米国において、中国製の自動運転ソフトの搭載が禁止される可能性が高まった。米商務省が、自動運転車やコネクテッドカーへの中国製ソフトウェアの持ち込みを禁止することを2024年8月中に提案するようだ。
バイデン政権は、米国内のレベル3以上の自動運転車への中国製ソフトウェアの搭載を禁止する規則案を発表する予定であり、これは中国企業が製造した自動運転車の米国内の道路におけるテストでも禁止するという内容になっている。
米国には、中国の自動運転開発企業が多数進出している。もし中国製自動運転ソフトの搭載禁止が決定したとしたら、中国企業にとっては大打撃となる。
■一部の国のソフトウェアを制限
米国の商務省は、コネクテッドカーに関する規則案を2024年8月に発表する予定であり、中国やその他の敵対国とみなされる国で作られた一部のソフトウェアに制限を課す見込みであることを同年7月に発表している。
この提案では、自動車メーカーやサプライヤーは、コネクテッドカーや自動運転車のソフトウェアが、「懸念される外国の事業体(Foreign Entity of Concern)」で開発されたものでないことを確認する必要があるという。この「懸念される外国」に中国が対象として挙げられているというわけだ。
米メディアによると、バイデン政権は中国が開発した高度な無線通信モジュールを搭載した車両について、米国の道路から排除することも提案する予定という情報もあるようだ。
商務省の広報担当者は、同省が「コネクテッドカーのコネクテッド技術に関連する国家安全保障上のリスクを懸念している」とコメントしている。同省の産業安全保障局は、自動車内で懸念される特定のシステムに焦点を当てた規則案を発表する予定のようだ。
■提案に対し、中国側は猛反発
今回の提案に対し、当然のことながら中国側は反対の姿勢を表明している。
在ワシントン中国大使館の報道官は、EV(電気自動車)はグローバル化した産業であることを協調した上で、「分業と協力だけが相互利益をもたらすことができ、公正な競争のみが技術の進歩を助ける」と述べている。また「中国は米国に対し、市場原理と国際貿易ルールを真摯に遵守し、全ての国の企業に対等な競争条件を作り出すよう求める。中国は自国の合法的権利と利益を断固として擁護する」と主張しているという。
今回の法案の提案に際しホワイトハウスと国務省は、コネクテッドカーに関連する国家安全保障上のリスクに共同で対処するため、同盟国や業界のリーダーたちとの会合を開催した。米国のほかオーストラリアやカナダ、EU(欧州連合)、ドイツ、インド、日本、韓国、スペイン、英国の政府関係者が参加し、コネクテッドカーと特定のコンポーネントに関連するデータとサイバーセキュリティのリスクについて意見交換を行ったようだ。
また会合では、計画中の規則の詳細を明らかにしたという。
■車内の会話の盗聴など危惧
2023年7月には米運輸長官が、同省は米国内の自動運転開発を行う中国企業について国家安全保障上の懸念を持っていると述べている。
また米国の議員グループは2023年11月に、中国企業に対し質問状を送っている。対象となった中国企業は、Baidu(百度)やNIO、WeRide、DiDi、Xpeng、Pony.ai、AutoX、Deeproute.ai、Inceptio Technology、Qcraftの10社だという。
この団体によると、2022年11月までの1年間に中国の自動運転開発企業がカリフォルニア州で45万マイル(約72万キロ)以上をテスト走行したという。米国で自動運転車のテストを行っている間に機密データを収集し、その取り扱い方法などについて懸念を示しているようだ。
バイデン政権が危惧しているのは、コネクテッドカーがドライバーモニタリングシステムを使って車内の会話を盗聴・録音したり、車両そのものをコントロールしたりするという点についてだ。
米商務長官は「国家安全保障上のリスクは非常に大きい。これは非常に重大な問題であり、我々は行動を起こすことにした」とコメントしている。
これまで、米国の株式市場では中国企業に対する締め付けなどがあったが、中国企業は自動運転開発でも制約が出てくる可能性が大きくなった。米大統領選でトランプ氏が再選した場合も、「アメリカ・ファースト」を掲げる同氏だけに、こうした対中規制は継続されることになりそうだ。
【参考】関連記事としては「トヨタ出資の中国Pony.ai、米国IPOに再挑戦 自動運転ベンチャー、早ければ9月上場」も参照。