空飛ぶクルマ向けインフラ一覧(2024年最新版) 離発着場やエアマップなど

実用化に際して必要となるのは…?



出典:国土交通省

空飛ぶクルマ」の実用化に向けた機運が高まりを見せている。主体となるeVTOL(電動垂直離着陸機)の開発に注目が集まりがちだが、近年はインフラ整備に参入する企業も相次いでおり、開発の裾野がどんどん広がっている印象だ。

この記事では、空飛ぶクルマ実用化に際し必要となるインフラについて解説していく。


<記事の更新情報>
・2024年4月24日:関連記事を追加
・2023年11月8日:バーティポートなどについて追記
・2022年4月4日:記事初稿を公開

■離着陸場(バーティポート)

出典:Urban-Air Port 公式サイト

空飛ぶクルマ実用化において必須となるインフラが離着陸場だ。空飛ぶクルマの離発着場のことを「バーティポート」と呼び、海外でも日本でも今後この呼称が使われるシーンが増えそうだ。

【参考】関連記事としては「バーティポートとは?「空飛ぶクルマ」の離着陸場」も参照。

実証段階では既存のヘリポートの活用などが主体となりそうだが、将来的にはeVTOL専用ポートを各所に新設し、フレキシブルな移動や輸送を実現することが求められる。


垂直離着陸が可能なeVTOLは滑走路が不要で、ヘリポート同様比較的狭い場所にも設置することができる。実用化に向けては、港湾部や河川敷など比較的安全を確保しやすい場所から設置が始まり、将来的には都市部におけるビル屋上などへの設置も進むものと思われる。

設置においては、eVTOLの特徴・性能を踏まえた要件を整理し、将来実用化が見込まれるさまざまなタイプの機体に対応可能なポートとすることや、騒音基準の定量化や遮音壁の設置など各種要件を明確にしていく必要がある。その上で、MaaSの観点から他のモビリティとの連携を意識し、移動サービスとして利便性の高い立地を模索することも将来的な観点から求められることになりそうだ。

【参考】関連記事としては「【資料解説】空の移動革命に向けたロードマップ(改訂案)」も参照。

空の移動革命に向けたロードマップ(改訂案)=出典:経済産業省(※クリックorタップすると拡大できます)

空の移動革命に向けた官民協議会などによると、2023年ごろまでに要件を整理し、2025年開催予定の大阪・関西万博を念頭に会場内外を結ぶ2地点間の飛行を可能にするポートの設置を検討していく方針だ。


会場内のポートには、標識や風向指示器、灯火といった安全対策設備や管制機能を持った離着陸管理施設、エプロン(駐機スペース)、待合ラウンジなどの設置も計画されている。ポートに付随する設備として何が必要となるかも今後整理されていくことになりそうだ。

官民協議会におけるプレゼンでは、離着陸場に関してテトラ・アビエーションがショッピングモールの駐車場などにおける離着陸の実現を提言しているほか、AirXは都心部や屋上ヘリポートの活用、早朝・夜間の利用、設置ハードルの低減などを求めている。

海外では、離着陸インフラの整備・運用を手掛ける英Skyportsが自治体や土地所有者などと提携し、費用対効果が高く機体に依存しないポートの設計・設置サービスを展開している。同社は独Volocopterとの提携のもと、すでにシンガポールでポートの建設・商用化を進めている。

日本国内でも兼松とパートナーシップを結び、インフラ構築やドローン物流市場に向け調査研究を進めているようだ。

【参考】Skyportsの取り組みについては「空飛ぶクルマとドローン物流、「離発着場」という裾野産業に商機」も参照。

■航空管制システム

従来の飛行機などと比べ、高頻度でさまざまな航路を飛行することが予想される空飛ぶクルマには、新たな管制システムが必要となる。

航空管制は、航空機(eVTOL)同士が衝突しないよう機体の位置をリアルタイムで把握し、離着陸の順番や許可、飛行するルートや高度などの指示を行う。近隣空域をレーダーなどで監視し、すべての機体に的確に指示を出す役割だ。

導入当初における空飛ぶクルマは、パイロット同乗のものや遠隔操縦が主体となる見込みだが、将来的には無人化を実現する。従来の管制とパイロット間における直接通信は形を変え、地上の運航事業者と通信し、指示を出す形式などが想定されるほか、運航事業者も従来に比べ大幅に増加することが予想される。

