先進運転支援システム「EyeSight(アイサイト)」でADAS(先進運転支援システム)市場を大きく開拓したスバル。ADASのパッケージ化・ブランド化の立役者であり、ADAS市場の初期を大きくけん引してきた。
ハンズオフ機能も実用化し、今後はレベル3以上の自動運転機能の開発・実装にも注目が集まるところだ。この記事では2022年6月時点の情報をもとに、スバルのADAS・自動運転領域におけるこれまでの取り組みや今後の計画について解説していく。
記事の目次
■アイサイトの歴史
アイサイトの起源は「ADA」にさかのぼる
スバルの開発チームによると、ステレオカメラを使った安全技術の開発は1990年代にスタートしており、1999年にアイサイトの前身となる「ADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)」をレガシィランカスターに設定したのが始まりとなる。
当時のADAは、「車間距離警報」「車線逸脱警報」「車間距離制御クルーズコントロール」「カーブ警報/制御」の4機能を搭載し、価格は50万円となっていたようだ。
アイサイトは2008年誕生
その後、コスト面から一時ステレオカメラを廃し、レーザーレーダーを使用した「SI-Cruise」を発売するなど紆余曲折を経て、2008年にステレオカメラ単体で「プリクラッシュブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)」や「全車速追従機能付クルーズコントロール」を実現するシステム「アイサイト」を開発し、レガシィに設定した。販売会社によると、初代アイサイトの価格は20万円となっている。
2010年発売のver.2.0では、衝突被害軽減ブレーキが完全停止までサポートするなど大幅な進化を遂げるとともに価格も10万円に抑えられた。「ぶつからないクルマ」というキャッチコピーに代表される積極的なPR戦略が功を奏し、アイサイトの認知度は大きく高まって「自動車の安全機能」の代名詞的存在となった。
その後、2014年にver.3.0、2017年にver.3.5相当の「アイサイト・ツーリングアシスト」、2020年にはハンズオフ機能を備えた「アイサイトX」がそれぞれ登場している。
ADAS開発・市場化競争に火をつけたアイサイト
アイサイトは、各種ADAS機能をパッケージ化・ブランド化した最初の成功例と言える。それまでは、衝突被害軽減ブレーキ(当時は自動ブレーキ)などそれぞれの機能が独立して存在していた印象が強く、製品としての認識は薄かった。
このアイサイトの成功が自動車メーカー各社のADAS戦略に影響したのか、2010年代は各社のADASパッケージ化・ブランド化が一気に進んだ。トヨタの「Toyota Safety Sense」とホンダ「Honda SENSING」はそれぞれ2015年、日産「ProPILOT」は2016年に実装され、今につながる各社のADASブランドが確立されていった。
予防安全ソリューションを明確にパッケージ化することで訴求効果が高まり、一般消費者のADAS認知度・理解度も徐々に高まっていくこととなった。その意味でもアイサイトの功績は大きい。
【参考】関連記事としては「ADASとは?」も参照。
ADASとは?(2022年最新版) 読み方は「エーダス」、自動運転との違いは? https://t.co/rTamQXVJri @jidountenlab
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) April 3, 2022
事故抑制に高い効果を発揮
スバルによると、2010年度~2014年度に国内販売したスバル車の人身事故を調査したところ、アイサイトver.2.0搭載車は非搭載車に対し、1万台当たりの件数ベースで車両同士の追突事故が84%、対車両全体で62%、対歩行者事故49%減少した。2020年の発表によると、ver.3.0搭載車両の追突事故発生率は、同様に非搭載車比で90%減少したという。
また、交通事故総合分析センターのデータを基に販売台数100万台あたりの死亡重症事故数をスバルが独自算出したところ、2009年の215件から2019年には105件と約50%低減しているという。
スバルは、2030年までにスバル車による死亡交通事故ゼロとする目標を掲げており、安全性能の高度化と標準化を推し進めていく構えだ。
■アイサイトの機能
現行のアイサイトver.3.0はレベル2に相当
アイサイトver.3.0は、プリクラッシュブレーキ、後退時ブレーキアシスト、AT誤後進抑制制御、全車速追従機能付クルーズコントロール、アクティブレーンキープ、警報&お知らせ機能のほか、高速道路などでのすべての車速域でアクセルとブレーキ、ステアリング操作をアシストするアイサイト・ツーリングアシストなどの各機能を搭載している。
ハンズオフはできないものの、縦制御と横制御のサポートを両立したレベル2相当の技術を備えている。
【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?」も参照。
ハンズオフを実現したアイサイトX
2020年登場のアイサイトXは、4つのレーダーによる360度センシングをはじめ、高精度3次元地図データやGPS・準天頂衛星「みちびき」を利用した同社最高峰のADASに位置付けられている(2022年5月現在)。
高精度3次元地図データによって走行先の道路状況を事前に把握可能になり、快適なレーンキープや加減速を実現している。
高精度3次元地図データに登録されている自動車専用道路においては、時速50キロまでの渋滞時、先行車が存在するなどの一定要件を満たすとハンズオフ走行が可能になり、ドライバーはステアリングから手を離すことができる。ドライバーはハンズオフ時も周囲の状況を常時監視しなくてはならないが、渋滞時の運転負荷を大幅に軽減することができる技術だ。
