【資料解説】空の移動革命に向けたロードマップ(改訂案)

2025年大阪・関西万博を旗印に開発促進



空の移動革命に向けた官民協議会はこのほど、2021年度における検討結果を取りまとめるとともに「空の移動革命に向けたロードマップ」を改訂した。改訂版では、2025年大阪・関西万博を起点に空飛ぶクルマの実運用や商用運航を大きく展開していく方針が盛り込まれた。

空飛ぶクルマ実現に向け、どのような方針のもと事業を進めていくのか。この記事では、ロードマップの中身を中心に今後の方向性について解説していく。


空の移動革命に向けたロードマップ(改訂案)=出典:経済産業省(※クリックorタップすると拡大できます)
■利活用:万博を皮切りに2030年までに10数カ所で実用化
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ロードマップでは、2022年度から引き続き試験飛行や実証を重ね、まず2024年度に無操縦者航空機による初期的な荷物輸送の実現を目指す。そして2025年度の万博で空飛ぶクルマの飛行を実現し、2020年代後半から2030年代にかけて、二次交通や観光用途を皮切りに域内交通や都市間交通、都市圏交通や地方都市間交通などへ商用運航やサービスエリアなどを拡大していく。

具体的には、2025年の万博前後までに1~2カ所で飛行を実現し、その後2030年までに遊覧やエンタメ飛行、空港輸送などの二次交通、都市内交通など10数カ所まで増加させる。

都市部では、空港などの交通拠点と都市を結ぶ二次交通を皮切りに、都市内交通や郊外・都市を結ぶ交通手段に利用拡大し、都市圏内の新たな交通網への展開を目指す。一方、地方部も空港などの交通拠点と都市や観光地を結ぶ二次交通を皮切りに、地方都市や過疎地・離島を含めた地域内交通に拡大し、地域の需要に応じた路線の増加・ネットワーク化を目指す方針だ。

飛行エリアは、2025年以降は各地で2地点間を結ぶ定路線の開設を進め、2030年代に全国的な展開を目指す。2020年代後半には自家用運航への道も開き、医師派遣や患者搬送といった救急分野への活用なども視野に入れ、2040年代には路線網の面的拡大によるユーザアクセス性の向上やユーザー層の拡大を図っていく。


■環境整備面:本格的な自律飛行は2030年代以降に
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環境整備面では、座席数9席以下の機体における安全性の基準整備を2023年度までに進め、その後自律飛行を含め需要に応じた多様な機体についても基準を整備していく。技能証明も同様に遠隔を含む操縦者・整備者の基準を2023年度までに進める。

当面は、2~5人乗り程度の小型機で、従来の航空機と同程度の手動・自動操縦で飛行する機体の実用化を図っていく。推進方式としては、Multiroter方式、Lift&Cruise方式、Vectored Thurust方式を採用する機体の導入が計画されているようだ。

2020年代は操縦者による手動操縦機体とともに荷物輸送用を中心に遠隔操作の機体の市場投入を目指し、2030年代以降に遠隔監視のみの自律飛行を実現する機体の実現を目指す。

空域・運航関連、ガイドラインを適宜改訂

空域・運航関連では、荷物の輸送や万博における旅客輸送などを想定した運航安全に関する基準のガイドラインを2023年度まで、また万博における空飛ぶクルマに対する空域管理など低高度における安全・円滑な航空交通のための体制整備を2024年度までに進め、その後高度な運航に対応すべく適時ガイドラインの改訂を行っていく。


専用離着陸場の基準を2024年度目途に整備

離着陸場関連では、既存空港や場外離着陸場の要件整理を2023年度、国際標準に沿った空飛ぶクルマ専用離着陸場の基準を、2024年度をめどにそれぞれ整備する。

また、建物屋上への設置や屋上緊急離着陸場などの活用可否の整理、市街地などへの設置といった課題を2022年度に整理し、環境整備や基準整備を進めていく。

空飛ぶクルマも航空機の1つであるため、既存の空港、特に公共・非公共ヘリポートなどを離発着場として使用する必要があるが、既存施設は数や場所が限られているため、空飛ぶクルマの運用に適した専用離着陸場の整備を目指す方針だ。

2025年以降、沿岸部や離島・過疎地などの利用に加え、ビル屋上をはじめとした利用者が集まる市街地の利用も段階的に進め、2030年代には市街地への展開を本格化させ、将来的には住宅地近隣への展開も目指すこととしている。

試験環境面では、引き続き福島ロボットテストフィールドの試験飛行拠点としての活用や整備を進めていくとともに、研究・人材育成などの機能拡充を図っていく。

■技術開発面:騒音低減技術の開発などを推進
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技術開発面では、安全性・信頼性の確保や機体・部品の性能評価手法の開発、航空機・ドローン・空飛ぶクルマの空域共有技術の開発、悪気象条件・高密度・自律運航などに対応した基礎的な通信・航法・監視技術の開発、モーター・バッテリー・ハイブリッド・水素燃料電池といった要素技術開発などを継続して推進していく方針だ。

