コネクテッド・IoT技術や自動運転技術の進展を背景に、MaaS(Mobility as a Service)に代表されるモビリティサービスが進化し続けている。関連事業を手掛ける企業の躍進が今後期待されており、投資ポートフォリオの一部にこうした企業を含めておきたいと考えている人も少なくないだろう。
この記事では2023年時点の情報をもとに、MaaS関連企業で構成される日興アセットマネジメントの「グローバル・モビリティ・サービス株式ファンド」を通じて、MaaS関連企業への投資妙味に触れていく。
<記事の更新情報>
・2023年8月1日:組入上位銘柄などを最新情報にアップデート
・2022年9月18日:記事初稿を公開
記事の目次
■「グローバルMaaS」の概要
世界の先進的なモビリティサービス関連企業に投資
日興アセットマネジメントは2018年1月、世界のモビリティサービス関連企業の株式に投資する「グローバル・モビリティ・サービス株式ファンド」(以下グローバルMaaS)の1年決算型を設定した。今後成長が期待されるMaaS関連企業に注目し、関連企業の株式を中心とした投資で中長期的な信託財産の成長を見込む。
投資テーマは、先進的な自動運転技術のもと自動運転車の運行・管理サービスを行うMaaSプラットフォーマーをはじめ、物流・配送、農業、建築などのMaaS関連事業を行なうBtoB MaaSプラットフォーマー、MaaSプラットフォームを活用して自動運転車両でさまざまな新しいビジネスを行なうMaaS活用ビジネス、自動運転技術を支える高い付加価値を有する部品・素材・半導体メーカーなどの主要部品開発メーカー、非製造業のMaaSプラットフォーム向けに、車体を開発・製造する車体メーカーなど多岐に及ぶ。自動運転技術・サービスに重点を置いている印象も強い。
▼グローバル・モビリティ・サービス株式ファンド
https://www.nikkoam.com/fund/detail/643963
銘柄選定にはARKが協力
個別の銘柄選定においては、ハイテク分野を専門に調査している米ARK Investment Managementの協力のもと、日興アセットマネジメント・アメリカズ・インクがポートフォリオを構築している。
ARKは破壊的イノベーション分野に特化した資産運用を手掛けており、米国でディープラーニングやMaaSを含む最先端技術・イノベーションをテーマに据えたETF(上場投資信託)を設定・運用している。日興アセットは2017年にARKに出資し、これらの最先端分野で協業を行っている。
2020年10月には、年2回決算型のグローバルMaaSを新たに設定した。1年決算型と同じ投資方針で、決算を年2回行い基準価額水準が1万円を超えている場合には分配対象額の範囲内で積極的に分配を行なう。これにより、決算頻度や分配方針について選択肢を得たい投資家のニーズに応えていくとしている。
1年決算型は当初比1.8倍の成績
2018年1月に運用を開始したグローバルMaaS(1年決算型)は、当初1万円に設定された基準価額は2023年7月に1万8,000円台まで上がっている。株式市場が世界的な調整局面に入る前の2021年11月につけた最高値は更新できていないが、2022年末に底を打ち、その後は回復傾向にある。
▼グローバル・モビリティ・サービス株式ファンド(1年決算型)|日興アセットマネジメント
https://www.nikkoam.com/fund/detail/643963
■選定銘柄の推移
ここではグローバルMaaSの組入銘柄の推移を見ていこう。なお、1年決算型と年2回決算型のポートフォリオは基本的に共通している。グローバルMaaS(1年決算型)の第1期決算(2019年1月)時における上位は以下の通りとなっている。
- 1位:Baidu
- 2位:Tesla
- 3位:NVIDIA
- 4位:Aptiv
- 5位:Amazon
- 6位:Alphabet
- 7位:AeroVironment
- 8位:Trimble
- 9位:Deere & Company
- 10位:テンセント
1位のBaiduは中国で自動運転開発に向けたオープンプラットフォーム「アポロ計画」を主導している。すでに自動運転タクシーも中国国内で展開中だ。2位のTeslaはEV(電気自動車)大手で、積極的な自動運転開発でも知られる。3位のNVIDIAは自動運転向けのSoCなどで業界シェアを大きく伸ばしている。
4位のAptivは自動車部品大手で、韓国ヒョンデと合弁Motionalを立ち上げ、自動運転タクシーなどの実用化を加速している。EC大手の5位Amazonは、自動走行ロボットの開発を進める一方、自動運転開発スタートアップZooxを買収するなど、新たな動きを見せている。6位のAlphabetはグーグルの持株会社で、傘下に自動運転開発を手掛けるWaymoが名を連ねている。
7位のAeroVironmentは無人航空機の開発を手掛けている。8位のTrimbleは、ハードウェアからソフトウェアに至るテクノロジーを開発している。9位のDeereは農業機器大手で、自動運転農機の開発も進めている。10位のテンセントはIT事業を主体とするコングロマリットだ。
最近の組入上位10銘柄は?
