グーグル系の自動運転開発企業・Waymoは2024年8月、第6世代となる自動運転システム「Waymo Driver」の概要を発表した。サービス車両への正式導入時期は公表されていないが、中国の自動車メーカー・吉利汽車(Geely)系列のZeekrの新車両が新たに採用され、Waymoの自動運転タクシーフリートに加わる見込みだ。
Pacifica(FCA)、I-PACE(ジャガー・ランドローバー)に次いでWaymoに採用されたのは、米国車でもなく欧州車でもなく中国車となった。トヨタをはじめとした日本車も不採用だ。
まだまだ黎明期が続く自動運転タクシー業界だが、いずれは商用車市場の新たな柱となる可能性が高い。こうした目線で見ると、業界をリードするWaymoに採用されるのは新たな市場を開拓する上で重要な意味を持つ。
Waymoの例を参照しつつ、自動運転タクシー市場のポテンシャルに触れていこう。
記事の目次
■Waymoの最新動向
第6世代はコスト減とパフォーマンス向上を両立
第6世代のWaymo Driverは、13台のカメラ、4台のLiDAR、6台のレーダー、一連の外部オーディオレシーバー(EAR)を備えた新しいセンサースイートで、安全性を損なうことなく大幅なコスト削減を実現し、パフォーマンスを向上させるよう最適化されている。
その認識技術は、車両全周囲、最大500メートル離れた場所に及び、昼夜を問わずさまざまな気象条件下で物体を検知可能という。
個々のセンサー技術の進歩とそれらの効果的な配置により、冗長性を維持しながら搭載センサーの数を削減することが可能になったようだ。
すでに実世界で数千マイルの実証を重ねているほか、シミュレーションではさらに数百万マイルに及ぶ経験を積み重ねている。これまでの世代で収集してきたデータを活用・共有することにより、基礎モデルのトレーニングと検証に必要なマイル数は大幅に削減され、Waymo Driver の各新世代の開発は加速・強化されているという。
Zeekrを新たに採用
ティザー画像には、Waymoと提携を結ぶZeekrの車両が登場している。両社は2021年、自動運転配車サービス向けに特別設計された新型BEVモデルにWaymo Driverを統合するOEMコラボを発表しており、この提携が形となって表れた格好だ。
2021年当初は、同車両は米連邦車両基準に準拠した安全性を確保しつつハンドルやペダルを備えない自動運転車専用設計となることが発表されていた。
一方、Zeekrは2024年4月、北京国際モーターショーでSEA-Mアーキテクチャとそれをベースに構築した新型BEV「Zeekr MIX」を公開した。この車種がWaymo採用モデルに該当するものと思われる。
Zeekr MIXは、ロボタクシーやMPVなどの乗用車から物流に使用される商用車まで、幅広いモビリティ製品をサポートする。車室はリビングルームを意識した設えで、前後スライドドアや回転式フロントシートを備えるという。
最終的にWaymoのフリートに導入されるモデルがどのようにカスタマイズされるか、要注目だ。
【参考】WaymoとZeekrの提携については「Google、「中国企業」に自動運転車の製造委託 相手はGeely」も参照。
■Waymoの自動運転タクシー事業の歴史
開発当初はプリウスを使用
Waymoを分社化する前のグーグル時代にさかのぼり、同社の自動運転開発の歴史をおさらいしていこう。
同社が自動運転開発プロジェクトに着手した2009年当時の試験車両は、なんとトヨタのプリウスだった。プリウスを改造し、100マイルのルートを10回以上自動運転するという挑戦に着手した。
当時はドライバーレスを想定したものではなく、高度な運転支援システムのようにドライバーをアシストするシステムの開発が主体だったようだ。自動運転レベルで言うとレベル3に近いものだ。
ただ、社員による実証を重ねた結果、技術が高度化するにつれ運転中に携帯電話を操作したり化粧したりする者が出てきたという。いわゆるモラルハザードだ。最終的には居眠りする者も現れ、2013年にドライバーを完全に排除する方向に開発方針を転換した。
その際、都市における移動を可能にする低速車両をコンセプトに、オリジナル車両「Firefly」の開発にも着手した。このときすでに自動運転システムは第3世代だったようだ。Fireflyは2015年、テキサス州オースティンの公道で世界初となる完全自動運転による走行を実現した。
パートナーシップ第一弾はFCA
この成功から次のフェーズに向かうべく、2016年に開発プロジェクトを分社化する形でWaymoが誕生した。
Waymoはフィアットクライスラーアメリカ(FCA)とパートナーシップを結び、「Pacifica」ミニバンを最初の量産自動運転タクシーに採用して第4世代のハードウェア統合を進めた。
FCAによると、2016年に最初のフリートとして100台、2017年に500台を追加し、2018年には最大6万2000台のパシフィカを納入する契約としている。
第2弾はジャガーのBEV
その後、2018年にはジャガー・ランドローバーとも提携し、2番目の車両としてBEV「Jaguar I-PACE」の追加が決定した。ジャガー・ランドローバーは、最初の2年間で最大2万台のI-PACEをWaymo向けに製造すると発表している。
I-PACEには第5世代のWaymo Driverが統合され、四季に対応したセンサー機能や新しい感知方式、革新的な新LiDARなどが追加されたという。
この第5世代が正式にリリースされた時期は定かではないが、Waymoは2020年に第5世代の特徴を公表している。複数の車両プラットフォームに適用できるよう柔軟に設計されており、全天候下でパフォーマンスを発揮できるよう設計が最適化されている。
LiDARは最大300メートル以上離れたものを測定可能で、長距離カメラと360ビジョンシステムは500メートル以上離れた歩行者や一時停止標識などを識別可能という。
【参考】第5世代のWaymo Driverについては「グーグル系ウェイモ、自動運転システムの「第5世代」を公表」も参照。
■トヨタ車×自動運転
プリウスは実証向け?