また、市街地や住宅地での展開に向けては静粛性が必要不可欠となるため、騒音低減技術の開発にも力を入れていく。

■周辺ビジネスへの波及:ポート運営やMaaSなども想定

空飛ぶクルマの実証・実用化と並行し、幅広い周辺ビジネスへの波及を見越した新たなビジネスモデルの創出も進めていく。

空飛ぶクルマ導入初期においては、機体の開発・製造を担う製造事業や、運航を担う航空機の運送・使用事業がビジネスの中心となるが、その後、安全運航に向けた航空交通管理や操縦者の訓練、機体整備などといった航空関連ビジネスの拡大が見込まれる。

また、ポートの設置・運営事業といった離発着場関連ビジネスの展開をはじめ、保険の商品化や空飛ぶクルマを利用したイベント・観光事業、既存の公共交通への接続や物流における活用、都市・地域開発の観点を交えた不動産業、気象情報など安全運航のためのデータ関連事業、他の交通機関とのシームレスな接続やサービス連携を実現するMaaS、新たなアプリケーションやビジネスモデルの創出など、幅広い周辺ビジネスに波及していくことが想定される。

■2025年大阪・関西万博に向けた取り組み

万博での飛行実現に向け、以下の観点から具体的に検討を進めているようだ。

  • ①万博での空飛ぶクルマ実現の絵姿
  • ②運航の絵姿と課題
  • ③会場外ポートの絵姿と課題
  • ④会場内ポートの絵姿と課題
  • ⑤今後のスケジュール
  • ⑥今後の進め方

空飛ぶクルマを万博で実現する意義としては、「社会実装の後押しと社会受容性の向上」を第一としている。万博での実現を共通目標に据えることで、官民一丸となって機体の開発や制度整備、飛行実現に向けた課題解決を促進できる。

また、国内をはじめ世界から大きな注目が集まる万博で空飛ぶクルマの旅客輸送を行うとともに、未来に向け空飛ぶクルマで実現される社会像を発信することで、社会受容性を大きく押し上げる効果も狙う。

目指すべき絵姿としては、会場周辺を中心とする遊覧飛行や、会場と空港、大阪市内などを結ぶ二地点間輸送を実現する。環境アセスメントの範囲に収まる飛行経路・高度で安全を確保しつつ、会場において可能な限り高頻度な運航、具体的には1時間に20回程度の離発着を行うことを目指す。

二地点間輸送の路線としては、関西空港、神戸空港、伊丹空港、夢洲・大阪湾岸部、神戸市内、淡路島を想定している。

今後の進め方としては、博覧会協会、大阪府、大阪市、国土交通省、経済産業省、関係事業者などが一堂に会して議論を進める枠組みとして、必要に応じタスクフォースを開催し、連携しながら課題の整理や解決を図っていく。

■次年度の取り組み

2022年度は、ユースケース検討会や大阪万博タスクフォース、機体の安全基準WG、操縦者の技能証明WG、運航安全基準WG、事業制度SGを引き続き開催するほか、新たに離着陸場WGを設立する。

空港やヘリポート、場外離着陸場・緊急離着陸場といった既存施設・制度の活用可否に関する検討や、eVTOL(電動垂直離着陸機)用の離着陸場の動向調査・要件の検討、ポート周辺における飛行方式についての検討などを進めていく。

また、関係者が共通認識のもと検討を進めていくため、航空モビリティの現状と将来の需要の見通しなどを踏まえ国としてどのような検討を行っていくべきか、その概念をまとめた「Concept of Operations(ConOps)」を作成する。

航空局や業界、その他利害関係者の議論と意思決定をサポートする共通の参照フレームを提供し、課題や技術開発、空域の在り方に関する共通理解を提供する方針だ。

事業としては、5カ年に渡る新規事業「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」に着手し、性能評価基準の開発や運航管理技術の開発、国際標準化に向けた取り組みなどを進めていく予定だ。

■【まとめ】万博開催まであと3年、実現過程にも注目

大阪・関西万博という明確な目標のもと、関係者が一丸となって研究開発や課題解決を推進していく運びだ。試験飛行ガイドラインも策定済みで、今後、大坂近辺をはじめ、万博後の社会実装を見据えた実証が各地で本格化する見込みだ。

万博開催まであと3年。空飛ぶクルマという未来のモビリティがどのような形で具現化していくのか、その過程にも注目していきたい。

▼目指すべき絵姿と中長期的な実装の流れ|空の移動革命に向けた官民協議会
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/008_01_04.pdf

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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