複雑化する航空交通をどのように制御するか、新たな管制システムの構築が求められることになりそうだ。

■通信関連設備

機体と機体、機体と運航事業者や管制システムをつなぐ通信・無線インフラも必要不可欠だ。5Gなどのセルラー網モバイル通信や衛星通信をはじめ、飛行高度やエリアに応じて安定して利用できる通信網を整備する必要がある。

ドローン制御用の無線リンクは主に2.4GHz帯ISMバンドが使用されているようだが、外部干渉などにより安全性は担保できず、長距離運用にも適していない。免許が必要なバンドの割り当てはもとより、確実かつ低遅延通信を保証できる環境が必要になりそうだ。

■給電設備

EV(電気自動車)における充電ステーションのように、空飛ぶクルマにも効果的かつ効率的に充電を行う設備が必要となる。

空飛ぶクルマは、EVに比べより大型で高出力を可能とするバッテリーを搭載することも想定されるため、大きな負荷にも耐え得る電力インフラを構築し、しっかりとマネジメントしていく必要がありそうだ。

■エアマップ

自動運転車における高精度3次元地図のように、空域全体の3次元マップがあれば、より高精度で安全な運航を実現できる可能性がある。

空には目印となるオブジェクトがほぼないが、オブジェクトが豊富な地上と連動するエアマップを作製することで、空に明確な航行ルートを描くことが可能になるかもしれない。

障害物のない空を縦横無尽に飛行するのは魅力だが、その分衝突やニアミスの恐れも増大する。空中に目に見えないルートを構築し、一定の規律・ルールのもと各事業者が効率的に航行可能なマップインフラも将来実現するかもしれない。

【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマに「空の道」を!2025年関西万博に向け動き」も参照。

■法律・制度

空飛ぶクルマに対応した法律の改正や新たな規制なども、制度面でのインフラとして必要不可欠となる。

航空法関連では、eVTOL認証に向けた安全基準やプロセス、遠隔操縦に対応した安全基準、海外製のeVTOLを運用するための基準やプロセス、eVTOLの仕様を踏まえた事業場認定の要件などを整理し、機体の安全性を担保する必要がある。

また、技術証明関連では、eVTOLの仕様や操縦方法などを勘案した操縦者や整備者の技能証明の要件や、遠隔操縦において操縦士に求められるべき要件の整理などが必要となる。

このほかにも、飛行エリアにおける最低安全高度(150メートル)未満の飛行への対応や、限定された飛行経路設定の要件・プロセスの整理、限定された飛行エリア内を運航する際の調整・連絡の方法やプロセスの整理、試験飛行に向けた運用手法の調整・整理、航行の安全を確保するための装置、運航の状況を記録するための装置などの整理、バッテリーに対応した必要搭載燃料の基準検討、夜間や悪天候時の運用ルールなど、詰めるべき点は非常に多い。

欧米では、eVTOL操縦者に対する新たなライセンス制度の導入なども検討されているようだ。本格実用化に向け、どのような制度を整備し安全担保とサービス促進を両立させるか、今後の注目ポイントだ。

■インフラ関連事業に参入する企業が続々

日本工営は、既存空港の調査や施工の経験を生かし、離着陸場の整備に着手する。ヘリポートや空港エンジニアリング、電力エンジニアリング、環境アセスなどに係る技術的知見をもとに、空域設計や管制システムをはじめ給電設備などを含め検討を進めていく。

三菱地所は、空飛ぶクルマに関するエコシステム構築に向け、地権者やポート所有者、ポート運営者らとともにスカイポート運営事業やポート周辺のまちづくりを進めていく構えだ。

総合建設コンサルタントの長大は、離発着場の制度設計段階から展開までを見据え、環境基準づくりや最適配置、効果の検証、企画・設計、運営に至る各フェーズで自社の強みを発揮し、実用化に貢献していくとしている。

■【まとめ】空飛ぶクルマが空の移動にイノベーションをもたらす

航空交通・空の移動にイノベーションをもたらす空飛ぶクルマの実現には、既存の航空交通インフラや運用ルールなどがどこまで流用可能かを適切に見極め、場合によっては一から見直していく必要がある。

議論をリードする空の移動革命に向けた官民協議会などの動向に引き続き注目だ。

(初稿公開日:2022年4月4日/最終更新日:2024年4月24日)

【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマとは?実現時期や技術的要件は?」も参照。

【参考】関連記事としては「損保ジャパン、「空飛ぶクルマ」の賠償保険を発売」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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