさまざまな情報を集約するトヨタ・ビッグデータ・センターの運用と、ビッグデータの研究・活用を事業とし、クラウドプラットフォームとしてアジュールを採用するほか、マイクロソフトの技術者がデータ解析やモバイル技術などの広いエリアで業務をサポートしている。

2017年3月には、両社が広範なコネクテッドカー関連テクノロジーを包含する新たな特許ライセンス契約を締結したことを発表した。アジュールをベースとした「Toyota Big Data Center」を含む両社の強力なパートナーシップに基づくものだ。

【参考】コネクテッドをはじめとするトヨタの戦略については「トヨタのAutono-MaaS事業とは? 自動運転車でモビリティサービス」も参照。

■フォルクスワーゲン × Azure

独フォルクスワーゲン(VW)も近年急速にマイクロソフトとの距離を縮めている。2018年9月に、コネクテッドカー開発に向けたクラウドプラットフォームの分野で提携を発表。VWは、自動車用クラウドおよびコネクテッドカーサービスの基盤としてアジュールを採用し、「フォルクスワーゲンオートモーティブクラウド」を開発する。また、北米に新規設立する自動車用クラウド開発会社でマイクロソフトが初期開発のサポートを支援することとしている。

2019年2月には、フォルクスワーゲンオートモーティブクラウドの開発における進捗状況とともに、戦略的提携を拡大することを発表し、主に欧州市場向けに開発を進めていたクラウドを、中国と米国にも拡大していく方針を表明している。

【参考】フォルクスワーゲンとマイクロソフトとの提携については「ドイツ自動車大手VW、マイクロソフトとクラウド技術で提携 全車コネクテッドカー化へ開発加速」も参照。

■アセントロボティクス × Azure

自動運転開発にアジュールを活用するのは、自動車メーカーだけではない。自動運転や産業用ロボット向けAIソフトウェア開発を手掛けるアセントロボティクスが2019年5月、自動運転テクノロジーの開発に向けてアジュールを活用することで日本マイクロソフトと合意したことを発表した。

アセントロボティクスは、マイクロソフトが世界54リージョンで展開するアジュールのグローバルスケーラビリティや、90以上のセキュリティ認証、データプライバシーの取扱い、アジュール上で提供される幅広いAIやIoTサービスについて、自動運転テクノロジーの開発プラットフォームとして評価し、自社の自動運転向けAI学習環境においてアジュールの活用を拡大していく方針としている。

また、日本マイクロソフトも、米国マイクロソフトの自動運転担当部門による技術支援や案件のビジネス化支援などを行うことで、アセントロボティクスが目指す完全自動運転テクノロジーの実用化を支援することとしている。

【参考】アセントロボティクスの取り組みについては「ついにマイクロソフトも自動運転領域強化!?武器は「Azure」だ」も参照。

■【まとめ】クラウドプラットフォーム武器にパートナー戦略

同社のソリューションを活用する企業は、このほかにも独アウディや独ダイムラー、韓国LGなど、すそ野は想像以上に広い。

自ら自動運転技術を開発するのではなく、あくまで開発各社のパートナーという立ち位置で、各社を強力にサポートする。いわば縁の下の力持ちだ。

WindowsというOSで名を馳せた同社だが、自動運転分野においては、OSとなる自動運転システムを強力にバックアップする役割のため表舞台に立つ機会は少なめだ。しかし、クラウドプラットフォームを武器に開発の裏舞台で着々とシェアを拡大するパートナー戦略により、いつしか自動運転開発・実用化になくてはならない屋台骨となっていそうだ。


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