近々の2023年7月末時点では、以下となっている。第1期決算時と比べると、BaiduやNVIDIA、Aptivなどが上位10社から姿を消している点が特徴と言えそうだ。
- 1位:TESLA INC(比率9.1%)
- 2位:TERADYNE INC(比率8.8%)
- 3位:TRIMBLE INC(比率8.0%)
- 4位:KRATOS DEFENSE & SECURITY(比率6.1%)
- 5位:UIPATH INC – CLASS A(比率5.7%)
- 6位:JOBY AVIATION INC(比率4.5%)
- 7位:AEROVIRONMENT INC(比率4.0%)
- 8位:小松製作所(比率3.5%)
- 9位:DEERE & CO(比率3.2%)
- 10位:ARCHER AVIATION INC(比率3.1%)
以下、上位各社の取り組みに触れていく。
1位:Tesla
1位のTeslaは、ソフトウェアのOTAアップデートで将来的に自動運転を可能にする「FSD」を展開している。まだ自動運転機能は搭載できていないが、イーロン・マスク氏に対する期待感は強く、今後に注目する投資家は多い。
「テスラネットワーク」と名付けた自動運転ライドシェアサービスを運営する計画も掲げている点にも注目だ。それにより、車体販売時のみ収益を獲得する従来の売り切りモデルから、販売後も継続的に収益を得られるMaaSビジネスへの移行が期待できるとしている。
2位:Teradyne
2位のTeradyneは、半導体検査装置メーカーとして、半導体検査装置のほか航空宇宙関連の検査機器や自動車診断テスト装置、自律型産業ロボットなども提供している。自動運転技術の普及に伴いより多くのセンサーや半導体が必要になり、同社の検査装置の需要の増加につながると見ている。
3位:Trimble
3位のTrimbleは、ソフトウェアやデータ、センサーを組み合わせたドローンプラットフォームの提供や、建設・物流業界向けのフリート管理サービスなどを提供している。各種サービスを通じて、物流や建設における自動運転プラットフォームの重要要素となる大規模な蓄積データにアクセスすることが可能という。
4位:Kratos Defense & Security
3位のKratos Defense & Securityは小型ドローンを米軍向けに提供しており、米空軍と共同で有人航空機のそばを飛行する自動操縦ドローンを開発した。衛星用の地上機器なども提供しており、低軌道衛星や中軌道衛星が増えることで年間10~20%の成長が期待されるという。
5位:UiPath
5位のUiPathは、企業の自動化プロセスで使われるソフトウェアを提供している。技術的な知識に乏しくコーディング技術がないユーザーでも利用することが可能で、さまざまな業界におけるプロセス自動化のトレンドから恩恵を受ける絶好の位置にあるとしている。
6〜10位:空飛ぶクルマの開発企業など
6〜10位においては、空飛ぶクルマを開発している企業が2社含まれている点に注目したい。6位のJOBY AVIATIONと10位のARCHER AVIATIONだ。
空飛ぶクルマは将来的にMaaSサービスを形成する移動サービスの1つとなることは確実であり、MaaS関連の投資信託にこうした企業が含まれるのは納得がいく。
■MaaS分野への投資
自動運転MaaSは今後5~10年の最も貴重な投資機会の1つ
ARKは自動運転によるMaaSが今後5~10年の公開株式市場における最も貴重な投資機会の1つになりうるとみている。自動運転MaaSは、自動運転タクシー・プラットフォームにより2地点間の移動をより安く便利なものにする個人的MaaSから、自動運転EVトラックやドローンによる「サービスとしての物流」まで及ぶとしている。
このようなプラットフォームから経済的生産性のイノベーションが加速し、その結果、伝統的な自動車産業も当該プラットフォームに組み込まれていくとみている。技術主導によるイノベーションと費用曲線の低下に伴う一定のデフレ圧力により、自動運転によるMaaSプラットフォームを開発または可能にする企業については、売上数量の伸びや生産性、収益性が高まるという。