グーグルは初期の実証時、プリウスを使用していたことは紛れもない事実だ。しかし、サービス車両に採用されることはなかった。
グーグル以外にも、NuroやYandexなど自動運転開発にプリウスを採用する例は少なくない。むしろ多い方だろう。
トヨタが世界に誇るハイブリッドシステムは、公道実証時の長時間走行に適しているのかもしれない。基本性能に対するコストパフォーマンスも高く、世界各地で実証に用いられているのだろう。
通常であれば、実証に使用した車両をそのまま実用化する方が開発上効率的であることは言うまでもないが、自動運転サービス車両として正式導入されたという話は聞こえてこない。後部座席のスペースが物足りないのか理由は不明だが、本採用されないのだ。
プリウスは開発向きの車種として認知されているのだろうか……。
レクサス車は採用例あり
一方、レクサス車を採用する動きはある。トヨタと関係を持つ米May Mobilityや中国Pony.aiは、RX450、ハイブリッド版のRX450hに自動運転システムを統合し、フリートに加えている。適度なサイズ感と車内空間、乗り心地などのバランスが良さそうだ。
トヨタの本命は「シエナ」
自動運転サービス向けのトヨタの本命は、米国仕様のミニバン「シエナ」だ。トヨタはUber Technologiesとのパートナーシップを強化した2018年、シエナを「最初の自動運転モビリティサービス“Autono-MaaS”専用車両」と位置付けた。「Sienna Autono-MaaS」の誕生だ。
Uber Technologiesの自動運転開発はとん挫したものの、それを引き継いだ米Aurora Innovationがトヨタと提携し、シエナへの自動運転システム統合を図っている。
May MobilityやPony.aiもシエナへの統合を完了しており、May Mobilityは主力車両として採用している。
トヨタとソフトバンクの合弁MONET Technologiesも、東京臨海副都心で2024年度後半に開始予定の自動運転サービス実証にシエナを導入することを発表している。
【参考】自動運転のベース車両については「自動運転車の「ベース車両」、トヨタ車が続々採用されている理由」も参照。
今後はBEV化が必須に?
プリウスは採用されずともレクサス車の採用はあり、またトヨタ自身もシエナで勝負をかけていることが分かった。
ただ、一つのトレンドとして「BEV」の壁がある。WaymoはI-PACEの採用以降、明確にBEV路線を打ち出している。自動運転開発企業(サービス提供企業)の多くは、自動運転技術による先進性と環境負荷をアピール材料に掲げている。
自家用車におけるBEV熱が収まったとしても商用車は別だ。むしろ商用車とBEVの相性は良く、この領域からBEV戦略を推し進めるのも好手と言える。
BEV化したシエナ、または新たなBEV商用車で、Waymoをはじめとした開発企業をうならせてほしいところだ。
■自動運転タクシーの市場予測
右肩上がりの成長はほぼ確実
富士キメラ総研は、2023年9月に発表した「2023 次世代カーテクノロジーの本命予測」の中で、自動運転タクシーは2045年に545万台規模に達すると予測している。
世界各地でセーフティドライバーなしの本格サービスに向けた実証が進められ、欧州や中国、北米などで各国・エリアの規制範囲内で商用サービスが開始される見込みとしている。
ARK Investment Managementが2023年1月に発表した「BIG IDEAS 2023」によると、自動運転タクシーの収入は2027年に4兆ドル(約590兆円)、2030年には9兆ドル(約1,300兆円)規模に達する可能性があるという。
自動運転タクシーはすでに世界約15都市で乗客の支持を得ており、今後10年以内に商業利用に拍車がかかる見通しとしている。
Fortune Business Insightsが2024年7月に発行したレポートによると、世界の自動運転タクシー市場規模は2021年に12億3,000万ドル(約1,800億円)と評価されており、2029年までに1,080億ドル(約15兆9,000億円)に成長すると予測している。予測期間中のCAGR(年平均成長率)は80.8%に上る。
現時点では、自動運転タクシーのサービス実装速度は遅く感じられるかもしれない。しかし、自動運転システムの能力がある一定の水準を超え、汎用性・普遍性が生まれた段階で一気に実装が加速する可能性が考えられる。
それまで世界全体で数百台、数千台規模でじわりじわりと増加していたのが、一気に数万台、数十万台市場へと変貌を遂げるのだ。その利便性が認められると同時にコストダウンが図られれば、自家用車市場をも喰う存在になり得る。
こうした市場に対し、指をくわえているだけでは大きな機会損失となる。Waymoに代表される先行企業が触手を伸ばしたくなるような次世代商用車の開発が待ち望まれるところだ。
■【まとめ】新たな市場開拓にいち早く着手を
自動運転サービス向けに設計された「Sienna Autono-MaaS」がBEV化されれば、既存提携先以外にも採用に動き出す企業が出てくるのではないだろうか。
BEV市場の減速を予測する向きも強いが、商用分野は別物だ。新たな市場開拓に向けいち早く行動したOEMが、自動運転分野で存在感を増すのは間違いなさそうだ。
【参考】関連記事としては「自動運転が可能な車種一覧(2024年最新版)」も参照。