このほか、減速が必要な急カーブや料金所を事前に把握し、適切な車速に制御する制御する機能や、自動車専用道路におけるレーンチェンジを周辺車両を検知しながらなめらかにアシストするアクティブレーンチェンジアシスト、ドライバーの異常を検知し、ハンドル制御が困難と判断した際に周囲に注意を促しながら停車をアシストするドライバー異常時対応システムなども備えている。
ドライバーモニタリングシステムとしては、ドライバーポジションやエアコン設定などのユーザー情報連動機能や、わき見・居眠りを検知しアラームを発する機能なども備えている。
アイサイトXは2022年5月現在、レヴォーグとレガシィアウトバックに設定されている。今後の搭載車種の拡大に期待したいところだ。
コネクテッドサービス「SUBARU STARLINK」
スバルのコネクテッドサービス「SUBARU STARLINK」では、エアバッグが展開するような衝突事故発生時に自動的にコールセンターにつなげ、緊急車両の要請を行うヘルプネットなどの機能がある。
また、急な体調不良で運転が困難になった時やあおり運転を受けた時などに車内のSOSボタンを押すだけでコールセンターにつながるSOSコール、急な故障の際などに車内のiボタンを押すとコールセンターに接続し、ロードサービスの手配などをオペレーターがサポートするiコールなどの機能も提供している。
■スバルのビジョン
2024年までに高速道路などでレベル2以上を実装
2018年発表の新中期経営ビジョン(~2025年)によると、安心・安全への取り組みとして自動化ありきではなく、人の得意なタスクを尊重して苦手なタスクをクルマが補い安全に移動することを重視し、まずレベル2の運転支援技術を磨き上げるともに、衝突安全性能の向上を図るとしている。
無人走行を可能にする高価な自動運転車ではなく、誰でもより運転を楽しむことができるアフォーダブルな自動運転技術を開発していく方針で、2024年までに高速道路などにおけるレベル2以上、及びレベル4の自動駐車機能の実装を目指す目標を掲げている。
高速道路におけるレベル2は達成しており、今後はレベル2以上、つまりレベル3の開発・実装時期に注目が集まりそうだ。
また、複数メディアによると、2020年代後半にも一般道における高度なレベル2技術の実用化を目指す計画も持ち上がっているようだ。高度なレベル2=ハンズオフとすると、これを一般道に拡大していくには相当の技術を要する。
アイサイトで培った技術や知見をどのように拡大・応用していくのか、この点も要注目だ。
このほか、インフラ協調やビッグデータ活用などの領域では、積極的に他社との協調を進めていく方針だ。
EVやコネクテッド領域でトヨタとの連携を強化
トヨタとのアライアンスでは、EV(電気自動車)基盤技術の共同開発をはじめとした電動化拡大に向けた協業や、コネクテッド・セキュリティといった新世代技術領域での連携強化を図るなど、新世代技術によるクルマの新たな価値・サービスの実現に向けた幅広い連携を模索していく。
イノベーション創出に向けては、2018年に設立したファンド「SUBARU-SBI Innovation Fund」を生かし、5年間で100億円をスタートアップに出資していく。先進外部技術やビジネスモデル情報の獲得、新技術・新ビジネスモデルへのチャレンジや、イノベーション創出の枠組み作りと人材育成などを図っていく方針だ。
今のところADAS・自動運転領域でトヨタと連携を図っていく動きはなく、同領域は独自開発を続けていく方針のようだ。自家用車が主力のスバルにとっては、当面サービス領域での活用が見込まれるレベル4実用化に向けた取り組みの優先順位は高くないとも言える。
とは言え、交通安全に資するレベル4開発を無視することはできず、水面下で開発を進行し続けるものと思われる。運転する楽しさや自由度と自動運転技術による安全性や利便性をどのように融合させていくか、そしてどの段階で自動運転技術の実装に踏み切るのか、その動向に引き続き注目だ。
■【まとめ】レベル2拡大とレベル3実用化が目下の焦点に
当面は高度なレベル2搭載車両の拡大と対象エリアの拡大、そしてレベル3の実用化が待たれるところだ。自動運転分野では当然のようにレベル4技術に注目が集まるところだが、これらの技術はADAS技術に磨きをかけて高度化を図った結晶とも言える。
ADASにおいてトヨタ日産、ホンダなどに引けをとらない高い開発力を誇るスバル。今後どのような戦略で未来を切り開いていくのか、自動運転領域のさらなる研究開発に期待したい。
■関連FAQ
2022年6月現在ではまだ展開できていない。提供できているのはADAS(先進運転支援システム)にとどまる。
EyeSight(アイサイト)だ。国内の自動車メーカーの中でもスバルは早期にADASを市販車に搭載したことで知られ、ADAS普及の立役者とも言える。
スバルはアイサイトVersion 3.0とは別に、2020年から「アイサイトX」も展開している。高精度3次元地図データや準天頂衛星「みちびき」を活用していることで知られる。ドライバーは視線を外すことはできないという条件付きで、自動車専用道路でハンズオフ(手放し運転)機能を利用することができる。
レベル3以上についての明確な方針は明らかにされていないが、報道などによれば、2020年代後半に「一般道」における高度なレベル2技術の実用化を目指す計画があるようだ。高速道路でのハンズオフはアイサイトXですでに実現しており、これらの技術を一般道でも展開する方針とみられる。
(初稿公開日:2022年5月20日/最終更新日:2022年6月20日)
【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標」も参照。