対照的に、従来型自動車製造企業の多くは、実店舗型小売企業が過去10年間に経験したことと同様のバリュートラップに陥るとみている。こうした考えから、自動運転MaaSプラットフォームへの転換を遂げられる自動車企業とテクノロジー企業への投資を強めていく構えだ。
ARKの考え方をベースとしたグローバルMaaSファンドは、一般的なMaaSの概念を超え、先進的な技術の実装を前提とした構成となっている。その象徴が自動運転に代表される無人化技術だ。
道路交通や農業、建設、ロジスティクスなど、多方面で開発が進められている自動運転技術・無人化技術は、現在社会実装が始まったばかりの段階で、本格的な市場化はもう少し先の未来となる。こうした未来に向け投資を進める同ファンドのポテンシャルは現状では測り知れない。花を咲かせ実を結ぶころにどれほどの収穫がもたらされるのか、要注目だ。
■MaaSの市場規模
概念を超えて進化し続けるMaaS
MaaSは「Mobility as a Service」の略で、「サービスとしてのモビリティ」「モビリティのサービス化」などを意味する。
一般的には、自動車やタクシー、バスなどさまざまな移動手段を1つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな移動の概念を指す。具体例としては、MaaSプラットフォームに各移動手段の情報を統合し、スマートフォンアプリなどで経路検索や予約、決済などのサービスを一括提供するものが挙げられる。
なお、グローバルMaaSファンドでは、上述したように自動運転を軸に据えた「モビリティのサービス化」を念頭としているようだ。将来、自動運転タクシーやバスなどがMaaSに統合されていく可能性が高いほか、モノの輸送に焦点を当てた物流MaaSの開発など、既成概念に捕らわれることなくMaaSはまだまだ進化していくことが予想される。
2030年までに国内MaaS市場は6兆円、世界市場は155兆円規模に?
矢野経済研究所が2019年に発表した国内MaaS市場調査によると、サービス事業者の売上高は2018年の845億円(見込み)から2030年には6兆3,600億円に増加すると予測している。2016年から2030年のCAGR(年平均成長率)は44.1%で推移するという。
また、インドのワイズガイ・リサーチ・コンサルタントによると、世界のMaaS市場は2017年の241億ドル(約2兆7,000億円)規模から、2025年には10倍近い2,304億ドル(約25兆円)規模まで拡大するという。米Strategy&の調査では、米・欧・中3地域の合計で、2017年から2030年にかけてCAGR25%で成長し、2030年までに1.4兆ドル(約155兆円)に到達すると予測している。
■【まとめ】投資家の興味をそそるMaaS
未来に向けた投資としてはMaaSが興味のそそられる分野であることに間違いはない。この記事で紹介した投資信託に含まれる各企業が今後どのような道を歩むのか。また、業界としてどのような発展を遂げていくのか。引き続き注目していきたい。
■関連FAQ
MaaSに関する投資信託やMaaSを展開する企業の株式を保有する方法がある。
日本国内では、日興アセットマネジメントの「グローバル・モビリティ・サービス株式ファンド」がある。
MaaSを形成するさまざまな交通サービスを展開する企業や、MaaSアプリの開発に乗り出している企業などがある。例えばカーシェアを展開している企業、トヨタのようにMaaSアプリを開発・展開している企業が挙げられる。
自動運転タクシーは、MaaSを形成する交通サービスの中でも将来的に市場の有望性が高いとされており、自動運転タクシーをすでに展開しているGoogleやGM、また自動運転車を開発しているAurora Innovationなどが挙げられる。
複数の市場調査によれば、日本の国内市場は2030年には6兆円規模に、米・欧・中3地域では2030年に115兆円規模になると考えられる。
(初稿公開日:2022年9月18日/最終更新日:2023年8月1日)
【参考】MaaSについては「MaaSとは」も参照。